間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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羨ましく思うだなんて

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 しなやかな指から受け取った串は、思いの外重かった。見た目通り、いやそれ以上にお肉がぎっしりしていそう。

「は、はい。どうぞ……」

 整えられたカッコいいお髭を汚してしまわないよう慎重に、柔らかく微笑む唇へとお肉を差し出す。

「頂きます」

 大きく開いた口が、豪快にお肉にかぶりついた。意外だ。てっきり気品あふれる仕草で、一口サイズに切り分けたステーキを頂くように食べるんだと。

 串ごと持っていかれそうだったので、両手で握って対抗する。こんなに間近で彼の歯を見たのは初めてかもしれない。鋭くて、カッコよかった。

 透明感のある頬がもくもく動き、尖った喉仏が上下に動く。緩やかな笑みを深めた唇を、真っ赤な舌が舐め取っていく様が色っぽい。

 いいなぁ……俺もあんな風にバアルさんに食べ……って今、何を考えようとしていたんだ俺は。

 ちょっぴりだけど、彼に食べられたお肉を羨ましく思うだなんて。それどころか、バアルさんに食べてもらいたいだなんて。いやいやホント、どうかしてるって。

 きゅっと高鳴っていた鼓動がどんどこ走り出す。何やら周囲が賑やかになってきたような気もするが、確認する余裕なんて俺にはない。

「……ふむ、大変美味しいですね。食べ応えがあるお肉ですが、少々辛めの味つけのお陰で最後までサッパリ頂けそうです。病みつきになってしまいそうですね」

 淀みなくツラツラと評を述べた彼が、同意を求めるように微笑みかけてくれた。引き締まった首を小さく傾げ、膝の上で固く握り締めていた手を優しく取られる。

「……アオイ様?」

「ひゃいっ! 俺、思ってませんから! お肉が羨ましいだなんて、バアルさんに食べられてみたいだなんて、全っ然!」

 なんと今日の俺は、心と口が繋がってしまっているらしい。いつものことだろうって? うん、否定は出来ないな。

 和やかだった空気が固まった気がした。

 俺の手を握ったまま、瞬き一つしないバアルさん。非常に気まずい。自業自得なのだけど。

 何てフォローしたらいいんだろう? こっから、どうやって持ち直せば?

 ぐるぐると眼の前が回るような気がしているからだろう。俺達の手元近くで浮かぶ串すら、戸惑うみたいに震えて見えたんだ。

「……あ、えっと……今のは、ですね……本心…………ではあるんですけど……衝動的に思っていたといいますか……口にするつもりじゃなかったといいますか……」

 堪えきれない、といった感じだった。

「…………ふふっ」

 くっきりとした白い喉仏がくつくつ震え、触覚がゆらゆら弾み出す。服越しでも分かる、頼もしい肩を揺らすご様子は、スゴく愉快そうだ。

 ……良かった……引かれなかったみたい。

 顔は熱くなったものの、俺はすっかり安心していた。だから、つい擦り寄ってしまっていたんだ。ゆらりと伸びてきて、俺の頬に添えられた温かい手のひらに。

「……誠に貴方様は、健気で愛らしくていらっしゃる」

「……ひょわ……あ、ありがとうございます?」

「ですが、宜しいのでしょうか?」

「ふぇ?」

 囁やくような声のトーンが低くなった。さほど離れていなかった俺達の距離も近くなる。

 鼻筋の通ったお顔が迫ってきて、微笑む唇が耳元へ寄せられる。うっとり細めた瞳に妖しい熱を宿しながら。
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