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バアルさんの魅力は変装の術でも隠し切れない

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 網の上にズラリと並び、こんがり焼けていくお肉。滴り弾ける油の音と一緒に、食欲を刺激する香辛料の香りが漂っている。

 どうにか持ち手があるギリギリまで、串にみっちり刺さっている様は、お店のサービス精神の賜物だろう。

 相変わらず、見渡す限り何処もかしこも顔面偏差値激高な悪魔の皆さん。店員であるお兄さんのマスクも甘い。いかにもスポーツ万能そうな精悍な顔に汗を滲ませ、青い魚のような鱗に覆われた手で串を回す職人っぷりはスゴく絵になる。

 元々俺がいた世界でなら間違いなく、街で見つけたイケメン店員! とかポップな見た目の雑誌に特集されていそうだ。こちらでは、お兄さんレベルの美形でも、普通の認定をされていそうではあるが。

「はい、お待たせ! 大きな翼がカッコいいお兄さんと、ふわふわの尾羽根がかわいいお兄さん!」

 そんな彼からもカッコいい認定をされるバアルさんは、やはり変装の術でも隠し切れていない魅力にあふれているのだろう。是非とも今すぐ握手を交わしたいものだ。ですよね。カッコいいですよね。

 にしても、店員のお兄さんには俺達は鳥系の見た目に見えているんだな。他の皆さん方にも、それぞれの見たいようなお姿に見えているらしいけど。

 鳥というとレタリーさんの様な感じ、だろうか。ぼんやりと思い浮かべた、黄緑色の翼と長い尾羽根がキレイな敏腕秘書さん。ヨミ様第一で甘い物に目がない彼が、頭の中で人の良さそうな笑顔を浮かべた。

 店員のお兄さんが、爽やかに白い牙を見せながらバアルさんへ、香ばしい香りが立ち上る大ぶりな串を二本差し出す。

「ありがとうございます」

 胸に手を当て、完璧な角度のキレイなお辞儀を披露したバアルさん。用意していたお代を屋台のカウンターへ置いてから、俺の分の串も一緒に受け取ってくれた。

 ぴったりだったらしい。鋭く青い爪で、手のひらの上の銀貨や銅貨を数えてから、鋭い瞳をゆるりと細める。

「はい、丁度だね、ありがとう! 良かったら、そっちで召し上がっていってくれよ!」

 大柄な身体を乗り出しながら店員さんが、屋台屋根の側に置かれた小さな木製の椅子を指し示す。

 こじんまりとした数席は、お食事用のスペースというよりは、順番待ち用のお席にしか見えないのだが。

 声には出していないが、俺の疑問が伝わったんだろう。青く大きな手を合わせながら、お兄さんが太い眉を困ったように下げた。

「お兄さん達、美人さんだからさ。そこで食べてもらえたら、いい宣伝になると思うんだよね。頼むよ、俺を助けると思ってさ」

 確かに。バアルさんが美味しそうに、かつ上品に串を頬張るお姿は、さぞかし魅力的だろう。俺も堪能したいし、良ければ投影石に収めさせて頂きたいものだ。

 視線で「どうしましょうか?」と彼に問えば、小さく頷き肯定を示した。

 まぁ、断る理由もないもんな。実際問題、今のところお客さんは俺達だけなので、お店の迷惑にはならなそう。お言葉に甘えることにしよう。

「お心遣い痛み入ります」

「ありがとうございますっ」

 ごゆっくり! と快活な声と笑顔に手を振って、席へと座らせて頂く。串焼きだから、いつもみたいにあーんは出来ないな。

「はい、どうぞ。アオイ様」

 バレバレだったらしい。もしかしなくても、残念な気持ちが滲み出ていたのかも。

 いかにも美味しそうな焦げ目のついた茶色いお肉。柔らかい微笑みを添えて二本のうち一本が、俺の口元へと差し出された。カレーのような香りが鼻腔を擽ってくる。

「い、いただきます」

 有り難く一口かぶりつく。何だか顔が熱いのは、額に汗が滲んだのは、熱々スパイシーなお肉のせいだろう。そういうことにしておこう。

 柔らかいというよりは、ワイルドな見た目通り肉肉しい食感だ。奥歯で噛み締める度に、旨味たっぷりな肉汁があふれてくる。

 ピリッとした味つけのお陰で脂っこさは感じない。ペロリと食べられてしまいそうだ。それどころか、ご飯が欲しくなってしまう。

「んっ……おいひいでふ! スゴく!」

 いかん。伝えたい気持ちが先走ってしまった。まだモゴモゴ動かしていた口を、慌てて手で覆い隠す。

 ちゃんと食べ終えてから微笑みかけたものの、誤魔化すには大分苦しい。

「ふふ、それは何よりです」

 さらに悪い事実が判明してしまった。どうやら、口の周りもわんぱくになっていたようだ。

 くすくすと笑みをこぼす彼から、取り出したハンカチーフで優しく拭いてもらえてしまったんだ。嬉しいけれど、面目ない。

「……ありがとうございます」

「いえ」

 肌触りのいいシルク生地を手早く畳んで懐へ。彼の術によるものだろう。ふわふわとバアルさんの手元近くで浮かんでいたもう一本。ご自身の分のお肉へ、たおやかな手を伸ばす。

「では……私めにも頂けますか?」

 そっと俺に手渡してきた彼の羽がパタパタはためく。どこか擽ったそうに微笑んで、俺を見つめる眼差しは期待に揺れていた。
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