上 下
364 / 824

★ ノープランだった俺とは違う

しおりを挟む
 慌てて上体を起こす。ぴったり頬を寄せてしまっていた、盛り上がった胸板は名残惜しいけれども。まだまだ、このひと回り大きな手に甘やかして欲しいけれども。

「っ……じゃなくてっ! 襲いますよっ勿論! その為に押し倒したんですからね!!」

 そうだ。今の俺はあの時とは違うのだ。バアルさんを押し倒せたことに満足して、そこから先が全くのノープランだった俺とは。

 違うってところを見せるんだ!

 決意を新たに、いまだに楽しそうに微笑んだままのバアルさんへと向き直る。白い頬を包み込むように両手で触れると、より一層笑みが深くなった。

 とろりと細められた、宝石よりも美しい瞳。俺だけを映してくれている輝きに、胸がきゅっと高鳴ってしまう。

「バアルさん……」

「はい、アオイ様」

「……好きです」

「ふふ、私も愛しておりますよ」

 誘われるみたいに口づけていた。何度か交わしている内に、甘い声が艶のある吐息に変わっていく。

「んっ……ふ、ん……」

 上手く出来ているのかな。大きな手が俺の頭をよしよしと褒めてくれた。

 嬉しくなってしまう。夢中になってしまう。今は、俺がリードさせてもらってるのに……

 委ねたく、なってしまう。俺の全部を、バアルさんに……

 込み上げてきた欲求を、気合を入れて押し戻す。取り敢えず、いつもバアルさんがしてくれるみたいにと、額や頬にも口づけてみた。

「……お上手ですよ」

 優しく褒めてくれた彼の、目元に刻まれたカッコいいシワが深くなる。嬉しそうに綻んだ、渋いお髭が素敵な口元も。喜んでくれているみたい。

 耳とか、首の辺りもだっけ……

 好感触を得た俺は、すっかり調子づいてしまっていた。もっと、もっと喜んでもらいたくて、褒めてもらいたくて。ほんのり染まった白い首に唇を寄せていたんだ。

 引き締まったラインをなぞっていくように触れていく。俺の場合はこれだけで、上擦った声を漏らしちゃうんだけど。気持ちよく……なっちゃうんだけど。

「ん……ふふっ、ふ……」

 聞こえてくるのは擽ったそうに笑う声ばかり。俺の技量が足りないからだろう。多分、っていうか絶対的に。

 ……これじゃあ、今朝のお返しをしてるだけじゃないか? バアルさんをドキドキさせるには、ほど遠いんじゃないか?

 ちょっぴり漂いかけていた甘い空気は何処へやら。すっかり、ほんわかしてしまっている。こんな風にバアルさんとイチャイチャするのは好きだ。でも、今じゃない。

 手を出してもらうには、どうすれば……

 あまり多くはないんだけれど、経験という名の引き出しをひっくり返し名案を探す。

 見つかったのは、とんでもなく体当たりな方法。しかも、俺にとってはかなり勇気がいるものだった。けれども、やってみるしかない。元々一か八かだったんだしさ。

 いざ、作戦実行。首元から顔を離した途端、寂しそうな声に尋ねられた。

「……おや、もう止めてしまわれるのでしょうか?」

 縋るように見つめる眼差し、俺の手を握る控えめな力、しょんぼりと下がった触覚に、しょぼしょぼ縮んた羽。

 ……かわいい。ズルい。めっちゃキスしてあげたい。

「い、いえ……ちょっと待っていて下さい……」

 後ろ髪を引かれながらも、膝立ちになって腰を浮かせる。ズボンに手をかけた瞬間、不思議そうに見守っていた瞳が丸くなった。

「……アオイ」

 ……やっぱり恥ずかしいな。初めてじゃないんだけどさ。

 好きな人に見つめられながら、自分の手で大事な場所をさらけ出していく。

 離すことなく注がれている視線が熱を帯びたからだろうか。パンツもろともズボンを膝までずり下ろした時には、俺のものは少しだけ反応を示してしまっていたんだ。触ってもらってもいないのに。

「お可愛らしいですね……」

「っ……」

 遠回しに指摘されて、ますます顔が熱くなってしまう。いや、それはまだいい。いいんだけどさ。

 ……何で、さっきより勃っちゃってるんだよ……

 可愛いって言ってもらえたから? 全部じっくり見られちゃってるから?

 どっちもかもしれないし、違うかもしれない。でも、事実は変わらない。柔らかい低音で褒められた途端に、きゅんって疼いちゃって……先っぽをトロリと濡らしてしまった事実は。

 戸惑う俺の手を、温かい手のひらが包み込む。釣られて見つめた先で、うっとり微笑む眼差しとかち合った。

「……御身を愛でさせて頂いても? どうかこの老骨めに御慈悲を頂けないでしょうか?」

 バアルさんが、俺を求めてくれている……

 マイナスな感情が一気にプラスへと変わったからかな。ちょっと冷静になれた。もう一押しだって、頑張ろうって思えたんだ。

「ま、まだダメです……準備、してないから……」

「ご準備、ですか?」

 空いてる方の手を、恐る恐る自分の後ろへと伸ばす。オウム返しで尋ねた彼も察したんだろう。ゴクリと息を呑むような音が聞こえたんだ。

 ……正直怖い。不安しかない。バアルさんのお陰で、お尻でも気持ちよくなれるんだってことは分かってるんだけどさ。

 でも、やらなくちゃ。だって、ちゃんと出来たらきっとバアルさんが俺のこと……

「……どわっ!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...