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★ ノープランだった俺とは違う

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 慌てて上体を起こす。ぴったり頬を寄せてしまっていた、盛り上がった胸板は名残惜しいけれども。まだまだ、このひと回り大きな手に甘やかして欲しいけれども。

「っ……じゃなくてっ! 襲いますよっ勿論! その為に押し倒したんですからね!!」

 そうだ。今の俺はあの時とは違うのだ。バアルさんを押し倒せたことに満足して、そこから先が全くのノープランだった俺とは。

 違うってところを見せるんだ!

 決意を新たに、いまだに楽しそうに微笑んだままのバアルさんへと向き直る。白い頬を包み込むように両手で触れると、より一層笑みが深くなった。

 とろりと細められた、宝石よりも美しい瞳。俺だけを映してくれている輝きに、胸がきゅっと高鳴ってしまう。

「バアルさん……」

「はい、アオイ様」

「……好きです」

「ふふ、私も愛しておりますよ」

 誘われるみたいに口づけていた。何度か交わしている内に、甘い声が艶のある吐息に変わっていく。

「んっ……ふ、ん……」

 上手く出来ているのかな。大きな手が俺の頭をよしよしと褒めてくれた。

 嬉しくなってしまう。夢中になってしまう。今は、俺がリードさせてもらってるのに……

 委ねたく、なってしまう。俺の全部を、バアルさんに……

 込み上げてきた欲求を、気合を入れて押し戻す。取り敢えず、いつもバアルさんがしてくれるみたいにと、額や頬にも口づけてみた。

「……お上手ですよ」

 優しく褒めてくれた彼の、目元に刻まれたカッコいいシワが深くなる。嬉しそうに綻んだ、渋いお髭が素敵な口元も。喜んでくれているみたい。

 耳とか、首の辺りもだっけ……

 好感触を得た俺は、すっかり調子づいてしまっていた。もっと、もっと喜んでもらいたくて、褒めてもらいたくて。ほんのり染まった白い首に唇を寄せていたんだ。

 引き締まったラインをなぞっていくように触れていく。俺の場合はこれだけで、上擦った声を漏らしちゃうんだけど。気持ちよく……なっちゃうんだけど。

「ん……ふふっ、ふ……」

 聞こえてくるのは擽ったそうに笑う声ばかり。俺の技量が足りないからだろう。多分、っていうか絶対的に。

 ……これじゃあ、今朝のお返しをしてるだけじゃないか? バアルさんをドキドキさせるには、ほど遠いんじゃないか?

 ちょっぴり漂いかけていた甘い空気は何処へやら。すっかり、ほんわかしてしまっている。こんな風にバアルさんとイチャイチャするのは好きだ。でも、今じゃない。

 手を出してもらうには、どうすれば……

 あまり多くはないんだけれど、経験という名の引き出しをひっくり返し名案を探す。

 見つかったのは、とんでもなく体当たりな方法。しかも、俺にとってはかなり勇気がいるものだった。けれども、やってみるしかない。元々一か八かだったんだしさ。

 いざ、作戦実行。首元から顔を離した途端、寂しそうな声に尋ねられた。

「……おや、もう止めてしまわれるのでしょうか?」

 縋るように見つめる眼差し、俺の手を握る控えめな力、しょんぼりと下がった触覚に、しょぼしょぼ縮んた羽。

 ……かわいい。ズルい。めっちゃキスしてあげたい。

「い、いえ……ちょっと待っていて下さい……」

 後ろ髪を引かれながらも、膝立ちになって腰を浮かせる。ズボンに手をかけた瞬間、不思議そうに見守っていた瞳が丸くなった。

「……アオイ」

 ……やっぱり恥ずかしいな。初めてじゃないんだけどさ。

 好きな人に見つめられながら、自分の手で大事な場所をさらけ出していく。

 離すことなく注がれている視線が熱を帯びたからだろうか。パンツもろともズボンを膝までずり下ろした時には、俺のものは少しだけ反応を示してしまっていたんだ。触ってもらってもいないのに。

「お可愛らしいですね……」

「っ……」

 遠回しに指摘されて、ますます顔が熱くなってしまう。いや、それはまだいい。いいんだけどさ。

 ……何で、さっきより勃っちゃってるんだよ……

 可愛いって言ってもらえたから? 全部じっくり見られちゃってるから?

 どっちもかもしれないし、違うかもしれない。でも、事実は変わらない。柔らかい低音で褒められた途端に、きゅんって疼いちゃって……先っぽをトロリと濡らしてしまった事実は。

 戸惑う俺の手を、温かい手のひらが包み込む。釣られて見つめた先で、うっとり微笑む眼差しとかち合った。

「……御身を愛でさせて頂いても? どうかこの老骨めに御慈悲を頂けないでしょうか?」

 バアルさんが、俺を求めてくれている……

 マイナスな感情が一気にプラスへと変わったからかな。ちょっと冷静になれた。もう一押しだって、頑張ろうって思えたんだ。

「ま、まだダメです……準備、してないから……」

「ご準備、ですか?」

 空いてる方の手を、恐る恐る自分の後ろへと伸ばす。オウム返しで尋ねた彼も察したんだろう。ゴクリと息を呑むような音が聞こえたんだ。

 ……正直怖い。不安しかない。バアルさんのお陰で、お尻でも気持ちよくなれるんだってことは分かってるんだけどさ。

 でも、やらなくちゃ。だって、ちゃんと出来たらきっとバアルさんが俺のこと……

「……どわっ!?」
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