間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
363 / 1,047

Reバアルさんを押し倒そう! 大作戦! 協力:バアルさん

しおりを挟む
 いやいや、なんつーバランス感覚だよ……

 そう思いたくなるほどだった。なんせ、絶妙な加減でスラリと伸びた長身が停止していたのだから。

 もし彼がリクライニングチェアならば、さぞ丁度いい感じの角度だろう。その程よい弾力のある胸板に背中を預け、リラックス出来そうだ。

「成る程、御自身の腕力の強化ですか……よいお考えです。ただ、目的を達成する為に込めるべき魔力が、やや足りませんでしたね」

 ややではないと思いますけど? 八割強足りていないのでわ?

 だって、直角よりもちょっぴり傾けられただけじゃん! 全然じゃん!

「……お粗末様でした」

「初めてにしては上出来でしたよ。では早速、今回の失敗をもとに再チャレンジ致しましょうか」

「でも、俺……今のでも結構練った方だったんですよ? もう一回しても、またちょっぴりバアルさんが傾くだけじゃ……」

「大丈夫です、今回は必ずや成功します。貴方様の魔力だけではなく、私の魔力も利用するのですから」

 いや、どういう状況だよ、コレ? 何で押し倒す予定の御本人様から、もっといいやり方を教わっているんだよ?

 と即座にツッコんだことだろう。今この場に、冷静な俺が居たならばの話だが。

「バアルさんの魔力を、利用する?」

 すっかり俺は興味津々だった。どうしても、この手でバアルさんを押し倒してみたかったからな。

 前のめりに尋ねた俺の手を取り、彼が微笑む。腹筋が鍛えられそうな体勢を戻し、ゆっくりと説明を始めた。

「ええ。一番最初の授業の際、私を通して魔力の素を取り込み、練り上げましたよね? その応用でございます。今、私と貴方様の身体は触れ合っております。それ故に魔力の流れを繋げることが出来るのでございます」

 よくある理科の実験みたいなもんだろうか。豆電球と乾電池の。確か、直列つなぎの場合、乾電池を増やせば増やすだけ電球の明かりが増すんだっけ。

「ってことは……バアルさんがいてくれている分、俺の術の威力が増すってことですか?」

「左様でございます。ただし、扱いも難しくなりますので、最後まで集中を切らすことなく臨みましょうね」

「はいっ、頑張ります!」

 繋ぐ時だけフォロー致しますね、と額をちょこんとくっつけられた。何でも触れている部分が多い方がやりやすいとか。特に俺みたく、使い手としてペーペーな場合は。

 魔力の利用か……確かにぐるぐると回り始めた熱がさっきよりも多いかも? いや、多いどころじゃない。このままじゃ……

「バアルさっ……熱い……身体の内側が、燃えそ……っ……ぁ……」

「大丈夫ですよ……落ち着いて……ゆっくり深く呼吸を繰り返して下さい……」

「は、はぃ……」

 懸命に肺に空気を取り込んでいると、不意に何かが弾けた音。静電気みたく、ぱちんって。そうしてから、急に楽になった。まだ、手足がジンジン痺れるような感じはするけど。

 温かい手のひらが俺の背を労るように撫でてくれる。こちらを窺う彫りの深い顔には、心配そうな色が浮かんでいた。

「……お加減はいかがでしょうか」

「ん……大丈夫、ですよ……まだちょっと熱いですけど」

「ああ、良かった……申し訳ございません。想定していたより流れが強くなっておりました」

 ホッと緩んだ表情に、俺も胸を撫で下ろす。でもすぐに違う方向性でドキバク暴れることになるなんて。

「今は私の方で調整致しましたので、問題はないかと。これも、ひとえに私とアオイ様との相性が良すぎる故でしょう。まさか、これ程までとは存じておりませんでした」

「ふぇっ」

「では、改めてどうぞ。御自身のタイミングで私を押し倒して下さい」

「……あ、はい」

 ……何か今、しれっとスゴい殺し文句じみたことを言われたような。

 聞き返そうかとも思ったけれど、今はよそう。だって、待っててくれてるもんな。滅茶苦茶、期待に満ちた眼差しで。

 両腕を広げて微笑んで、ウェルカム全開なバアルさん。その頼もしい肩を再び掴む。

「んっ……しょ……っと……?」

 何とも呆気なかった。上手く行き過ぎて逆にびっくりしてしまう。ちょっと力を込めただけ。なのに、びくともしなかった長身が、ベッドへ吸い込まれていくようにぽふんっと倒れたんだ。

「……出来た…………出来ましたよ! バアルさんっ!!」

 何ともいえない達成感に、ぶわりと胸の奥が熱くなっていく。ふわふわした感覚に唆せれて、のしかかるみたいに抱きついてしまっていた。

 しっかり俺を抱き止めてくれた逞しい腕。柔らかい笑顔を浮かべながら、大きな手がよしよしと俺の頭を撫でてくれる。

「素晴らしい。よく頑張りましたね」

「ふへへ……ありがとうございます」

「……それで、この後はいかがなさいますか? このまま私に愛でられたいですか? それとも私を愛でて頂けますか?」

「え? そりゃあ勿論、もう少しバアルさんに撫で撫でしてもらいた……」

 クスクスと笑う声に、はたと気づく。完全に踏みかけてんじゃん、同じ轍をさ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾
BL
 【完結済み】僕(ルイス)は、Subに生まれた侯爵令息だ。許婚である公爵令息のヘルナンドに無茶な命令をされて何度もSub dropしていたが、ある日婚約破棄される。内心ではホッとしていた僕に対し、その時、その場にいたクライヴ第二王子殿下が、新しい婚約者に立候補すると言い出した。以後、Domであるクライヴ殿下に溺愛され、愛に溢れるコマンドを囁かれ、僕の悲惨だったこれまでの境遇が一変する。※異世界婚約破棄×Dom/Subユニバースのお話です。独自設定も含まれます。(☆)挿入無し性描写、(★)挿入有り性描写です。第10回BL大賞応募作です。応援・ご投票していただけましたら嬉しいです! ▼一日2話以上更新。あと、(微弱ですが)ざまぁ要素が含まれます。D/Sお好きな方のほか、D/Sご存じなくとも婚約破棄系好きな方にもお楽しみいただけましたら嬉しいです!(性描写に痛い系は含まれません。ただ、たまに激しい時があります)

処理中です...