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力、欲しい?
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目覚めた時には、すっかり窓の外は暗くなっていた。
乱れた服は当たり前のように整えられ、あんなに汚してしまっていたシーツもキレイさっぱり。お陰様で、夢でも見ていたのかと思ったくらいだ。すぐに現実だったって分からされたけど。
「アオイ様、お加減はいかがでしょうか? ……それは、何よりです。もし足りないようであれば、遠慮なく仰って下さいね……お背中を流させて頂いた後に、たっぷり愛でて差し上げますので……」
起き抜けに頂いた、彼からの囁きによって。
ヘタれた俺は何も返せなかった。次は一緒がいいですとも、お願いしますとも。
しかし俺は、顔にも態度にも出やすい男だ。残念なことに。今回だって例外ではない。そんでもって、漏れ出ていたそれらを前向きに受け取られてしまったようで。
「……ふふ、承知致しました」
何かを約束してもらえてしまったんだ。いや、まぁ、話の流れ的に一つしかないのだろうが。
そんなこんなで、終始触覚を弾ませ、羽をはためかせ、すこぶるご機嫌なご様子の彼。バアルさんと、いつものように夕食を楽しみ、お風呂をご一緒させてもらい今に至るという訳で。
触覚と羽のお手入れというパーソナルなルーティンを隣の部屋で行っている彼の帰りを、一人ソファーで待っている訳で。
……ホントにどうしたもんだろうか。このままじゃ、またさっきみたいに俺だけ……
途端にぶわりと蘇ってくる、俺に触れてくれる大きな手のひらの温もり。柔らかく心地いい唇の感触。
……また、あそこがきゅんっと疼いてしまった。思い出しただけなのに。ホントにどうしようもない。
そう、そうなのだ。俺はすでに一回満足させられちゃっているのだ。彼の宣言通りに本番無しで、しっかりバッチリ。
……言い訳させて欲しい。
始まっちゃったら、もうムリなんだよ! バアルさんのことしか考えられなくなっちゃうんだよ! もっとキスして欲しいとか、触って欲しいとかさ!!
「……えっち、したいのに……バアルさんにも気持ちよくなって欲しいのに……」
……こうなったら先手必勝、バアルさんから致してもらう前に俺が主導権を握るしかない。俺が彼を襲うしか……ってどうやって?
「前にも押し倒そうとしたけど全然だったもんなぁ……テコでも動かないって感じだったし」
ぽこんと浮かんだしょっぱい思い出。肩を掴んで思いっきり力を込めようが、全体重をかけようが、びくともしなくて……結局、察した彼に倒れてもらったっていう。いやはや、何とも情けない。
「もっと、俺に力があればなぁ……」
ふかふかの背もたれに凭れかかり、重く、長い溜め息を一つ。俺の嘆きなんぞ、誰に届くこともないと思っていたんだが。
仰ぎ見ていた天井。青い水晶で出来たシャンデリアが、万華鏡のように映っていた視界の中心で、ピカっと煌めいたメタリックな緑のボディ。ぴるぴるとはためくガラス細工のようにキレイな羽。
「……コルテ?」
どこからともなく突然現れた小さな小さな使者、いや従者。バアルさんの忠実な下僕であるハエのコルテが、俺の眼前で飛んでいた。
彼専用のスケッチブックを、針のように細い手足でサッと掲げる。そこには大きく。
『力、欲しい?』
いやいや、バトル漫画の導入か何かか? 確かに欲しいんだけどさ。バアルさんを押し倒せる力を。
「欲しい、けどさ……何で来てくれたの?」
『呼ばれた気がした』
またしても、ファンタジーなお話でありがちな。
まぁ、でも、わざわざ来てくれたんだ。一か八か乗ってみよう。他にいい手なんか浮かばないんだし。
「お願いします! コルテ先生!」
『任せて!』
手を合わせて拝んだ俺の前で、自信満々にくるくる舞い踊り、ピカピカ瞬く彼の作戦は単純明快。術で俺の力を増幅させる、というものだった。やり方は単純ではないが。
大量のお菓子作りをする際、バアルさんからかけてもらっていた身体能力を一時的に向上させる術。それの筋力だけバージョン。
角砂糖一つ浮かび上がらせるだけで精一杯な俺が、初歩の初歩である術すらまともに使えない俺が、到底扱える訳がない。当然、コルテ先生におんぶにだっこでかけてもらった。
先生いわく、後は俺自身が練り上げた魔力の分だけ効果を発揮する、ということなのだが。どうやら、ぶっつけ本番でやるしかないらしい。
乱れた服は当たり前のように整えられ、あんなに汚してしまっていたシーツもキレイさっぱり。お陰様で、夢でも見ていたのかと思ったくらいだ。すぐに現実だったって分からされたけど。
「アオイ様、お加減はいかがでしょうか? ……それは、何よりです。もし足りないようであれば、遠慮なく仰って下さいね……お背中を流させて頂いた後に、たっぷり愛でて差し上げますので……」
起き抜けに頂いた、彼からの囁きによって。
ヘタれた俺は何も返せなかった。次は一緒がいいですとも、お願いしますとも。
しかし俺は、顔にも態度にも出やすい男だ。残念なことに。今回だって例外ではない。そんでもって、漏れ出ていたそれらを前向きに受け取られてしまったようで。
「……ふふ、承知致しました」
何かを約束してもらえてしまったんだ。いや、まぁ、話の流れ的に一つしかないのだろうが。
そんなこんなで、終始触覚を弾ませ、羽をはためかせ、すこぶるご機嫌なご様子の彼。バアルさんと、いつものように夕食を楽しみ、お風呂をご一緒させてもらい今に至るという訳で。
触覚と羽のお手入れというパーソナルなルーティンを隣の部屋で行っている彼の帰りを、一人ソファーで待っている訳で。
……ホントにどうしたもんだろうか。このままじゃ、またさっきみたいに俺だけ……
途端にぶわりと蘇ってくる、俺に触れてくれる大きな手のひらの温もり。柔らかく心地いい唇の感触。
……また、あそこがきゅんっと疼いてしまった。思い出しただけなのに。ホントにどうしようもない。
そう、そうなのだ。俺はすでに一回満足させられちゃっているのだ。彼の宣言通りに本番無しで、しっかりバッチリ。
……言い訳させて欲しい。
始まっちゃったら、もうムリなんだよ! バアルさんのことしか考えられなくなっちゃうんだよ! もっとキスして欲しいとか、触って欲しいとかさ!!
「……えっち、したいのに……バアルさんにも気持ちよくなって欲しいのに……」
……こうなったら先手必勝、バアルさんから致してもらう前に俺が主導権を握るしかない。俺が彼を襲うしか……ってどうやって?
「前にも押し倒そうとしたけど全然だったもんなぁ……テコでも動かないって感じだったし」
ぽこんと浮かんだしょっぱい思い出。肩を掴んで思いっきり力を込めようが、全体重をかけようが、びくともしなくて……結局、察した彼に倒れてもらったっていう。いやはや、何とも情けない。
「もっと、俺に力があればなぁ……」
ふかふかの背もたれに凭れかかり、重く、長い溜め息を一つ。俺の嘆きなんぞ、誰に届くこともないと思っていたんだが。
仰ぎ見ていた天井。青い水晶で出来たシャンデリアが、万華鏡のように映っていた視界の中心で、ピカっと煌めいたメタリックな緑のボディ。ぴるぴるとはためくガラス細工のようにキレイな羽。
「……コルテ?」
どこからともなく突然現れた小さな小さな使者、いや従者。バアルさんの忠実な下僕であるハエのコルテが、俺の眼前で飛んでいた。
彼専用のスケッチブックを、針のように細い手足でサッと掲げる。そこには大きく。
『力、欲しい?』
いやいや、バトル漫画の導入か何かか? 確かに欲しいんだけどさ。バアルさんを押し倒せる力を。
「欲しい、けどさ……何で来てくれたの?」
『呼ばれた気がした』
またしても、ファンタジーなお話でありがちな。
まぁ、でも、わざわざ来てくれたんだ。一か八か乗ってみよう。他にいい手なんか浮かばないんだし。
「お願いします! コルテ先生!」
『任せて!』
手を合わせて拝んだ俺の前で、自信満々にくるくる舞い踊り、ピカピカ瞬く彼の作戦は単純明快。術で俺の力を増幅させる、というものだった。やり方は単純ではないが。
大量のお菓子作りをする際、バアルさんからかけてもらっていた身体能力を一時的に向上させる術。それの筋力だけバージョン。
角砂糖一つ浮かび上がらせるだけで精一杯な俺が、初歩の初歩である術すらまともに使えない俺が、到底扱える訳がない。当然、コルテ先生におんぶにだっこでかけてもらった。
先生いわく、後は俺自身が練り上げた魔力の分だけ効果を発揮する、ということなのだが。どうやら、ぶっつけ本番でやるしかないらしい。
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