380 / 888
惹かれる色
しおりを挟む
「思いがけず、お土産が出来ちゃいましたね」
「ええ、保存の術を施しておきましたので、数日はもつでしょう。お土産のチョコレートをお渡しする際にでも、ご一緒に頂きましょうか」
大きなバアルさんの手でも持つのが大変そうな、お肉みっちりな大容量パック。
白く長い指先からあふれた淡い光によって、一瞬優しい緑色の光に包まれたそれは、瞬く間に不思議空間へと収納されていく。彼の手元から煙のように消えていく様は、いつ見ても手品のようだ。ホントに便利だな。
「そうですね。俺達だけじゃ、食べ切れないですし」
グリムさんやクロウさんは、市場によく出掛けられているらしいから馴染みがあるかもしれない。でもヨミ様は、お忍びでしか城下へ行く機会がないみたいだからな。いいお土産になるかも。
やっぱり、美味しいものは共有したいもんな。一人よりバアルさんと、さらには皆さんと頂けると余計に美味しくなるしさ。
優しいお兄さんに感謝しつつ、のんびり市場を眺めている内に、お目当ての屋台の前へ辿り着いていた。
屋台と同じで、色鮮やかなのぼり。遠目で見た時から何となく予想はついていたが、やはりかき氷だったようだ。ポップな字体で書かれた、不思議な形をした此方の文字。その側には夏祭りの風物詩である、かき氷の絵が描かれている。
「いらっしゃいませ!」
ぴったりハモった高音と低音。ご兄妹だろうか? ポニーテールが似合っている、白いうさ耳の女性。そして彼女の隣には、形も色も全く同じなうさ耳を頭部から生やした男性が俺達を迎えてくれた。
二人共、明るい笑顔が素敵な美形兄妹だ。お姫様と王子様ですって紹介されても、納得しちゃうレベルの。
「当店は、コチラのシロップの中からお好きなものを三種類まで選ぶことが出来ます。トッピングはアイスにフルーツ、お好きなものを追加で選べますよ」
カウンターにあるメニュー表を指差しながら、お兄さんがピンク色の瞳を細める。ニコッと口角を持ち上げながら首を軽く傾けた。肩まで伸ばしている白い髪が、ふわりとお兄さんの頬を撫でていく。
「どうしましょうか?」
「組み合わせが沢山ございますね……大変悩ましく存じます」
まだ文字が読めない俺の代わりにバアルさんが、掻い摘んで読んでくれた。
それによると、シロップだけでも定番のイチゴにメロン、ブルーハワイ、レモン。それから珍しい、マンゴーにパイナップル、ブルーベリー、ココナッツ、リンゴ、ピーチと様々あるらしい。
それに加えて、アイスもバニラにイチゴ、チョコレートと数種類。さらには、生クリームやらソフトクリーム、ダイスカットされたフルーツまで選べてしまうというんだからとんでもない。素晴らし過ぎる。
「オススメの組み合わせもございますよ。お客様によっては、色味で決められる方もございますね」
肩を寄せ合いながら悩んでいた俺達に、お姉さんからのご提案。メニュー表の隣には、オススメの一覧まで写真付きで載っていた。これなら俺でも分かりやすいな。有り難い。
七色のシロップが鮮やかなもの。緑、黄緑、黄と三色のグラデーションが素敵なもの。そして、同じく青系、赤系。それらに様々なトッピングがあしらわれている。
俺が惹かれた色は、言うまでもない。そんでもってバアルさんにも当然バレバレだった。
「バアルさん、良かったら違うものを選んで半分こしませんか?」
「いいですね。では、此方の緑のグラデーションのものと、オレンジのグラデーションのものを頂けますか?」
「ふぇっ」
「はい、ありがとうございます!」
コレがいいです! と言う間もなく選ばれた、俺が気になっていた組み合わせ。緑のグラデーションの天辺にはバニラアイスとさくらんぼ、周りには緑とオレンジのメロンがたっぷり飾られたものを、白い指先が迷うことなく指し示す。
続けて夕焼け空のような、濃い赤、オレンジ、薄いオレンジのかき氷を。そちらには、天辺は生クリームとミント、それからオレンジ色のシャーベット、みかんやマンゴーがあふれんばかりに添えられていた。
ぽかんとしている俺をよそに、またまたぴったりでお会計を済ませて微笑むバアルさん。スラリと伸びた背筋を飾る水晶みたいに透き通った羽は、ご機嫌そうに揺れていた。
「では、あちらのお席で少々お待ち下さい。出来上がり次第、お持ちいいたしますね」
お姉さんが指し示した先には、可愛らしい白く丸いテーブルが三つほど並んでいた。隣は屋台ではなく、簡易の食事スペースだったみたい。
確かに、こちらのお店の盛り盛りサービスなかき氷を、こぼさずに食べ歩くのは至難の業だ。幸い、俺達以外はお客さんがいなかったので、有り難く待たせてもらうことに。
気配りレベルがマックスな彼は、ごくごく自然に俺の席を引いて座らせてくれる。
ホントに厄介だ。ますますドキドキ高鳴ってしまったじゃないか。ただでさえ、まだ落ち着きを取り戻していないってのにさ。
気品あふれる仕草で彼が、お向かいに腰を下ろしたところでようやく一言。
「……よく分かりましたね」
どうにか絞り出すことが出来た。察しのいいバアルさんのことだ。何を、と言わなくても分かるだろう。そう思い、口にしたのだが。
「ええ、だってお好きでしょう?」
「っ……」
どこか得意気に、スゴく嬉しそうに紡がれた一言で、再び黙らされてしまったんだ。
「無論、私も大変好みのお色でしたので選びました」
そんでもって、追撃。いや、トドメと言っても過言ではない。とびきりの笑顔を頂いてしまったんだ。テーブルの上で小刻みに震えていた俺の手を握りながら、俯きかけていた俺の目元を撫でながら。
「ええ、保存の術を施しておきましたので、数日はもつでしょう。お土産のチョコレートをお渡しする際にでも、ご一緒に頂きましょうか」
大きなバアルさんの手でも持つのが大変そうな、お肉みっちりな大容量パック。
白く長い指先からあふれた淡い光によって、一瞬優しい緑色の光に包まれたそれは、瞬く間に不思議空間へと収納されていく。彼の手元から煙のように消えていく様は、いつ見ても手品のようだ。ホントに便利だな。
「そうですね。俺達だけじゃ、食べ切れないですし」
グリムさんやクロウさんは、市場によく出掛けられているらしいから馴染みがあるかもしれない。でもヨミ様は、お忍びでしか城下へ行く機会がないみたいだからな。いいお土産になるかも。
やっぱり、美味しいものは共有したいもんな。一人よりバアルさんと、さらには皆さんと頂けると余計に美味しくなるしさ。
優しいお兄さんに感謝しつつ、のんびり市場を眺めている内に、お目当ての屋台の前へ辿り着いていた。
屋台と同じで、色鮮やかなのぼり。遠目で見た時から何となく予想はついていたが、やはりかき氷だったようだ。ポップな字体で書かれた、不思議な形をした此方の文字。その側には夏祭りの風物詩である、かき氷の絵が描かれている。
「いらっしゃいませ!」
ぴったりハモった高音と低音。ご兄妹だろうか? ポニーテールが似合っている、白いうさ耳の女性。そして彼女の隣には、形も色も全く同じなうさ耳を頭部から生やした男性が俺達を迎えてくれた。
二人共、明るい笑顔が素敵な美形兄妹だ。お姫様と王子様ですって紹介されても、納得しちゃうレベルの。
「当店は、コチラのシロップの中からお好きなものを三種類まで選ぶことが出来ます。トッピングはアイスにフルーツ、お好きなものを追加で選べますよ」
カウンターにあるメニュー表を指差しながら、お兄さんがピンク色の瞳を細める。ニコッと口角を持ち上げながら首を軽く傾けた。肩まで伸ばしている白い髪が、ふわりとお兄さんの頬を撫でていく。
「どうしましょうか?」
「組み合わせが沢山ございますね……大変悩ましく存じます」
まだ文字が読めない俺の代わりにバアルさんが、掻い摘んで読んでくれた。
それによると、シロップだけでも定番のイチゴにメロン、ブルーハワイ、レモン。それから珍しい、マンゴーにパイナップル、ブルーベリー、ココナッツ、リンゴ、ピーチと様々あるらしい。
それに加えて、アイスもバニラにイチゴ、チョコレートと数種類。さらには、生クリームやらソフトクリーム、ダイスカットされたフルーツまで選べてしまうというんだからとんでもない。素晴らし過ぎる。
「オススメの組み合わせもございますよ。お客様によっては、色味で決められる方もございますね」
肩を寄せ合いながら悩んでいた俺達に、お姉さんからのご提案。メニュー表の隣には、オススメの一覧まで写真付きで載っていた。これなら俺でも分かりやすいな。有り難い。
七色のシロップが鮮やかなもの。緑、黄緑、黄と三色のグラデーションが素敵なもの。そして、同じく青系、赤系。それらに様々なトッピングがあしらわれている。
俺が惹かれた色は、言うまでもない。そんでもってバアルさんにも当然バレバレだった。
「バアルさん、良かったら違うものを選んで半分こしませんか?」
「いいですね。では、此方の緑のグラデーションのものと、オレンジのグラデーションのものを頂けますか?」
「ふぇっ」
「はい、ありがとうございます!」
コレがいいです! と言う間もなく選ばれた、俺が気になっていた組み合わせ。緑のグラデーションの天辺にはバニラアイスとさくらんぼ、周りには緑とオレンジのメロンがたっぷり飾られたものを、白い指先が迷うことなく指し示す。
続けて夕焼け空のような、濃い赤、オレンジ、薄いオレンジのかき氷を。そちらには、天辺は生クリームとミント、それからオレンジ色のシャーベット、みかんやマンゴーがあふれんばかりに添えられていた。
ぽかんとしている俺をよそに、またまたぴったりでお会計を済ませて微笑むバアルさん。スラリと伸びた背筋を飾る水晶みたいに透き通った羽は、ご機嫌そうに揺れていた。
「では、あちらのお席で少々お待ち下さい。出来上がり次第、お持ちいいたしますね」
お姉さんが指し示した先には、可愛らしい白く丸いテーブルが三つほど並んでいた。隣は屋台ではなく、簡易の食事スペースだったみたい。
確かに、こちらのお店の盛り盛りサービスなかき氷を、こぼさずに食べ歩くのは至難の業だ。幸い、俺達以外はお客さんがいなかったので、有り難く待たせてもらうことに。
気配りレベルがマックスな彼は、ごくごく自然に俺の席を引いて座らせてくれる。
ホントに厄介だ。ますますドキドキ高鳴ってしまったじゃないか。ただでさえ、まだ落ち着きを取り戻していないってのにさ。
気品あふれる仕草で彼が、お向かいに腰を下ろしたところでようやく一言。
「……よく分かりましたね」
どうにか絞り出すことが出来た。察しのいいバアルさんのことだ。何を、と言わなくても分かるだろう。そう思い、口にしたのだが。
「ええ、だってお好きでしょう?」
「っ……」
どこか得意気に、スゴく嬉しそうに紡がれた一言で、再び黙らされてしまったんだ。
「無論、私も大変好みのお色でしたので選びました」
そんでもって、追撃。いや、トドメと言っても過言ではない。とびきりの笑顔を頂いてしまったんだ。テーブルの上で小刻みに震えていた俺の手を握りながら、俯きかけていた俺の目元を撫でながら。
97
お気に入りに追加
483
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる