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惹かれる色

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「思いがけず、お土産が出来ちゃいましたね」

「ええ、保存の術を施しておきましたので、数日はもつでしょう。お土産のチョコレートをお渡しする際にでも、ご一緒に頂きましょうか」

 大きなバアルさんの手でも持つのが大変そうな、お肉みっちりな大容量パック。

 白く長い指先からあふれた淡い光によって、一瞬優しい緑色の光に包まれたそれは、瞬く間に不思議空間へと収納されていく。彼の手元から煙のように消えていく様は、いつ見ても手品のようだ。ホントに便利だな。

「そうですね。俺達だけじゃ、食べ切れないですし」

 グリムさんやクロウさんは、市場によく出掛けられているらしいから馴染みがあるかもしれない。でもヨミ様は、お忍びでしか城下へ行く機会がないみたいだからな。いいお土産になるかも。

 やっぱり、美味しいものは共有したいもんな。一人よりバアルさんと、さらには皆さんと頂けると余計に美味しくなるしさ。

 優しいお兄さんに感謝しつつ、のんびり市場を眺めている内に、お目当ての屋台の前へ辿り着いていた。

 屋台と同じで、色鮮やかなのぼり。遠目で見た時から何となく予想はついていたが、やはりかき氷だったようだ。ポップな字体で書かれた、不思議な形をした此方の文字。その側には夏祭りの風物詩である、かき氷の絵が描かれている。

「いらっしゃいませ!」

 ぴったりハモった高音と低音。ご兄妹だろうか? ポニーテールが似合っている、白いうさ耳の女性。そして彼女の隣には、形も色も全く同じなうさ耳を頭部から生やした男性が俺達を迎えてくれた。

 二人共、明るい笑顔が素敵な美形兄妹だ。お姫様と王子様ですって紹介されても、納得しちゃうレベルの。

「当店は、コチラのシロップの中からお好きなものを三種類まで選ぶことが出来ます。トッピングはアイスにフルーツ、お好きなものを追加で選べますよ」

 カウンターにあるメニュー表を指差しながら、お兄さんがピンク色の瞳を細める。ニコッと口角を持ち上げながら首を軽く傾けた。肩まで伸ばしている白い髪が、ふわりとお兄さんの頬を撫でていく。

「どうしましょうか?」

「組み合わせが沢山ございますね……大変悩ましく存じます」

 まだ文字が読めない俺の代わりにバアルさんが、掻い摘んで読んでくれた。

 それによると、シロップだけでも定番のイチゴにメロン、ブルーハワイ、レモン。それから珍しい、マンゴーにパイナップル、ブルーベリー、ココナッツ、リンゴ、ピーチと様々あるらしい。

 それに加えて、アイスもバニラにイチゴ、チョコレートと数種類。さらには、生クリームやらソフトクリーム、ダイスカットされたフルーツまで選べてしまうというんだからとんでもない。素晴らし過ぎる。

「オススメの組み合わせもございますよ。お客様によっては、色味で決められる方もございますね」

 肩を寄せ合いながら悩んでいた俺達に、お姉さんからのご提案。メニュー表の隣には、オススメの一覧まで写真付きで載っていた。これなら俺でも分かりやすいな。有り難い。

 七色のシロップが鮮やかなもの。緑、黄緑、黄と三色のグラデーションが素敵なもの。そして、同じく青系、赤系。それらに様々なトッピングがあしらわれている。

 俺が惹かれた色は、言うまでもない。そんでもってバアルさんにも当然バレバレだった。

「バアルさん、良かったら違うものを選んで半分こしませんか?」

「いいですね。では、此方の緑のグラデーションのものと、オレンジのグラデーションのものを頂けますか?」

「ふぇっ」

「はい、ありがとうございます!」

 コレがいいです! と言う間もなく選ばれた、俺が気になっていた組み合わせ。緑のグラデーションの天辺にはバニラアイスとさくらんぼ、周りには緑とオレンジのメロンがたっぷり飾られたものを、白い指先が迷うことなく指し示す。

 続けて夕焼け空のような、濃い赤、オレンジ、薄いオレンジのかき氷を。そちらには、天辺は生クリームとミント、それからオレンジ色のシャーベット、みかんやマンゴーがあふれんばかりに添えられていた。

 ぽかんとしている俺をよそに、またまたぴったりでお会計を済ませて微笑むバアルさん。スラリと伸びた背筋を飾る水晶みたいに透き通った羽は、ご機嫌そうに揺れていた。

「では、あちらのお席で少々お待ち下さい。出来上がり次第、お持ちいいたしますね」

 お姉さんが指し示した先には、可愛らしい白く丸いテーブルが三つほど並んでいた。隣は屋台ではなく、簡易の食事スペースだったみたい。

 確かに、こちらのお店の盛り盛りサービスなかき氷を、こぼさずに食べ歩くのは至難の業だ。幸い、俺達以外はお客さんがいなかったので、有り難く待たせてもらうことに。

 気配りレベルがマックスな彼は、ごくごく自然に俺の席を引いて座らせてくれる。

 ホントに厄介だ。ますますドキドキ高鳴ってしまったじゃないか。ただでさえ、まだ落ち着きを取り戻していないってのにさ。

 気品あふれる仕草で彼が、お向かいに腰を下ろしたところでようやく一言。

「……よく分かりましたね」

 どうにか絞り出すことが出来た。察しのいいバアルさんのことだ。何を、と言わなくても分かるだろう。そう思い、口にしたのだが。

「ええ、だってお好きでしょう?」

「っ……」

 どこか得意気に、スゴく嬉しそうに紡がれた一言で、再び黙らされてしまったんだ。

「無論、私も大変好みのお色でしたので選びました」

 そんでもって、追撃。いや、トドメと言っても過言ではない。とびきりの笑顔を頂いてしまったんだ。テーブルの上で小刻みに震えていた俺の手を握りながら、俯きかけていた俺の目元を撫でながら。
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