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とある王様と秘書はカツレツパーティーに招かれる
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「一緒にカツレツパーティーをしませんか?」
そんな心躍るお誘いをしてくれたのは、珍しい朝の訪問者達であった。
コルテからの伝言でも十分であったのに。わざわざ執務室まで足を運んでくれたバアルとアオイ殿。仲良く手を繋いだ二人からは紅茶の香りが漂っていた。どうやら朝の茶会終わりに、すぐ訪れてくれたらしい。
おまけにアオイ殿は、あの時のことをちゃんと覚えてくれていたようで。
「ハンバーグの時は、ヨミ様のご都合が合わなかったから……今回は是非」
はにかむように微笑んで、私の予定に合わせてくれると言うのだ。今日は急を要する執務はなかったので、速攻でオッケーしたが。
私の傍らでそわそわと黄緑色の尾羽根を揺らしていた秘書、レタリーをも当然のようにアオイ殿は誘ってくれた。勿論、彼も了承した。食い気味で。
アオイ殿の友人であるグリムとクロウにも声をかけたらしく、かねてから料理に興味があったグリムも一緒にカツレツ作りの練習をするとのこと。
私にも「一緒に作りますか?」と誘ってくれたが今回は断った。アオイ殿とバアルの共同作業を、しかとこの目で堪能したかったからな。
「無事に戻ってきてくれたバアルのパーティをする前に、そなた達のパーティに呼ばれるとはの」
嬉しくて舞い上がっていたからであろう。つい、うっかり漏らしてしまっていたサプライズ。まだ準備すらしていなかったのだというのに、二人は満面の笑みで喜んでくれた。これは、ますます失敗出来ぬな。もう一つのサプライズは。
準備が出来たらお呼びしますね、と部屋を後にしたバアルとアオイ殿。待ちに待った二人からのコールまで、それほど時間はかからなかった。
招かれ、私が訪問した時にはすでに変化しておった。彼らが暮らす一室の大半が、食堂さながらのキッチンスペースへと。
部屋の構造を変える術、いつ見ても華麗な腕前を見れなかったことは惜しい。だがしかし、エプロン姿の二人を、自然と寄り添い合い微笑み合うバアルとアオイ殿の幸せそうな姿を、見れたのだ。
これ以上、何を望むことがあろうか? いや、ない! そう心の中で断言しておったのだが。
シャンデリアの明かりをキラキラと反射している銀の作業台。その前で緑のエプロンと黄色のエプロンが揺れている。
小さな唇を引き結び、真剣な眼差しでテキパキと動かしている手元を、エプロンと同じ黄色の三角巾をつけた薄紫の頭が覗き込んだ。
「わぁっ、やっぱりアオイ様は手際がいいですねっ! カッコいいですっ!」
明るい声だけじゃなく、小柄な身体をも弾ませているグリム。彼の丸い瞳から向けられる眼差しに、アオイ殿の細い肩がびくっと跳ね、頬が一気に染まっていく。
「ふぇっ……」
あっという間に真っ赤っかだ。可愛らしい耳や、か細い首まで。嬉しいけれども、気恥ずかしいんであろう。アオイ殿は照れ屋さんだからな。
透き通ったオレンジの瞳。ゆらゆら彷徨っていた眼差しが、そっとグリムを見つめて微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。でもグリムさんもスゴいですよ。俺、お肉、そんなにキレイに薄く出来ないですもん」
「えへへ……こう見えて僕、力仕事は得意ですからっ! じゃんじゃん任せて下さいねっ!」
ますます瞳を輝かせ、グリムが木製の棒を掲げながら得意気な笑顔を見せる。そんな無邪気な彼を、アオイ殿は慈愛に満ちた笑顔で見つめていたのだが。
「こら、グリム、麺棒を振り回すんじゃありません」
彼の師匠、クロウは違った。鋭い金の瞳を吊り上げ、シックな黒いエプロンを纏う胸元の前で腕を組んでおる。
「それから、アオイ様に褒められたからって調子に乗って叩き過ぎるなよ? 台無しになっちまうからな」
「……はい」
追加で釘まで刺され、しょんぼり丸まっていく小さな背中。グリムの為になる忠告ではあったんだがな。フォローの飴が欲しいところだ。せめて、一言でも。
言い過ぎたと思っているんであろう。細く長い指で頬を掻くクロウの表情には、焦りの色が浮かんでいた。しまったな、と言わんばかりに。
仲良く肩を落としてしまった二人を見比べながら、眉を下げオロオロしているアオイ殿。小さな口を開こうとした彼の後ろから、柔らかい声が助け舟を出した。
そんな心躍るお誘いをしてくれたのは、珍しい朝の訪問者達であった。
コルテからの伝言でも十分であったのに。わざわざ執務室まで足を運んでくれたバアルとアオイ殿。仲良く手を繋いだ二人からは紅茶の香りが漂っていた。どうやら朝の茶会終わりに、すぐ訪れてくれたらしい。
おまけにアオイ殿は、あの時のことをちゃんと覚えてくれていたようで。
「ハンバーグの時は、ヨミ様のご都合が合わなかったから……今回は是非」
はにかむように微笑んで、私の予定に合わせてくれると言うのだ。今日は急を要する執務はなかったので、速攻でオッケーしたが。
私の傍らでそわそわと黄緑色の尾羽根を揺らしていた秘書、レタリーをも当然のようにアオイ殿は誘ってくれた。勿論、彼も了承した。食い気味で。
アオイ殿の友人であるグリムとクロウにも声をかけたらしく、かねてから料理に興味があったグリムも一緒にカツレツ作りの練習をするとのこと。
私にも「一緒に作りますか?」と誘ってくれたが今回は断った。アオイ殿とバアルの共同作業を、しかとこの目で堪能したかったからな。
「無事に戻ってきてくれたバアルのパーティをする前に、そなた達のパーティに呼ばれるとはの」
嬉しくて舞い上がっていたからであろう。つい、うっかり漏らしてしまっていたサプライズ。まだ準備すらしていなかったのだというのに、二人は満面の笑みで喜んでくれた。これは、ますます失敗出来ぬな。もう一つのサプライズは。
準備が出来たらお呼びしますね、と部屋を後にしたバアルとアオイ殿。待ちに待った二人からのコールまで、それほど時間はかからなかった。
招かれ、私が訪問した時にはすでに変化しておった。彼らが暮らす一室の大半が、食堂さながらのキッチンスペースへと。
部屋の構造を変える術、いつ見ても華麗な腕前を見れなかったことは惜しい。だがしかし、エプロン姿の二人を、自然と寄り添い合い微笑み合うバアルとアオイ殿の幸せそうな姿を、見れたのだ。
これ以上、何を望むことがあろうか? いや、ない! そう心の中で断言しておったのだが。
シャンデリアの明かりをキラキラと反射している銀の作業台。その前で緑のエプロンと黄色のエプロンが揺れている。
小さな唇を引き結び、真剣な眼差しでテキパキと動かしている手元を、エプロンと同じ黄色の三角巾をつけた薄紫の頭が覗き込んだ。
「わぁっ、やっぱりアオイ様は手際がいいですねっ! カッコいいですっ!」
明るい声だけじゃなく、小柄な身体をも弾ませているグリム。彼の丸い瞳から向けられる眼差しに、アオイ殿の細い肩がびくっと跳ね、頬が一気に染まっていく。
「ふぇっ……」
あっという間に真っ赤っかだ。可愛らしい耳や、か細い首まで。嬉しいけれども、気恥ずかしいんであろう。アオイ殿は照れ屋さんだからな。
透き通ったオレンジの瞳。ゆらゆら彷徨っていた眼差しが、そっとグリムを見つめて微笑んだ。
「あ、ありがとうございます。でもグリムさんもスゴいですよ。俺、お肉、そんなにキレイに薄く出来ないですもん」
「えへへ……こう見えて僕、力仕事は得意ですからっ! じゃんじゃん任せて下さいねっ!」
ますます瞳を輝かせ、グリムが木製の棒を掲げながら得意気な笑顔を見せる。そんな無邪気な彼を、アオイ殿は慈愛に満ちた笑顔で見つめていたのだが。
「こら、グリム、麺棒を振り回すんじゃありません」
彼の師匠、クロウは違った。鋭い金の瞳を吊り上げ、シックな黒いエプロンを纏う胸元の前で腕を組んでおる。
「それから、アオイ様に褒められたからって調子に乗って叩き過ぎるなよ? 台無しになっちまうからな」
「……はい」
追加で釘まで刺され、しょんぼり丸まっていく小さな背中。グリムの為になる忠告ではあったんだがな。フォローの飴が欲しいところだ。せめて、一言でも。
言い過ぎたと思っているんであろう。細く長い指で頬を掻くクロウの表情には、焦りの色が浮かんでいた。しまったな、と言わんばかりに。
仲良く肩を落としてしまった二人を見比べながら、眉を下げオロオロしているアオイ殿。小さな口を開こうとした彼の後ろから、柔らかい声が助け舟を出した。
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