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戸惑い半分、期待半分
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「あ、あげますっ! いっぱいっ、好きなだけ、あげますからっ! 服を、せめて下だけでもいいんで、服をっ!!」
きょとんと丸くなった瞳が御自身の玉体を見てから、ひょろっひょろな俺の身体を見つめてくる。
……そんな、まじまじと眺めないで欲しい。
今は余計に大人と子供みたいな体格差が浮き彫りになっているんだからさ。彫刻のように美しい、彼の身体と並んでいるお陰で。
「ああ、左様でございましたか」
納得したように微笑んで、すぐだった。
全身に感じ、包み込んでくれた柔らかい風。心地のいい感覚が素肌を撫でていったかと思えば、俺はいつものトレーナーとズボンを身に纏っていたんだ。
自分の身体へと巡らせていた視線を戻すと、シンプルな白いシャツに黒のズボン。お馴染みな、リラックスモードに身を包んだバアルさんと目が合う。
頬にかかっていたんだろう。しなやかな指先で俺の髪を後ろへ流してくれてから、大きな手のひらで頭をゆったり撫でてくれた。
「先程まで愛らしく甘えて頂けていたものですから、てっきり気にしていないものだと……失礼致しました」
「うっ……すみません……俺、夢中だったから、ずっと気がついてなくて……」
うっかりこぼしてしまっていた一言。
「バアルさんが嬉しいことばっかりしてくれるから……」
それは蚊の鳴くような、ほんの小さな呟きだった。けれども耳聡い彼が聞き逃す訳がなかった。
優しく微笑んでいた緑の瞳が薄っすらと、昨晩の甘いひと時を思い起こさせるような妖しい熱を帯びていく。
「アオイ……」
物腰柔らかな彼とは思えない性急さだった。押し倒されたと同時に、大きく軋んだベッドがその勢いを物語っていた。
シーツに縫いつけられるように、指を絡めて繋いだ手が押しつけられた。あっという間に距離を詰められて、首元に触れた熱い吐息。
「あ……バアルさ……」
そんな……朝からなんて……ダメ、なのに……
そう思う反面、俺は期待してしまっていた。思わず上擦った声で彼を呼んでしまうほどに。
でも違った。彼が仕掛けてきた触れ合いは、俺が考えていたような艷やかなものではなかったんだ。
「わっ……ちょっ、ふふっ……」
首、喉、耳へとすりすり、ふわふわ、触れてくる感触。時々聞こえてくる軽いリップ音。
多分だけれど……高い鼻先の、朝限定の伸びてしまったワイルドなお髭の、形のいい唇の、仕業だろう。
そっちがそういうつもりなら、ちょっとくらい……
楽しそうに触覚を弾ませている頭に手を伸ばす。少し跳ねた白く艷やかな髪を、両手でよしよし撫で回してやった。
俺の小さなお返しに、クスクスと笑う声が返ってくる。それと同時に止まってしまった、和やかなスキンシップ。
……マズかったのかな?
過ぎった不安が、瞬く間に吹っ飛んでいくことになるとは。
「んっ、はっ……ふはっ、バアルさ」
もっと、と受け取られたんだろうか。さっきよりも明らかに触れてくれる頻度が増している。遠慮がなくなっている。
大人な彼と、こんな風にふざけ合えるのはスゴく嬉しい。甘えてくれるのも。でも、やっぱり。
「っ……もぉ……擽ったいですってばぁ……」
笑い転げ、上下に揺れている俺の肩口から、彫りの深い顔が離れていく。穏やかな笑みを浮かべてばかりの口元が、悪戯に微笑んでいた。
「おや……夢中になってしまうほど、喜んで頂けたのでは?」
「っ……は、はぃ……スゴく嬉しかったですけ、どぉっ……んむっ……ははっ、ふっ、ひゃぅ……」
認めた途端にだった。笑みを深くした唇から優しく口づけられて、すぐにまた始まった。夢中にさせられてしまった。
バアルさんは優しい。いつも俺を一番に考えてくれる。ちょっぴり意地悪な時もあるけれど。
当たり前のように俺ファーストな彼に、スゴく嬉しかったと伝えたんだ。止まる訳がない。擽ったいだのと訴えたくらいで。
それに、そもそもバレているんだろう。イヤがるどころか、喜んでいることなんて。
案の定、涙が滲み、腹筋が笑いだしても続けてもらってしまったんだ。大の男二人で朝っぱらから、きゃっきゃとベッドを転がりまくっていたんだ。
頭上から降ってきた、チリン、チリンと俺達を急かすベルの音。バアルさんの従者である、キラキラ緑に瞬くハエのコルテが「お時間ですよ!」と告げてくるまで。
きょとんと丸くなった瞳が御自身の玉体を見てから、ひょろっひょろな俺の身体を見つめてくる。
……そんな、まじまじと眺めないで欲しい。
今は余計に大人と子供みたいな体格差が浮き彫りになっているんだからさ。彫刻のように美しい、彼の身体と並んでいるお陰で。
「ああ、左様でございましたか」
納得したように微笑んで、すぐだった。
全身に感じ、包み込んでくれた柔らかい風。心地のいい感覚が素肌を撫でていったかと思えば、俺はいつものトレーナーとズボンを身に纏っていたんだ。
自分の身体へと巡らせていた視線を戻すと、シンプルな白いシャツに黒のズボン。お馴染みな、リラックスモードに身を包んだバアルさんと目が合う。
頬にかかっていたんだろう。しなやかな指先で俺の髪を後ろへ流してくれてから、大きな手のひらで頭をゆったり撫でてくれた。
「先程まで愛らしく甘えて頂けていたものですから、てっきり気にしていないものだと……失礼致しました」
「うっ……すみません……俺、夢中だったから、ずっと気がついてなくて……」
うっかりこぼしてしまっていた一言。
「バアルさんが嬉しいことばっかりしてくれるから……」
それは蚊の鳴くような、ほんの小さな呟きだった。けれども耳聡い彼が聞き逃す訳がなかった。
優しく微笑んでいた緑の瞳が薄っすらと、昨晩の甘いひと時を思い起こさせるような妖しい熱を帯びていく。
「アオイ……」
物腰柔らかな彼とは思えない性急さだった。押し倒されたと同時に、大きく軋んだベッドがその勢いを物語っていた。
シーツに縫いつけられるように、指を絡めて繋いだ手が押しつけられた。あっという間に距離を詰められて、首元に触れた熱い吐息。
「あ……バアルさ……」
そんな……朝からなんて……ダメ、なのに……
そう思う反面、俺は期待してしまっていた。思わず上擦った声で彼を呼んでしまうほどに。
でも違った。彼が仕掛けてきた触れ合いは、俺が考えていたような艷やかなものではなかったんだ。
「わっ……ちょっ、ふふっ……」
首、喉、耳へとすりすり、ふわふわ、触れてくる感触。時々聞こえてくる軽いリップ音。
多分だけれど……高い鼻先の、朝限定の伸びてしまったワイルドなお髭の、形のいい唇の、仕業だろう。
そっちがそういうつもりなら、ちょっとくらい……
楽しそうに触覚を弾ませている頭に手を伸ばす。少し跳ねた白く艷やかな髪を、両手でよしよし撫で回してやった。
俺の小さなお返しに、クスクスと笑う声が返ってくる。それと同時に止まってしまった、和やかなスキンシップ。
……マズかったのかな?
過ぎった不安が、瞬く間に吹っ飛んでいくことになるとは。
「んっ、はっ……ふはっ、バアルさ」
もっと、と受け取られたんだろうか。さっきよりも明らかに触れてくれる頻度が増している。遠慮がなくなっている。
大人な彼と、こんな風にふざけ合えるのはスゴく嬉しい。甘えてくれるのも。でも、やっぱり。
「っ……もぉ……擽ったいですってばぁ……」
笑い転げ、上下に揺れている俺の肩口から、彫りの深い顔が離れていく。穏やかな笑みを浮かべてばかりの口元が、悪戯に微笑んでいた。
「おや……夢中になってしまうほど、喜んで頂けたのでは?」
「っ……は、はぃ……スゴく嬉しかったですけ、どぉっ……んむっ……ははっ、ふっ、ひゃぅ……」
認めた途端にだった。笑みを深くした唇から優しく口づけられて、すぐにまた始まった。夢中にさせられてしまった。
バアルさんは優しい。いつも俺を一番に考えてくれる。ちょっぴり意地悪な時もあるけれど。
当たり前のように俺ファーストな彼に、スゴく嬉しかったと伝えたんだ。止まる訳がない。擽ったいだのと訴えたくらいで。
それに、そもそもバレているんだろう。イヤがるどころか、喜んでいることなんて。
案の定、涙が滲み、腹筋が笑いだしても続けてもらってしまったんだ。大の男二人で朝っぱらから、きゃっきゃとベッドを転がりまくっていたんだ。
頭上から降ってきた、チリン、チリンと俺達を急かすベルの音。バアルさんの従者である、キラキラ緑に瞬くハエのコルテが「お時間ですよ!」と告げてくるまで。
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