342 / 824
期待に胸を高鳴らせているのは、俺だけでは
しおりを挟む
上品な雰囲気があふれている広い石造りの洗面台。同じく石造りの壁を覆う、ジムにでもありそうな大きな鏡。
それなりに慣れてきたとはいえ、一般庶民を謳歌していた俺には勿体ない豪華さだ。バアルさんは立ってるだけでスゴく絵になるんだけどな。
俺達の姿が映ってしまいそうなくらい光沢のある、ツルスベな床へとゆっくり下ろしてもらい、彼と向かい合う。
すでに、俺達のいつもになっていた着替えさせ合い。なっていたハズなのに……ゆらりと伸びてきたしなやかな指先に、トレーナーの裾を摘まれた瞬間だった。
「ぁ……」
上げそうになってしまった。変に上擦った、気持ちがふわふわしてる時にしか出ない、出せない声が。
……さっき意識しちゃったせいだ。期待、しちゃったせいだ。全部甘ったるく変換されてしまう。バアルさんは普通通りにしてくれているのに。
「アオイ様……」
まだ唇を噛めばよかったのに、咄嗟に手で覆ってしまったんだ、バレていない訳がない。現に透明感のある頬は桜色に染まっている。
引き上げようとしていた手を離し、代わりに恭しく俺の手を握ってくれたバアルさん。
ホッとした。ゆったりと手の甲を撫でてくれる優しい手つきに。スタイルのいい長身を屈め、俺と同じ位置で微笑んでくれた眼差しに。
「昨日と同じように致しましょうか」
「え?」
尋ねるより早く全身に感じた、風が吹き抜けていくような感覚。
瞬きをする間もなかったかもしれない。視線を身体へと巡らせた時には、すでに俺は着慣れた黒いハーフパンツの水着姿になっていたんだから。
良かった……これでいつも通り、一緒にお風呂を楽しめるな。
「ありがとうございま……ひょわっ」
視線を戻した途端に飛び込んできた、彫刻のような肉体美。盛り上がった頼もしい胸板、白い素肌にくっきりとした陰影をつけた腹筋、キレイにくの字にくびれた腰。
あれ? なんか……いつも以上にバアルさんが輝いて見えるような……?
お揃いの水着を纏った彼の瞳が嬉しそうに細められる。けれども、すぐに大きく見開かれた。
「アオイ様っ」
ぐらりと揺れかけていた視界がピタリと止まったかと思えば、温かい腕に抱き締められていた。俺の顔を覗き込むように見つめるバアルさん。その凛々しい眉は、八の字に下がってしまっている。
「大丈夫ですか?」
直前に頭が、身体が、ふわっとした感じはあった。でもまさか、あまりのカッコよさにあてられて、ひっくり返りそうになるなんて。
ホントにどうしちゃったんだろう……ついつい見惚れちゃうのは、いつものことだから仕方がないとはいえ。
「ありがとうございます……すみません」
まだ心配してくれているんだろう。片手で軽々と横抱きの形で抱き直してから、髪の毛を梳くように撫でてくれる。
「いえ……これほどまでに私めのことを意識して下さること自体は、大変男冥利に尽きますので」
「ふぇ……」
「おや、違いましたか?」
うっとりと見つめていた眼差しが、どこか悪戯っぽく笑う。
分かってはいた。俺の心の内なんてバレバレで、ちょっぴりイジワルな彼が出ちゃってるだけだって。
いたんだけど、気がつけば俺の口は素直な気持ちをぽろぽろこぼしていたんだ。
「ち、違わないです……いつもよりカッコいいなぁって思ってたら、頭がふわってしちゃって……いや、いつもバアルさんはカッコいいですし、すっごく色っぽいし素敵だなって思ってるんですよ? でも、その……なんていうか……」
まだ、もごもご動かしていた口を遮られた。小さな子を嗜めるみたいに、スッと立てた人差し指で。
さっきから熱くて仕方がないから、俺の顔はとんでもないことになってるんだと思う。でも、俺を止めた彼も珍しく、耳の先どころか引き締まった首まで真っ赤になっていたんだ。
「申し訳ございません……大変嬉しく存じます。ですが、それ以上お可愛らしいことを仰られてしまうと……私も我慢出来なくなってしまいますので……」
「ぁ……ひゅ、ひゅみまへん……」
「いえ、このままエスコートさせて頂いても?」
「は、はい。お願いします」
浴室へ入った瞬間、スイッチが切り替わったみたいだった。プライベートなモードから、執事さんなお仕事モードへと。そのレベルでバアルさんの手際はよく、あっという間に頭の天辺から足の爪先までピッカピカに磨かれた。
だからかな? 会話がなかった。そりゃあ、いつも満開の花を咲かせるほど、お喋りが絶えないって訳じゃない。
彼のお膝の上で分厚い胸板に身体を預けたり、ソファーで肩を寄せ合い手を繋ぎながら、のんびりと穏やかな沈黙を過ごすことの方が多い気もする。
でも、今回はその類いじゃなかったんだ。久しぶりなヤツだった。彼への想いを自覚する前、気になっている時によく感じていた、イヤじゃないんだけど擽ったくて仕方がないヤツ。
しかも、これまた珍しいことに俺だけではないみたいだった。
俺の目では追えない速さで、御自身の玉体を磨き上げたバアルさん。俺の待つ湯船に入り、後ろから抱き抱えてくれた彼の腕は小刻みに震えていた。背中から伝わってくる鼓動が俺のと同じくらい、激しく高鳴っていたんだ。
それなりに慣れてきたとはいえ、一般庶民を謳歌していた俺には勿体ない豪華さだ。バアルさんは立ってるだけでスゴく絵になるんだけどな。
俺達の姿が映ってしまいそうなくらい光沢のある、ツルスベな床へとゆっくり下ろしてもらい、彼と向かい合う。
すでに、俺達のいつもになっていた着替えさせ合い。なっていたハズなのに……ゆらりと伸びてきたしなやかな指先に、トレーナーの裾を摘まれた瞬間だった。
「ぁ……」
上げそうになってしまった。変に上擦った、気持ちがふわふわしてる時にしか出ない、出せない声が。
……さっき意識しちゃったせいだ。期待、しちゃったせいだ。全部甘ったるく変換されてしまう。バアルさんは普通通りにしてくれているのに。
「アオイ様……」
まだ唇を噛めばよかったのに、咄嗟に手で覆ってしまったんだ、バレていない訳がない。現に透明感のある頬は桜色に染まっている。
引き上げようとしていた手を離し、代わりに恭しく俺の手を握ってくれたバアルさん。
ホッとした。ゆったりと手の甲を撫でてくれる優しい手つきに。スタイルのいい長身を屈め、俺と同じ位置で微笑んでくれた眼差しに。
「昨日と同じように致しましょうか」
「え?」
尋ねるより早く全身に感じた、風が吹き抜けていくような感覚。
瞬きをする間もなかったかもしれない。視線を身体へと巡らせた時には、すでに俺は着慣れた黒いハーフパンツの水着姿になっていたんだから。
良かった……これでいつも通り、一緒にお風呂を楽しめるな。
「ありがとうございま……ひょわっ」
視線を戻した途端に飛び込んできた、彫刻のような肉体美。盛り上がった頼もしい胸板、白い素肌にくっきりとした陰影をつけた腹筋、キレイにくの字にくびれた腰。
あれ? なんか……いつも以上にバアルさんが輝いて見えるような……?
お揃いの水着を纏った彼の瞳が嬉しそうに細められる。けれども、すぐに大きく見開かれた。
「アオイ様っ」
ぐらりと揺れかけていた視界がピタリと止まったかと思えば、温かい腕に抱き締められていた。俺の顔を覗き込むように見つめるバアルさん。その凛々しい眉は、八の字に下がってしまっている。
「大丈夫ですか?」
直前に頭が、身体が、ふわっとした感じはあった。でもまさか、あまりのカッコよさにあてられて、ひっくり返りそうになるなんて。
ホントにどうしちゃったんだろう……ついつい見惚れちゃうのは、いつものことだから仕方がないとはいえ。
「ありがとうございます……すみません」
まだ心配してくれているんだろう。片手で軽々と横抱きの形で抱き直してから、髪の毛を梳くように撫でてくれる。
「いえ……これほどまでに私めのことを意識して下さること自体は、大変男冥利に尽きますので」
「ふぇ……」
「おや、違いましたか?」
うっとりと見つめていた眼差しが、どこか悪戯っぽく笑う。
分かってはいた。俺の心の内なんてバレバレで、ちょっぴりイジワルな彼が出ちゃってるだけだって。
いたんだけど、気がつけば俺の口は素直な気持ちをぽろぽろこぼしていたんだ。
「ち、違わないです……いつもよりカッコいいなぁって思ってたら、頭がふわってしちゃって……いや、いつもバアルさんはカッコいいですし、すっごく色っぽいし素敵だなって思ってるんですよ? でも、その……なんていうか……」
まだ、もごもご動かしていた口を遮られた。小さな子を嗜めるみたいに、スッと立てた人差し指で。
さっきから熱くて仕方がないから、俺の顔はとんでもないことになってるんだと思う。でも、俺を止めた彼も珍しく、耳の先どころか引き締まった首まで真っ赤になっていたんだ。
「申し訳ございません……大変嬉しく存じます。ですが、それ以上お可愛らしいことを仰られてしまうと……私も我慢出来なくなってしまいますので……」
「ぁ……ひゅ、ひゅみまへん……」
「いえ、このままエスコートさせて頂いても?」
「は、はい。お願いします」
浴室へ入った瞬間、スイッチが切り替わったみたいだった。プライベートなモードから、執事さんなお仕事モードへと。そのレベルでバアルさんの手際はよく、あっという間に頭の天辺から足の爪先までピッカピカに磨かれた。
だからかな? 会話がなかった。そりゃあ、いつも満開の花を咲かせるほど、お喋りが絶えないって訳じゃない。
彼のお膝の上で分厚い胸板に身体を預けたり、ソファーで肩を寄せ合い手を繋ぎながら、のんびりと穏やかな沈黙を過ごすことの方が多い気もする。
でも、今回はその類いじゃなかったんだ。久しぶりなヤツだった。彼への想いを自覚する前、気になっている時によく感じていた、イヤじゃないんだけど擽ったくて仕方がないヤツ。
しかも、これまた珍しいことに俺だけではないみたいだった。
俺の目では追えない速さで、御自身の玉体を磨き上げたバアルさん。俺の待つ湯船に入り、後ろから抱き抱えてくれた彼の腕は小刻みに震えていた。背中から伝わってくる鼓動が俺のと同じくらい、激しく高鳴っていたんだ。
52
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる