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試作品、とは?
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「あ、でも魔力を込めるのは上手くなりましたよ! バアルさんとのデート代の為に、クズ石に魔力を込めて魔法石にするバイトを頑張ったってのもありますけど」
「私めは貴方様にご負担をかけていたのですか? 愛する妻である貴方様に?」
余計な一言だったらしい。遮り、質問を畳み掛けてきた優しい声のトーンがいつもより低い。一段と。
そういえば、プレゼントするのが大好きな人だったな……しくじった。
「……ぜ、全然負担じゃないですよ? 俺が自分のお金で、バアルさんに誕生日のプレゼントを渡したかったってだけですし……それに、約束したんです。これから色んなところに出掛けて、記念の品を一緒に買おうって……だから」
「っ……そう、でしたか……ならば、致し方ありませんね……」
絞り出すように頷いた彼の声色は、元の穏やかさを取り戻していた。納得してくれたみたいだ。良かった。
今度は耳の先まで真っ赤になったバアルさんが、そわそわと半透明な羽をはためかせる。
「因みにその……プレゼントというのは?」
「お揃いのティーカップです。パステルカラーの緑のラインにオレンジの花柄の。バアルさんへのプレゼントなのに、俺が気になってた二つの中から、これがいいんですって選んでくれて」
「ああ、お茶会の……」
記憶を探るように宙を向いていた瞳が、嬉しそうに細められる。話しながら歩いている内に、いつの間にか食堂の前へと辿り着いていた。
木製の扉をノックしてから開いた途端、弾んだ鳴き声達が出迎えてくれる。
「ぷきゃっ!」
緑のリボンを首に結んだスーを筆頭に、スヴェンさんのアシスタントである彼ら。コウモリみたいな羽を生やしたこぶた達が、くるんと丸まった細い尻尾をぶんぶん振りながらわらわらと飛びついてきた。
頬や胸元に、小さな頭や身体を擦り寄せてきて、嬉しいんだけど擽ったい。
「ははっこんにちは、皆。よく分かったね? 俺とバアルさんだって」
「耳がいいんですよ。ウチのチビ達は」
可愛らしい鳴き声に代わり応えたのは、野太い声だった。
厨房の奥からガッシリとした肩を揺らしながら、黒いコックコートを身に着けたスヴェンさんがやってきた。
「ほらほら、奥方様が困ってるだろ?」
彼の一言で、じゃれついていたこぶた達が「ぷきゅっ」と一鳴きしてから、それぞれの定位置に戻っていく。
使い込まれた大鍋やフライパン、それらが下げてある壁の側にある棚に置いてある、クッション入りのカゴ。はたまた、スヴェンさんのポケットに肩、更には彼の尖った焦げ茶色の耳と同じ色のツンツン頭の上で、ころんとくつろいでみたり。
あっという間に、こぶた達の止まり木になりつつある彼は、気にするどころか受け入れ態勢抜群。自分から空いているポケットの口を開けたり、飛んでくる子の方へと筋骨隆々な腕を伸ばしたりしている。
「スヴェンさん、こんにちは」
「こんにちは、スヴェン殿。お時間宜しいでしょうか?」
「ええ、お二方なら大歓迎ですよ。丁度ピークは超えたんで。お料理に関するご相談ですか? それとも焼き菓子? 遠慮なく何でも仰せつけて下さいね」
ごつごつとした手を膝に置き、大柄の身体を丸めて俺の目線に合わせてくれる。
スヴェンさんが笑顔の形でニカッと口を開いたのと同時に、彼にくっついている子たちも「ぷきゃっ!」と小さな前足を上げた。任せて! って言ってくれているみたいだ。
「ありがとうございます。その、今日はお礼に……」
「お礼?」
「ぷきゅ?」
鋭く黒い瞳がぱちくり瞬く。いくつもの丸くてつぶらな瞳達も。
「はい。バアルさん、お願いします」
「畏まりました」
柔らかく微笑んでから胸に手を当て一礼。キレイなお辞儀を披露したバアルさんが、大きなバスケットをスヴェンさん達に差し出してくれた。
「ありがとうございます?」
疑問符をつけながら受け取った彼の瞳が、こぶた達の目が、中身を捉えた瞬間キラキラと輝き出す。
「ヨミ様と一緒に作って頂いたレシピのお礼、スヴェンさん達には出来ていませんでしたから。遅れてしまってすみません」
「ありがとうございます! こんなに沢山、大変だったでしょう?」
「いえ、バアルさんが手伝ってくれたので。むしろ楽しくて作り過ぎちゃったんですけど……」
「全っ然、有り難いです! 俺もチビ達も、アオイ様のお菓子大好きなんで!」
つい頬が緩んでしまう。「お腹いっぱい食べられて嬉しいです!」と嬉しそうに笑う彼に「ぷきゅ! ぷきゃ!」とちっちゃい羽をはためかせている彼らに。
「良かったら、また試作品の試食を……ああ、もしかして、そちらのバスケットはお二方の?」
「はい……これから、で、デート……なんです。それで、中庭でお弁当を……」
いや、緩むどころじゃない。ますますだらしのない顔になってそうだ。
お弁当の話題になったので、レシピのサンドイッチを作ったことを伝えれば「お役に立てて光栄ですっ」と微笑まれた。
扉が閉まる寸前までぶんぶん、わちゃわちゃと振ってくれた大きな手と小さな蹄達に見送られ、再び城内を、中庭を目指しているとまた寂しそうな声。
「アオイ様……先程の試作品、とは?」
「あ……そ、それは、ですね……」
おずおず尋ねてきた声への回答に、言い淀んでしまっている内に、俺を見つめる緑の眼差しがますますしょんぼりしていく。照れている場合じゃないな。
「私めは貴方様にご負担をかけていたのですか? 愛する妻である貴方様に?」
余計な一言だったらしい。遮り、質問を畳み掛けてきた優しい声のトーンがいつもより低い。一段と。
そういえば、プレゼントするのが大好きな人だったな……しくじった。
「……ぜ、全然負担じゃないですよ? 俺が自分のお金で、バアルさんに誕生日のプレゼントを渡したかったってだけですし……それに、約束したんです。これから色んなところに出掛けて、記念の品を一緒に買おうって……だから」
「っ……そう、でしたか……ならば、致し方ありませんね……」
絞り出すように頷いた彼の声色は、元の穏やかさを取り戻していた。納得してくれたみたいだ。良かった。
今度は耳の先まで真っ赤になったバアルさんが、そわそわと半透明な羽をはためかせる。
「因みにその……プレゼントというのは?」
「お揃いのティーカップです。パステルカラーの緑のラインにオレンジの花柄の。バアルさんへのプレゼントなのに、俺が気になってた二つの中から、これがいいんですって選んでくれて」
「ああ、お茶会の……」
記憶を探るように宙を向いていた瞳が、嬉しそうに細められる。話しながら歩いている内に、いつの間にか食堂の前へと辿り着いていた。
木製の扉をノックしてから開いた途端、弾んだ鳴き声達が出迎えてくれる。
「ぷきゃっ!」
緑のリボンを首に結んだスーを筆頭に、スヴェンさんのアシスタントである彼ら。コウモリみたいな羽を生やしたこぶた達が、くるんと丸まった細い尻尾をぶんぶん振りながらわらわらと飛びついてきた。
頬や胸元に、小さな頭や身体を擦り寄せてきて、嬉しいんだけど擽ったい。
「ははっこんにちは、皆。よく分かったね? 俺とバアルさんだって」
「耳がいいんですよ。ウチのチビ達は」
可愛らしい鳴き声に代わり応えたのは、野太い声だった。
厨房の奥からガッシリとした肩を揺らしながら、黒いコックコートを身に着けたスヴェンさんがやってきた。
「ほらほら、奥方様が困ってるだろ?」
彼の一言で、じゃれついていたこぶた達が「ぷきゅっ」と一鳴きしてから、それぞれの定位置に戻っていく。
使い込まれた大鍋やフライパン、それらが下げてある壁の側にある棚に置いてある、クッション入りのカゴ。はたまた、スヴェンさんのポケットに肩、更には彼の尖った焦げ茶色の耳と同じ色のツンツン頭の上で、ころんとくつろいでみたり。
あっという間に、こぶた達の止まり木になりつつある彼は、気にするどころか受け入れ態勢抜群。自分から空いているポケットの口を開けたり、飛んでくる子の方へと筋骨隆々な腕を伸ばしたりしている。
「スヴェンさん、こんにちは」
「こんにちは、スヴェン殿。お時間宜しいでしょうか?」
「ええ、お二方なら大歓迎ですよ。丁度ピークは超えたんで。お料理に関するご相談ですか? それとも焼き菓子? 遠慮なく何でも仰せつけて下さいね」
ごつごつとした手を膝に置き、大柄の身体を丸めて俺の目線に合わせてくれる。
スヴェンさんが笑顔の形でニカッと口を開いたのと同時に、彼にくっついている子たちも「ぷきゃっ!」と小さな前足を上げた。任せて! って言ってくれているみたいだ。
「ありがとうございます。その、今日はお礼に……」
「お礼?」
「ぷきゅ?」
鋭く黒い瞳がぱちくり瞬く。いくつもの丸くてつぶらな瞳達も。
「はい。バアルさん、お願いします」
「畏まりました」
柔らかく微笑んでから胸に手を当て一礼。キレイなお辞儀を披露したバアルさんが、大きなバスケットをスヴェンさん達に差し出してくれた。
「ありがとうございます?」
疑問符をつけながら受け取った彼の瞳が、こぶた達の目が、中身を捉えた瞬間キラキラと輝き出す。
「ヨミ様と一緒に作って頂いたレシピのお礼、スヴェンさん達には出来ていませんでしたから。遅れてしまってすみません」
「ありがとうございます! こんなに沢山、大変だったでしょう?」
「いえ、バアルさんが手伝ってくれたので。むしろ楽しくて作り過ぎちゃったんですけど……」
「全っ然、有り難いです! 俺もチビ達も、アオイ様のお菓子大好きなんで!」
つい頬が緩んでしまう。「お腹いっぱい食べられて嬉しいです!」と嬉しそうに笑う彼に「ぷきゅ! ぷきゃ!」とちっちゃい羽をはためかせている彼らに。
「良かったら、また試作品の試食を……ああ、もしかして、そちらのバスケットはお二方の?」
「はい……これから、で、デート……なんです。それで、中庭でお弁当を……」
いや、緩むどころじゃない。ますますだらしのない顔になってそうだ。
お弁当の話題になったので、レシピのサンドイッチを作ったことを伝えれば「お役に立てて光栄ですっ」と微笑まれた。
扉が閉まる寸前までぶんぶん、わちゃわちゃと振ってくれた大きな手と小さな蹄達に見送られ、再び城内を、中庭を目指しているとまた寂しそうな声。
「アオイ様……先程の試作品、とは?」
「あ……そ、それは、ですね……」
おずおず尋ねてきた声への回答に、言い淀んでしまっている内に、俺を見つめる緑の眼差しがますますしょんぼりしていく。照れている場合じゃないな。
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