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いやいやまさか……紳士な彼に限ってそんな……
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若々しい彼も、ダンディな彼と同じく熱烈だ。つらつらと饒舌に提案しながら、俺の手を取り握り締めてくる。
懐いてくれているわんこの尻尾みたく、ぶんぶんはしゃいでいる触覚。はためきっぱなしの羽もかわいくて仕方がない。でも。
「ごめんなさい……朝からは、その……ダメになっちゃうから」
「……駄目になる、とは?」
尋ねてきた彼の羽はすっかり縮んでしまっていた。これは、一から全部話した方が良さそうだな。誤解されちゃう前に。
「その……今日は俺、バアルさんと中庭でお散歩デートしたくて……初めてのデートの時みたいに。それで、今回はお弁当も、手作りしたくて……でも、今、甘やかされちゃったら……俺、一日中ベッドに……じゃなくて、ダメになっちゃ」
「ならば致し方ありませんねっ」
弾んだ声が食い気味に納得してくれた。
良かった……すっかり上機嫌だ。緩やかな弧を描く口元は喜びに満ちあふれ、触覚は弾むように揺れている。瞬く間に、俺達を覆わんばかりに大きく広がって羽は、風を切るようだ。いやむしろ、風が吹いてきている。はためき過ぎて。
まさかこんなに喜んでくれるなんて……いや、期待はしていたけどさ。
お花まみれの思考と一緒に、表情筋が溶けかかっている俺におずおずとした声が尋ねてくる。
「因みにですが……お弁当の中身のご予定は……」
「あ、はい……サンドイッチを作ろうかなって、思ってます。メインはハンバーグとスクランブルエッグの二種類を、デザートは生クリームたっぷりのフルーツサンドを作るつもりです」
スヴェンさんのお手軽レシピに載っていたアレンジ。そちらを実践しようかなって。
なんせ昨日はヨミ様からの素敵なプレゼント、俺とバアルさんのメモリアルムービーに夢中で、バアルさんの好物を作ってあげられなかったからなぁ。
だから、是非とも食べてもらいたい。皆さんとのお茶会の時も、俺の料理に興味津々なご様子だったしさ。
「大変魅力的でございますね……今から楽しみで仕方がありません」
期待に揺れる緑の瞳に、そわそわと揺れている長身に、俺の鼓動もはしゃいでしまう。
「良かった……喜んでもらえて」
「本日もお手伝いさせて頂いても?」
「はいっ、スゴく助かります。一緒に頑張りましょうね」
「ええっ、宜しくお願い致します」
ほんわかとした空気の中、はたと気づいた。お互い、ほとんど裸のままで向かい合っていたことに。
途端に蘇ってしまう。ふわふわとした心地よさが、彼と二人で溶け合うような感覚が。
「あの……バアルさん」
繋いでくれていた手に、つい力を込めてしまっていた。ちょっぴり震える指先を見なかったことにして、彼を見つめる。
「はいっ、いかがなさいましたか?」
「夜になったら、俺のこと……バアルさんの……す、好きにしていいですから……」
ニコニコ綻んでいた頬が、ボボボッと真っ赤に染まっていく。
大胆なこと言っちゃったな、とは思っていた。でも珍しく、恥ずかしさが襲ってくることはなかった。
「っ……アオイ様」
気がつけば、視界いっぱいに緑の瞳を滲ませたトマトなバアルさん。耳元では、俺達の重さを一身に受けたベッドの悲鳴が聞こえた。
さっきよりも俺を抱き締めてくれる温もりが熱く、伝わってくる鼓動も激しい。
いやいやまさか……紳士な彼に限ってそんな……
「い、今じゃないですからねっ?」
「大丈夫ですよ……心得ております。軽いスキンシップならば、お許し頂けますよね?」
念押しは必要なかったみたいだ。嬉しそうに尋ねる彼から妖しい雰囲気は一切感じない。ただ、はしゃいでいるだけみたい。
「……はい。キスとか、撫でてくれるだけなら……俺も嬉しいですし……」
「ありがとうございますっ」
ぱあっと眩しい笑顔を浮かべた彼からの触れ合いは、ほのぼのとしたものだった。だったんだけど……
「んっ……ば、バアルさ……」
時々、手つきが微妙に擽ったいんですけど?
触れるだけのキスを何度も送ってくれながら、しっとりとした柔い指先で首や耳に触れてくる。
その撫で方が、ちょっぴり妖しいんだ。甘やかすような感覚に、しれっとぞくぞくするのを混ぜ込んでくるような……
「おや……あくまで私は、貴方様を撫でさせて頂いているだけですが?」
クスクスと笑みをこぼす唇は楽しげで、ちょっぴり意地悪だ。囁く時に、わざわざ耳にフッと吐息を吹きかけてくる。そういうのに俺が弱いって分かってるハズなのに。
「ん、ぅ……そう、ですけどぉ……」
「ふふ、では続けても構いませんよね?」
バアルさんが喜んでくれていると俺も嬉しい。おまけにキスしてもらえるし、触ってもらえる。Win-Winどころじゃない現状だ。
……止めて欲しくない。それどころか、もっと。
「……はぃ……続けて欲しい、です……」
「御慈悲に感謝致します」
頷くしかない俺を見つめる緑の眼差しが、ご満悦そうに細められる。
結局俺は、たっぷり彼から甘やかされてしまったんだ。そういう雰囲気にならない程度の絶妙な加減で。
懐いてくれているわんこの尻尾みたく、ぶんぶんはしゃいでいる触覚。はためきっぱなしの羽もかわいくて仕方がない。でも。
「ごめんなさい……朝からは、その……ダメになっちゃうから」
「……駄目になる、とは?」
尋ねてきた彼の羽はすっかり縮んでしまっていた。これは、一から全部話した方が良さそうだな。誤解されちゃう前に。
「その……今日は俺、バアルさんと中庭でお散歩デートしたくて……初めてのデートの時みたいに。それで、今回はお弁当も、手作りしたくて……でも、今、甘やかされちゃったら……俺、一日中ベッドに……じゃなくて、ダメになっちゃ」
「ならば致し方ありませんねっ」
弾んだ声が食い気味に納得してくれた。
良かった……すっかり上機嫌だ。緩やかな弧を描く口元は喜びに満ちあふれ、触覚は弾むように揺れている。瞬く間に、俺達を覆わんばかりに大きく広がって羽は、風を切るようだ。いやむしろ、風が吹いてきている。はためき過ぎて。
まさかこんなに喜んでくれるなんて……いや、期待はしていたけどさ。
お花まみれの思考と一緒に、表情筋が溶けかかっている俺におずおずとした声が尋ねてくる。
「因みにですが……お弁当の中身のご予定は……」
「あ、はい……サンドイッチを作ろうかなって、思ってます。メインはハンバーグとスクランブルエッグの二種類を、デザートは生クリームたっぷりのフルーツサンドを作るつもりです」
スヴェンさんのお手軽レシピに載っていたアレンジ。そちらを実践しようかなって。
なんせ昨日はヨミ様からの素敵なプレゼント、俺とバアルさんのメモリアルムービーに夢中で、バアルさんの好物を作ってあげられなかったからなぁ。
だから、是非とも食べてもらいたい。皆さんとのお茶会の時も、俺の料理に興味津々なご様子だったしさ。
「大変魅力的でございますね……今から楽しみで仕方がありません」
期待に揺れる緑の瞳に、そわそわと揺れている長身に、俺の鼓動もはしゃいでしまう。
「良かった……喜んでもらえて」
「本日もお手伝いさせて頂いても?」
「はいっ、スゴく助かります。一緒に頑張りましょうね」
「ええっ、宜しくお願い致します」
ほんわかとした空気の中、はたと気づいた。お互い、ほとんど裸のままで向かい合っていたことに。
途端に蘇ってしまう。ふわふわとした心地よさが、彼と二人で溶け合うような感覚が。
「あの……バアルさん」
繋いでくれていた手に、つい力を込めてしまっていた。ちょっぴり震える指先を見なかったことにして、彼を見つめる。
「はいっ、いかがなさいましたか?」
「夜になったら、俺のこと……バアルさんの……す、好きにしていいですから……」
ニコニコ綻んでいた頬が、ボボボッと真っ赤に染まっていく。
大胆なこと言っちゃったな、とは思っていた。でも珍しく、恥ずかしさが襲ってくることはなかった。
「っ……アオイ様」
気がつけば、視界いっぱいに緑の瞳を滲ませたトマトなバアルさん。耳元では、俺達の重さを一身に受けたベッドの悲鳴が聞こえた。
さっきよりも俺を抱き締めてくれる温もりが熱く、伝わってくる鼓動も激しい。
いやいやまさか……紳士な彼に限ってそんな……
「い、今じゃないですからねっ?」
「大丈夫ですよ……心得ております。軽いスキンシップならば、お許し頂けますよね?」
念押しは必要なかったみたいだ。嬉しそうに尋ねる彼から妖しい雰囲気は一切感じない。ただ、はしゃいでいるだけみたい。
「……はい。キスとか、撫でてくれるだけなら……俺も嬉しいですし……」
「ありがとうございますっ」
ぱあっと眩しい笑顔を浮かべた彼からの触れ合いは、ほのぼのとしたものだった。だったんだけど……
「んっ……ば、バアルさ……」
時々、手つきが微妙に擽ったいんですけど?
触れるだけのキスを何度も送ってくれながら、しっとりとした柔い指先で首や耳に触れてくる。
その撫で方が、ちょっぴり妖しいんだ。甘やかすような感覚に、しれっとぞくぞくするのを混ぜ込んでくるような……
「おや……あくまで私は、貴方様を撫でさせて頂いているだけですが?」
クスクスと笑みをこぼす唇は楽しげで、ちょっぴり意地悪だ。囁く時に、わざわざ耳にフッと吐息を吹きかけてくる。そういうのに俺が弱いって分かってるハズなのに。
「ん、ぅ……そう、ですけどぉ……」
「ふふ、では続けても構いませんよね?」
バアルさんが喜んでくれていると俺も嬉しい。おまけにキスしてもらえるし、触ってもらえる。Win-Winどころじゃない現状だ。
……止めて欲しくない。それどころか、もっと。
「……はぃ……続けて欲しい、です……」
「御慈悲に感謝致します」
頷くしかない俺を見つめる緑の眼差しが、ご満悦そうに細められる。
結局俺は、たっぷり彼から甘やかされてしまったんだ。そういう雰囲気にならない程度の絶妙な加減で。
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