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★ 聞くくらいは、タダだよな?
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……何だか、目に見えてしょんぼりしていらっしゃる。
切なそうに細められた瞳、寂しそうに歪んだ口元。揺れていた触覚は力なく下がり、大きくはためいていた羽も輝きを失い縮こまってしまっている。
そんなに落ち込むようなこと、言ったっけ? いや、言ったんだろう。だって、それしか原因が見当たらない。
今日の彼が俺に贈ってくれた言葉や、してくれた行動を顧みるに……流石に凹むくらいイヤってことはないだろう。それくらいは自惚れてもいいハズだ。
だったら、ガッカリしたって感じ……だろうか。ハロウィンでのクッキーの食べさせ合いっこの時みたく、思ってたのと、期待してたのと違うって感じか?
…………ん? え? いやいやまさか、まさかね。で、でも聞くくらいはタダだよな? 聞いてみても、いいよな?
「……もしかしてですけど……俺と……え、えっち……したかった、ですか? なーんて……」
最悪、冗談ですよ、冗談! と誤魔化せるように努めて軽い調子で尋ねてみる。尋ねてみた結果、透明感のある白い頬がボッと真っ赤に染まった。
「え……ホントに? ホントにですか?」
期待に鼓動がはしゃぎ出す。頬がだらしなく下がってしまう。
確かに今日一日で何度か、それっぽいことを言ってくれてはいたけれど。俺に触れたいとか、無体を働いてしまいそうだとか。
とはいえ、お膝に座らさせて頂いたり、あーんさせてもらったりするだけで、顔を真っ赤にして慌てていたもんだから。てっきり、その触りたいってのも、ハグしたいとか、頭を撫でたいとか。そんなほのぼの系だと思っていたのに。まさか、そんな。
指の先を震わせながら、そっと取られて繋がれた手。いつもより熱い温度がおずおずと、けれども離さないと言ってくれているように力が込められる。
透明な膜により、うっすら滲んだ瞳。宝石よりも美しい緑の輝きが、俺を真っ直ぐに射抜いた。
「……貴方様さえ宜しければ……これまでと同様に、いつもの私達が行っていることを、させて頂きたく存じます……」
……カッコかわいい。そんでもって色っぽい。
赤く染まりつつあるのは頬だけじゃない。引き締まった首も、緩んだシャツの襟元から覗くキレイな鎖骨のラインまでもが、ほんのり色づいている。
誰でもいいから褒めて欲しい。抱きついて、なんならキスを強請りたくなったのを必死に堪えきった俺を。
それでも前のめりな気持ちは抑えられなかった。一瞬でお花まみれになった頭では、これ、言った後で穴に埋めて欲しくなんない? なんて判断が出来るハズもなく。
「じゃ、じゃあ……俺のこと……いつもみたいに……あ、愛してくれます?」
湧き上がった先から、ぼろぼろこぼしてしまっていた。
「……この手で、可愛いがってくれますか?」
はにかむかわいいバアルさんを見上げていたハズが、カッコいい雄の顔をしたバアルさんに見下ろされていた。
視界の端に輝く万華鏡みたいなシャンデリア。背中に当たっているクッション。それでようやく気づいた。
……あ、押し倒されたのか。そういえば、一瞬視界がブレたような、全身が浮遊感に近い感覚に襲われたような気もする。
「バアルさ」
「……でしょうか?」
遮った彼の声は少しだけ震えていた。見つめる緑の眼差しも水面みたいに揺れている。
「誠に、私で宜しいのでしょうか?」
今日、何度も見た気がする複雑な表情。嬉しさと寂しさが混ざったような、求めているけれども同じくらい堪えているような。
優しい彼が、また俺を気遣ってくれようとしている。そんな彼だから、変わらず俺を好きになってくれたから……答えなんて、もう決まっていた。
「貴方が……バアルさんが、良いんです」
伸ばした手を首に絡めて抱き寄せる。吐息が触れ合うくらいに近くなれた彼との距離。瞬き、細められた緑の瞳に、いくつもの星が煌めいていた。
「……アオイ様」
「……バアルさん」
ほぼ同時だった。残された数センチを互いに寄せ合い、埋めていく。重なった柔らかい体温が嬉しくて、胸の奥がジンと熱くなった。
「ん……ふ、ん、っ……は……」
穏やかな波に揺蕩っているような、心地のいい優しい触れ合い。こんなにも満たされているのに、胸の奥からもっと、もっと……と尽きない欲が滲み出てきてしまう。ホントに俺は欲張りな男だ。
回していた腕を緩め、シャツの裾を軽く引く。察してくれたんだろう。名残惜しそうに上唇を食みつつも、離してくれた。
「ベッド、行きましょうか……そこで、いっぱい続き……しましょう?」
「っ……ええっ、宜しくお願い致します」
元気よく頷いた彼の触覚が弾むように揺れ、透き通った羽が風を切るようにはためき出す。腕を広げると笑みを深くして、引き締まったその腕で俺を抱き上げてくれた。
切なそうに細められた瞳、寂しそうに歪んだ口元。揺れていた触覚は力なく下がり、大きくはためいていた羽も輝きを失い縮こまってしまっている。
そんなに落ち込むようなこと、言ったっけ? いや、言ったんだろう。だって、それしか原因が見当たらない。
今日の彼が俺に贈ってくれた言葉や、してくれた行動を顧みるに……流石に凹むくらいイヤってことはないだろう。それくらいは自惚れてもいいハズだ。
だったら、ガッカリしたって感じ……だろうか。ハロウィンでのクッキーの食べさせ合いっこの時みたく、思ってたのと、期待してたのと違うって感じか?
…………ん? え? いやいやまさか、まさかね。で、でも聞くくらいはタダだよな? 聞いてみても、いいよな?
「……もしかしてですけど……俺と……え、えっち……したかった、ですか? なーんて……」
最悪、冗談ですよ、冗談! と誤魔化せるように努めて軽い調子で尋ねてみる。尋ねてみた結果、透明感のある白い頬がボッと真っ赤に染まった。
「え……ホントに? ホントにですか?」
期待に鼓動がはしゃぎ出す。頬がだらしなく下がってしまう。
確かに今日一日で何度か、それっぽいことを言ってくれてはいたけれど。俺に触れたいとか、無体を働いてしまいそうだとか。
とはいえ、お膝に座らさせて頂いたり、あーんさせてもらったりするだけで、顔を真っ赤にして慌てていたもんだから。てっきり、その触りたいってのも、ハグしたいとか、頭を撫でたいとか。そんなほのぼの系だと思っていたのに。まさか、そんな。
指の先を震わせながら、そっと取られて繋がれた手。いつもより熱い温度がおずおずと、けれども離さないと言ってくれているように力が込められる。
透明な膜により、うっすら滲んだ瞳。宝石よりも美しい緑の輝きが、俺を真っ直ぐに射抜いた。
「……貴方様さえ宜しければ……これまでと同様に、いつもの私達が行っていることを、させて頂きたく存じます……」
……カッコかわいい。そんでもって色っぽい。
赤く染まりつつあるのは頬だけじゃない。引き締まった首も、緩んだシャツの襟元から覗くキレイな鎖骨のラインまでもが、ほんのり色づいている。
誰でもいいから褒めて欲しい。抱きついて、なんならキスを強請りたくなったのを必死に堪えきった俺を。
それでも前のめりな気持ちは抑えられなかった。一瞬でお花まみれになった頭では、これ、言った後で穴に埋めて欲しくなんない? なんて判断が出来るハズもなく。
「じゃ、じゃあ……俺のこと……いつもみたいに……あ、愛してくれます?」
湧き上がった先から、ぼろぼろこぼしてしまっていた。
「……この手で、可愛いがってくれますか?」
はにかむかわいいバアルさんを見上げていたハズが、カッコいい雄の顔をしたバアルさんに見下ろされていた。
視界の端に輝く万華鏡みたいなシャンデリア。背中に当たっているクッション。それでようやく気づいた。
……あ、押し倒されたのか。そういえば、一瞬視界がブレたような、全身が浮遊感に近い感覚に襲われたような気もする。
「バアルさ」
「……でしょうか?」
遮った彼の声は少しだけ震えていた。見つめる緑の眼差しも水面みたいに揺れている。
「誠に、私で宜しいのでしょうか?」
今日、何度も見た気がする複雑な表情。嬉しさと寂しさが混ざったような、求めているけれども同じくらい堪えているような。
優しい彼が、また俺を気遣ってくれようとしている。そんな彼だから、変わらず俺を好きになってくれたから……答えなんて、もう決まっていた。
「貴方が……バアルさんが、良いんです」
伸ばした手を首に絡めて抱き寄せる。吐息が触れ合うくらいに近くなれた彼との距離。瞬き、細められた緑の瞳に、いくつもの星が煌めいていた。
「……アオイ様」
「……バアルさん」
ほぼ同時だった。残された数センチを互いに寄せ合い、埋めていく。重なった柔らかい体温が嬉しくて、胸の奥がジンと熱くなった。
「ん……ふ、ん、っ……は……」
穏やかな波に揺蕩っているような、心地のいい優しい触れ合い。こんなにも満たされているのに、胸の奥からもっと、もっと……と尽きない欲が滲み出てきてしまう。ホントに俺は欲張りな男だ。
回していた腕を緩め、シャツの裾を軽く引く。察してくれたんだろう。名残惜しそうに上唇を食みつつも、離してくれた。
「ベッド、行きましょうか……そこで、いっぱい続き……しましょう?」
「っ……ええっ、宜しくお願い致します」
元気よく頷いた彼の触覚が弾むように揺れ、透き通った羽が風を切るようにはためき出す。腕を広げると笑みを深くして、引き締まったその腕で俺を抱き上げてくれた。
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