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添い寝くらいなら、余裕なのでわ?

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 昨日に引き続き、色々あり過ぎた今日も更け。お城の本棟も、俺達の居る別棟も、穏やかな静けさに満ちている。

 天井を華やかに彩っている、青い水晶で作られたシャンデリア。温かく照らす明かりが、少し見上げた先にある艷やかな白い髪に光の輪を描いている。広い背中ではためく透き通った羽に淡い煌めきをもたらしている。

 すっかり俺を膝に乗せるのに戸惑いがなくなった彼、バアルさんはご機嫌そうだ。額から生えている触覚を揺らしながら、キレイだけれど男らしさを備えた手で俺の頭や背中をのんびり撫でてくれている。

 やっぱり、俺からってのがいけなかったみたい。お風呂上がりのさっきも、いいのかな? お願いしようかな? って悩んでたら「どうぞ此方へ……」って両腕を広げて微笑んでくれたもんな。ソファーに腰掛けて。

 でも、問題はこれからだ。一番の難関が待っているからな。一晩、添い寝してもらえるかっていう難関が。

 いつもだったら、そろそろ寝ます? ってお声がけするか、してもらうか。なんなら、自然といい雰囲気になってそのままベッドへ……っていう流れなのだが、今回は違う。

 なんせ、今のバアルさんはここ最近の記憶を、俺のことを、忘れてしまっているんだからな。若返った影響で。

 ……うーん……一時的って分かっているとはいえ、改めて自分の中で言葉にするとクルものがあるな。っていうかちょっぴり寂しい。やっぱり。

 ちょっぴりで済んでるのは彼のお陰だ。お揃いの指輪を見ただけで俺のことを……将来の……つ、妻だって分かってくれて、受け入れてくれて。それだけでも嬉しかったのに。ハグにキス、それからお風呂まで、ご一緒してもらえたんだから。

 ……だったら、添い寝くらい余裕なのでわ? と調子に乗ってしまいそうな俺を、必死に心の奥へと押し戻す。そりゃあ、俺だって添い寝はしてもらえる自信はある。けれども、問題はその後だ。

 絶対に我慢しなければ。オッケーをもらえたとしても、決して調子に乗らないようにしなければ。じゃないと、触れてもらいたくなってしまう。

 ……いつもみたいに俺のこと、愛して欲しいなって……思ってしまう。

 流石に、そこまで求めるのは難しいだろう。だって、俺にとっては好きな人が若返っただけでも、彼にとってはたった一日過ごした程度の男に求められるのだから。

 また、ちょっぴり寂しくなった気持ちを無視して、息を整える。覚悟を決めて、俺は切り出した。

「その、これから……どう……します?」

 優しい手つきがぴたりと止まる。ハリのある白い頬にさらりかかった髪を耳へ流してから、淡い光を帯びた緑の瞳が俺を見つめた。

「……と、申しますと?」

 肝心なところでヘタれな俺が出てきてしまった。曖昧な、彼から言わせるような言い方をしてしまった。

 流れを、俺のことを、よく分かっている彼ならば、察してくれているだろう。俺を抱き上げ、優しくベッドへとエスコートしてくれるだろう。または、ちょっぴり意地悪に「何か……私にして欲しいことはございますか?」なんて艷やかに微笑みながら言わせようとしてくるだろう。

 けれども今の彼は知らない。俺達の今までが通用しないのだから、質問で返ってくるのは当然だ。

 甘えている場合じゃない。ハッキリ伝えなければ、一から十まで。

「えっと……バアルさんだったら、今朝の時点で……何となく分かってるとは思うんですけど……おっ、俺達……一緒の、ベッドで寝てるんですよね……バアルさんに、う、腕枕してもらって……だから、どうするのかなっ、て……」

 ここにきて、じわりと不安が滲み出てくる。見ようとせずに避けていた万が一。そもそも、添い寝自体を断られちゃうんじゃないか? っていう不安が。

 わりとハードル高めのスキンシップだって、最終的には笑顔で受け入れてもらえた。だから、望みは十分だとは思う。思うけど、もし断られたら……

 いや、それでも伝えるだけ、伝えよう。ダメで元々、お願いするくらいはいいだろう。見るのが怖くて逸らしていた目線を上げる。

「……俺としては、一緒に寝て欲し」

 お願いしようとしていた言葉は、最後まで出てこなかった。

 それどころじゃなくなってしまったから。視界に映った彼のご様子に喉が、胸が、きゅっと締めつけられてしまったんだから。
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