315 / 906
添い寝くらいなら、余裕なのでわ?
しおりを挟む
昨日に引き続き、色々あり過ぎた今日も更け。お城の本棟も、俺達の居る別棟も、穏やかな静けさに満ちている。
天井を華やかに彩っている、青い水晶で作られたシャンデリア。温かく照らす明かりが、少し見上げた先にある艷やかな白い髪に光の輪を描いている。広い背中ではためく透き通った羽に淡い煌めきをもたらしている。
すっかり俺を膝に乗せるのに戸惑いがなくなった彼、バアルさんはご機嫌そうだ。額から生えている触覚を揺らしながら、キレイだけれど男らしさを備えた手で俺の頭や背中をのんびり撫でてくれている。
やっぱり、俺からってのがいけなかったみたい。お風呂上がりのさっきも、いいのかな? お願いしようかな? って悩んでたら「どうぞ此方へ……」って両腕を広げて微笑んでくれたもんな。ソファーに腰掛けて。
でも、問題はこれからだ。一番の難関が待っているからな。一晩、添い寝してもらえるかっていう難関が。
いつもだったら、そろそろ寝ます? ってお声がけするか、してもらうか。なんなら、自然といい雰囲気になってそのままベッドへ……っていう流れなのだが、今回は違う。
なんせ、今のバアルさんはここ最近の記憶を、俺のことを、忘れてしまっているんだからな。若返った影響で。
……うーん……一時的って分かっているとはいえ、改めて自分の中で言葉にするとクルものがあるな。っていうかちょっぴり寂しい。やっぱり。
ちょっぴりで済んでるのは彼のお陰だ。お揃いの指輪を見ただけで俺のことを……将来の……つ、妻だって分かってくれて、受け入れてくれて。それだけでも嬉しかったのに。ハグにキス、それからお風呂まで、ご一緒してもらえたんだから。
……だったら、添い寝くらい余裕なのでわ? と調子に乗ってしまいそうな俺を、必死に心の奥へと押し戻す。そりゃあ、俺だって添い寝はしてもらえる自信はある。けれども、問題はその後だ。
絶対に我慢しなければ。オッケーをもらえたとしても、決して調子に乗らないようにしなければ。じゃないと、触れてもらいたくなってしまう。
……いつもみたいに俺のこと、愛して欲しいなって……思ってしまう。
流石に、そこまで求めるのは難しいだろう。だって、俺にとっては好きな人が若返っただけでも、彼にとってはたった一日過ごした程度の男に求められるのだから。
また、ちょっぴり寂しくなった気持ちを無視して、息を整える。覚悟を決めて、俺は切り出した。
「その、これから……どう……します?」
優しい手つきがぴたりと止まる。ハリのある白い頬にさらりかかった髪を耳へ流してから、淡い光を帯びた緑の瞳が俺を見つめた。
「……と、申しますと?」
肝心なところでヘタれな俺が出てきてしまった。曖昧な、彼から言わせるような言い方をしてしまった。
流れを、俺のことを、よく分かっている彼ならば、察してくれているだろう。俺を抱き上げ、優しくベッドへとエスコートしてくれるだろう。または、ちょっぴり意地悪に「何か……私にして欲しいことはございますか?」なんて艷やかに微笑みながら言わせようとしてくるだろう。
けれども今の彼は知らない。俺達の今までが通用しないのだから、質問で返ってくるのは当然だ。
甘えている場合じゃない。ハッキリ伝えなければ、一から十まで。
「えっと……バアルさんだったら、今朝の時点で……何となく分かってるとは思うんですけど……おっ、俺達……一緒の、ベッドで寝てるんですよね……バアルさんに、う、腕枕してもらって……だから、どうするのかなっ、て……」
ここにきて、じわりと不安が滲み出てくる。見ようとせずに避けていた万が一。そもそも、添い寝自体を断られちゃうんじゃないか? っていう不安が。
わりとハードル高めのスキンシップだって、最終的には笑顔で受け入れてもらえた。だから、望みは十分だとは思う。思うけど、もし断られたら……
いや、それでも伝えるだけ、伝えよう。ダメで元々、お願いするくらいはいいだろう。見るのが怖くて逸らしていた目線を上げる。
「……俺としては、一緒に寝て欲し」
お願いしようとしていた言葉は、最後まで出てこなかった。
それどころじゃなくなってしまったから。視界に映った彼のご様子に喉が、胸が、きゅっと締めつけられてしまったんだから。
天井を華やかに彩っている、青い水晶で作られたシャンデリア。温かく照らす明かりが、少し見上げた先にある艷やかな白い髪に光の輪を描いている。広い背中ではためく透き通った羽に淡い煌めきをもたらしている。
すっかり俺を膝に乗せるのに戸惑いがなくなった彼、バアルさんはご機嫌そうだ。額から生えている触覚を揺らしながら、キレイだけれど男らしさを備えた手で俺の頭や背中をのんびり撫でてくれている。
やっぱり、俺からってのがいけなかったみたい。お風呂上がりのさっきも、いいのかな? お願いしようかな? って悩んでたら「どうぞ此方へ……」って両腕を広げて微笑んでくれたもんな。ソファーに腰掛けて。
でも、問題はこれからだ。一番の難関が待っているからな。一晩、添い寝してもらえるかっていう難関が。
いつもだったら、そろそろ寝ます? ってお声がけするか、してもらうか。なんなら、自然といい雰囲気になってそのままベッドへ……っていう流れなのだが、今回は違う。
なんせ、今のバアルさんはここ最近の記憶を、俺のことを、忘れてしまっているんだからな。若返った影響で。
……うーん……一時的って分かっているとはいえ、改めて自分の中で言葉にするとクルものがあるな。っていうかちょっぴり寂しい。やっぱり。
ちょっぴりで済んでるのは彼のお陰だ。お揃いの指輪を見ただけで俺のことを……将来の……つ、妻だって分かってくれて、受け入れてくれて。それだけでも嬉しかったのに。ハグにキス、それからお風呂まで、ご一緒してもらえたんだから。
……だったら、添い寝くらい余裕なのでわ? と調子に乗ってしまいそうな俺を、必死に心の奥へと押し戻す。そりゃあ、俺だって添い寝はしてもらえる自信はある。けれども、問題はその後だ。
絶対に我慢しなければ。オッケーをもらえたとしても、決して調子に乗らないようにしなければ。じゃないと、触れてもらいたくなってしまう。
……いつもみたいに俺のこと、愛して欲しいなって……思ってしまう。
流石に、そこまで求めるのは難しいだろう。だって、俺にとっては好きな人が若返っただけでも、彼にとってはたった一日過ごした程度の男に求められるのだから。
また、ちょっぴり寂しくなった気持ちを無視して、息を整える。覚悟を決めて、俺は切り出した。
「その、これから……どう……します?」
優しい手つきがぴたりと止まる。ハリのある白い頬にさらりかかった髪を耳へ流してから、淡い光を帯びた緑の瞳が俺を見つめた。
「……と、申しますと?」
肝心なところでヘタれな俺が出てきてしまった。曖昧な、彼から言わせるような言い方をしてしまった。
流れを、俺のことを、よく分かっている彼ならば、察してくれているだろう。俺を抱き上げ、優しくベッドへとエスコートしてくれるだろう。または、ちょっぴり意地悪に「何か……私にして欲しいことはございますか?」なんて艷やかに微笑みながら言わせようとしてくるだろう。
けれども今の彼は知らない。俺達の今までが通用しないのだから、質問で返ってくるのは当然だ。
甘えている場合じゃない。ハッキリ伝えなければ、一から十まで。
「えっと……バアルさんだったら、今朝の時点で……何となく分かってるとは思うんですけど……おっ、俺達……一緒の、ベッドで寝てるんですよね……バアルさんに、う、腕枕してもらって……だから、どうするのかなっ、て……」
ここにきて、じわりと不安が滲み出てくる。見ようとせずに避けていた万が一。そもそも、添い寝自体を断られちゃうんじゃないか? っていう不安が。
わりとハードル高めのスキンシップだって、最終的には笑顔で受け入れてもらえた。だから、望みは十分だとは思う。思うけど、もし断られたら……
いや、それでも伝えるだけ、伝えよう。ダメで元々、お願いするくらいはいいだろう。見るのが怖くて逸らしていた目線を上げる。
「……俺としては、一緒に寝て欲し」
お願いしようとしていた言葉は、最後まで出てこなかった。
それどころじゃなくなってしまったから。視界に映った彼のご様子に喉が、胸が、きゅっと締めつけられてしまったんだから。
57
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる