339 / 1,047
ささやかだけれど、確かな熱に応えて
しおりを挟む
いや、ダメだ、ダメだ……我慢しないと。さっき、一回しただけでぽやんぽやんになっちゃったんだぞ? それなのに今したら、撫でる余裕なんかなくなっちゃうって。確実に。
そうなったらお決まりのコース。今朝みたいに、バアルさんに甘やかされるだけ甘やかされて終わってしまう。
彼から直々に、撫でて下さいってお願いされたんだから。それに、いつもときめかされてばっかしじゃなくて、俺だってたまにはバアルさんを。
「……して頂けないのでしょうか?」
「ふぇ?」
「てっきり私は、貴方様から愛らしい口づけを賜われるものだと期待しておりましたが……」
艷やかに微笑んでいた形のいい唇が、切なそうに歪む。
「やはりこの老骨めでは、貴方様の御心を擽る可愛らしさが足りないのでしょうか? 若い私は、いとも容易く貴方様から、可愛らしいスキンシップを賜われておりましたのに」
……ホントにズルい。意気込んでからすぐに、こっちの心を鷲掴みにしてくるなんてさ。
「か、かわいいしカッコいいですよ! それに……く、擽られてましたっ! キスしたいなって思いましたからっ!」
寂しそうに細められた瞳が俺をじっと見つめてくる。では何故? と促してくる。白状した方がよさそうだ。全部まるっと。
「だって、俺、夢中になっちゃいますもん……バアルさんからのお願い、叶えたいのに……き、キスしちゃったら、また、いっぱいして欲しいなって……俺ばっかりになっちゃ」
思わず息を呑んでいた。焦がれるような熱を宿した、鮮やかな緑の瞳に捉われて。
あっという間だった。鼻先が、吐息が、触れ合っただけで、砂の城よりも脆い俺の理性は跡形もなく崩れ去っていった。
最初っから、我慢なんて出来る訳がなかったんだ。
「ん……」
吸い寄せられるように押しつけていた。触れ合えた部分から、くすくすと上機嫌な震えが伝わってくる。
ぶわりと広がっていく透き通った羽。広い彼の背を神秘的に飾る煌めきが、俺達を優しく包み込んでいく。大きな窓から差し込む、柔らかいオレンジ色の光から隠すように。
「ん、んっ……ぁ」
何度か交わして離れていった唇が、首の辺りに触れてくる。じゃれついてくれているような、ただひたすらに優しいだけの触れ方がもどかしい。
「っ……バアルさん……バアル……」
もっと、もっと触れて欲しくて、甘やかして欲しくて、強請ってしまっていた。名前を呼んで、シワが寄るくらいにシャツを掴んでいた。
期待に応えてくれた唇が、鎖骨の近くを甘く食んだ。勝手に肩が跳ねてしまう。ついでに上擦った吐息も漏れていた。
ふと額に感じた自分以外の熱。滲んだ視界いっぱいに広がる彫りの深い顔が、優しく微笑みかけてくれた。
「大丈夫ですよ。今はまだ軽いスキンシップ程度に留めますので……」
……いいのに。ちょっと早いけど、いいのに。いつもみたいに俺のこと……愛して欲しいのに。
ずっとひた隠しにしていたけれど、気づかないフリをしていたけれど、心の隅っこから滲み出てきてしまっていた欲求。ささやかだけれど確かな熱を、俺のことをお見通しな彼が気づいてない訳がなかった。
「ただ今晩はお覚悟下さい。私の好きにさせて頂きます……貴方様を抱かせて頂きますので」
「ふぇ?」
艷やかな眼差しに魅入られて、一気に真っ白にされた頭の中。ふわふわ、ぽわぽわしている脳内に、今しがた彼が紡いだ言葉が木霊していく。
好きに……抱かせて…………え?
「だ、だだだ、抱くって……まさか、本番……してくれるんですか?」
俺の身体を思ってくれてのことだって、分かっていたけれど……あんなに渋っていたのに? 我慢してくれていたのに? 一体全体どういう風の吹き回しだろう?
降って湧いたような嬉し過ぎる宣言に、夢でも見ているような気分になってしまう。
つい、お約束のように頬を摘もうと持ち上げた手を、包み込むように両手でぎゅっと握られた。
「ええ、大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。いつも以上に優しく致しますので……どうか私を受け入れて頂けますか?」
「は、はぃ……お願いしまふ……」
何度も頷く俺を見て、整えられた髭が素敵な口元がホッと微笑んだ。
「ありがとうございます。此方こそ宜しくお願い致します」
そこから先は、よく覚えていない。
多分、俺を安心させようとしてくれていたんだろう。無理はさせませんからね、とか。何かあればすぐに中断致しますので、とか。言ってくれていたような気がする。
気がするんだけど、浮かれた熱で頭がオーバーヒートしてしまっていた俺は、彼の腕の中でぽーっとしてしまっていたんだ。窓の外の夕焼けが、穏やかな夕闇に変わっていくまでずっと。
そうなったらお決まりのコース。今朝みたいに、バアルさんに甘やかされるだけ甘やかされて終わってしまう。
彼から直々に、撫でて下さいってお願いされたんだから。それに、いつもときめかされてばっかしじゃなくて、俺だってたまにはバアルさんを。
「……して頂けないのでしょうか?」
「ふぇ?」
「てっきり私は、貴方様から愛らしい口づけを賜われるものだと期待しておりましたが……」
艷やかに微笑んでいた形のいい唇が、切なそうに歪む。
「やはりこの老骨めでは、貴方様の御心を擽る可愛らしさが足りないのでしょうか? 若い私は、いとも容易く貴方様から、可愛らしいスキンシップを賜われておりましたのに」
……ホントにズルい。意気込んでからすぐに、こっちの心を鷲掴みにしてくるなんてさ。
「か、かわいいしカッコいいですよ! それに……く、擽られてましたっ! キスしたいなって思いましたからっ!」
寂しそうに細められた瞳が俺をじっと見つめてくる。では何故? と促してくる。白状した方がよさそうだ。全部まるっと。
「だって、俺、夢中になっちゃいますもん……バアルさんからのお願い、叶えたいのに……き、キスしちゃったら、また、いっぱいして欲しいなって……俺ばっかりになっちゃ」
思わず息を呑んでいた。焦がれるような熱を宿した、鮮やかな緑の瞳に捉われて。
あっという間だった。鼻先が、吐息が、触れ合っただけで、砂の城よりも脆い俺の理性は跡形もなく崩れ去っていった。
最初っから、我慢なんて出来る訳がなかったんだ。
「ん……」
吸い寄せられるように押しつけていた。触れ合えた部分から、くすくすと上機嫌な震えが伝わってくる。
ぶわりと広がっていく透き通った羽。広い彼の背を神秘的に飾る煌めきが、俺達を優しく包み込んでいく。大きな窓から差し込む、柔らかいオレンジ色の光から隠すように。
「ん、んっ……ぁ」
何度か交わして離れていった唇が、首の辺りに触れてくる。じゃれついてくれているような、ただひたすらに優しいだけの触れ方がもどかしい。
「っ……バアルさん……バアル……」
もっと、もっと触れて欲しくて、甘やかして欲しくて、強請ってしまっていた。名前を呼んで、シワが寄るくらいにシャツを掴んでいた。
期待に応えてくれた唇が、鎖骨の近くを甘く食んだ。勝手に肩が跳ねてしまう。ついでに上擦った吐息も漏れていた。
ふと額に感じた自分以外の熱。滲んだ視界いっぱいに広がる彫りの深い顔が、優しく微笑みかけてくれた。
「大丈夫ですよ。今はまだ軽いスキンシップ程度に留めますので……」
……いいのに。ちょっと早いけど、いいのに。いつもみたいに俺のこと……愛して欲しいのに。
ずっとひた隠しにしていたけれど、気づかないフリをしていたけれど、心の隅っこから滲み出てきてしまっていた欲求。ささやかだけれど確かな熱を、俺のことをお見通しな彼が気づいてない訳がなかった。
「ただ今晩はお覚悟下さい。私の好きにさせて頂きます……貴方様を抱かせて頂きますので」
「ふぇ?」
艷やかな眼差しに魅入られて、一気に真っ白にされた頭の中。ふわふわ、ぽわぽわしている脳内に、今しがた彼が紡いだ言葉が木霊していく。
好きに……抱かせて…………え?
「だ、だだだ、抱くって……まさか、本番……してくれるんですか?」
俺の身体を思ってくれてのことだって、分かっていたけれど……あんなに渋っていたのに? 我慢してくれていたのに? 一体全体どういう風の吹き回しだろう?
降って湧いたような嬉し過ぎる宣言に、夢でも見ているような気分になってしまう。
つい、お約束のように頬を摘もうと持ち上げた手を、包み込むように両手でぎゅっと握られた。
「ええ、大変お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。いつも以上に優しく致しますので……どうか私を受け入れて頂けますか?」
「は、はぃ……お願いしまふ……」
何度も頷く俺を見て、整えられた髭が素敵な口元がホッと微笑んだ。
「ありがとうございます。此方こそ宜しくお願い致します」
そこから先は、よく覚えていない。
多分、俺を安心させようとしてくれていたんだろう。無理はさせませんからね、とか。何かあればすぐに中断致しますので、とか。言ってくれていたような気がする。
気がするんだけど、浮かれた熱で頭がオーバーヒートしてしまっていた俺は、彼の腕の中でぽーっとしてしまっていたんだ。窓の外の夕焼けが、穏やかな夕闇に変わっていくまでずっと。
71
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる