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ベストセレクション、フィーチャリング俺
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「え? ちょっ、ヨミ様、これ……」
俺が目を白黒させている間にも映像は流れ、切り替わっていく。いつの間に撮っていたのか、俺が料理を始めるきっかけになったホワイトデー手作りお菓子選手権。バアルさんに内緒でサプライズを決行しようとしたが、速攻でバレたバレンタイン。
それから、お揃いの吸血鬼コスチュームで城内を歩いたハロウィン。兵士さん達との模擬戦で無双するカッコいいバアルさん。
これは……初めてバアルさんと中庭を、お散歩デートした時のものだろうか。自分で言うのもアレだが、何となく俺達の距離感が初々しい気がする。懐かしいな。
「うむっ、題してバアルとアオイ殿の愛の軌跡! ラブラブメモリアルムービーである!!」
……何てもんを作ってくれちゃったんだ、この御方は。いつでも好きな時に色んなバアルさんが見られるなんて……そんなの、永久保存版じゃないか! 俺がアップなシーンは、一先ず置いといて。
腰の辺りまでさらりと流れている黒髪を靡かせ、言い放った御方のご様子は大変得意気だ。ニッと開いた口から鋭く白い牙がこぼれていらっしゃる。
漫画のコマだったら集中線が入ってそうな宣言の直後、お向かいのソファーから小さな手と大きな手によって沸き起こる拍手。ホントに息ぴったりだ。さっきからだけど。実は、お二人も知っていたんじゃないかってくらいに。
「私、渾身の作品である! 今後、思い出の映像を追加していけば、そなたらの結婚披露宴でも使えるであろうっ!! 無論、最終確認はそなたらにバッチリしてもらうがな!」
真っ黒な羽をはためかせ「はっはっは」と高笑い。ホントに、この優しい王様にはお世話になりっぱなしだ。どうやって恩を返したらいいのか、返しきれるのか分からないくらいに。
「……ありがとうございます、ヨミ様……こんな素敵な物を……俺、スゴく嬉しいです」
「うむっ! 喜んでくれて何よりだ!」
嬉しそうに細められた真っ赤な瞳が、俺の隣へと移る。息を呑んで、瞬きもせずに流れる映像を見つめ続けているバアルさんの方へと。
「……どうだ? これで、多少は貴殿の寂しさを埋められそうであろうか?」
……ああ、そうか。だから、バアルさんの為に用意したって仰ったのか。
急遽ってことは、前々から準備していたんだろう。いつも俺達の為にと開催してくれる楽しい催し物と同じで、時が来ればサプライズで見せるつもりだったんだろう。
でも今朝、感じ取ったに違いない。いくら若返ったからといって、いつも冷静沈着なバアルさんが、主であるヨミ様に対して感情を露わにしたことで。
記憶を失い、自分だけが蚊帳の外にいる寂しさ。バアルさんだけが抱いていた辛さに気がついたから。一時的とはいえ、しばらくすれば記憶が戻るとはいえ、どうにかしたいと思ったんだろう。
……やっぱり、敵わないな。
誰かを大切に想う気持ち。その温かさに対して勝ったとか、負けたとか。そう考えてしまうのは、よくないってのは分かっている。でも、やっぱり羨ましくて。好きな人の一番になりたくて。
渦巻いてしまった仄暗い想いは、心にじわじわ広がって……いく前に吹っ飛んだ。見事なまでに、キレイさっぱり。
「はい。お陰をもちまして、改めて確信することが出来ました。私が、どれほどアオイ様に愛して頂けているのかを」
一気に頭の中に、お花が咲き乱れてしまった。喜びに満ちた声から、嬉し過ぎるお言葉を贈られて。うっとりと細められた緑の瞳から、熱心に見つめられて。
「……ふぇ?」
「なんと、既に寂しさは埋まっておったか! 流石、アオイ殿! やはり愛の力は偉大であるな!!」
「ひょわっ!?」
一気に熱を帯びた顔から火が出そうになる。楽しくて仕方がない! と言わんばかりに笑うヨミ様から追い打ちをかけられて。
「ああ、時にヨミ様、映像を戻させて頂いても宜しいでしょうか? ウサ耳フードを被った愛らしいアオイ様を、今一度拝見したいのです」
「うむっ構わん! そなたらに喜んでもらう為に作ったものだからな! 存分に楽しんでくれ! 因みに私のお勧めは、レダ達の前で初めて貴殿への熱い想いを告白するアオイ殿だ! ハンカチ無しでは見られない……胸熱なシーンであるぞ!!」
「え、ちょ……」
「なんとっ……そちらも是非、拝見したく存じます」
「僕は、バレンタインのプレゼントをバアル様に渡す時のアオイ様がすっごく可愛かったと思うので、よろしければ! 是非!」
「待っ」
「大変有益な情報、感謝致します。他にもあれば是非、教えて頂きたく存じます」
「俺は、お姿が猫に変わられてしまっていた時、バアル様のお膝の上で幸せそうに寝転がっていらっしゃったアオイ様を推しますね」
「っ……」
「それはそれは……今から楽しみで仕方がありません」
皆さんが次々と口にするベストセレクション、フィーチャリング俺。ほくほく顔で触覚を弾むように揺らし、透き通った羽をはためかせる、うっきうきなバアルさんが見られるのは嬉しい。嬉しいんだけど、恥ずかしい。
せめて心の安定を図るべく、抱きつかせていただいた逞しい胸元。ふわりと香った優しいハーブの匂いに、つい無意識に頭をぐりぐり押しつけていたせいだ。ますます顔を熱くする結果に、皆さんから温かい眼差しで見つめられてしまったんだ。
でも、いいんだ。上機嫌なバアルさんから、頭を撫でてもらえたんだからさ。
俺が目を白黒させている間にも映像は流れ、切り替わっていく。いつの間に撮っていたのか、俺が料理を始めるきっかけになったホワイトデー手作りお菓子選手権。バアルさんに内緒でサプライズを決行しようとしたが、速攻でバレたバレンタイン。
それから、お揃いの吸血鬼コスチュームで城内を歩いたハロウィン。兵士さん達との模擬戦で無双するカッコいいバアルさん。
これは……初めてバアルさんと中庭を、お散歩デートした時のものだろうか。自分で言うのもアレだが、何となく俺達の距離感が初々しい気がする。懐かしいな。
「うむっ、題してバアルとアオイ殿の愛の軌跡! ラブラブメモリアルムービーである!!」
……何てもんを作ってくれちゃったんだ、この御方は。いつでも好きな時に色んなバアルさんが見られるなんて……そんなの、永久保存版じゃないか! 俺がアップなシーンは、一先ず置いといて。
腰の辺りまでさらりと流れている黒髪を靡かせ、言い放った御方のご様子は大変得意気だ。ニッと開いた口から鋭く白い牙がこぼれていらっしゃる。
漫画のコマだったら集中線が入ってそうな宣言の直後、お向かいのソファーから小さな手と大きな手によって沸き起こる拍手。ホントに息ぴったりだ。さっきからだけど。実は、お二人も知っていたんじゃないかってくらいに。
「私、渾身の作品である! 今後、思い出の映像を追加していけば、そなたらの結婚披露宴でも使えるであろうっ!! 無論、最終確認はそなたらにバッチリしてもらうがな!」
真っ黒な羽をはためかせ「はっはっは」と高笑い。ホントに、この優しい王様にはお世話になりっぱなしだ。どうやって恩を返したらいいのか、返しきれるのか分からないくらいに。
「……ありがとうございます、ヨミ様……こんな素敵な物を……俺、スゴく嬉しいです」
「うむっ! 喜んでくれて何よりだ!」
嬉しそうに細められた真っ赤な瞳が、俺の隣へと移る。息を呑んで、瞬きもせずに流れる映像を見つめ続けているバアルさんの方へと。
「……どうだ? これで、多少は貴殿の寂しさを埋められそうであろうか?」
……ああ、そうか。だから、バアルさんの為に用意したって仰ったのか。
急遽ってことは、前々から準備していたんだろう。いつも俺達の為にと開催してくれる楽しい催し物と同じで、時が来ればサプライズで見せるつもりだったんだろう。
でも今朝、感じ取ったに違いない。いくら若返ったからといって、いつも冷静沈着なバアルさんが、主であるヨミ様に対して感情を露わにしたことで。
記憶を失い、自分だけが蚊帳の外にいる寂しさ。バアルさんだけが抱いていた辛さに気がついたから。一時的とはいえ、しばらくすれば記憶が戻るとはいえ、どうにかしたいと思ったんだろう。
……やっぱり、敵わないな。
誰かを大切に想う気持ち。その温かさに対して勝ったとか、負けたとか。そう考えてしまうのは、よくないってのは分かっている。でも、やっぱり羨ましくて。好きな人の一番になりたくて。
渦巻いてしまった仄暗い想いは、心にじわじわ広がって……いく前に吹っ飛んだ。見事なまでに、キレイさっぱり。
「はい。お陰をもちまして、改めて確信することが出来ました。私が、どれほどアオイ様に愛して頂けているのかを」
一気に頭の中に、お花が咲き乱れてしまった。喜びに満ちた声から、嬉し過ぎるお言葉を贈られて。うっとりと細められた緑の瞳から、熱心に見つめられて。
「……ふぇ?」
「なんと、既に寂しさは埋まっておったか! 流石、アオイ殿! やはり愛の力は偉大であるな!!」
「ひょわっ!?」
一気に熱を帯びた顔から火が出そうになる。楽しくて仕方がない! と言わんばかりに笑うヨミ様から追い打ちをかけられて。
「ああ、時にヨミ様、映像を戻させて頂いても宜しいでしょうか? ウサ耳フードを被った愛らしいアオイ様を、今一度拝見したいのです」
「うむっ構わん! そなたらに喜んでもらう為に作ったものだからな! 存分に楽しんでくれ! 因みに私のお勧めは、レダ達の前で初めて貴殿への熱い想いを告白するアオイ殿だ! ハンカチ無しでは見られない……胸熱なシーンであるぞ!!」
「え、ちょ……」
「なんとっ……そちらも是非、拝見したく存じます」
「僕は、バレンタインのプレゼントをバアル様に渡す時のアオイ様がすっごく可愛かったと思うので、よろしければ! 是非!」
「待っ」
「大変有益な情報、感謝致します。他にもあれば是非、教えて頂きたく存じます」
「俺は、お姿が猫に変わられてしまっていた時、バアル様のお膝の上で幸せそうに寝転がっていらっしゃったアオイ様を推しますね」
「っ……」
「それはそれは……今から楽しみで仕方がありません」
皆さんが次々と口にするベストセレクション、フィーチャリング俺。ほくほく顔で触覚を弾むように揺らし、透き通った羽をはためかせる、うっきうきなバアルさんが見られるのは嬉しい。嬉しいんだけど、恥ずかしい。
せめて心の安定を図るべく、抱きつかせていただいた逞しい胸元。ふわりと香った優しいハーブの匂いに、つい無意識に頭をぐりぐり押しつけていたせいだ。ますます顔を熱くする結果に、皆さんから温かい眼差しで見つめられてしまったんだ。
でも、いいんだ。上機嫌なバアルさんから、頭を撫でてもらえたんだからさ。
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