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貴方様と過ごせるひと時が、貴方様の笑顔が、私にとって何よりの活力となりますので
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俺の不安はまた一つ解消された。
年を感じさせない、彼の鍛え上げられた身体。すべすべの白い肌には、どこにも怪我が見当たらなかったんだ。擦り傷すら一つもなかった。
間違いない。有言実行、浴室で指の先から足の先。広い背中にカッコよく割れたお腹周りも、くまなく確認させてもらったんだからな。
……ホントに何もなかったみたいだ。
食欲も、問題なかったし。むしろ、いつもよりモリモリだったもんな。残っちゃうだろうなってくらい、山盛り用意したハンバーグに付け合わせ達。デザートのパウンドケーキもペロッと平らげてくれた。
ただ、魔力の状態というか……減り具合? ってのは、俺の目じゃあ確認出来ないから……そこだけは、まだ気にかかってはいるのだけれど。
「…………様」
意識の外で、聞き慣れた声がしたような気がする。
「………イ?」
片隅に残る不安を原動力に、ぐるぐると渦を巻く思考。止むことのない深みにすっかりハマってしまっていると、不意に柔らかい感触が口に触れた。
「んむ?」
はたと気づいた視界には、鼻筋の通ったカッコいいお顔のどアップ。鮮やかな緑の瞳とかち合った途端、寂しそうに下がっていた口元が、悪戯っぽくクスリと上がる。
……キス、されてる? バアルさんに……
俺の意識が向いたんだと分かるやいなや、大きな手が後頭部を固定し、長く筋肉質な腕がするりと腰に回される。くっついていただけの唇から、優しく甘やかすようなキスを送られる。
「っ……んぅ、ん、ふ……」
驚きはすぐさま喜びへと変わり。ぼんやりとしていた頭が、今度はふわふわと蕩けていく。彼との触れ合いに夢中になってしまう。
ただ、シャツを握り締めていただけの手を広い背中に回すと、頭をよしよし褒めてもらえた。
彼に比べたらまだまだ拙いけれど、あふれる胸の内を少しでも伝えたくて俺からも交わす。
短いような、長いような心地のいいひと時は、また不意に終わってしまった。名残惜しそうに軽く上唇を食んでくれたのを最後に、柔らかい微笑みが俺から離れていってしまう。
「ぁ……バアルさ……」
「……失礼致しました。何度かお呼びかけしたのですが……お考えごとをされていらっしゃるようでしたので、つい……」
「ご、ごめんなさい……俺」
言い終わる前に遮られた。俺の口をちょんっとつついた細く長い指先が、輪郭をなぞるみたいにゆるゆると頬を撫でる。手の甲に重ねられた温かい手のひら。ひと回り大きな彼の手が、包み込むようにそっと握ってくれた。
「……構っては、頂けませんか?」
「……へ?」
「私の身を案じてくれている貴方様のお気持ちは、大変嬉しく存じます。ですが……今はどうか目の前の私だけを、そのお美しい瞳に映しては頂けないでしょうか?」
真っ直ぐに俺を見つめる緑の輝き。強い光を帯びているのに……僅かに揺れる煌めきが、どこか儚く見えてしまう。
思わず力を込めていたらしい。嬉しそうに口元を綻ばせ、優しく握り返してくれた。
「貴方様と過ごせるひと時が、貴方様の笑顔が、私にとって何よりの活力となりますので……」
言葉より先に身体が動いていた。手を伸ばし、彼の頭を撫でてしまっていた。しかも、思いっきりわしゃわしゃと。丸く見開いた瞳にようやく我に返る始末だ。
「あ、すみません……うわっ」
ぶわりと揺れ、止まった視界いっぱいに白い肌が。襟元から覗く、キレイな鎖骨のラインで埋め尽くされている。飛び込むみたいに倒れ込んだ俺達のせいで、ベッドが悲痛な悲鳴を上げた。
頬に大きな手が添えられたかと思えば、上を向かされた。その先で、蕩けるような笑顔に迎えられる。
「……このまま、先程の続きをして頂けないでしょうか?」
……バアルさんに触れてもらえると嬉しい。好きだ。
でも、同じくらい触れさせてもらうのも好きだ。当たり前だ。彼のことが、好きで好きで仕方がないんだから。
「ひゃい……喜んで……」
おずおずと俺が撫でれば、彼もよしよしと撫でてくれる。少し擽ったいけれど、嬉しくて、幸せで。
そんな温かいひと時を過ごしている内に、いつの間にか俺の瞼は重くなっていった。
年を感じさせない、彼の鍛え上げられた身体。すべすべの白い肌には、どこにも怪我が見当たらなかったんだ。擦り傷すら一つもなかった。
間違いない。有言実行、浴室で指の先から足の先。広い背中にカッコよく割れたお腹周りも、くまなく確認させてもらったんだからな。
……ホントに何もなかったみたいだ。
食欲も、問題なかったし。むしろ、いつもよりモリモリだったもんな。残っちゃうだろうなってくらい、山盛り用意したハンバーグに付け合わせ達。デザートのパウンドケーキもペロッと平らげてくれた。
ただ、魔力の状態というか……減り具合? ってのは、俺の目じゃあ確認出来ないから……そこだけは、まだ気にかかってはいるのだけれど。
「…………様」
意識の外で、聞き慣れた声がしたような気がする。
「………イ?」
片隅に残る不安を原動力に、ぐるぐると渦を巻く思考。止むことのない深みにすっかりハマってしまっていると、不意に柔らかい感触が口に触れた。
「んむ?」
はたと気づいた視界には、鼻筋の通ったカッコいいお顔のどアップ。鮮やかな緑の瞳とかち合った途端、寂しそうに下がっていた口元が、悪戯っぽくクスリと上がる。
……キス、されてる? バアルさんに……
俺の意識が向いたんだと分かるやいなや、大きな手が後頭部を固定し、長く筋肉質な腕がするりと腰に回される。くっついていただけの唇から、優しく甘やかすようなキスを送られる。
「っ……んぅ、ん、ふ……」
驚きはすぐさま喜びへと変わり。ぼんやりとしていた頭が、今度はふわふわと蕩けていく。彼との触れ合いに夢中になってしまう。
ただ、シャツを握り締めていただけの手を広い背中に回すと、頭をよしよし褒めてもらえた。
彼に比べたらまだまだ拙いけれど、あふれる胸の内を少しでも伝えたくて俺からも交わす。
短いような、長いような心地のいいひと時は、また不意に終わってしまった。名残惜しそうに軽く上唇を食んでくれたのを最後に、柔らかい微笑みが俺から離れていってしまう。
「ぁ……バアルさ……」
「……失礼致しました。何度かお呼びかけしたのですが……お考えごとをされていらっしゃるようでしたので、つい……」
「ご、ごめんなさい……俺」
言い終わる前に遮られた。俺の口をちょんっとつついた細く長い指先が、輪郭をなぞるみたいにゆるゆると頬を撫でる。手の甲に重ねられた温かい手のひら。ひと回り大きな彼の手が、包み込むようにそっと握ってくれた。
「……構っては、頂けませんか?」
「……へ?」
「私の身を案じてくれている貴方様のお気持ちは、大変嬉しく存じます。ですが……今はどうか目の前の私だけを、そのお美しい瞳に映しては頂けないでしょうか?」
真っ直ぐに俺を見つめる緑の輝き。強い光を帯びているのに……僅かに揺れる煌めきが、どこか儚く見えてしまう。
思わず力を込めていたらしい。嬉しそうに口元を綻ばせ、優しく握り返してくれた。
「貴方様と過ごせるひと時が、貴方様の笑顔が、私にとって何よりの活力となりますので……」
言葉より先に身体が動いていた。手を伸ばし、彼の頭を撫でてしまっていた。しかも、思いっきりわしゃわしゃと。丸く見開いた瞳にようやく我に返る始末だ。
「あ、すみません……うわっ」
ぶわりと揺れ、止まった視界いっぱいに白い肌が。襟元から覗く、キレイな鎖骨のラインで埋め尽くされている。飛び込むみたいに倒れ込んだ俺達のせいで、ベッドが悲痛な悲鳴を上げた。
頬に大きな手が添えられたかと思えば、上を向かされた。その先で、蕩けるような笑顔に迎えられる。
「……このまま、先程の続きをして頂けないでしょうか?」
……バアルさんに触れてもらえると嬉しい。好きだ。
でも、同じくらい触れさせてもらうのも好きだ。当たり前だ。彼のことが、好きで好きで仕方がないんだから。
「ひゃい……喜んで……」
おずおずと俺が撫でれば、彼もよしよしと撫でてくれる。少し擽ったいけれど、嬉しくて、幸せで。
そんな温かいひと時を過ごしている内に、いつの間にか俺の瞼は重くなっていった。
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