284 / 906
広がっていく、賑やかなざわめき
しおりを挟む
銀のフォークに掬われた、ぷるりと揺れる黄色。蕩けたチーズをたっぷり纏ったスクランブルエッグが、笑顔の形で開いた口にぱくんっと含まれた。
白い頬がもくもく動くにつれ、真っ赤な瞳がゆるりと細められていく。高鳴り続けている心音が、ますます駆け足になった時、ヨミ様のご尊顔がスッと俺を見上げた。長く艷やかな黒髪が、白い頬にさらりとかかる。
「アオイ殿、そなた……もしや、料理の天才なのでは?」
「ふぇっ? あ、ありがとうごじゃいまふ……」
てっきり、いつものように「美味しいぞ!」と言ってもらえるかと……もらえたら嬉しいなと、期待してはいた。
それが、まさかの斜め上過ぎる大絶賛だ。間抜けな声を上げるどころか、噛んでしまっていた。全身の熱が、顔へと一気に集中してしまう。
「卵の絶妙なふわとろ加減に、溶けたチーズのコク……美味し過ぎるぞ!!」
「ですよね! アオイ様のお料理、すっごく美味しいですもん!」
突如、聞こえた賛同の声。弾んだ明るい声は、すぐ隣のテーブルからだった。釣られて向いた先で、輝く薄紫色の瞳とかち合う。
テーブルから身を乗り出し、自分のことみたいに喜んでくれているグリムさん。目が合った途端、小さな手を俺に向って振ってくれた。思わず振り返していると、彼の隣に座るクロウさんが、どこか得意げに口の端を持ち上げる。
「いやぁ、見る見るうちに上達していくんで、教え甲斐がありましたよ」
「い、いえ……それは、クロウさんの教え方が上手かったからで……」
ますます顔が熱くなってしまう、お二人からの温かい言葉。これを切っ掛けに、嬉しいけれども擽ったい、賑やかなざわめきが始まるとは。
「私も、あまりの飲み込みの速さに感服致しました。流石はバアル様の奥方様ですな」
「味見役で呼んでもらえたというのに、ついついフォークが止まらんかったからのう……」
「さ、最初っから最後まで美味しかったです! 焦げたのは焦げたので香ばしくて……と、とにかく美味しかったです!!」
「役得でしたね。腹いっぱい旨いもん食べられたんで」
「あぅ……」
レダさんにサタン様。親衛隊のシアンさん、サロメさんが口々に。受け止め切れずに倒れてしまいそうだ。次から次へと上がる有り難いお言葉の数々に、頭がくらくらしてしまう。
思わずテーブルに突っ伏しかけた俺に、おずおずとした声が呼びかけてくる。
「アオイ殿……もう、空になってしまったのだが……」
向かいから差し出されたお皿は、もう真っ白だった。ヨミ様の好物だからと別のお皿に分けたスクランブルエッグ。結構、盛っちゃったつもりだったんだけどな。
……ハンバーグと人参のグラッセも、ぺろりとなくなっている。それだけ、お口に合ったんだろうか……嬉しいな。
「は、はいっ! 今すぐ、お代わり、持ってきますね。スクランブルエッグ、大盛りにします?」
「うむっ! もりもりでな! 後、ハンバーグを二つ頼む。ソースたっぷりで!」
真っ黒な羽がぱたぱたはためき、しなやかな指がピースサインを作る。喜びに満ちたオーダーに、頬が自然と緩んでしまう。
ゆるゆるな顔でお皿を受け取っていた俺に、新たなオーダーが舞い込んでくる。
「あ、私もお代わりよろしいでしょうか? グラッセを多めにお願い致します」
すらりと伸びた腕をピシッと上げてから、レタリーさんが会釈する。
彼の前のお皿もキレイに空になっていた。左のおでこが出るように編み込まれた短い髪。華やかな黄緑と同じ色の尾羽が、ゆらゆら揺れている。
「はいっ、勿論。ちょっと待ってて下さいね」
レタリーさんは人参のグラッセを気に入ってもらえたらしい。そういえば、つい最近焼き菓子を渡した時「やはり甘いものは素晴らしいですね」って言ってたっけ。甘党なのかもしれない。
厨房へ向かう途中で後ろから、肩をぽんっと叩かれる。振り向けば「手伝いますよ」とクロウさん。続けて「僕もお手伝いします!」とグリムさんが微笑む。
有り難い。俺一人じゃ、盛り盛りなお皿を三つ一気にってのは厳しいからなぁ。往復必須だっただろう。お陰で、てきぱき済んで、うきうきで戻ってきたんだが。
「えっと……どうか、しましたか?」
俺達を迎えたのは静まり返った室内と、神妙な面持ちで姿勢を正しているヨミ様だった。
白い頬がもくもく動くにつれ、真っ赤な瞳がゆるりと細められていく。高鳴り続けている心音が、ますます駆け足になった時、ヨミ様のご尊顔がスッと俺を見上げた。長く艷やかな黒髪が、白い頬にさらりとかかる。
「アオイ殿、そなた……もしや、料理の天才なのでは?」
「ふぇっ? あ、ありがとうごじゃいまふ……」
てっきり、いつものように「美味しいぞ!」と言ってもらえるかと……もらえたら嬉しいなと、期待してはいた。
それが、まさかの斜め上過ぎる大絶賛だ。間抜けな声を上げるどころか、噛んでしまっていた。全身の熱が、顔へと一気に集中してしまう。
「卵の絶妙なふわとろ加減に、溶けたチーズのコク……美味し過ぎるぞ!!」
「ですよね! アオイ様のお料理、すっごく美味しいですもん!」
突如、聞こえた賛同の声。弾んだ明るい声は、すぐ隣のテーブルからだった。釣られて向いた先で、輝く薄紫色の瞳とかち合う。
テーブルから身を乗り出し、自分のことみたいに喜んでくれているグリムさん。目が合った途端、小さな手を俺に向って振ってくれた。思わず振り返していると、彼の隣に座るクロウさんが、どこか得意げに口の端を持ち上げる。
「いやぁ、見る見るうちに上達していくんで、教え甲斐がありましたよ」
「い、いえ……それは、クロウさんの教え方が上手かったからで……」
ますます顔が熱くなってしまう、お二人からの温かい言葉。これを切っ掛けに、嬉しいけれども擽ったい、賑やかなざわめきが始まるとは。
「私も、あまりの飲み込みの速さに感服致しました。流石はバアル様の奥方様ですな」
「味見役で呼んでもらえたというのに、ついついフォークが止まらんかったからのう……」
「さ、最初っから最後まで美味しかったです! 焦げたのは焦げたので香ばしくて……と、とにかく美味しかったです!!」
「役得でしたね。腹いっぱい旨いもん食べられたんで」
「あぅ……」
レダさんにサタン様。親衛隊のシアンさん、サロメさんが口々に。受け止め切れずに倒れてしまいそうだ。次から次へと上がる有り難いお言葉の数々に、頭がくらくらしてしまう。
思わずテーブルに突っ伏しかけた俺に、おずおずとした声が呼びかけてくる。
「アオイ殿……もう、空になってしまったのだが……」
向かいから差し出されたお皿は、もう真っ白だった。ヨミ様の好物だからと別のお皿に分けたスクランブルエッグ。結構、盛っちゃったつもりだったんだけどな。
……ハンバーグと人参のグラッセも、ぺろりとなくなっている。それだけ、お口に合ったんだろうか……嬉しいな。
「は、はいっ! 今すぐ、お代わり、持ってきますね。スクランブルエッグ、大盛りにします?」
「うむっ! もりもりでな! 後、ハンバーグを二つ頼む。ソースたっぷりで!」
真っ黒な羽がぱたぱたはためき、しなやかな指がピースサインを作る。喜びに満ちたオーダーに、頬が自然と緩んでしまう。
ゆるゆるな顔でお皿を受け取っていた俺に、新たなオーダーが舞い込んでくる。
「あ、私もお代わりよろしいでしょうか? グラッセを多めにお願い致します」
すらりと伸びた腕をピシッと上げてから、レタリーさんが会釈する。
彼の前のお皿もキレイに空になっていた。左のおでこが出るように編み込まれた短い髪。華やかな黄緑と同じ色の尾羽が、ゆらゆら揺れている。
「はいっ、勿論。ちょっと待ってて下さいね」
レタリーさんは人参のグラッセを気に入ってもらえたらしい。そういえば、つい最近焼き菓子を渡した時「やはり甘いものは素晴らしいですね」って言ってたっけ。甘党なのかもしれない。
厨房へ向かう途中で後ろから、肩をぽんっと叩かれる。振り向けば「手伝いますよ」とクロウさん。続けて「僕もお手伝いします!」とグリムさんが微笑む。
有り難い。俺一人じゃ、盛り盛りなお皿を三つ一気にってのは厳しいからなぁ。往復必須だっただろう。お陰で、てきぱき済んで、うきうきで戻ってきたんだが。
「えっと……どうか、しましたか?」
俺達を迎えたのは静まり返った室内と、神妙な面持ちで姿勢を正しているヨミ様だった。
55
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる