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真っ暗に落ちていく

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 眼下に映っていた、賑やかな街並み。愛おしくて仕方がない景色が、羽ばたき一つで瞬く間に過ぎ去っていく。ただひたすらに続くのは、ひび割れた大地。点々と噴き出す炎や池で赤く化粧を施した、生命なき大地が続くばかり。

 もう随分と前から周囲の色も青から濁った黒へと変わっている。それに伴い、魔力がじわりと抜けていくのが分かる。汗を流すことで体内から水分が失われていくようにじわり、じわりと。とはいえ、まだほんの毛先ほどの、些細な量ではあるが。

 分厚い雲を突き破り、向かってくる空気の壁を突き抜けて。もっと、もっと、と速く飛ぶ。

 ……確かにヨミ様が仰っていた通り、穢れは減っているようだ。以前、儀式に赴いた時に比べれば、見違える程に。そのお陰だろう。いつもより早く目的の地へと、穢れが渦巻く大穴へと辿り着いた。

「これは……」

 やはり、大元は変わっていなかった。いや、寧ろ酷くなっているやもしれない。

 城を、いや我が国全てを容易く飲み込んでしまう大きさの深淵。その遥か底にある祭壇で、絶えず燃え続けている浄化の炎。

 以前は一等星のような輝きを見せくれていたのだが。目を凝らしてようやく、針を通す穴程度の灯りを確認出来るだけ。穴の中へと吸い込まれていっている霧よりも濃い穢れによって、その尊き希望が覆い隠されようとしている。

「何故……斯様な事態に……」

 道中で漂う穢れは減っていた。それは間違いない。であれば、此方も多少なりとも減るか、減らないとしても維持くらいは出来ている筈だろうに……

 深く思考を試みて不意に過ぎる。懸命に涙を堪えていた琥珀色の瞳が、心で泣きながら笑ってくれていた愛しい笑顔が。

「……今、此方で考えることではありませんでしたね」

 そう、私が今果たすべきことは二つ。儀式を完遂すること。そして、一秒でも早く愛する御方の元へと帰り、約束を果たすこと。

 交わした小指をそっと見る。途端に鮮やかに思い起こされたはにかむ笑顔に、自然と口元が綻んでいた。まさか、斯様に穏やかな気持ちで使命に臨む日が来ようとは。

「では、ちゃっちゃと済ませましょう」

 羽ばたきを最小限にして落ちていく。真っ黒な口を開けた大穴へ、渦巻く穢れの底へ潜るように。
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