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貴方に出会えた心からの喜び

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 今になってグリムさんの気持ちがよく分かった。確かに緊張してしまうな。自分が作ったものを食べてもらう時と、負けず劣らず。

「いただきます」

 三人の声が重なり、続けてパキンっと軽やかな音が鳴る。赤と黄色、そして紫。それぞれが手にした飴細工の花びらが、皆さんの口に含まれていく。

「うむっ甘くて美味しいな!」

「はいっ! ぶどうの味が濃くて美味しいですっ! ジュースみたい」

「噛み心地もいいですね、カリっとしてて」

「お口に合ったようで、何よりです」

 うんうんと綻ぶ皆さんの表情に自然と息が漏れ、肩の力が抜けていく。思った以上に気張っていたらしい。バアルさんも安心したのかな。穏やかな表情が、さっきよりももっと柔らかくなっていた。

 ふと、思い出したと言わんばかりに「あっ!」と声を上げたグリムさんが、ソファーに預けていた小さな身体をひょいっと乗り出す。

「そう言えば、アオイ様へのお返しはバラの形をしてましたよね? やっぱり、何か意味があるんですか?」

「こら、グリム」

 その笑顔は、まさに興味津々といった感じだ。俺自身も、皆さん用の星型の花を見て……あれ? 違うな、と思っていた。それから……もしかして、と密かに期待してもいた。

 ドキドキと高鳴っていく胸の音。ほんのりと頬に集まってくる熱を煽るような言葉が、通りのいい声で紡がれていく。

「私が知る限りでは、特別な相手に贈る花として有名らしいな。何でも……『愛』を象徴する花、なのであろう?」

 わざとらしく強調して言葉を切り、それはそれは楽しそうにヨミ様は口角を持ち上げた。思わず身体ごと横を向けば、艶のある笑みに迎えられた。

「ええ、勿論。ちゃんと知っておりましたし、意味も込めておりますよ」

「ひぇ……」

 手品のように彼のお膝の上へと現れた透明な箱。ハートの形をしたケースには、赤、緑、オレンジ、黄色、紫、五色のバラが収まっている。

「因みに今回は、本数を意識してみました」

「本数……ですか?」

「はい。色は勿論ですが、贈る数でも意味が異なるということでしたので」

「そう、なんですね……」

「ええ、私と致しましては、99や100を目指したかったのですが……」

 バアルさんは残念そうに眉を下げ、微笑んだ。

 こういうことに疎すぎる俺には全くもってピンとこない。けれども彼が俺の為に用意したいと思ってくれたんだ。きっと素敵な意味があるに違いない。

「ですので、私が最も貴方様にお伝えしたい言葉を選びました」

 一心に見つめてくれる眼差しにこもった熱と、繋がれた手から伝わる温もりに。激しさを増していく鼓動が、全身にまで響いてくる。

 長いようで短かった沈黙の後。

「貴方に出会えた心からの喜び……それが、5本のバラに込められた意味でございます」

 噛み締めるように紡がれた言の葉に、気がつけば全身で応えていた。

「っ……バアルさ、俺も……俺も……」

 嬉しい。好きです。

 言葉にしたいのに、言葉にならない。込み上げて、ボロボロとこぼれる雫が邪魔をする。俺の視界を滲ませ、声を詰まらせてくる。

 しがみつく俺を抱き締め、撫でてくれる彼は何も言わなかった。

 ただ、頭を、背中をゆったり撫でてくれるその手つきが、分かってますよ……と言ってくれているみたいに優しくて、ますます止まらなくなってしまったんだ。
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