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大好きな貴方が望んでくれるのならば
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焼き菓子作りを手伝ってもらっているバアルさんは当然にしても、意外や意外。ヨミ様もクロウさんも慣れた手つきでさくさくと粉をふるい、メレンゲを泡立てている。
全部の工程が頭に入ってるのか、身体に染みついてるのか、一切迷いがない。いつもレシピと材料を見比べては、これで合ってるよな? と定期的に悩み、立ち止まってしまう俺とは大違いだ。
「……バアルに教えてもらってな。昔はよく、父上にクッキーやパウンドケーキを作っていたんだ。勿論、バアルにもな」
バッチリ顔に出してしまっていたんだろう。どうだ? 驚いただろう? と真っ黒な羽をはためかせ、口の端を持ち上げる。まさに、してやったりといった感じで。
「はい、びっくりしました。クロウさんもお料理、お得意なんですね」
自分に振られるとは思わなかったのか、鷹のように鋭く釣り上がった金の瞳が見開き、瞬いた。困ったように微笑み、うろうろと瞳を彷徨わせる彼の白い頬が見る見るうちに染まっていく。あっという間に耳まで真っ赤だ。
「あー……いや、まぁ……それなりに、ですよ。グリムの要望に応えているうちに、形になっただけで……」
「それなりじゃないですよ!」
口が達者な彼にしては珍しく、何度も躓きかけていたところをグリムさんが遮る。
「クロウが作ってくれるご飯、全部とっても美味しいんです! デザートも!! この前のパフェも、ほっぺたが落っこちそうなくらいでしたもんっ」
小さな拳をぎゅっと握り、肩を並べる俺に向かって熱弁するその表情は、スゴく眩しい。よっぽど好きなんだろうな……クロウさんのことが。
胸の辺りがほっこりしている間も薄紫の瞳を輝かせ、続々とクロウさんの歴代メニューを教えてくれる。
「オムライスは卵がとろとろですし……ハンバーグには、いつもデミグラスソースをたっぷりかけてくれるでしょ……あと、グラタン!! マカロニがもちもちで最高なんです! それから、ナポリタンも……」
明るく弾んだ声に、ほわほわした笑顔。それだけでも十分美味しさが伝わってくるのに、グリムさんの臨場感抜群な感想つきだ。聞いてるだけでお腹が空いてきてしまう。
「ちょっ、グリム、止めなさいって……」
そうは言ってるけど、満更でもないんだろうな。今はへの字に歪んじゃっているけど見てしまったんだ。嬉しさを堪えるように、ふにゃりと緩んだ口元を。
ますます染まったその顔は、熟れたトマトみたいだ。泡だて器を猛スピードで回しながら、銀のボウルをカチカチ鳴らしている。
「スゴいですね。お菓子以外も作れるなんて、憧れます」
とにもかくにも混ぜて、焼く! が常な俺からしてみれば、切ったり、炒めたり、煮たりってだけでハードルの高さを感じてしまう。ましてや、今聞いただけでも十分過ぎるレパートリーの豊富さだもんな。
「ありがとうございます……でも、アオイ様もすぐに作れるようになると思いますよ。いつも、とびきり美味しい焼き菓子を作られてるんですから」
「僕もそう思います! アオイ様のお菓子、とっても美味しいですもん!」
「そ、そうですかね? 俺、簡単なのしか出来ないですけど……」
「ならば、調理工程の少ないものから挑戦してみてはどうだ?」
早速、今度スヴェンに手頃なレシピをいくつかピックアップしてもらおう、とヨミ様が白い牙を見せる。なんだか、あれよあれよという間に俺が料理をする流れになっているんだが。
甘い香りを漂わせ、静かに鍋を煮詰めていたバアルさんが、ぽつりと呟く。
「……アオイ様の手料理、でございますか。大変楽しみですね」
好きな人からの言葉は偉大だ。
頭の中は、もう気の早過ぎる光景で……俺が振る舞う、テーブルを埋め尽くすほどの品々を目にして、嬉しそうに微笑むバアルさんの姿でいっぱいになってしまったんだからな。
まぁ、確かに……今のうちから練習しておくのはいいことかもな。いずれは、その……バアルさんのお嫁さんになるんだからさ。やっぱり、少しくらいご飯、作れた方がいいよな? お嫁さんとして。
「……ヨミ様、レシピの件、ぜひともよろしくお願いします」
「うむっ! バアルが好きな肉料理を中心に、まとめてもらうとしよう!」
いつも頼りになる王様から続けて「因みに、私はスクランブルエッグが好きだ! チーズたっぷりのな!」とお礼の品をリクエストされた。応えられるように、そっちの練習も頑張らないとな。
全部の工程が頭に入ってるのか、身体に染みついてるのか、一切迷いがない。いつもレシピと材料を見比べては、これで合ってるよな? と定期的に悩み、立ち止まってしまう俺とは大違いだ。
「……バアルに教えてもらってな。昔はよく、父上にクッキーやパウンドケーキを作っていたんだ。勿論、バアルにもな」
バッチリ顔に出してしまっていたんだろう。どうだ? 驚いただろう? と真っ黒な羽をはためかせ、口の端を持ち上げる。まさに、してやったりといった感じで。
「はい、びっくりしました。クロウさんもお料理、お得意なんですね」
自分に振られるとは思わなかったのか、鷹のように鋭く釣り上がった金の瞳が見開き、瞬いた。困ったように微笑み、うろうろと瞳を彷徨わせる彼の白い頬が見る見るうちに染まっていく。あっという間に耳まで真っ赤だ。
「あー……いや、まぁ……それなりに、ですよ。グリムの要望に応えているうちに、形になっただけで……」
「それなりじゃないですよ!」
口が達者な彼にしては珍しく、何度も躓きかけていたところをグリムさんが遮る。
「クロウが作ってくれるご飯、全部とっても美味しいんです! デザートも!! この前のパフェも、ほっぺたが落っこちそうなくらいでしたもんっ」
小さな拳をぎゅっと握り、肩を並べる俺に向かって熱弁するその表情は、スゴく眩しい。よっぽど好きなんだろうな……クロウさんのことが。
胸の辺りがほっこりしている間も薄紫の瞳を輝かせ、続々とクロウさんの歴代メニューを教えてくれる。
「オムライスは卵がとろとろですし……ハンバーグには、いつもデミグラスソースをたっぷりかけてくれるでしょ……あと、グラタン!! マカロニがもちもちで最高なんです! それから、ナポリタンも……」
明るく弾んだ声に、ほわほわした笑顔。それだけでも十分美味しさが伝わってくるのに、グリムさんの臨場感抜群な感想つきだ。聞いてるだけでお腹が空いてきてしまう。
「ちょっ、グリム、止めなさいって……」
そうは言ってるけど、満更でもないんだろうな。今はへの字に歪んじゃっているけど見てしまったんだ。嬉しさを堪えるように、ふにゃりと緩んだ口元を。
ますます染まったその顔は、熟れたトマトみたいだ。泡だて器を猛スピードで回しながら、銀のボウルをカチカチ鳴らしている。
「スゴいですね。お菓子以外も作れるなんて、憧れます」
とにもかくにも混ぜて、焼く! が常な俺からしてみれば、切ったり、炒めたり、煮たりってだけでハードルの高さを感じてしまう。ましてや、今聞いただけでも十分過ぎるレパートリーの豊富さだもんな。
「ありがとうございます……でも、アオイ様もすぐに作れるようになると思いますよ。いつも、とびきり美味しい焼き菓子を作られてるんですから」
「僕もそう思います! アオイ様のお菓子、とっても美味しいですもん!」
「そ、そうですかね? 俺、簡単なのしか出来ないですけど……」
「ならば、調理工程の少ないものから挑戦してみてはどうだ?」
早速、今度スヴェンに手頃なレシピをいくつかピックアップしてもらおう、とヨミ様が白い牙を見せる。なんだか、あれよあれよという間に俺が料理をする流れになっているんだが。
甘い香りを漂わせ、静かに鍋を煮詰めていたバアルさんが、ぽつりと呟く。
「……アオイ様の手料理、でございますか。大変楽しみですね」
好きな人からの言葉は偉大だ。
頭の中は、もう気の早過ぎる光景で……俺が振る舞う、テーブルを埋め尽くすほどの品々を目にして、嬉しそうに微笑むバアルさんの姿でいっぱいになってしまったんだからな。
まぁ、確かに……今のうちから練習しておくのはいいことかもな。いずれは、その……バアルさんのお嫁さんになるんだからさ。やっぱり、少しくらいご飯、作れた方がいいよな? お嫁さんとして。
「……ヨミ様、レシピの件、ぜひともよろしくお願いします」
「うむっ! バアルが好きな肉料理を中心に、まとめてもらうとしよう!」
いつも頼りになる王様から続けて「因みに、私はスクランブルエッグが好きだ! チーズたっぷりのな!」とお礼の品をリクエストされた。応えられるように、そっちの練習も頑張らないとな。
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