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ではッ、これより第一回! ホワイトデー手作りお菓子選手権を開催する!!

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 銀色の光沢を帯びた、大人三人が動き回っても問題無い広々としたキッチン、背の高いオーブンに業務用並みに大きい冷蔵庫。そして、その調理場という名のステージを、満遍なく見渡せるように設置された座り心地抜群のソファー。

 バアルさんの術によって瞬く間に構造がまるっと変わった室内に、通りのいい声が高らかに、歌い上げるように響き渡る。

「ではッ、これより第一回! ホワイトデー手作りお菓子選手権を開催する!!」

 早くもツッコミどころ満載だ。まだ開催宣言をなされただけなのに。

 いつもだったらぶわりと靡く、長く艷やかな黒髪は頭の後ろに結い上げられている。金糸の装飾が施された、華やかだけれどシックな黒の西洋ファンタジー風貴族服から、真っ白なシャツに黒いベスト、赤い蝶ネクタイが映えるバーテンダーっぽい衣装へと装いを新たにしたヨミ様。

 彼がしなやかな腕を、シャンデリアの明かりに向かって突き上げたのに続いて拍手が起こる。彼の両サイドで控える、お揃いの衣装に色違いの緑のネクタイを着けて微笑むバアルさん。同じく黄色のネクタイを着け、どこか気恥ずかしそうに男らしい眉を下げるクロウさん。

 それから俺の隣、観客席で満面の笑みを浮かべ、小さな手でパチパチ鳴らしながら、か細い足をぷらんと揺らしているグリムさん。皆さんよりもワンテンポ遅れて拍手の波に乗った俺を、真っ赤な瞳が捉えた。

「うむ、ありがとう皆の者。さてアオイ殿、何やら説明が必要だと見えるな! 遠慮することはないぞ! 詳らかに申すがいい!」

 さあ、さあ! と促すご尊顔には、無邪気な眩しい笑顔が浮かんでいらっしゃる。聞いて欲しくて堪らない! といった感じだ。あからさまに。

「あ、ありがとうございます。じゃあ、早速ですけど……サプライズ……しないっていうか、隠さないんですね?」

 これは乗るしかないだろう。選手権についても気にはなるが、先ずは堂々と宣言なされた件について尋ねてみる。まぁ、この状況が既にサプライズっちゃサプライズなんだけどさ。

 ……それは、ほんの少し前のことだ。

 お茶会の席に突然、ババンッと訪れたヨミ様。開口一番に「バアル! 例のモノを!」と言い放ち、即座に「畏まりました」とバアルさんが、キレイなお辞儀を披露し応えた結果がこの現状である。

 因みにクロウさんもご存知だったらしい。特に驚いた様子もなかったし。大きな目をぱちくりさせていたグリムさんの頭をひと撫でしてから、バアルさん達と一緒に術による瞬間早着替えをしたんだからな。

 俺の問いかけに対し、真っ黒な羽を大きく広げ頷くヨミ様はご満悦そうだ。心なしか、側頭部から生えている角の光沢も増したような気がするくらいに。

「うむっ! アオイ殿はホワイトデーを知っているであろう? 故に、こっそりサプライズをしようとも、バレバレであろうというのが一つ」

 黒曜石のようなツヤを持つ鋭い爪とは対照的な、白い人差し指をぴっと立てたヨミ様の笑みが深くなる。

 確かに俺はバレンタインの後、ちょっぴり……いや大分、バアルさんからのお返しを期待していた。そんな時に今度はバアルさんの方から、此方で少々お待ち下さい……なんて別室をご用意されてしまえば……その時点で出るな。顔に、喜びが。

 ああ、でも……今朝のは、とびきりのサプライズだったなぁ……

 ふわふわと心にも、思考にも羽が生えかけていた俺を、通りのいい声が引き戻す。

「バアルの気持ちを考慮すると、アオイ殿から離れてこっそり作るよりは、工程を全部そなたに見てもらえた方が喜ぶであろうというのが二つ。最後は……」

 言葉を切って、ぴっと二本目。さらにじっくりと溜めてから、何とも真っ直ぐな言葉が腰に手を当て堂々と胸を張ったお方から言い放たれた。

「私も、皆と一緒にお菓子作りがしたかったからである!!」

「成る程。いっそやるなら、みんなでワイワイやった方が楽しいですもんね」

 賑やかな催しが好きなヨミ様らしいお考えだ。バアルさんとクロウさんは、その提案に乗ったんだろう。

「流石は、我が同志! 理解が早くて助かるぞ!!」

「とっても素敵だと思います!」

 満足気に細められた真っ赤な瞳の輝きが、負けず劣らず丸い目を輝かせるグリムさんの弾んだ声により、一層キラキラと増していく。

 残された疑問。どうして選手権と題してる件についてだが、そちらは直々に語られることになる。

「切磋琢磨はするが、勝敗は無いぞ!」

 宣言をする際「語呂が良いから付けただけだ!」と付け加え、高らかに笑う。

「想いのこもったお菓子はすべからく、贈られたものにとってナンバーワンであるからな! であるが故に、私もそなたに返したいと思ったのだ」

 垣間見えた慈しむような笑みに、目の奥がジンと熱くなる。

「ヨミ様……」

「その顔は、もう少し後に取っておくがよい! 私達のお菓子で、そなたらの胃も心もバッチリ満たしてみせよう!」

 差し伸べるように大きな手のひらを向け、威風堂々言い放つ。それを合図に、室内に甘い香りが漂い始めた。
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