間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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出だしから供給過多

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 不意に俺ごと起き上がり、ガッチリした太ももの上へと横抱きにされたかと思えばコレだ。

「貴方様を心からお慕い申し上げております」

「あぅ……」

 何故か、延々と甘いお言葉を囁かれ続けているんですが!?

 小刻みに震えっぱなしの俺の手に、絡めて繋いだ白く長い指を、やわやわ緩めたり握ったりしながら彼が微笑む。薄っすらと頬を桜色に染めてはいるものの、柔らかい眼差しは真っ直ぐに俺を見つめたままだ。

 滅茶苦茶嬉しいけれど、そろそろ勘弁して欲しい。こちとら、とっくの昔にオーバーキルされてるんだよ! 心のライフポイントが満たされまくって、オーバーフローを起こしてるんだよ!!

 頭ん中はお花が咲き乱れ、視界はじんわり滲んでいくどころか、ぐるぐる回るような錯覚に陥っている。だというのに、バアルさんは攻撃の手を緩めない。

「お可愛らしいですね……お顔が真っ赤ですよ。ああ、勿論、笑顔の貴方様が一番素敵ではございますが」

 どこか艶のある笑みを深め、すでに鷲掴みっぱなしの俺の心を握り潰さんがごとく、言葉を重ねていく。

「っ……う、嬉しいでふ……でも、なんで?」

「今日はホワイトデーとお聞き致しました。バレンタインと同様、愛する御方に気持ちを伝える日、とのこと。ですので、貴方様への尽きることのない愛を、先ずは言葉でお伝え致したく存じました」

「はぇ……そ、そうだったんですね……」

 どうにかこうにか聞き出すことが出来た「何故?」にああ、それで……と納得する。

 バアルさんにホワイトデーを教えたのは十中八九、ヨミ様だろう。そういえば、バレンタインの時「今度はバッチリ決めるからな!」って宣言されてたっけ。

 不意に、柔らかい感触を額に感じた。正体はすぐに分かった。分からされた。見上げた先で熱のこもった眼差しと絡んだ瞬間、今度は頬に送られて。

 落ち着きかけていた心音が、またバクバクとはしゃぎだす。いまだ鮮やかに煌めく緑の瞳に囚われたままの俺に、形のいい唇が静かに囁く。

「……この老骨、日々を重ねるにつれ、貴方様への想いは募るばかりでございます」

 切なそうに眉をひそめた彼が小さく息を吐く。一心に俺だけを見つめてくれていた眼差しが繋いだ手に、俺の薬指で光る揃いの銀の輪へと注がれ、そして……

「どうかこれからも、貴方様のお側に寄り添う栄誉を与えて頂けないでしょうか?」

 祈りを捧げるように唇が触れた。

「……俺の方こそ、一緒に居てください」

 気がつけば紡いでいた。願われたからじゃない。俺自身の願いだから。

「ずっと一緒がいいんです……バアルさんじゃなきゃ、ダメなんです……」

「っ……アオイ」

 温かい彼の腕が、勢いよく俺を抱き締めてくれる。広い背中に腕を回した俺を、優しいハーブの香りが包み込んだ。

 言葉は交わしていない。顔だって、見えていない。でも、そうしたいって思ったタイミングは一緒だったらしい。

 首筋に埋めていた顔を少し離し、見上げた先で、焦がれた瞳とかち合う。互いの吐息が触れ合うまで、そんなに時間はかからなかった。



「……朝からこんなんじゃ……今日一日、俺の心臓、もたないかもしれません。ドキドキし過ぎて」

 まだまだ今日は、ホワイトデーは始まったばかりだ。バアルさん自身も、先ずは言葉で……と言ってくれたんだから、何かしらサプライズなご予定があるに違いない。

 なのに、一発目で心どころか全身ぐったり骨抜きにされてしまった。これじゃあ、この先の幸せを余すことなく受け止めきれる気がしない。天に昇ってしまいそうだ。供給過多で。

 しなやかな足を真っ白なシーツの上に放り出し、抱きまくらよろしく俺を腕の中へ閉じ込めているバアルさんが、甘えるように額を重ね、擦り寄ってくる。

「……それは、困りますね」

 とか言っているにも関わらず、カッコいい髭が素敵な口元は全然悪びれてなんかいない。嬉しくて堪らないといった感じでクスクスと、絶えず笑みをこぼしているんだからさ。

「やっぱりバアルさんって、時々意地悪ですよね……そういうところも含めて、全部……好き、ですけど……」

 最後の方は声量が、尻すぼみになったとはいえこの距離だ。聞こえていない訳がない。なのに。

「含めて……なんでしょうか? もう一度、仰って頂けませんか。年故に聞き取れませんでした」

 楽しそうに目尻を下げ、そう尋ねる彼はやっぱり意地悪だ。
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