241 / 1,047
出だしから供給過多
しおりを挟む
不意に俺ごと起き上がり、ガッチリした太ももの上へと横抱きにされたかと思えばコレだ。
「貴方様を心からお慕い申し上げております」
「あぅ……」
何故か、延々と甘いお言葉を囁かれ続けているんですが!?
小刻みに震えっぱなしの俺の手に、絡めて繋いだ白く長い指を、やわやわ緩めたり握ったりしながら彼が微笑む。薄っすらと頬を桜色に染めてはいるものの、柔らかい眼差しは真っ直ぐに俺を見つめたままだ。
滅茶苦茶嬉しいけれど、そろそろ勘弁して欲しい。こちとら、とっくの昔にオーバーキルされてるんだよ! 心のライフポイントが満たされまくって、オーバーフローを起こしてるんだよ!!
頭ん中はお花が咲き乱れ、視界はじんわり滲んでいくどころか、ぐるぐる回るような錯覚に陥っている。だというのに、バアルさんは攻撃の手を緩めない。
「お可愛らしいですね……お顔が真っ赤ですよ。ああ、勿論、笑顔の貴方様が一番素敵ではございますが」
どこか艶のある笑みを深め、すでに鷲掴みっぱなしの俺の心を握り潰さんがごとく、言葉を重ねていく。
「っ……う、嬉しいでふ……でも、なんで?」
「今日はホワイトデーとお聞き致しました。バレンタインと同様、愛する御方に気持ちを伝える日、とのこと。ですので、貴方様への尽きることのない愛を、先ずは言葉でお伝え致したく存じました」
「はぇ……そ、そうだったんですね……」
どうにかこうにか聞き出すことが出来た「何故?」にああ、それで……と納得する。
バアルさんにホワイトデーを教えたのは十中八九、ヨミ様だろう。そういえば、バレンタインの時「今度はバッチリ決めるからな!」って宣言されてたっけ。
不意に、柔らかい感触を額に感じた。正体はすぐに分かった。分からされた。見上げた先で熱のこもった眼差しと絡んだ瞬間、今度は頬に送られて。
落ち着きかけていた心音が、またバクバクとはしゃぎだす。いまだ鮮やかに煌めく緑の瞳に囚われたままの俺に、形のいい唇が静かに囁く。
「……この老骨、日々を重ねるにつれ、貴方様への想いは募るばかりでございます」
切なそうに眉をひそめた彼が小さく息を吐く。一心に俺だけを見つめてくれていた眼差しが繋いだ手に、俺の薬指で光る揃いの銀の輪へと注がれ、そして……
「どうかこれからも、貴方様のお側に寄り添う栄誉を与えて頂けないでしょうか?」
祈りを捧げるように唇が触れた。
「……俺の方こそ、一緒に居てください」
気がつけば紡いでいた。願われたからじゃない。俺自身の願いだから。
「ずっと一緒がいいんです……バアルさんじゃなきゃ、ダメなんです……」
「っ……アオイ」
温かい彼の腕が、勢いよく俺を抱き締めてくれる。広い背中に腕を回した俺を、優しいハーブの香りが包み込んだ。
言葉は交わしていない。顔だって、見えていない。でも、そうしたいって思ったタイミングは一緒だったらしい。
首筋に埋めていた顔を少し離し、見上げた先で、焦がれた瞳とかち合う。互いの吐息が触れ合うまで、そんなに時間はかからなかった。
「……朝からこんなんじゃ……今日一日、俺の心臓、もたないかもしれません。ドキドキし過ぎて」
まだまだ今日は、ホワイトデーは始まったばかりだ。バアルさん自身も、先ずは言葉で……と言ってくれたんだから、何かしらサプライズなご予定があるに違いない。
なのに、一発目で心どころか全身ぐったり骨抜きにされてしまった。これじゃあ、この先の幸せを余すことなく受け止めきれる気がしない。天に昇ってしまいそうだ。供給過多で。
しなやかな足を真っ白なシーツの上に放り出し、抱きまくらよろしく俺を腕の中へ閉じ込めているバアルさんが、甘えるように額を重ね、擦り寄ってくる。
「……それは、困りますね」
とか言っているにも関わらず、カッコいい髭が素敵な口元は全然悪びれてなんかいない。嬉しくて堪らないといった感じでクスクスと、絶えず笑みをこぼしているんだからさ。
「やっぱりバアルさんって、時々意地悪ですよね……そういうところも含めて、全部……好き、ですけど……」
最後の方は声量が、尻すぼみになったとはいえこの距離だ。聞こえていない訳がない。なのに。
「含めて……なんでしょうか? もう一度、仰って頂けませんか。年故に聞き取れませんでした」
楽しそうに目尻を下げ、そう尋ねる彼はやっぱり意地悪だ。
「貴方様を心からお慕い申し上げております」
「あぅ……」
何故か、延々と甘いお言葉を囁かれ続けているんですが!?
小刻みに震えっぱなしの俺の手に、絡めて繋いだ白く長い指を、やわやわ緩めたり握ったりしながら彼が微笑む。薄っすらと頬を桜色に染めてはいるものの、柔らかい眼差しは真っ直ぐに俺を見つめたままだ。
滅茶苦茶嬉しいけれど、そろそろ勘弁して欲しい。こちとら、とっくの昔にオーバーキルされてるんだよ! 心のライフポイントが満たされまくって、オーバーフローを起こしてるんだよ!!
頭ん中はお花が咲き乱れ、視界はじんわり滲んでいくどころか、ぐるぐる回るような錯覚に陥っている。だというのに、バアルさんは攻撃の手を緩めない。
「お可愛らしいですね……お顔が真っ赤ですよ。ああ、勿論、笑顔の貴方様が一番素敵ではございますが」
どこか艶のある笑みを深め、すでに鷲掴みっぱなしの俺の心を握り潰さんがごとく、言葉を重ねていく。
「っ……う、嬉しいでふ……でも、なんで?」
「今日はホワイトデーとお聞き致しました。バレンタインと同様、愛する御方に気持ちを伝える日、とのこと。ですので、貴方様への尽きることのない愛を、先ずは言葉でお伝え致したく存じました」
「はぇ……そ、そうだったんですね……」
どうにかこうにか聞き出すことが出来た「何故?」にああ、それで……と納得する。
バアルさんにホワイトデーを教えたのは十中八九、ヨミ様だろう。そういえば、バレンタインの時「今度はバッチリ決めるからな!」って宣言されてたっけ。
不意に、柔らかい感触を額に感じた。正体はすぐに分かった。分からされた。見上げた先で熱のこもった眼差しと絡んだ瞬間、今度は頬に送られて。
落ち着きかけていた心音が、またバクバクとはしゃぎだす。いまだ鮮やかに煌めく緑の瞳に囚われたままの俺に、形のいい唇が静かに囁く。
「……この老骨、日々を重ねるにつれ、貴方様への想いは募るばかりでございます」
切なそうに眉をひそめた彼が小さく息を吐く。一心に俺だけを見つめてくれていた眼差しが繋いだ手に、俺の薬指で光る揃いの銀の輪へと注がれ、そして……
「どうかこれからも、貴方様のお側に寄り添う栄誉を与えて頂けないでしょうか?」
祈りを捧げるように唇が触れた。
「……俺の方こそ、一緒に居てください」
気がつけば紡いでいた。願われたからじゃない。俺自身の願いだから。
「ずっと一緒がいいんです……バアルさんじゃなきゃ、ダメなんです……」
「っ……アオイ」
温かい彼の腕が、勢いよく俺を抱き締めてくれる。広い背中に腕を回した俺を、優しいハーブの香りが包み込んだ。
言葉は交わしていない。顔だって、見えていない。でも、そうしたいって思ったタイミングは一緒だったらしい。
首筋に埋めていた顔を少し離し、見上げた先で、焦がれた瞳とかち合う。互いの吐息が触れ合うまで、そんなに時間はかからなかった。
「……朝からこんなんじゃ……今日一日、俺の心臓、もたないかもしれません。ドキドキし過ぎて」
まだまだ今日は、ホワイトデーは始まったばかりだ。バアルさん自身も、先ずは言葉で……と言ってくれたんだから、何かしらサプライズなご予定があるに違いない。
なのに、一発目で心どころか全身ぐったり骨抜きにされてしまった。これじゃあ、この先の幸せを余すことなく受け止めきれる気がしない。天に昇ってしまいそうだ。供給過多で。
しなやかな足を真っ白なシーツの上に放り出し、抱きまくらよろしく俺を腕の中へ閉じ込めているバアルさんが、甘えるように額を重ね、擦り寄ってくる。
「……それは、困りますね」
とか言っているにも関わらず、カッコいい髭が素敵な口元は全然悪びれてなんかいない。嬉しくて堪らないといった感じでクスクスと、絶えず笑みをこぼしているんだからさ。
「やっぱりバアルさんって、時々意地悪ですよね……そういうところも含めて、全部……好き、ですけど……」
最後の方は声量が、尻すぼみになったとはいえこの距離だ。聞こえていない訳がない。なのに。
「含めて……なんでしょうか? もう一度、仰って頂けませんか。年故に聞き取れませんでした」
楽しそうに目尻を下げ、そう尋ねる彼はやっぱり意地悪だ。
57
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる