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目が覚めたら何故か猫になっていましたが、俺は幸せです。その5

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「代わりに、いっぱいスキンシップを取ってあげてください。アオイ様は、バアル様に撫でてもらえると、スゴく安心していらっしゃるようなので」

「みょわ……(ひょわ……)」

 思わず、上擦った鳴き声を漏らしてしまっていた。図星を的確に撃ち抜かれ、魅力的過ぎる提案に心を激しく揺さぶられて。

「……誠でございますか?」

 そう尋ねる彼の眼差しは期待に満ちていた。さっきまでの落ち込み具合なんて欠片もない。すっかり元気になった触覚が、羽が、上機嫌にゆらゆらぱたぱた動いている。

「に、にぃ……にゃ、にゃう……うにゃ、なぁう……(は、はぃ……好きです、撫でてもらえるの……スゴく、安心するから……)」

 すでに確信してはいたけれど、やっぱり今の俺はいつもより素直になれるみたいだ。ちゃんと気持ちを伝えられただけじゃない。自分から彼の手のひらに擦り寄っていたんだから。

「アオイ様……」

 引き締まった長い腕が俺を優しく抱き上げ、大きな手がゆったりと背中を、頭を撫でてくれる。俺だけを見つめてくれる緑の眼差し、その鮮やかな煌めきに心を奪われ、鼓動がより激しく高鳴っていく。

 ササミのことなんか遥か彼方に飛んでいった頭の中は、もうバアルさん一色だ。だから、つい忘れてしまっていたんだと思う。スヴェンさんの居る前だってことを、自分の声はバアルさん以外にも聞こえているってことを。

 彼と俺との距離は数センチ。ほんの少ししか空いていないのに……何だか無性にくっつきたくて、気がつけば頬を寄せていた。触れ合えた温もりに、歓喜に近い喜びが胸を満たし、あふれる思いの丈が自然と口からこぼれていく。

「にゃあ……にゃ、にゃ、みゃうん(バアルさん……好き、好き、好きです)」

「私も愛しておりますよ、アオイ……ふふ、今日の貴方様は……大変積極的ですね」

 姿形が違うから? 甘えてしまおうと決めたから? 彼の言う通り、俺は普段のヘタれっぷりからは考えられない行動に出ていた。滑らかな白い頬に口を押し付けるどころか、ペロペロと舌を伸ばしてしまっていたんだ。

 宝石のように煌めく瞳をうっとり細め「お可愛らしいですよ……」と擽ったそうに、幸せそうに彼が囁く。

「みゃっ…………み……(ふぇっ…………あ……)」

 柔らかい笑みからもたらされた目が覚めるような激しいときめきに、ようやく周りが見えてきたものの、もう遅い。全部バッチリ見られた上に聞かれてしまっていた。

 はたとかち合った途端、微笑ましそうに俺達を見つめていた黒の眼差しが、より一層細められる。一気にカッと熱くなった全身と一緒に、ボッと尻尾が膨らんでいくのが分かった。

「じゃあっ、俺は失礼しますね。何かあれば、いつでも仰ってください」

 朗らかな声で俺達にそう告げ、スヴェンさんが立ち上がる。

「に、うにゃあ! (あ、ありがとうございました!)」

「スヴェン殿、改めて御礼申し上げます」

 颯爽と去りゆく大きな背中に、バアルさんと一緒にお礼を言う。ゴツい手を振り、軽く頭を下げた彼の顔は快活な笑みに満ちていた。

 扉が閉まり、室内に何とも言えない静寂が訪れる。いまだに心音がバクバクと煩く高鳴る中、俺を呼ぶ柔らかい声が妙にハッキリと耳に届いた。

「アオイ様……」

 スッと通った鼻先をちょこんと俺の鼻に重ねてから、囁くように彼が尋ねる。

「お食事の続きに致しますか? それとも、先程の続きを致しますか?」

 一発で心を鷲掴みにされてしまっていた。妖しく光る眼差しに、艷やかに綻ぶ唇に。一際大きく高鳴った俺の口からは、意味を成していないもじもじとした音だけが漏れる。

「みゃぅ……」

 答えなんて決まっている、猫になろうが変わることはない。変わる訳がない。俺にとっての優先順位ダントツトップが、バアルさんであることに。

「なぅ……に、にゃ……にゃあ、みぅ、うみゃ……(あぅ……続き、したいです……バアルさんに、もっと、いっぱい撫でて欲しい……)」

「畏まりました……貴方様のご期待に添えるよう、いっぱい愛でて差し上げますね……」

 甘く囁く彼の大きな手が、俺の頬を優しく包み込む。ブラッシングでも十分心地よかったのに、あっさりと上回ってしまった。

 まぁ、当然っちゃ当然だ。好きな人から余すことなく全身を、たっぷり甘やかしてもらえたんだから。
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