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目が覚めたら何故か猫になっていましたが、俺は幸せです。その2

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「に、にゃぅ?(ほ、ホントですか?)」

 暗くなりかけていた目の前が、パッと明るくなった気がした。期待に自然と尻尾が揺れてしまう。確信に満ちた緑の眼差しに見つめられて。

「はい。貴方様の御身体に起きた変化は、魔力の乱れによるものでしょう」

「なぅ、みぃ?(魔力の、乱れ?)」

「ええ、此方では現世と異なり、空気中に魔力の素があるのだと……以前、ご説明致しましたよね?」

「んにゃ。なぅ、にゃぉんにゃにゃ(はい。だから、人間の俺でも魔術が使えるんですよね)」

 俺が居た現世とは違い、地獄には魔術を用いる時に必要な魔力の素が満ちあふれているらしい。そのお陰で練習さえすれば、俺でも色んな術が使えるようになるって話だ。だから俺は今、バアルさんのご指導の元、日々訓練を重ねているんだけどさ。

 それと俺の変化に何の関係があるんだろう? という疑問は、続く彼の言葉によって明らかになる。

「左様でございます。そして、魔力の素は日によって増減するのです。今日は特に濃度が高い日……斯様な日には、魔力が不安定な方は身体に変化が起きてしまうのです。勿論、体質にもよりますが」

 言葉を切った彼が俺を抱き直すと、どこからともなく分厚い冊子が現れる。逞しい胸元に抱かれている俺の目線に合わせて浮いた本のページが自動的に捲られていき、ピタリと止まった。

 載っていたのは二枚の写真。一枚目は、猫耳と尻尾が生え、指の先から肘までがふわもふな毛に覆われた、整った顔立ちの青年が。

 二枚目には、同じ灰色の毛色の……二足歩行であること以外、人間の要素がない猫の獣人が写っていた。どことなく、顔立ちが一枚目の青年に似ている気がするけど……まさか。

「この様に、貴方様で言うと……人間らしい部分が薄くなってしまうのです。こちらの方は、特に変化が大きい部類ですね」

「み、みぅ……んにゃ?(じゃ、じゃあ……俺も?)」

「はい。特にアオイ様の場合、お持ちの魔力以外に生命力も宿しておられます」

 俺の予想は当たっていたらしい。小さく頷き、本を煙の様に消した彼が言葉を続ける。

「生命力は魔力と同等……いえ、それ以上の力となります。貴方様の様に繊細な御身体には大き過ぎる力です。結果、そのような御姿になられてしまったのでしょう。何故、猫の御姿なのかは分かりませんが……」

 成る程、ここに来てから今の今まで何の支障も無かったから、すっかり忘れてしまっていたけれど……ちゃんと寿命を全う出来なかった俺の魂には、まだ生命力が残っていたんだっけ。

 バアルさんくらいの優れた術の使い手ならまだしも、俺はまだまだ全然ぺーぺーだ。大き過ぎる力を使いこなしきれる訳がない。安定させることが出来ずに、乱れてしまっても仕方がないだろう。

 ……ということは、使いこなせるようになれば元に戻れるんだろうか? バアルさんが付いてくれているとはいえ、遠過ぎる道のりだな……

「ふにゅ……に、にゃにゃなぁぅ? (そうなんですね……ところで、元の姿に戻るにはどうすればいいんですか?)」

 一縷の望みをかけて、何か方法はないものかと尋ねてみる。

「何もしなくて大丈夫ですよ」

「み? (へ?)」

「明日になれば自然と戻ります。空気に満ちた魔力の素の濃度が下がるのと一緒に……ですから、ご安心して下さい」

 柔らかく微笑む彼から返ってきた、まさかの答えに全身から一気に力が抜けていく。逞しい腕の中からだらんと蕩け落ちそうになっていた俺を、大きな手がしっかり支え、抱き止めてくれた。

「ふにゃ、にゃうん……(そっか、よかった……)」

 ゆるゆると全身を撫でてくれる優しい手の動きに癒やされていると、開きっぱなしの口から何やらゴロゴロと変な音がした。彼にも聞こえたんだろう。クスクスと小さな笑みをこぼしている。

「とはいえ、此方の御姿では何かとご不便でしょう。私にお任せ下さい。今日限りではございますが、何不自由ないお猫様ライフをお約束致します」

 再び、目線が合うように抱き上げてくれた彼が、歌うように宣言する。耳障りのいい低音が、心なしか弾んでいるように聞こえた。
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