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出来立ての美味しさも、デコレーションも
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重たい音を響かせ開いたオーブンから、ふわりと広がる甘い香りが俺達の鼻腔を擽り、食欲をそそる。
慎重に取り出し、並べたガトーショコラはこんがり綺麗に焼けていて、スゴく美味しそうだ。
「ふわぁ……いい匂い……美味しそうですね」
「はい……あ、味見してみましょうか」
「そ、そうですね! ちゃんと美味しく出来てるか、確認しないと、ですよね!」
顔を見合わせ、頷き合い、俺は星型を、グリムさんは花型のガトーショコラに手を伸ばす。
「あっち、ち……」
「だ、大丈夫ですか?」
熱さに強いんだろうか。少し触れるだけで俺の指先はジンと染みて、ぱっと引いてしまったのに。グリムさんはというと、出来立てアツアツのガトーショコラを型紙からすでに外しているどころか、両手で持ってキレイに半分に割っている。
慌ててそれらをテーブルに置くと、俺の手を取り心配そうに見つめた。
「ちょっと赤くなってますね……すみません、少し触りますね」
柔らかい指先がそっと俺の指先に触れる。軽く撫でられただけで、皮膚からは赤みも、痺れたような感覚も、あっという間になくなっていった。
「ありがとうございます……スゴいですね。もう、全然痛くないですよ」
「えへへ……少し自然治癒力を高めただけですけどね。初歩的な術ですから、アオイ様もすぐに出来るようになりますよ。便利ですよ! 擦り傷くらいなら、すぐに治っちゃうんです!」
そう顔を輝かせたグリムさんが「また、火傷しちゃったらいけませんからね!」と代わりに俺の分を割ってくれる。
「はい、どうぞ!」
キレイに割った一つを皿に乗せ、手渡してくれた彼の表情は、どこか誇らしげに綻んでいた。
半分こにした一方を互いに交換し、俺達の側でそわそわ飛んでいたコルテには、食べやすいように小さくちぎった欠片を、彼専用なんちゃらファミリーサイズのお皿に乗せた。
一緒に手を合わせ、いただきますをしてからフォークで切り分けたガトーショコラを口に含む。
「……あ、うまっ」
「んふふ、おいひいでふね」
途端にコクのあるねっとりとした甘さが広がり、丁度いいほろ苦さが舌に残る。出来立てってこともあるんだろう。見た目のどっしりさとは打って変わって、口の中でふわふわ蕩けていってしまう。
グリムさん作の方もいただいたが、ほとんど違いは感じない。美味しい。滅茶苦茶。こんな、手のひらより小さなサイズじゃ、ペロッと食べてしまうな。
「グリムさん」
「はいっアオイ様」
「急ぎましょう。冷めないうちに」
「ですね! この美味しさを味わって欲しいです!」
思ったことは一緒のようだ。デコレーションにも拘りたかったが、今回は諦めよう。それよりも、早くこの美味しさをバアルさんに、協力してくれたクロウさんにも届けたい。
慌ただしく、グリムさんと一緒にラッピング用の袋を選んでいると目の前で緑の光が瞬いた。コルテだ。
「どうしたんだ、コルテ? お代わりが欲しいの?」
違うと伝えたいんだろうか。小さく左右に揺れてから、何やら強く輝き始める。
一際強く瞬いた時、緑の光がシャボン玉のように俺とグリムさんのガトーショコラを優しく包み込んでから、空気に溶けるようにフッと消えていった。
俺の目では、ガトーショコラに何か変化が有ったようには見えなかった。が、グリムさんには分かったらしい。歓声に近い声を上げたんだ。
「わっスゴい! 保存の術ですよ! これなら、あと数時間は出来立てを保てますね!」
「え?」
そう言えば、バアルさんの誕生日に作ったパウンドケーキも、保存の術をかけてもらったっけ。あの時は、バアルさんがかけてくれたけど。
眩い光が消え、いつものコルテが俺の前でぴるぴる飛ぶ。
そっと出されたスケッチブックには「これで出来る? やりたいこと」と書かれていた。小さな彼の後ろに一瞬、大好きな彼の姿が浮かぶ。
「……うん、君のお陰で出来るよ。ありがとう、コルテ」
俺の考えていることなんて、大抵バアルさんには筒抜けだったけど、コルテにも筒抜けだったらしい。嬉しそうにピカピカ輝いている彼の厚意をムダにしないよう、調理テーブルへと顔を向ける。
「アオイ様は、やっぱり緑色! ですよね?」
すると、すでにデコレーション用のチョコペンを手に、グリムさんが微笑んでいた。
慎重に取り出し、並べたガトーショコラはこんがり綺麗に焼けていて、スゴく美味しそうだ。
「ふわぁ……いい匂い……美味しそうですね」
「はい……あ、味見してみましょうか」
「そ、そうですね! ちゃんと美味しく出来てるか、確認しないと、ですよね!」
顔を見合わせ、頷き合い、俺は星型を、グリムさんは花型のガトーショコラに手を伸ばす。
「あっち、ち……」
「だ、大丈夫ですか?」
熱さに強いんだろうか。少し触れるだけで俺の指先はジンと染みて、ぱっと引いてしまったのに。グリムさんはというと、出来立てアツアツのガトーショコラを型紙からすでに外しているどころか、両手で持ってキレイに半分に割っている。
慌ててそれらをテーブルに置くと、俺の手を取り心配そうに見つめた。
「ちょっと赤くなってますね……すみません、少し触りますね」
柔らかい指先がそっと俺の指先に触れる。軽く撫でられただけで、皮膚からは赤みも、痺れたような感覚も、あっという間になくなっていった。
「ありがとうございます……スゴいですね。もう、全然痛くないですよ」
「えへへ……少し自然治癒力を高めただけですけどね。初歩的な術ですから、アオイ様もすぐに出来るようになりますよ。便利ですよ! 擦り傷くらいなら、すぐに治っちゃうんです!」
そう顔を輝かせたグリムさんが「また、火傷しちゃったらいけませんからね!」と代わりに俺の分を割ってくれる。
「はい、どうぞ!」
キレイに割った一つを皿に乗せ、手渡してくれた彼の表情は、どこか誇らしげに綻んでいた。
半分こにした一方を互いに交換し、俺達の側でそわそわ飛んでいたコルテには、食べやすいように小さくちぎった欠片を、彼専用なんちゃらファミリーサイズのお皿に乗せた。
一緒に手を合わせ、いただきますをしてからフォークで切り分けたガトーショコラを口に含む。
「……あ、うまっ」
「んふふ、おいひいでふね」
途端にコクのあるねっとりとした甘さが広がり、丁度いいほろ苦さが舌に残る。出来立てってこともあるんだろう。見た目のどっしりさとは打って変わって、口の中でふわふわ蕩けていってしまう。
グリムさん作の方もいただいたが、ほとんど違いは感じない。美味しい。滅茶苦茶。こんな、手のひらより小さなサイズじゃ、ペロッと食べてしまうな。
「グリムさん」
「はいっアオイ様」
「急ぎましょう。冷めないうちに」
「ですね! この美味しさを味わって欲しいです!」
思ったことは一緒のようだ。デコレーションにも拘りたかったが、今回は諦めよう。それよりも、早くこの美味しさをバアルさんに、協力してくれたクロウさんにも届けたい。
慌ただしく、グリムさんと一緒にラッピング用の袋を選んでいると目の前で緑の光が瞬いた。コルテだ。
「どうしたんだ、コルテ? お代わりが欲しいの?」
違うと伝えたいんだろうか。小さく左右に揺れてから、何やら強く輝き始める。
一際強く瞬いた時、緑の光がシャボン玉のように俺とグリムさんのガトーショコラを優しく包み込んでから、空気に溶けるようにフッと消えていった。
俺の目では、ガトーショコラに何か変化が有ったようには見えなかった。が、グリムさんには分かったらしい。歓声に近い声を上げたんだ。
「わっスゴい! 保存の術ですよ! これなら、あと数時間は出来立てを保てますね!」
「え?」
そう言えば、バアルさんの誕生日に作ったパウンドケーキも、保存の術をかけてもらったっけ。あの時は、バアルさんがかけてくれたけど。
眩い光が消え、いつものコルテが俺の前でぴるぴる飛ぶ。
そっと出されたスケッチブックには「これで出来る? やりたいこと」と書かれていた。小さな彼の後ろに一瞬、大好きな彼の姿が浮かぶ。
「……うん、君のお陰で出来るよ。ありがとう、コルテ」
俺の考えていることなんて、大抵バアルさんには筒抜けだったけど、コルテにも筒抜けだったらしい。嬉しそうにピカピカ輝いている彼の厚意をムダにしないよう、調理テーブルへと顔を向ける。
「アオイ様は、やっぱり緑色! ですよね?」
すると、すでにデコレーション用のチョコペンを手に、グリムさんが微笑んでいた。
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