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とある死神の師匠とその弟子は、ショーケースを前に悩む

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 外で見るよりも店内は広く、明るく、可愛らしさと綺麗があふれている。

 顔が映り込むくらいにピカピカに磨かれたショーケース。それらの中にズラリ並ぶ、綺羅びやかな金や銀、色とりどりの魔宝石をあしらったアクセサリー。清潔感漂う、スーツ姿の店員達。

 ……正直、場違いなんじゃないかと思ってしまう。

 何て言ったら言いんだろうな……店全体の雰囲気が、アオイ様とバアル様みたいだ。至るところで幸せな笑顔が交わされ合っているというか、ハートマークが飛び交っているというか。

 とにかく今すぐ頭を下げて、回れ右をしたくなってしまう。無理だが。

「わー……キレイですね、クロウ」

 引けない理由である運命共同体が、俺の手をぐいぐい引っ張りながら、いくつもあるショーケースの一つへとずんずん進んでいく。

 こんな時ばかりは、素直に現状を楽しめるグリムの存在が有り難いな。

「ほら、見てください! この指輪なんかピッカピカですよ! 魔宝石がお花の形みたいで……むぐっ」

 ほんのさっきまで感じていた頼もしさは、俺の気のせいだったらしい。

 全く……心の中でだけとはいえ、少し褒めればこれだ。雑貨屋でも、はしゃぎまくるこの口を何度押さえたか分からない。覚えてもいない。

「おーおー綺麗だな。分かったから、ちょっと声抑えような?」

 流石に恥を覚えたんだろう。覆っていた手を離してから、拗ねたように尖っていた小さな口を指でつつくと白い頬がぽぽぽっと染まっていく。

 もじもじ揺れる頭をなんとなく手癖で撫でれば、さっきまでの賑やかさがウソだったかのように静かになってくれた。

 これで少しは、大人しく楽しんでくれると嬉しいんだが。

「宜しければ、ご試着なさいますか?」

 話しかけてきたのは、側頭部に羊の角が生えた男性。声も仕草も物腰柔らかな店員が、胸に手を当て微笑んだ。

 寛大だな。静かに俺達の背後へと近寄って来たから、てっきり注意を受けるもんだと思っていたんだが。

「あー……今日は指輪じゃなくて、ネックレスを探しているんですが……」

「一緒に着けるんですよ! お揃いのを!」

「だから、抑えなさいって……すみません」

 さっき顔を真っ赤にして、だんまりしていたのは何だったのか。繋いだ手をぎゅうぎゅう握りながら、グリムが弾んだ声で付け加える。店員さんを見つめるその表情はどこか得意げだ。

 このお店の雰囲気だけでなく、店員さん自身も優しさに満ちあふれているようだ。くすくすと声を漏らし微笑ましそうに見つめながら「いえいえ」と会釈で済ませてくれた。

「では、こちらなどいかがでしょうか?」

 少し離れたショーケースを白手袋を着けた手のひらで指し示し、案内してくれる。透明なガラス越しに並ぶ多種多様なネックレス達を見て、グリムの薄紫の瞳がさらに輝きを増していく。

「丸に、ひし形、星に、長方形……色んな形がありますね。クロウは、どの形がいいですか? あっ……これなんか、くっつけるとハートの形になるみたいですよっ」

「ハート以外なら何でもいいぞ」

「えー……可愛いのに」

 即座に答えると、思いっきり上がっていた口角がへにょんと下がり、代わりに唇が鳥の嘴みたいにむうっと突き出てくる。いかにも残念だ、という感じで。

 ……可愛すぎるから困っているんだがな。

 一見、雫の形を逆さにしたように見えるが、くっつければ……じゃじゃーんハートの完成でーす! だなんて……似合わなすぎるだろ、俺みたいな仏頂面には。グリムかアオイ様達にしか許されない可愛さだ。

 俺の限度は……せいぜい、隣に並ぶ月形か星形までだろう。

 単純な好みで言ったら……反対側にある、ねじれた輪っかの形をしたものか、細い長方形のものだな。飾りの魔宝石がさり気ない小ささなのもいい。

「あ、じゃあこの輪っかのなんてどうですか? 見た目がシンプルで、クロウが好きな感じですし」

「た、確かに好きなデザインだが……」

 顔に出てしまっていたのか、偶然か。あまりにも良すぎるタイミングで、グリムがねじれた銀の輪を指差した。心の揺らぎが口にも影響を及ぼしたんだろう。少し噛みそうになってしまった。

「グリムは……コレでいいのか? お揃いにするんだから、お前も気に入るものじゃないと駄目だろう。俺に気を使わずに、好きなのを選んでいいんだぞ」

 さっきは反射的に断わってしまったが……ハートが気に入っていると言うんだったら覚悟を決めるか。くっつけなければバレることもないんだしな。

 ハートの片割れだろうが、花だろうが、猫だろうが、何でも着けてやろうじゃないか!

 拳を握り、気合を入れたのもつかの間だった。

「大丈夫ですよ。僕もそれ見た時に、いいなって思ったんです……その、ゆ、指輪……みたいで」

 ふわりと綻んだ小さな口からの返答に、気張っていた肩の力が抜けていく。

 指輪、か……それなら、グリムが気に入ったのも納得がいく。

 元はといえばアオイ様とバアル様、お二人のお揃いに憧れたのがきっかけだったからな。アオイ様の、好きな友達の真似をしたいってのも、今に始まったことじゃない。

 照れなくてもいいだろうに、俺を見上げるグリムの顔は耳まで真っ赤に染まってしまっている。どこか落ち着きなく瞳と同じ薄紫色の髪をいじっていた小さな指が、再び銀の輪がついたネックレスをショーケース越しに指差した。

「そ、それに、ほら、真ん中についてる魔宝石、クロウの目の色と同じなんですよ」
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