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三色のウサギ、白銀の地に降り立つ
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鈍い音を立て、重たい扉が開くと同時に、冷たい風が頬を撫でていく。鼻孔をツンと擽っていく。
目の前に広がった景色は、ヨミ様が仰られていた通り白銀の世界だった。積もりに積もったふかふかの雪が、陽の光に照らされてキラキラと輝いている。
ゆっくりバアルさんに下ろしてもらい、踏みしめた膝丈まであるロングブーツが、もふっと一気に数センチ埋まってしまった。
「わぁ……スゴい……ホントに真っ白ですね」
「ええ、大変神秘的な光景でございますね」
「であろう? 氷の扱いが得意な者達に協力してもらったのだ!」
ヨミ様が上機嫌に黒耳を揺らし、鋭く白い歯を見せる。黒手袋を纏った手が示す先には、鈍く光る胸当てを着けた兵士さんが三人並んでいた。
私が作りました! という生産者表示のごとく、三人ともとびきりの笑顔を浮かべている。息の揃った敬礼で、ご挨拶をしてくれる。
「ありがとうございます! スっゴくキレイでわくわくします!」
「素敵な雪景色をありがとうございます。大変見事な腕前でございますね」
俺達の隣で「うむっ!」とヨミ様が満足気に羽をはためかせる。バアルさんと一緒に頭を下げれば、兵士さん方のキリッとした目尻と締まった頬がとろりと下がっていく。
姿勢はピシリとご挨拶したまま崩さない。が、皆さん各々、翼や尻尾、耳から喜びの感情がダダ漏れになってしまっている。バサバサ、ブンブン、ピコピコ動いてしまっている。
嬉しいんだろうなぁ……ヨミ様に自慢されて、さらにはバアルさんに褒められて。
すっかり胸の内がほっこり満たされていた時だった。びっくりせざるを得ないお言葉を、通りのいい声が高らかに言い放ったのは。
「では、本日のスペシャルゲスト達の登場である! 父上、皆の物、いざ参るがよい!!」
「はい?」
「なんと……」
流石のバアルさんも目をぱちくりさせている。そりゃまぁそうだ。元地獄の王であるサタン様の参戦を告げられた、だけじゃない。
修練場の真ん中に堂々と鎮座していた、城の一階に届きそうな高さのでっかい雪だるまが、くす玉でも割るような小気味いい音と共に弾けたんだからな。
「ひょわっ!?」
思わず情けない悲鳴を上げ、逞しい体に抱きついてしまった。白手袋を纏った手が「大丈夫ですよ」と頭や頬を撫でてくれる。
もうもうと立ち込める雪煙の中、戦隊モノのヒーローの登場みたく、見知った方々が何事もなかったかのように元気よく現れた。
ご自慢の筋肉に覆われた巨体をのしのし揺らし、先頭を行くサタン様。
揃いのフードマントを身に着けた、師匠であるクロウさんと手を繋ぎ、小さな手を此方にぶんぶん振っているグリムさん。
あたかも当然のように、隊長であるレダさんまでいる。引き連れている兵士さん方の中には、俺の親衛隊を勤めてくれているシアンさんやサロメさん達も加わっていた。通りで今日は別棟で誰とも遭遇しなかった訳だ。
「すまんのう、アオイ殿、バアル。またもやヨミの遊びに付きおうてもらって……」
こんにちはの挨拶もそこそこに、サタン様がヨミ様と同じ鋭い角を生やした頭を下げる。
太い指が撫でている、もみあげから顎まで連なる黒い髭は相変わらずご立派だ。ただでさえあふれる威厳を、さらに強固なものにしている。
「あ、いえ、いつも気遣っていただけて感謝しかないです」
「私もアオイ様と同じ気持ちです。私では思い至らないアイデアばかりで、大変助かっております」
胸の前でわたわた手を動かす俺に、バアルさんが角度のついたキレイなお辞儀と共に続く。
そもそも俺達が遊んでもらってる側ですし、と付け加えると鋭い赤の瞳がゆるりと細まり、縮んでいた真っ黒な羽が大きく広がった。
「そうか、二人共ありがとう。それはそうと今日はよろしく頼むぞ。こういう遊びは久方ぶりだからのう、実は楽しみにしておったのじゃよ」
「はいっ此方こそよろしくお願いします!」
「宜しくお願い致します」
サタン様が「二人共、可愛らしいのう。似合っておるぞ!」と大きな口から白い牙を覗かせながら、いつの間にか少し離れていたヨミ様の元へと歩み寄って行く。
ホントに温かいお方だ。スーツなバニーがスゴく素敵でカッコかわいいバアルさんは当然だが、俺まで褒めてもらえてしまった。
「アオイ様っすっごく可愛いですね! バアル様もカッコいいです! とても!!」
優しいお言葉に浸っている間もなく、勢いよく飛び込んできたグリムさんからの言葉に顔が一気に熱くなる。バアルさんの感想に関しては、同意でしかないんだけどさ。
「あ、ありがとうございます……」
「わぁっ! お耳、動くんですね!」
嬉しいんだけど、困ってしまう。薄紫の瞳をますます丸く輝かせ「可愛いですね! 可愛いですね!」と弾んだ声で連呼されてしまっては。
隣のバアルさんは助け舟を出してはくれない。何故ならあちらの味方だからだ。
俺の頭をフード越しに撫で回しながら、そうでしょうとも、と言わんばかりに何度も頷いていらっしゃる。
水晶のように透き通った羽や、真っ白ふわもこウサ耳を、ぱたぱたぴこぴこ揺らす様は大変ご満悦そうだ。
「あっ尻尾も揺れてる! ホントのウサギさんみた……ふぎゃっ!」
わいわいくるくる俺の周りを飛び跳ねていたグリムさんの首根っこが、素早く伸びてきた大きな手によって捕まえられた。
……クロウさんだ。鋭い金色の瞳を困ったように細め、整った顔をくしゃりと歪めている。
猫の親子かな?
か細い四肢をぷらんと伸ばし、されるがままになっているグリムさんと、彼を軽々と片手で抱えるクロウさんを見ていたら過ぎってしまったんだ。お痛をして親猫から首元を咥えられた小猫の画像が。
「しーしょーうー! もー何で掴むんですか? ねぇ、くーろーうー!」
グリムさんの訴えも虚しく、俵でも担ぐかのように幅広の肩へよいしょと抱え直されてしまう。
クロウさんがすらりと伸びた長身を屈めながら、俺達に向かって形のいい眉を下げて微笑んだ。
「すみませんね……うちのグリムがはしゃぎまくって。ヨミ様にお誘いいただいてから、お二方と雪遊びが出来るって浮かれまくってたもんで」
「いえいえ、全然。俺も今から楽しみですよ」
「そりゃあ良かった……光栄です」
口の端をニッと持ち上げたクロウさんもヨミ様の元へと長い足を運ぶ。
担がれたままのグリムさんが丸い頬を綻ばせながら、先程と同じようにぶんぶんと手を振っていた。
目の前に広がった景色は、ヨミ様が仰られていた通り白銀の世界だった。積もりに積もったふかふかの雪が、陽の光に照らされてキラキラと輝いている。
ゆっくりバアルさんに下ろしてもらい、踏みしめた膝丈まであるロングブーツが、もふっと一気に数センチ埋まってしまった。
「わぁ……スゴい……ホントに真っ白ですね」
「ええ、大変神秘的な光景でございますね」
「であろう? 氷の扱いが得意な者達に協力してもらったのだ!」
ヨミ様が上機嫌に黒耳を揺らし、鋭く白い歯を見せる。黒手袋を纏った手が示す先には、鈍く光る胸当てを着けた兵士さんが三人並んでいた。
私が作りました! という生産者表示のごとく、三人ともとびきりの笑顔を浮かべている。息の揃った敬礼で、ご挨拶をしてくれる。
「ありがとうございます! スっゴくキレイでわくわくします!」
「素敵な雪景色をありがとうございます。大変見事な腕前でございますね」
俺達の隣で「うむっ!」とヨミ様が満足気に羽をはためかせる。バアルさんと一緒に頭を下げれば、兵士さん方のキリッとした目尻と締まった頬がとろりと下がっていく。
姿勢はピシリとご挨拶したまま崩さない。が、皆さん各々、翼や尻尾、耳から喜びの感情がダダ漏れになってしまっている。バサバサ、ブンブン、ピコピコ動いてしまっている。
嬉しいんだろうなぁ……ヨミ様に自慢されて、さらにはバアルさんに褒められて。
すっかり胸の内がほっこり満たされていた時だった。びっくりせざるを得ないお言葉を、通りのいい声が高らかに言い放ったのは。
「では、本日のスペシャルゲスト達の登場である! 父上、皆の物、いざ参るがよい!!」
「はい?」
「なんと……」
流石のバアルさんも目をぱちくりさせている。そりゃまぁそうだ。元地獄の王であるサタン様の参戦を告げられた、だけじゃない。
修練場の真ん中に堂々と鎮座していた、城の一階に届きそうな高さのでっかい雪だるまが、くす玉でも割るような小気味いい音と共に弾けたんだからな。
「ひょわっ!?」
思わず情けない悲鳴を上げ、逞しい体に抱きついてしまった。白手袋を纏った手が「大丈夫ですよ」と頭や頬を撫でてくれる。
もうもうと立ち込める雪煙の中、戦隊モノのヒーローの登場みたく、見知った方々が何事もなかったかのように元気よく現れた。
ご自慢の筋肉に覆われた巨体をのしのし揺らし、先頭を行くサタン様。
揃いのフードマントを身に着けた、師匠であるクロウさんと手を繋ぎ、小さな手を此方にぶんぶん振っているグリムさん。
あたかも当然のように、隊長であるレダさんまでいる。引き連れている兵士さん方の中には、俺の親衛隊を勤めてくれているシアンさんやサロメさん達も加わっていた。通りで今日は別棟で誰とも遭遇しなかった訳だ。
「すまんのう、アオイ殿、バアル。またもやヨミの遊びに付きおうてもらって……」
こんにちはの挨拶もそこそこに、サタン様がヨミ様と同じ鋭い角を生やした頭を下げる。
太い指が撫でている、もみあげから顎まで連なる黒い髭は相変わらずご立派だ。ただでさえあふれる威厳を、さらに強固なものにしている。
「あ、いえ、いつも気遣っていただけて感謝しかないです」
「私もアオイ様と同じ気持ちです。私では思い至らないアイデアばかりで、大変助かっております」
胸の前でわたわた手を動かす俺に、バアルさんが角度のついたキレイなお辞儀と共に続く。
そもそも俺達が遊んでもらってる側ですし、と付け加えると鋭い赤の瞳がゆるりと細まり、縮んでいた真っ黒な羽が大きく広がった。
「そうか、二人共ありがとう。それはそうと今日はよろしく頼むぞ。こういう遊びは久方ぶりだからのう、実は楽しみにしておったのじゃよ」
「はいっ此方こそよろしくお願いします!」
「宜しくお願い致します」
サタン様が「二人共、可愛らしいのう。似合っておるぞ!」と大きな口から白い牙を覗かせながら、いつの間にか少し離れていたヨミ様の元へと歩み寄って行く。
ホントに温かいお方だ。スーツなバニーがスゴく素敵でカッコかわいいバアルさんは当然だが、俺まで褒めてもらえてしまった。
「アオイ様っすっごく可愛いですね! バアル様もカッコいいです! とても!!」
優しいお言葉に浸っている間もなく、勢いよく飛び込んできたグリムさんからの言葉に顔が一気に熱くなる。バアルさんの感想に関しては、同意でしかないんだけどさ。
「あ、ありがとうございます……」
「わぁっ! お耳、動くんですね!」
嬉しいんだけど、困ってしまう。薄紫の瞳をますます丸く輝かせ「可愛いですね! 可愛いですね!」と弾んだ声で連呼されてしまっては。
隣のバアルさんは助け舟を出してはくれない。何故ならあちらの味方だからだ。
俺の頭をフード越しに撫で回しながら、そうでしょうとも、と言わんばかりに何度も頷いていらっしゃる。
水晶のように透き通った羽や、真っ白ふわもこウサ耳を、ぱたぱたぴこぴこ揺らす様は大変ご満悦そうだ。
「あっ尻尾も揺れてる! ホントのウサギさんみた……ふぎゃっ!」
わいわいくるくる俺の周りを飛び跳ねていたグリムさんの首根っこが、素早く伸びてきた大きな手によって捕まえられた。
……クロウさんだ。鋭い金色の瞳を困ったように細め、整った顔をくしゃりと歪めている。
猫の親子かな?
か細い四肢をぷらんと伸ばし、されるがままになっているグリムさんと、彼を軽々と片手で抱えるクロウさんを見ていたら過ぎってしまったんだ。お痛をして親猫から首元を咥えられた小猫の画像が。
「しーしょーうー! もー何で掴むんですか? ねぇ、くーろーうー!」
グリムさんの訴えも虚しく、俵でも担ぐかのように幅広の肩へよいしょと抱え直されてしまう。
クロウさんがすらりと伸びた長身を屈めながら、俺達に向かって形のいい眉を下げて微笑んだ。
「すみませんね……うちのグリムがはしゃぎまくって。ヨミ様にお誘いいただいてから、お二方と雪遊びが出来るって浮かれまくってたもんで」
「いえいえ、全然。俺も今から楽しみですよ」
「そりゃあ良かった……光栄です」
口の端をニッと持ち上げたクロウさんもヨミ様の元へと長い足を運ぶ。
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