間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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私の方が惚れ込んでおりますので

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 傍から見たら謎すぎるし、絶賛目立ちまくっていることだろう。

 のどかな午後、メイドさんや兵士さん方があくせく行き交う城内を、黒、白、オレンジのウサ耳&ウサ尻尾を着けた三人組が堂々と歩き進む様は。

 いや、まぁ……大変ご機嫌だったり、平然としているのは黒と白のお二人で、俺は俯いたまま手を引かれてドナドナされているんだけどさ。



 ルビーのように煌めく瞳、上がりまくった両の口角に、ひっきりなしにはためくコウモリの形をした黒い羽。

 流石の俺でも分かるぞ、これは。ウキウキ感が滲み出ていらっしゃる。長身かつ引き締まった美ボディからふわふわと。

「どうであろうか? これで私も、貴殿らとのお揃い感が出ているであろう!」

 通りのいい声で言い放ったヨミ様の、長く艷やかな黒髪がふわりと靡き、金糸で彩られた黒い片マントが翻る。

 ビシリと効果音が鳴りそうな勢いで、指の先まで片腕を伸ばしてポーズを決めたご尊顔には、満面の笑みが浮かんでいた。

 地獄の現王様である彼の、上機嫌そうなそのお姿でも十分胸がほっこりするんだが。

 ……拍車をかけていらっしゃる。側頭部のご立派な角に挟まれ、頭頂部でぴょこんと主張する黒ウサ耳が。

 そんでもって、俺達が見やすいようにわざわざ後ろを向き突き上げた、形のいいお尻の上辺りでぴこぴこ揺れる黒いウサ尻尾が。

「出ていらっしゃいますよ……スゴく」

「ええ、紛うことなきお揃いでございます」

 おそらく同じ気持ちのハズだ。緩みまくった口元を両手で覆い隠した俺と、胸元に手を当て、身に纏う執事服に見合う綺麗なお辞儀を隣で披露したバアルさんの気持ちは。

 ……お揃いが、嬉しいんだなぁ……と胸の辺りを温めているに違いない。

 現にバアルさんの眼差しは、いつも以上に柔らかい。おまけに白い髭が渋くて素敵な口元は綻び、丁寧に後ろへ撫で付けられたオールバックの上で、白いウサ耳がひっきりなしに揺れている。

 勿論、自前……元から生えている額の触覚も、背中にある水晶のように透き通った羽も、ゆらゆらぱたぱた動いていてご機嫌そうだ。

「そうであろう、そうであろう! では、修練場へ参るか! 白銀の雪景色が私達を待っているぞ!!」

 はーっはっはっは! と高笑いを上げながら、勢いよく扉を開いて行った彼を追おうとした時、白手袋に覆われた手が差し出される。

「参りましょうか」

「はいっ」

 見上げた先で、柔らかい眼差しとかち合う。ひと回り大きな手のひらに重ねて繋ぐと、穏やかな笑みが深くなった。

 そんなこんなで爆誕してしまったウサギさんなトリオ。オセロなビューティー、ダンディーにみたらし団子を添えて……は、人気のない別棟の廊下をサクサク進み、賑やかな本棟へと進撃を開始したのである。

 開始早々、俺のみ心が挫けそうになっている訳だが。

 最近は慣れてきたつもりだったんだが……久々に痛い。獣の耳や尻尾を生やし、または爬虫類の鱗を纏い、あるいは蝶やトンボのような触覚や羽を動かす。男女共に顔面偏差値激高な皆さん方の視線が。

 そんでもって心も痛い。黄色い声と低めのひそひそ声のコンボが上乗せされてしまっているもんだから。

 明るいきゃあきゃあ声の主達。白いフリル付き、黒のロングスカートが可愛らしいメイドさん方の注目株は、勿論バアルさんとヨミ様だろう。

 まさにスターなのだから。見目麗しいヨミ様に、カッコいいと美しい、さらには渋くて色っぽいを兼ね揃えたバアルさんが歩く様は。

 実際、青い石造りの床にはレッドなカーペットが敷かれているしな。おまけに熱い視線を送っている方々の手元で、投影石がピカピカシャッターを切っているし。

 ウサギさんなスタイルであろうが関係ない。いや、それどころかプラスにしかならないだろう。俺と違って。

 まぁ実際問題、どうしようもないだろう。だって、平々凡々な男が、ウサ耳がついたふわもこなフードマントを着てるんだぞ。後ろには、しっかり尻尾もついてるし。

 そんでもって、色は無駄に髪色に合わせたオレンジ。止めに真ん中にはポンポン付きのリボンだ。相変わらずオールイケメンな兵士さん方に、ひそひそされても仕方がないって。

 顔から湯気が出そうになりながらも、バアルさんとヨミ様が定期的に贈ってくれる「大変お可愛らしいですよ」、「愛らしいぞ!」というお褒めの言葉を拠り所にし、何とか進んでいた俺に救いの手が伸ばされる。

「……アオイ」

 後光が差して見えた。宝石のように煌めく緑の瞳を細め、白い髭がカッコいい口元を綻ばせ、長く筋肉質な腕を広げる彼の後ろから。

「バアルさんっ」

 喜びのあまり、つい勢いよく抱き着いてしまった。が、なんなく受け止めてくれて、軽々と抱き上げてくれる。

 すっからかんだった俺の心のゲージは、あっという間に満たされた。癒やしと安心感抜群の腕の中、好きな人の温もりと優しいハーブの香りに包まれているんだからな。当然だ。

 俺がバアルさんに抱っこしてもらえた瞬間。ソプラノとアルトが奏でる、最大音量の歓声が上がった気もするが、気のせいだろう。

 それから、どこか愉快そうな声が、

「心配性であるなぁ……斯様に照れ屋さんなアオイ殿を独り占めせずとも、とっくに貴殿に夢中であろう?」

 ひそひそと耳打ちしながら、俺を抱えてくれている彼を小突いたり。

「存じております。ですが、それとこれとは話が別……というものです」

 と穏やかな低音が、キッパリ肯定しつつ返したのも聞かなかったことにしよう。しようと試みていたんだが。

「それから、私の方が惚れ込んでおりますので」

 だなんて……胸がときめき踊り出す宣言を耳元でされてしまえば、反応するなというのが無理な話で。広い背中へ回した腕に、思いっきり力を込めてしまったんだ。

 勿論、良いお返事だと受け取られ、たっぷり撫で回してもらえましたよ、ええ。
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