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此方が私お気に入りの一枚、私めにあーんをして下さっているアオイ様、でございます

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 柔らかい目元が色っぽくて素敵な男性が、幸せそうに微笑んでいる。白い髭がカッコいい口元に差し出された、クリームとチョコアイスが乗った銀の匙を前にして。

 なんて素晴らしい写真なんだ……左側だけなら。心の中の額縁だけでなく、是非部屋にも飾りたいものだ。右側を除いて。

 ……投影石にもトリミング機能とか付いてないんだろうか。あるんだったら速攻で消したいんだが。

 素敵な男性、もといバアルさんの隣でスプーンを構える、目も頬もだらしなくふにゃふにゃに下がった男を、今すぐ。

 兎にも角にも全力で、バアルさんの笑顔だけを見ることに集中していた。だが、そんな俺の足掻きは無惨にも砕け散ることになる。よりにもよって、好きな人の手によって。

「此方が私、お気に入りの一枚。私めにあーんをして下さっているアオイ様、でございます」

 細く長い指先が軽やかに、投影石の表面を叩く。すると見る見る内に俺の顔だけ、アップにされていってしまった。

 どうやらズーム機能はあったらしい。今の現状からすれば、無くていいのにと思ってしまうが。

「うむっ此方も大変素晴らしい写真だな! この一枚だけでも十分、仲良しさんの雰囲気が伝わってくるのは勿論だが、見ているだけで頬が緩んで温かい気持ちになってしまうな!」

 通りのいい低音が、つらつらと感想を述べていく。もうすでに、何枚もの写真を見ているというのにも関わらず。

 しかも毎回ベタ褒めしていただけるのだ。お陰様で、のぼせてんのか? ってくらいに頭はくらくら。全速力ダッシュでもかましたのか? ってくらいに鼓動はバクバク、息も絶え絶えだ。

 ……マジで勘弁して欲しい。というか何でバアルさんは、そんなに堂々としていられるんだ? 自分だって、さっきからずっと映ってるのにさ。

「それに先程よりも、此方の方が自然な笑顔であるな。困ったように笑う姿も、大変健気で心を擽られるものがあったが……」

 いまだ褒め殺す勢いで言葉を紡いでいるヨミ様に、何度も頷いて同意を示すバアルさんは、大変ご満悦そうだ。

 とっくの昔にぐったり寄りかかってしまっている俺の背を、優しい手つきで撫でてくれながら、水晶のように透き通った羽をはためかせている。

「因みに此方のアオイ様は、はにかむ横顔が大変愛らしいのですが、正面からの映像も大変可愛らしく、気に入っております」

 穏やかな微笑みを浮かべる彼の指先が、円を描くように投影石を撫でる。

 その動きに合わせ、くるりと前を向いた俺のだらしない笑顔に、初めて恥ずかしさよりも驚きの方が上回った。

 え、撮った画像って動かせるの? 初耳なんだけど……と。そんでもって、珍しく冴えている俺の頭が閃いたんだ。

 ……待てよ。それじゃあ保存してもらった、バアルさんの超絶カッコいいアクションシーンも、色んな角度から拝めてしまうということでは?

 ということは、解決するのでは? 痺れるほどキレイな回し蹴りだけど……この角度からじゃ、肝心なバアルさんのカッコいい表情が見れないんだよなぁ……というもどかしさが!

 またしても、俺の頭からは自分が置かれている現状が、抜け落ちてしまっていた。そんでもって、二人の声もいつの間にか聞こえなくなっていた。

 どんどこ心臓がはしゃぎ始めている俺の脳内は、すっかり好きな人の勇姿で、いっぱいになってしまっていたからな。

 それどころか、後で早速、バアルさんに教えてもらって試してみよう……などと、すっかりウキウキしてしまっていたんだ。

 まぁ常に、揺るぎない優先順位第一位にバアルさんが君臨しているんだから、仕方がない。

 だからまぁ、気づく訳がなかった。一番見られたら困る写真に切り替わっていたことなんて。

「おおっ実践したんだな、流石バアルだ! 二人共、素敵だぞ!」

「お褒めに預かり、光栄に存じます」

「……ふぇ」

 仕方がないだろう、間の抜けた声が出てしまうのも。だって、いくらヨミ様からの提案だったからって。そんな誇らしげに映しながら、報告しなくてもいいじゃないか。

 ……俺の頬に、バアルさんが……き、キスしてくれてる写真を。

 どうやら、恥ずかしさが限界突破すると人間は、無になるらしい。

 もう、いいや……このままバアルさんの温もりを堪能していよう。

 優しいハーブの匂いが香る彼の胸元に頬を寄せた時だった。

「勿論、アオイ殿がバアルに口付けるバージョンもあるのだろう?」

 嬉々として発せられたヨミ様の一言により、バアルさんの綻んだ表情が固まったのは。
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