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こたつにみかん、そして新たな冬といえば
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随分とミスマッチだ。
赤にオレンジ、それから黄色のチェック模様のふかふかな生地を纏ったこたつが、シャンデリアの下にデンっと構えている様は。
おまけに王道というかなんというか。木製の板の上には、しっかりカゴに盛られたみかんが君臨している。
こたつにみかん、最強のコンビだな。それでもやっぱり豪華なホテルの様な、ファンタジーな貴族様が暮らすお部屋の様なこの部屋では、滅茶苦茶浮いてしまっているが。
「いかがでしょうか?」
「あ、はい。完璧です」
バアルさんの術によって瞬きの間に出現した、これぞまさにこたつ! というビジュアルに頷くと「それは何よりです」と胸に手を当て、キレイな角度のついたお辞儀を返してくれる。
「では、アオイ様。どうぞ、此方へ……」
流れるような所作に見惚れている内に、バアルさんがいそいそと先陣を切ってこたつの中へと入っていた。
長く引き締まった足をゆったり伸ばし、微笑みながら俺に向かって手招きしている。
……かわいい。もしかして、楽しみにしてくれていたんだろうか。水晶のように透き通った羽はぱたぱたはためき、柔らかい眼差しは期待に輝いている。
白手袋を纏った手で、こたつ布団を捲くって待つ彼の元へと吸い寄せられた俺は、再び長く筋肉質な腕の中へと収まった。今度は、後ろから抱き締められる形で。
腹回りに手を重ね、ぴたりと密着した彼が、俺の肩に顎をそっと乗せてくる。そのお陰だ。
懐かしい、足をぽかぽか照らす温かさを味わう余裕なんて、一気になくなってしまっていた。
「成る程、これは確かに居心地が良いですね」
「はぃ……」
これは、マズい。バアルさんが静かな呼吸を繰り返すだけで、吐息が耳に触れてしまう。ただでさえ高鳴りっぱなしの心臓が、破裂してしまいそうだ。
優しいハーブの香りに包まれている喜びと、何とも言えないもどかしさの間で俺が悶えているなんて、彼は知る由もない。
だからだろう。甘えてくれているように、滑らかな頬を擦り寄せてきたんだ。スゴく嬉しいけれど、困ってしまう。
ご機嫌そうにくすくす笑いながら、柔らかいほっぺたをむにっとくっつけては少し離す。すかさず、またくっつけては離す……を繰り返していらっしゃる。何度も。
好きな人からの過剰な供給にあっさり俺が限界を迎え、へにゃへにゃになってもなお、続けてもらえてしまったんだ。
なんか途中から確信犯だった気もするんだが……何にせよ、バアルさんが楽しそうだったからオールオッケーだ。かわいかったしな。
ひとしきりじゃれてもらえた後、程よい弾力のあるお胸に背を預けていると、大きな手がみかんの山に向かって伸びていく。
てっぺんのを一つ取ってから、ヘタを下にして俺の前に置き、指先でちょんと真ん中をつついた。
すると蕾が花開くように、ぱかんと気持ちよく皮が剥けた。続けて中身もキレイに一房ごとに分かれていく。
「え、スゴっ」
「お褒めに預かり光栄です」
目の前の驚きにあっさり釣られて身を起こした俺に「手抜きをしただけですが」と彼が笑う。
手品ではなく、これまた術によるものだったようだ。便利だな……ホントに。
感心している俺に「手抜きついでに此方もどうぞ」と柔らかい声が囁く。
どこからともなく現れた二つの湯呑からは、もうもうと白い湯気が上っていた。香りと色からして、中身は緑茶のようだ。
「アオイ様」
細く長い指が摘んだみかんのひと欠片が、二人羽織よろしく俺の口元へと運ばれる。大サービスだ。今までも十分気遣いにあふれていたってのに。
「あ、ありがとうございます……いただきます」
経験上、当たり外れがあるもんだが、これは当たりだったようだ。ひと噛みするだけで、瑞々しい甘さが口いっぱいに広がっていく。
100%のオレンジジュース……いや、みかんゼリーでも食べているような濃厚さだ。
「ん、甘くて美味しいです」
「ふふ、左様でございますか」
「はい、バアルさんもどうぞ」
これはお裾分けせねばとみかんを摘み、振り返る。ありがとうございます、と嬉しそうに綻んだ唇がオレンジの果肉を食んだ。
「……これは、絶品ですね。爽やかな風味は勿論ですが、コクのある甘さが大変美味しいです」
分かる。同意しかない。
感じ取ってはいたものの、甘くて美味しいとしか言えなかったお味を、俺の代わりにバアルさんが表現してくれた。
「ですよね! もう一つどうですか?」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
背筋を伸ばし、お行儀よく構えている彼に半月形の実を食べさせては、お返しに俺もいただく。
これもこたつの魔力なんだろうか。みかんがどんどん進んでしまう。
バアルさんも同じみたいで、いつの間にかカゴから二つ目を手に取っていた。なんだかいつもよりウキウキしていてスゴくかわいい。
羽をはためかせながら早速また人差し指で、ぱかんとみかんのお花を咲かせていらっしゃる。あ、ありがとうございます。いただきます。
あれよあれよとカゴに乗ったみかんの山が減っていき、代わりに皮で出来たお花が積み上がっていく。冬の風物詩、こたつでみかんを好きな人と満喫していた時だった。
「バアルっ、アオイ殿! 雪を用意したぞ! 新雪であるぞ!!」
勢いよく扉を開き、賑やかな嵐が俺達の元へと新たな冬といえば……を連れてやってきたのは。
赤にオレンジ、それから黄色のチェック模様のふかふかな生地を纏ったこたつが、シャンデリアの下にデンっと構えている様は。
おまけに王道というかなんというか。木製の板の上には、しっかりカゴに盛られたみかんが君臨している。
こたつにみかん、最強のコンビだな。それでもやっぱり豪華なホテルの様な、ファンタジーな貴族様が暮らすお部屋の様なこの部屋では、滅茶苦茶浮いてしまっているが。
「いかがでしょうか?」
「あ、はい。完璧です」
バアルさんの術によって瞬きの間に出現した、これぞまさにこたつ! というビジュアルに頷くと「それは何よりです」と胸に手を当て、キレイな角度のついたお辞儀を返してくれる。
「では、アオイ様。どうぞ、此方へ……」
流れるような所作に見惚れている内に、バアルさんがいそいそと先陣を切ってこたつの中へと入っていた。
長く引き締まった足をゆったり伸ばし、微笑みながら俺に向かって手招きしている。
……かわいい。もしかして、楽しみにしてくれていたんだろうか。水晶のように透き通った羽はぱたぱたはためき、柔らかい眼差しは期待に輝いている。
白手袋を纏った手で、こたつ布団を捲くって待つ彼の元へと吸い寄せられた俺は、再び長く筋肉質な腕の中へと収まった。今度は、後ろから抱き締められる形で。
腹回りに手を重ね、ぴたりと密着した彼が、俺の肩に顎をそっと乗せてくる。そのお陰だ。
懐かしい、足をぽかぽか照らす温かさを味わう余裕なんて、一気になくなってしまっていた。
「成る程、これは確かに居心地が良いですね」
「はぃ……」
これは、マズい。バアルさんが静かな呼吸を繰り返すだけで、吐息が耳に触れてしまう。ただでさえ高鳴りっぱなしの心臓が、破裂してしまいそうだ。
優しいハーブの香りに包まれている喜びと、何とも言えないもどかしさの間で俺が悶えているなんて、彼は知る由もない。
だからだろう。甘えてくれているように、滑らかな頬を擦り寄せてきたんだ。スゴく嬉しいけれど、困ってしまう。
ご機嫌そうにくすくす笑いながら、柔らかいほっぺたをむにっとくっつけては少し離す。すかさず、またくっつけては離す……を繰り返していらっしゃる。何度も。
好きな人からの過剰な供給にあっさり俺が限界を迎え、へにゃへにゃになってもなお、続けてもらえてしまったんだ。
なんか途中から確信犯だった気もするんだが……何にせよ、バアルさんが楽しそうだったからオールオッケーだ。かわいかったしな。
ひとしきりじゃれてもらえた後、程よい弾力のあるお胸に背を預けていると、大きな手がみかんの山に向かって伸びていく。
てっぺんのを一つ取ってから、ヘタを下にして俺の前に置き、指先でちょんと真ん中をつついた。
すると蕾が花開くように、ぱかんと気持ちよく皮が剥けた。続けて中身もキレイに一房ごとに分かれていく。
「え、スゴっ」
「お褒めに預かり光栄です」
目の前の驚きにあっさり釣られて身を起こした俺に「手抜きをしただけですが」と彼が笑う。
手品ではなく、これまた術によるものだったようだ。便利だな……ホントに。
感心している俺に「手抜きついでに此方もどうぞ」と柔らかい声が囁く。
どこからともなく現れた二つの湯呑からは、もうもうと白い湯気が上っていた。香りと色からして、中身は緑茶のようだ。
「アオイ様」
細く長い指が摘んだみかんのひと欠片が、二人羽織よろしく俺の口元へと運ばれる。大サービスだ。今までも十分気遣いにあふれていたってのに。
「あ、ありがとうございます……いただきます」
経験上、当たり外れがあるもんだが、これは当たりだったようだ。ひと噛みするだけで、瑞々しい甘さが口いっぱいに広がっていく。
100%のオレンジジュース……いや、みかんゼリーでも食べているような濃厚さだ。
「ん、甘くて美味しいです」
「ふふ、左様でございますか」
「はい、バアルさんもどうぞ」
これはお裾分けせねばとみかんを摘み、振り返る。ありがとうございます、と嬉しそうに綻んだ唇がオレンジの果肉を食んだ。
「……これは、絶品ですね。爽やかな風味は勿論ですが、コクのある甘さが大変美味しいです」
分かる。同意しかない。
感じ取ってはいたものの、甘くて美味しいとしか言えなかったお味を、俺の代わりにバアルさんが表現してくれた。
「ですよね! もう一つどうですか?」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
背筋を伸ばし、お行儀よく構えている彼に半月形の実を食べさせては、お返しに俺もいただく。
これもこたつの魔力なんだろうか。みかんがどんどん進んでしまう。
バアルさんも同じみたいで、いつの間にかカゴから二つ目を手に取っていた。なんだかいつもよりウキウキしていてスゴくかわいい。
羽をはためかせながら早速また人差し指で、ぱかんとみかんのお花を咲かせていらっしゃる。あ、ありがとうございます。いただきます。
あれよあれよとカゴに乗ったみかんの山が減っていき、代わりに皮で出来たお花が積み上がっていく。冬の風物詩、こたつでみかんを好きな人と満喫していた時だった。
「バアルっ、アオイ殿! 雪を用意したぞ! 新雪であるぞ!!」
勢いよく扉を開き、賑やかな嵐が俺達の元へと新たな冬といえば……を連れてやってきたのは。
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