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……そろそろ私ではなく、こたつのことを考えては頂けないでしょうか?

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「……暖房器具、でございますか」

 思い当たる物がないんだろうか。俺の言葉をそのまんま繰り返した彼は、いまだにきょとんとしている。

「はい。テーブルを布団みたいな布で覆って、中に暖かいものを入れるっていうか……テーブル自体に暖かくなる装置が付いてるっていうか……」

 続けて、俺なりの知識で詳細を伝えてみたが、彫りの深い顔が余計に渋くなるばかり。

 相手が全然知らない物を言葉だけで、分かるように一から説明するって難しいんだな……こたつなんて、その名詞だけでイメージが伝わるもんだったしなぁ。現世じゃ。

「ふむ……宜しければ、術で貴方様の思考を覗かせて頂けませんでしょうか?」

「ああ、いいですよ。こたつのことを考えていたらいいんですよね?」

「ええ。強くイメージして頂けた方が、見やすいので」

 助かります、と微笑む彼に、いえいえ、と微笑み返す。俺も大分、此方の世界に馴染んできたのかもしれない。

 なんせバアルさんからのとんでもない提案に対して、やっぱり魔術って便利だなぁ……という感想しか抱いてないんだからな。

 まぁ、今まで散々体験してきたしな。部屋全体が一瞬でダンスホールに変わったり、時間の流れが俺達の部屋の中だけ遅くなったりさ。そりゃあ慣れるよな、多少は。

「では、失礼致します」

 何だかしみじみしていた俺と彼との距離が、ぐっと急に近くなる。額がそっと重なって、吐息が触れ合う密着具合に、のんびりしていた心臓が大きく跳ねた。

 あ……目、閉じててもカッコいいな。というか、何だか新鮮だ。いつも……き、キスしてもらう時も、する時も……こんな風に見る余裕なんて無かったもんな。そもそも俺……目、閉じてるし大体。

 優しい笑みの形を描く唇を前にして、甘い記憶を掘り起こしたからだ。頭の芯がぽやぽやする淡い感覚と一緒に、柔らかい感触まで思い出してしまった。

 どうしよう、キスして欲しくなっちゃったんだけど……後でお願い、してみようかな……

 そわそわし始めていた俺の頭の中は、あっという間にバアルさんのことでいっぱいになってしまっていた。

 すっかり見惚れてしまっていたんだ。間近にある、今日も後ろにカッチリ撫で付けられたオールバックが爽やかで素敵な彼に。今、何をしていたのかもあっさり忘れて。

 ふと、鼻先にあるカッコいいとキレイを兼ね揃えたお顔が、ほんのり赤く染まっていく。

「……アオイ様」

 困ったように眉を下げた彼の目がそっと開く。少し俺を見つめてから、何故だろう? すぐに逸らされてしまった。

「は、はい……何ですか? バアルさん」

 尋ねてみても、呼んでみても、柔らかい眼差しと合うことはない。気恥ずかしそうにゆらゆら揺れたままだ。何か、してしまったんだろうか?

「大変、大変嬉しく、身に余る光栄に存じております……」

 変わらず彼は言いにくそうだ。俺の肩に添えられた手も、触覚も、小刻みに震えている。

「はい……」

 でも、嬉しいって言ってくれてるってことは……やらかした訳じゃないんだな。よかった……

 安心した俺が気づく訳がなかった。まぁ、気づいたところでもう、とっくの昔に手遅れなのだが。

「ですが……そろそろ私ではなく、こたつのことを考えては頂けないでしょうか?」

 おずおずと切り出された言葉が、ドスンっと俺の心に重く伸し掛かる。きゅっとなった喉から潰れたような声が思わず漏れていた。

「……ぇ、あ」

 バカだ、俺は。思考を覗いているんだから、現在進行形で考えてることが、バアルさんに筒抜けになるってことじゃないか。

 なのに……さっきまで俺、何考えてたんだ? やれバアルさんがカッコいいとか……き、キスして欲しいとかさ……

「は、はぃ……ご、ごめんなさい……」

「……いえ」

 覆った顔が熱い。絶賛下を向いている心に、大きな手でよしよしと慰めてくれる彼の優しさが染みていく。

 どんな状況に置いても、常に適切な行動を取れるバアルさんの励ましは完璧だった。

「私も、貴方様の可愛いらしい笑顔と透き通った琥珀色の瞳……そして愛らしい仕草に常日頃、心を奪われておりますよ」

 両手で包み込むように俺の頬を撫でてくれながら、とびきりの笑顔とともに温かい言葉を贈ってくれたんだから。

「あ、ありがとうごじゃいまふ……」

「ふふ、どういたしまして」

 こぼれるような笑みを浮かべた唇が、俺の額にそっと触れてくれる。

 つい強請るように目を閉じると、くすりと小さく笑った後に優しく口付けてもらえたんだ。
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