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★ ちょっとくらい痛くても我慢しますから

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 一応俺は最近、察することは出来るようになったつもりだ。彼の表情や触覚、羽の動きによって今どういう感情を抱いてるのかを。

 そんなバアルさん検定準二級の俺から言わせてもらおう。まず嫌がってはいない、絶対。何でか困ってるみたいだけど。

 あまり見たことのない形で唇を、ぐっと堪えるように引き結ぶ彼の白い頬はほんのり染まっている。

 ぴんっと伸びた触覚も、大きくぶわりと広がった羽も小刻みに震えていて、何だか辛そうだ。

「まだ、ダメ……ですか?」

「はい」

 取り敢えず、思い当たる答えを投げかけてみる。即刻頷いてきたあたり、先程の俺の考えは間違ってはいないようだ。

「貴方様からのお申し出については、大変嬉しく存じておりますが……」

 続けて紡がれた言葉に、分かってはいたけれどホッとした。したのが、ある意味いけなかったのかもしれない。

「だったら、いいじゃないですか。俺、バアルさんのお陰で、その……お、お尻だけでも、ちゃんと気持ちよくなれるように、なりましたよ?」

 満たされれば、その先が欲しくなってしまう。そんな欲張りな俺の口は、彼の言葉を盾にゴネてしまっていた。ヘタれな俺にしては珍しく、自分からアピールまでして。

 気がつけば、彼の胸元をしわくちゃにしてしまっていた手に、ひと回り大きな手が重なる。

 ゆるゆる甲を撫でられ、くしゃりと歪んだ生地を手放すと、白い指がするりと絡んで繋がれた。

 困ったように微笑む彼の、柔らかい目元がほんのり赤い。細められた緑の瞳が少しだけ、滲んで見えたのは俺の気のせいだろうか。

「……確かにそちらについては問題ございません。ですが、私めを痛みなくスムーズに受け入れて頂く為には、まだ時間をかけて解していく必要が……」

「じゃあ我慢しますっ……ちょっとくらい痛くても、バアルさんに抱いてもらえるなら俺……」

 嬉しいですから、と続けようとしたが無理だった。途端にしょんぼり下がって縮んでいく触覚と羽に、胸がきゅっと締め付けられて。

 不意に蘇ったんだ。囁いてくれた彼の優しい言葉が。


『貴方様が心地よく感じてくれなければ、何も意味は無いのですから……』


「うっ…………」

 普段の俺だったらここで引くだろう。でも、今日の俺は何故か食い下がってしまっていた。

「さ、先っちょ……先っちょだけでも、ダメですか? いきなり全部は無理にしても」

 その結果が、この何とも言えない提案である。正直、冷静になって考えてみても、よく分からない言い分だ。

 そんな俺の我儘に対して呆れることもなく、引くこともなく、至極真面目に受け取ってくれたバアルさんは、やっぱり優しさの化身でしかないだろう。

「……最初は、そのように少しずつ慣らしていくつもりではございます」

「じゃあっ」

「今はなりません。貴方様の可愛らしいお尻を傷つけてしまいます」

 今度こそ、引き下がるより他はなかった。どうか今しばらくお待ち下さい、と心配そうな瞳で見つめられてしまえば。

「……せめて、私の指が三本入るくらいにはなりませんと……」

 ぽつりと漏れた呟きは、今思えば彼からの歩み寄りというか、妥協案だったのだろう。単純な俺は、喜び勇んで飛びついてしまっていたのだけれども。

「三本ですね! 三本入ったら、抱いてくれるんですね!」

「……入るのは大前提と致します。かつ、貴方様が気持ちよく達することが出来ましたら……その時は、抱かせて頂きます」

「分かりましたっ俺、頑張りますから……約束、ですよ?」

「心得ました」

 微笑む彼に指切りをしてもらい、俺はご機嫌だった。だからまぁ、俺にしてはほいほいと答えられたんだと思う。

「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「はい、何ですか? バアルさん」

 再び重なった大きな手が落ち着きなく、優しく握っては緩めてを繰り返す。

 小さく息を呑むような音がして、真剣な光を宿した緑の瞳が俺を見つめた。

「貴方様は私に……先程もですが、抱いて欲しい、と度々仰ってくれていましたよね」

「は、はい……」

「ですが、やはり未体験の怖さや、同性同士という抵抗感が多少あるように感じていたのですが……」

 ああ、やっぱり彼は優しいな。珍しくヘタれていない俺に対して、心配してくれているみたいだ。もしかしてムリしてるんじゃないかって。

 確かに俺はいつも、好きだって気持ちばかりが先行しちゃって結果、いざって時に戸惑って……バアルさんをお待たせしてばかりだったもんな。

 繋いだ手から伝わってくる温かさに、胸の奥までじんわり熱くなる。

 この気持ちを、彼への想いをどうにか言葉にしようと、俺は勇気を総動員して口を開いた。

「確かに全然無くなったって言ったら、ウソになっちゃいますけど……その、圧倒的に上回ったといいますか……」

「と仰いますと?」

 顔がどんどん熱くなるのに比例して、声がだんだん小さくなってしまう。

 それでも、たとえ……ひっちゃかめっちゃかだとしても、伝えなければ……

 その気持ちだけに突き動かされ、彼の手を握り締めた。

「昨日の…………スゴく、嬉しくて……気持ちよくて……バアルさんに抱いて欲しいなって気持ちが、今まで以上に強くなったといいますか……だから……んんっ」

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。気がつけば、柔らかいものに口を塞がれ、筋肉質な腕の中に閉じ込められていた。

 ……どアップで見てもカッコいいな。あ、やっぱり睫毛長いな、くるんてしてる。

 なんて、のほほんと構えていた俺の心臓は、直後にバクバクと過重労働をさせられることになる。

 耳の先まで顔を赤らめ、透明な涙の膜でキレイな瞳を滲ませた、彼の一言を皮切りに。

「申し訳ございません……もう、我慢の限界です……」

 熱のこもった荒い吐息が鼓膜を揺らす。一気に熱くなった身体の奥が、ジンと疼いたせいだ。喉が震えて言葉にならない。

 何か、応えなければ……

 広い背中に腕を回した瞬間、唐突な浮遊感が俺を襲った。軽々と俺を抱き抱えたまま、部屋の奥へと足早に進んで行く。

 ふかふかのベットへと背中から優しく転がされたかと思えば、すぐにバアルさんが覆いかぶさってきた。
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