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ヨミ様とバアルさんについて語り合うハズが

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 サタン様の息子さんであるヨミ様は、地獄の現王様である。顔面偏差値が高いこちらのお国柄の中でも、美の神様がお作りになられたのか? ってくらい飛び抜けてイケメンだ。

 当然、スタイルも抜群だ。存在自体が芸術品みたいな方だからな。笑顔も国宝級の絵画みたいにキレイだしさ。

 さらには、懐が広く、面倒見もよく、情に厚いという中身もほっこり眩しい御方だ。要は、パーフェクトイケメンだ。バアルさんと同じ。

 それから、俺が日々コツコツこなしている、石に魔力を込めて魔宝石にするっていう内職の雇い主様でもある。

 そんでもって最近、彼とはファン友でもあるんだ。彼にとっては右腕、俺にとっては……大好きで、スゴく大事な人である、バアルさんの。

 ついこの間のハロウィンでも、俺と彼のバアルさんコレクションが滅茶苦茶潤ったんだ。彼が用意してくれたコスチュームと、開催してくれた撮影会のお陰で。なのにさ。



 白く柔らかな日差しが、大きな窓から差し込む昼下り。キラキラ光る青い水晶のシャンデリアが見守る室内は、明るいざわめきに満ちている。

 そんな中、俺は湯気でも出ていそうなくらいに顔を熱くし、力なく沈んでいた。

 背もたれや足の部分に銀の装飾が施された、座り心地抜群のソファーに背中を委ね、隣に座っているバアルさんの引き締まった腕を抱き抱え。

 時には、彼が纏う上質な黒のスーツジャケットに、シワを付けてしまいながら。

 多忙な中、俺達の為に時間を作り、約束通り部屋を訪れてくれた、ヨミ様の御前だというのに。

 一方、バアルさんは上機嫌だ。額の触覚をゆらゆら揺らし、背中の半透明な羽をぱたぱたはためかせている。

 艷やかな白い髪をカッチリ後ろに撫でつけた、オールバックが決まっていてカッコいい。整えられた白い髭も渋くて素敵だ。

 彫刻みたいな、盛り上がるところは盛り上がり、引き締まるところは引き締まった身体にスーツを纏い、マナー講座本にお手本として載っていそうなキレイな姿勢でソファーに腰掛けている。

 優しげに細められている、宝石のように煌めく緑の瞳が、一度俺に微笑みかけてくれてから前を向く。

 銀の装飾をあしらったテーブルを挟んだ、向かいのソファーへと。そのど真ん中で、すらりと伸びた足を組みながら、白い陶器のティーカップを優雅に傾けるヨミ様へと。

 宥めるように俺の頭を撫でてくれていた、白い手袋に覆われた手が、どこからともなく見覚えしかない箱を取り出す。

 音もなく、静かに置かれた透明な蓋越しには、お揃いのティーカップが二組、仲良く並んでいた。

「こちらが、アオイ様から誕生日プレゼントとして頂いた、ティーカップでございます」

「おぉっ! 流石はアオイ殿、良いセンスだな! 可愛らしい花柄も素敵だが、何より背景色の淡い緑が素晴らしい!」

「ひぇ……」

 ますます顔が熱くなってしまう。勢いよく身を乗り出したヨミ様から、お褒めのお言葉ラッシュを頂いて。

 続けて、左様でございましょう、と言わんばかりに得意げに、何度も頷くバアルさんから頭をよしよし褒められて。

 眩しい笑顔で箱を眺めるヨミ様は、別人みたいだ。さっきまでの、完璧に着こなしている黒の貴族服に見合う、威厳と優美さにあふれたお方とは。

 鋭く真っ赤な瞳は無邪気に輝き、コウモリの形をした真っ黒な羽は、ご機嫌よろしくはためいていらっしゃる。

 お変わりがないのは、側頭部から生えている立派な鋭い角の輝き。それから、靡くキューティクルな黒の長髪と、はためく金の装飾が施された片マントだ。

 イケメン特有の風? は本日も絶好調らしい。ヨミ様のテンションが上がる度に、爽やかに吹いていらっしゃる。

 と思わず、繰り広げられている現実から全力で逃げてしまっていたが、何なんだこの状況は?

 恥ずかしいやら、嬉しいやらで、どうにかなってしまいそうなんだが。

 約束では、ヨミ様の好物であるバームクーヘンを頂きながら、俺達の城下町デートのお話をするハズだったのでわ?

 いや、まぁ……話してるのは話してるんだけどさ。何故かスポットが俺に当たってしまっているだけで。

 てっきり、というか絶対ヨミ様と、あの時のバアルさんがカッコよかったんですよ! かわいかったんですよ! って盛り上がると思っていたのにさ。

 何がどうしてこうなった? と尽きない疑問を浮かべつつ、ちゃっかり優しく撫でてくれる手の温もりを堪能していた俺を、さらなる追い打ちが襲いかかってきたんだ。

「さらにこちらが、アオイ様が美しい瞳を輝かせるほど気に入って下さった、ハーバリウムでございます。昨日の記念に、私がプレゼントさせて頂きました」

 再び、どこからともなく雫型の瓶がテーブルに現れる。おそらくバアルさんの魔術によるものだろう。

 ベッドサイドに飾られていたハズのハーバリウムが、ぽんっと突然瞬間移動してきたのは。

 瓶の中では、いくつものハート型の葉っぱが集まり、大小様々な満開の花を咲かせ、テーブルに淡い緑の影を落としている。

 葉っぱの周りをキラキラと舞うオレンジ色の細かい結晶が、温かみを帯びた緑に彩りを添えていた。

「ふむ……なんとも鮮やかな緑が美しいな! アオイ殿が心惹かれてしまった気持ちがよく分かる。バアルの瞳の輝きには及ばないがな!」

「あぅ……」

 まさか、日を改めて再び、言い当てられることになるとは思わなかったんだが。

 好きな人の瞳の色と似てたから、目に留まったんですね! と。

 何で皆鋭いんだ? それとも、よっぽど俺の好意はダダ漏れになってるっていうのか?

 すでにバレてはいるんだが、それでも御本人の居る前で指摘されると恥ずかしい。恥ずかしいってのに、追撃は止まらない。

「更に、更に此方が、アオイ様が愛らしく微笑みながら、思わず手に取られた猫クッションでございます」

「うむっ! とろんとした寝顔が大変愛くるしいな! アオイ殿が抱き抱えると、ただでさえ魅力的な可愛らしさが、より増すだろう!」

「ふぇ……」

 是非、持っているところを見せてはくれないか? と期待の眼差しが正面から注がれる。

 思わず隣を見上げれば、こちらも負けず劣らずキラキラと煌めいていた。

 ヨミ様から直々のお願いってだけでも、十分過ぎる。なのに、好きな人からの無言のお強請りブーストがかかってしまえば、後は言うまでもない。

 後にも先にも今日だけだろう。うっとりと瞳を閉じた猫のクッションを抱えただけで、お褒めの言葉を頂き、さらには惜しみない拍手を浴びることになったのは。
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