187 / 1,047
★ バアルさんは知る由もないだろう
しおりを挟む
「へ?」
うっかり間抜けな声が漏れてしまっていた。思いがけない謝罪に思考を中断されて。
力なく羽を縮めた彼のひと回り大きな手が、頬をゆるゆる撫でながら言葉を続ける。
「私のせいでございます……出来心、と申しますか……無防備に甘えてくる貴方様が大変可愛らしく……ついあのような触れ方を……」
言いにくそうにポツポツ呟く彼に対して、口をついて出てしまっていた。
「えっと……じゃあ、もしかして……ちょっかい、出したくなっちゃったっ……てこと、ですか?」
有り得ないだろ……と放っていた結論に「左様でございます……」と彼が頷く。
「なんだ、そうだったんですか……安心しました」
いやぁ……てっきり、俺が滅茶苦茶敏感になったのかと思っちゃったよ。そりゃあ、気持ちよくもなっちゃうよな。バアルさんがそういうつもりで、触ってくれていたんだったらさ。
……んー……でも、待てよ……それはそれで有りだったのか? 俺が気持ちよくなれた方が、バアルさんは喜んでくれるんだし。今までだって、そうなれるように……じっくりゆっくり教えてもらっていたんだしさ。
うんうん回している俺の思考は、再び遮られることになる。手を重ねてそっと握り、おずおずと尋ねてきた彼によって。
「怒って……いらっしゃらないのですか?」
しょんぼり瞳を細める彼の表情には、意外だと書かれているように見えた。俺にとっては、全くもってそうではないのだが。
「全然。むしろ、その……嬉かった、です……」
彼は知らないし、この先だって知る由もないだろう。バアルさんが好きで好きで仕方がない俺にとっては、構ってもらえるだけで嬉しくて堪らないんだって。
「アオイ様……」
それから、俺が存外欲張りな男だってことも。
「ただ……責任は、ちゃんと取ってくれますよね?」
一旦そういうスイッチが入ると、俺でも大胆になれるのだろうか。珍しく積極的なお誘いが出来たどころか、奪うことに成功したんだ。
「はい、存分に……」
重ねるというよりは、押し付ける形になってしまっていた口を、優しく食んでくれてから彼が囁く。うっとりと細められた瞳には、妖しい熱がこもっていた。
「貴方様がご満足頂けるまで……たっぷり致して差し上げますね」
「ひゃいっ……お、お願いします……」
結局、彼からあふれる色気に敵うわけもなく。何とも締まらない返事をしてしまった口が再び、艷やかな笑みを浮かべた唇に塞がれる。
触れ合うだけの軽いキスを合図に、細く長い指が再び動き始めた。
「ふ……ん、ぁ、んん……」
柔らかい感触が順番に触れていく。額、頬、口、最後に首元へと。耳元でわざとらしいリップ音が鳴る度に、勝手に身体が跳ねてしまう。
今まで根気よく、バアルさんに触れてもらっていた成果が出ているんだろう。熱い吐息がかかるだけでも、ぞくぞくした感覚が走ったんだ。
……気持ちいいんだと思う。多分。
いつの間に、胸元へと移動していたんだろうか。するりとシャツの中へと侵入した白い指先が、すでに立ち上がってしまっていた乳首を優しく撫で回す。
「んぅっ……うぁ、あっ、あ……」
首の辺りにばかり気を取られていたせいだ。不意の甘い刺激に思わず、筋肉質な二の腕を強く掴んでしまっていた。
「ご、ごめんなさい……」
慌てる俺に対して、バアルさんはきょとんとしている。痛くもなんともなさそうだ。
結構、力込めちゃったハズなのに……よっぽど丈夫なんだろうか。いや、ただ単に俺の力が貧弱ってだけかもしれないけどさ。
花が咲きこぼれるように綻んだ彼の唇が、俺の額や頬に優しく触れてくれる。
「ふふ、大丈夫ですよ。宜しければ、手を繋ぎましょうか?」
ただでさえ高鳴りっぱなしの心臓が、大きくドクンと跳ねてしまった。触ってもらえるだけでも嬉しいのに、ずっと彼の手を握っていられるなんて。
「繋ぎたい、です……スゴく……でも……」
手を差し出してくれたまま、不思議そうにバアルさんがこちらを見つめる。
そんな彼を前にして、俺はとんでもなく欲張りなことを考えてしまっていた。
両手で触ってもらえなくなっちゃうな……と。
「……成る程……確かに、この様な触れ方は出来なくなりますね」
よっぽど、俺は分かりやすいんだろうか。それともまた、無意識のうちに口から出てしまっていたんだろうか。
どちらにせよ、あっさり見抜かれてしまったらしい。大きな手がよしよしと俺の頬を撫でながら、もう一方の指先が焦らすように乳首の回りをなぞっていく。
「あっ、バアルさん……ふぁ……」
「手を繋ぎたくなられた時は、遠慮なく仰って下さいね。それまでは、貴方様がお好きなところを両手で触って差し上げますから」
視界の端で、どこか上機嫌に半透明の羽がはためいている。優しく微笑みかけてくれている間も、指の動きは止まらない。
頭の奥が、ジンジン痺れているみたいだった。気がつけば、シャツの中に潜り込んでいたもう一方と、左右同時に摘ままれて。捏ねるように指の腹で、クリクリと優しく揉まれて。
「は、はい……ぁ……んん、あ、あっ……」
頷くのが精一杯な俺に、艷やかな笑みを浮かべた唇が甘やかすようなキスを送ってくれる。何度か交わした後に、熱く湿った体温がぬるりと口内へと入ってきた。
「ん、ふ、ふっ……ぁ……んむ……ん、ん……」
優しく絡め取られて、擦り合わされて。気持ちがよくて、堪らない。心地のいい波が全身に広がっていくみたいだ。
すっかり彼との深い触れ合いに溺れていると、敏感な先端を再び指の腹できゅっと挟まれた。こちらも忘れないで下さいね、と言っているように。
「んぅっ…………ん……ぁ、ふ……」
それが、引き金になったのかもしれない。じくじく疼いていた下半身が突然ぶるりと震え、滲んでいく。
自分の身体だ。イヤでも、何でも、認めたくなくても分かる。情けないことに、イってしまったんだと……ちょっとだけ。
「ん、は……アオイ……」
流石というか案の定、バレてしまっているらしかった。熱のこもった声で俺の名を呼ぶバアルさんは、何だかスゴく嬉しそうだ。それからアフターケアも完璧だった。
「大丈夫ですよ……大変可愛らしかったですよ……」
俯きかけていた俺の顔を手のひらで優しく包み込みながら、ゆるゆる撫でてくれたんだ。
うっかり間抜けな声が漏れてしまっていた。思いがけない謝罪に思考を中断されて。
力なく羽を縮めた彼のひと回り大きな手が、頬をゆるゆる撫でながら言葉を続ける。
「私のせいでございます……出来心、と申しますか……無防備に甘えてくる貴方様が大変可愛らしく……ついあのような触れ方を……」
言いにくそうにポツポツ呟く彼に対して、口をついて出てしまっていた。
「えっと……じゃあ、もしかして……ちょっかい、出したくなっちゃったっ……てこと、ですか?」
有り得ないだろ……と放っていた結論に「左様でございます……」と彼が頷く。
「なんだ、そうだったんですか……安心しました」
いやぁ……てっきり、俺が滅茶苦茶敏感になったのかと思っちゃったよ。そりゃあ、気持ちよくもなっちゃうよな。バアルさんがそういうつもりで、触ってくれていたんだったらさ。
……んー……でも、待てよ……それはそれで有りだったのか? 俺が気持ちよくなれた方が、バアルさんは喜んでくれるんだし。今までだって、そうなれるように……じっくりゆっくり教えてもらっていたんだしさ。
うんうん回している俺の思考は、再び遮られることになる。手を重ねてそっと握り、おずおずと尋ねてきた彼によって。
「怒って……いらっしゃらないのですか?」
しょんぼり瞳を細める彼の表情には、意外だと書かれているように見えた。俺にとっては、全くもってそうではないのだが。
「全然。むしろ、その……嬉かった、です……」
彼は知らないし、この先だって知る由もないだろう。バアルさんが好きで好きで仕方がない俺にとっては、構ってもらえるだけで嬉しくて堪らないんだって。
「アオイ様……」
それから、俺が存外欲張りな男だってことも。
「ただ……責任は、ちゃんと取ってくれますよね?」
一旦そういうスイッチが入ると、俺でも大胆になれるのだろうか。珍しく積極的なお誘いが出来たどころか、奪うことに成功したんだ。
「はい、存分に……」
重ねるというよりは、押し付ける形になってしまっていた口を、優しく食んでくれてから彼が囁く。うっとりと細められた瞳には、妖しい熱がこもっていた。
「貴方様がご満足頂けるまで……たっぷり致して差し上げますね」
「ひゃいっ……お、お願いします……」
結局、彼からあふれる色気に敵うわけもなく。何とも締まらない返事をしてしまった口が再び、艷やかな笑みを浮かべた唇に塞がれる。
触れ合うだけの軽いキスを合図に、細く長い指が再び動き始めた。
「ふ……ん、ぁ、んん……」
柔らかい感触が順番に触れていく。額、頬、口、最後に首元へと。耳元でわざとらしいリップ音が鳴る度に、勝手に身体が跳ねてしまう。
今まで根気よく、バアルさんに触れてもらっていた成果が出ているんだろう。熱い吐息がかかるだけでも、ぞくぞくした感覚が走ったんだ。
……気持ちいいんだと思う。多分。
いつの間に、胸元へと移動していたんだろうか。するりとシャツの中へと侵入した白い指先が、すでに立ち上がってしまっていた乳首を優しく撫で回す。
「んぅっ……うぁ、あっ、あ……」
首の辺りにばかり気を取られていたせいだ。不意の甘い刺激に思わず、筋肉質な二の腕を強く掴んでしまっていた。
「ご、ごめんなさい……」
慌てる俺に対して、バアルさんはきょとんとしている。痛くもなんともなさそうだ。
結構、力込めちゃったハズなのに……よっぽど丈夫なんだろうか。いや、ただ単に俺の力が貧弱ってだけかもしれないけどさ。
花が咲きこぼれるように綻んだ彼の唇が、俺の額や頬に優しく触れてくれる。
「ふふ、大丈夫ですよ。宜しければ、手を繋ぎましょうか?」
ただでさえ高鳴りっぱなしの心臓が、大きくドクンと跳ねてしまった。触ってもらえるだけでも嬉しいのに、ずっと彼の手を握っていられるなんて。
「繋ぎたい、です……スゴく……でも……」
手を差し出してくれたまま、不思議そうにバアルさんがこちらを見つめる。
そんな彼を前にして、俺はとんでもなく欲張りなことを考えてしまっていた。
両手で触ってもらえなくなっちゃうな……と。
「……成る程……確かに、この様な触れ方は出来なくなりますね」
よっぽど、俺は分かりやすいんだろうか。それともまた、無意識のうちに口から出てしまっていたんだろうか。
どちらにせよ、あっさり見抜かれてしまったらしい。大きな手がよしよしと俺の頬を撫でながら、もう一方の指先が焦らすように乳首の回りをなぞっていく。
「あっ、バアルさん……ふぁ……」
「手を繋ぎたくなられた時は、遠慮なく仰って下さいね。それまでは、貴方様がお好きなところを両手で触って差し上げますから」
視界の端で、どこか上機嫌に半透明の羽がはためいている。優しく微笑みかけてくれている間も、指の動きは止まらない。
頭の奥が、ジンジン痺れているみたいだった。気がつけば、シャツの中に潜り込んでいたもう一方と、左右同時に摘ままれて。捏ねるように指の腹で、クリクリと優しく揉まれて。
「は、はい……ぁ……んん、あ、あっ……」
頷くのが精一杯な俺に、艷やかな笑みを浮かべた唇が甘やかすようなキスを送ってくれる。何度か交わした後に、熱く湿った体温がぬるりと口内へと入ってきた。
「ん、ふ、ふっ……ぁ……んむ……ん、ん……」
優しく絡め取られて、擦り合わされて。気持ちがよくて、堪らない。心地のいい波が全身に広がっていくみたいだ。
すっかり彼との深い触れ合いに溺れていると、敏感な先端を再び指の腹できゅっと挟まれた。こちらも忘れないで下さいね、と言っているように。
「んぅっ…………ん……ぁ、ふ……」
それが、引き金になったのかもしれない。じくじく疼いていた下半身が突然ぶるりと震え、滲んでいく。
自分の身体だ。イヤでも、何でも、認めたくなくても分かる。情けないことに、イってしまったんだと……ちょっとだけ。
「ん、は……アオイ……」
流石というか案の定、バレてしまっているらしかった。熱のこもった声で俺の名を呼ぶバアルさんは、何だかスゴく嬉しそうだ。それからアフターケアも完璧だった。
「大丈夫ですよ……大変可愛らしかったですよ……」
俯きかけていた俺の顔を手のひらで優しく包み込みながら、ゆるゆる撫でてくれたんだ。
99
お気に入りに追加
521
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる