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もう認めてしまおう、意識しまくってるのはホントなんだから
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「では、ティーカップを選びましょうか」
頷いた俺に合わせ、すらりと伸びた長い足が大きく広い棚に向かって歩を進める。
数々の誘惑に負けていないからだろう。さっきまでと同じように、ゆったり歩いていたハズなのに。あっさりと目的のコーナーへと辿り着けた。
二人で肩を並べ、仲良く並ぶ色とりどりのティーカップ達を眺めていると穏やかな低音が尋ねてきた。
「アオイ様は、どのお色がお好きですか?」
「え……バアルさんの好きな色にしましょうよ。バアルさんの誕生日プレゼントなんですから……」
口ではそう言いつつも、実は気になっているものがすでに二つ有った。
一つ目は、カップとソーサーのフチに三本のラインが引かれたシンプルなものだ。鮮やかな緑の太い線を引き立てるように、細い金の線が上下から挟んでいる。
二つ目は、いかにも王道というか。想像したら一番最初に浮かんできそうな、上品な花柄のカップだ。こちらは淡い緑のパステルカラーを背景に、バラに似たオレンジ色の花がいくつも描かれ、それぞれのフチを帯状に彩っていた。
とはいえ、これはバアルさんへのプレゼントだ。まずは彼が気になるものを選んでもらい、その中からお互いの意見をすり合わせていくべきだろう。べきなのだが。
目は口ほどに……ということなのか。それとも、単に俺が分かりやすいだけなのか。察しのいい彼には、あっさりバレてしまっていたんだ。
「……こちらとこちらでしょうか? 貴方様が気になっていらっしゃるお品は」
一切迷うことなく指し示され、きゅっと締まった喉から情けない声が漏れる。
「あ、ぅ……そう、ですけど……」
「……アオイは、誠に緑色がお好きなのですね」
悪戯っぽく微笑んで、蕩けるような声で囁く彼は、ご満悦な様子だ。宝石のように煌めく緑の瞳を細め、大きな手でひっきりなしによしよしと俺の頭や頬を撫で回してくれている。
言わずもがな、バアルさんの術によるものだろう。彼の腕を拘束していたハズの猫クッションがはみ出たバスケットは、いつの間にか俺達の側でふわふわ宙に浮いていた。
察しのいい彼のことだ。全部、分かって言っているんだろう。だったらもう認めてしまおう。意識しまくってるのはホントなんだから。
「……好き、ですよ…………大好きです……」
開き直った俺の口からは、普段はなかなか伝えられない気持ちがぽつりとこぼれていた。
バレバレなのが悔しくて……少し照れされてみたいと思ったのか。この機会にかこつけて……なのかは分からない。でもまぁ、どちらにしろ、あっさり返り討ちにされちゃったんだけどさ。
「……私も、貴方様を愛しておりますよ」
ドキドキしっぱなしの胸を、見事に撃ち抜かれてしまった。ぴったりと身を寄せている俺だけにしか聞こえない、小さな小さな囁きに。
「ふぇ……」
一気にボッと熱くなった全身から、へにゃりと力が抜けていく。
傍から見れば、俺の方から彼にしなだれかかっているようにしか見えないだろう。実際は、今にも重力に従って崩れ落ちそうになっている俺を、逞しい彼の腕が余裕綽々で支えているだけなのだが。
「……い、色の話を……してたんじゃ、ないんですか?」
往生際悪くヘタれた俺を、頭の片隅に残っていた冷静な部分が、随分といい度胸をしているな……と皮肉ってくる。
そりゃそうだ。自分から仕掛けたくせに、棚に上げただけじゃなく、この期に及んで誤魔化そうとしてるんだからさ。
「おや、違いましたか? 先程の心躍るお言葉は、てっきり私めに贈って頂けたのだと存じておりましたが……」
「……っ……ち、違わないです…………バアルさんに向けて、言ってました……その…………す、好きだって……」
瞬く間に、前言撤回してしまっていた。寂しそうに伏せられた瞳に、あっさりと白旗を上げていたんだ。
わたわたしていた俺の手を、ひと回り大きな手が包み込む。ぎゅっと握られ繋がれたかと思えば、とっても満足気に微笑む彼と目が合った。
……ウソみたいだ。
ついさっきまで、力なく触覚を下げ、しおしおと羽を縮め、しょんぼりと沈んでしまっていたってのに。いや、まぁ機嫌を直してくれたんだったら何よりなんだけどさ。
「……嬉しい限りでございます。私めと致しましては、こちらの花柄が大変気に入りました」
棚に並ぶ箱を手に取ってから「いかがでしょうか?」と微笑みかけてくれる。
そっと差し出された、透明な蓋越しには、俺が気になっていたティーカップの内の一つが仲良く並んでいた。
「……いいんですか?」
「ええ、これがいいんです」
気がつけば、受け取っていた。真っ直ぐに俺を見つめる彼の、力のこもった柔らかい声に背中を押されて。
……また、甘やかされてしまったな……
申し訳無さを感じてはいるものの、それを遥かに上回る嬉しさに勝手に顔がニヤけてしまう。
ペアのティーカップが収まる箱を手に、彼と一緒にレジへと並ぶ。ふと目が合った瞬間、錯覚しそうになってしまった。
心の底から嬉しそうに微笑む彼から「このカップで貴方様と共にお茶をするのが楽しみですね……」と囁かれ、顔の表情筋が溶けたんじゃないかってくらいにますます緩んでしまったんだ。
頷いた俺に合わせ、すらりと伸びた長い足が大きく広い棚に向かって歩を進める。
数々の誘惑に負けていないからだろう。さっきまでと同じように、ゆったり歩いていたハズなのに。あっさりと目的のコーナーへと辿り着けた。
二人で肩を並べ、仲良く並ぶ色とりどりのティーカップ達を眺めていると穏やかな低音が尋ねてきた。
「アオイ様は、どのお色がお好きですか?」
「え……バアルさんの好きな色にしましょうよ。バアルさんの誕生日プレゼントなんですから……」
口ではそう言いつつも、実は気になっているものがすでに二つ有った。
一つ目は、カップとソーサーのフチに三本のラインが引かれたシンプルなものだ。鮮やかな緑の太い線を引き立てるように、細い金の線が上下から挟んでいる。
二つ目は、いかにも王道というか。想像したら一番最初に浮かんできそうな、上品な花柄のカップだ。こちらは淡い緑のパステルカラーを背景に、バラに似たオレンジ色の花がいくつも描かれ、それぞれのフチを帯状に彩っていた。
とはいえ、これはバアルさんへのプレゼントだ。まずは彼が気になるものを選んでもらい、その中からお互いの意見をすり合わせていくべきだろう。べきなのだが。
目は口ほどに……ということなのか。それとも、単に俺が分かりやすいだけなのか。察しのいい彼には、あっさりバレてしまっていたんだ。
「……こちらとこちらでしょうか? 貴方様が気になっていらっしゃるお品は」
一切迷うことなく指し示され、きゅっと締まった喉から情けない声が漏れる。
「あ、ぅ……そう、ですけど……」
「……アオイは、誠に緑色がお好きなのですね」
悪戯っぽく微笑んで、蕩けるような声で囁く彼は、ご満悦な様子だ。宝石のように煌めく緑の瞳を細め、大きな手でひっきりなしによしよしと俺の頭や頬を撫で回してくれている。
言わずもがな、バアルさんの術によるものだろう。彼の腕を拘束していたハズの猫クッションがはみ出たバスケットは、いつの間にか俺達の側でふわふわ宙に浮いていた。
察しのいい彼のことだ。全部、分かって言っているんだろう。だったらもう認めてしまおう。意識しまくってるのはホントなんだから。
「……好き、ですよ…………大好きです……」
開き直った俺の口からは、普段はなかなか伝えられない気持ちがぽつりとこぼれていた。
バレバレなのが悔しくて……少し照れされてみたいと思ったのか。この機会にかこつけて……なのかは分からない。でもまぁ、どちらにしろ、あっさり返り討ちにされちゃったんだけどさ。
「……私も、貴方様を愛しておりますよ」
ドキドキしっぱなしの胸を、見事に撃ち抜かれてしまった。ぴったりと身を寄せている俺だけにしか聞こえない、小さな小さな囁きに。
「ふぇ……」
一気にボッと熱くなった全身から、へにゃりと力が抜けていく。
傍から見れば、俺の方から彼にしなだれかかっているようにしか見えないだろう。実際は、今にも重力に従って崩れ落ちそうになっている俺を、逞しい彼の腕が余裕綽々で支えているだけなのだが。
「……い、色の話を……してたんじゃ、ないんですか?」
往生際悪くヘタれた俺を、頭の片隅に残っていた冷静な部分が、随分といい度胸をしているな……と皮肉ってくる。
そりゃそうだ。自分から仕掛けたくせに、棚に上げただけじゃなく、この期に及んで誤魔化そうとしてるんだからさ。
「おや、違いましたか? 先程の心躍るお言葉は、てっきり私めに贈って頂けたのだと存じておりましたが……」
「……っ……ち、違わないです…………バアルさんに向けて、言ってました……その…………す、好きだって……」
瞬く間に、前言撤回してしまっていた。寂しそうに伏せられた瞳に、あっさりと白旗を上げていたんだ。
わたわたしていた俺の手を、ひと回り大きな手が包み込む。ぎゅっと握られ繋がれたかと思えば、とっても満足気に微笑む彼と目が合った。
……ウソみたいだ。
ついさっきまで、力なく触覚を下げ、しおしおと羽を縮め、しょんぼりと沈んでしまっていたってのに。いや、まぁ機嫌を直してくれたんだったら何よりなんだけどさ。
「……嬉しい限りでございます。私めと致しましては、こちらの花柄が大変気に入りました」
棚に並ぶ箱を手に取ってから「いかがでしょうか?」と微笑みかけてくれる。
そっと差し出された、透明な蓋越しには、俺が気になっていたティーカップの内の一つが仲良く並んでいた。
「……いいんですか?」
「ええ、これがいいんです」
気がつけば、受け取っていた。真っ直ぐに俺を見つめる彼の、力のこもった柔らかい声に背中を押されて。
……また、甘やかされてしまったな……
申し訳無さを感じてはいるものの、それを遥かに上回る嬉しさに勝手に顔がニヤけてしまう。
ペアのティーカップが収まる箱を手に、彼と一緒にレジへと並ぶ。ふと目が合った瞬間、錯覚しそうになってしまった。
心の底から嬉しそうに微笑む彼から「このカップで貴方様と共にお茶をするのが楽しみですね……」と囁かれ、顔の表情筋が溶けたんじゃないかってくらいにますます緩んでしまったんだ。
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