間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

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……もしかしてバアルさんって、プレゼントをするのが好きな人……なのだろうか

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「おや、そちらのクッションが気になりますか? 幸せそうな表情が愛らしいですね。貴方様の可愛らしい寝顔には、到底及びませんが」

「こちらの髪飾りなど……いかがでしょうか? 貴方様の美しいお御髪に、大変映えるかと存じます」

「……アオイ様は赤と青、どちらをお使いになられますか? ……ふふ、申し訳ございません。つい年甲斐もなくあれもこれもと……ご一緒に揃えたくなってしまいますね」

 外見よりも広い店内をぶらぶら回る内に、つい俺が目に止めたり、手を伸ばしたり。なんならしなくても、大きな手がひょいひょいひょいっと品物をかごの中へと入れてしまう。

 断ろうもんなら「構いませんよね?」と先程の言葉を盾に微笑まれ。時には「大変お似合いですよ……可愛らしいですね……」と甘い声で褒め殺しにされ。はたまた「私めとご一緒は……お嫌ですか?」と寂しそうな眼差しで見つめられてしまう。

 すでに言質を取られてしまっているのだから、頷くより他はない。

 おまけに俺はスゴく単純な男だ。好きな人から褒めらてもらえれば、喜んでもらえるならば、着けてみようかな……なんて、うっきうきで乗ってしまうのだ。

 それから言うまでもないが、ご一緒は大歓迎なので。すみません、よろしくお願いします! と手を握ってしまうんだ。というか、そもそも今回の目的が、彼とお揃いの物を買う! なのだから尚更だ。

 その結果が……緩めに撫でつけた髪をさらりと耳にかけ、とても満足気な笑顔を浮かべている彼と、あっという間にパンパンになってしまったバスケットだ。

 うっとりと目を閉じた猫のクッションは、その身体の大部分が、だらんとかごからはみ出し、お揃いの四角い小物入れの片方には、色とりどりのヘアピンが詰まっている。

 さらには、ペアになった銀のカラトリーセットの箱がクッションにシワを作り、赤と青の歯ブラシスタンドが仲良く寄りかかっていた。因みに、いまだメインのティーカップの元へは辿り着けていない。

 ……もしかしてバアルさんって、プレゼントをするのが好きな人……なのだろうか。

 そういえば今までも……焼き菓子作りの時にエプロンを用意してもらったり、投影石用の小箱を貰ったりしていたな。普段着とかと同じで普通に手渡されていたから、有り難くいただいてしまっていたのだけれども。

 ……いやでもただ単に、俺と同じでお揃いにするのが好きなだけなのかもしれないよな……二人で使う物が大半だしさ。

「アオイ様、あちらの傘も素敵ですよ。ああ、折角ですし、ハンカチーフも色違いの物を揃えましょうか?」

 うんうん頭を回していた俺の鼓膜を、弾んだ声が揺らす。さり気なく抱き寄せられて見上げた先で、無邪気に輝く緑の瞳とかち合った。

 ……かわいい。そんでもってギャップがスゴい。瞳は澄んだ水面のように煌めいてるのに。表情はいつも通り落ち着いた、大人の笑みを湛えたままだから余計に。

 珍しく、はしゃぐバアルさんが見れたのは滅茶苦茶嬉しい。なんなら一番近くで、ずっと見ていたい。

 ……でも、流石にそろそろマズいよな。どうにかして待ったをかけないと。買い物かごが、余裕で二つ目に突入してしまいそうだ。それはちょっと……いや、大分心苦しい。

「あの、バアルさん……」

「はい、いかがなさいましたか?」

 ……こんなに彼が喜んでくれているなら、いいじゃないか?

 俺にだけ向けられた、咲きこぼれるような笑顔につい、うっすい紙よりもぺらっぺらな意志の俺が、ひょっこり顔を出す。出てきたが……歯を食いしばり、無理矢理心の奥へと押し戻した。

「……後は、次の楽しみにとっておきませんか?」

 柔和な瞳を縁取る、長く白い睫毛がぱちぱち瞬く。ぴたりと動きを止めてしまった触覚と羽に性懲りもなく、弱っ弱な俺が浮かび上がってきてしまいそうだ。

「……このお店は素敵だし、お揃いが増えるのもスゴく嬉しいです。でも、もっと色んな所にバアルさんと行ってみたいし、そこでまた……記念のものを一緒に買いたいなって……」

 不意に、淡い光を帯びた緑の瞳が細められ、大きな手が頭をゆったり撫でてくれた。そのままの気持ちを口にした俺に、彼が柔らかく微笑んでくれる。

「……左様でございますね」

 滑らかな白い頬がほんのり染まっていく。茶色い巻きスカーフの小さなシワを、細長い指先で撫で伸ばす彼の表情は、どこか気恥ずかしげに見えた。

「申し訳ございません、つい浮かれておりました。斯様に心躍る買い物は久方ぶりですので……」

「お、俺もスっゴく楽しいですよ!」

 つい、食い気味に答えてしまっていた。

 だって、仕方がないじゃないか。好きな人に浮かれてもらえたんだから。俺と一緒の買い物が……楽しいって思ってもらえたんだからさ。

「誠でございますか? そのお言葉を聞けて、大変嬉しく存じます」

 綻ぶ口元には、さっきと同じ……いや、それ以上の喜びがあふれている。じんわりと胸を満たしていく温かさに浸っていた俺を、引き締まった腕が抱き寄せた。

「……引き続き、二人で楽しみましょうね」

「はいっ」
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