163 / 888
彼が見てきた町並みを、彼の隣で
しおりを挟む
「へ? よこ、しま……って?」
単純に分からなかったから繰り返してしまっていた。
だって、全ては彼のご厚意によるものだ。だから、全然ピンと来なかったんだ。誠心誠意、身体のケアをしてくれる彼の行為に不純な気持ちが混じってるなんて、思いもしなかったからさ。
でも、すぐさま俺は知ることとなったんだ。いつの間にかじわじわと、耳の先まで赤くしていた彼の思いがけない……いや、思い至れるハズがない熱烈な動機を。
「お恥ずかしい限りでございますが……この老骨、いかにして自然に、出来る限り長く、貴方様に触れることが出来るのであろうか……と常々考えてしまっております」
「……ふぇ……」
これ以上はないと思っていたのに……ますます顔が、全身が、ボッと熱くなってしまった。
いや、でも……確かに以前、言っていただいた気がする。
ここへ来てから最初に部屋の外へ出ることが出来た日。初めて彼と、お散歩デートした日に。俺の爪を磨いてくれていた彼から『……より長く触れていられますから、こちらの方が好きですね……』って。
え? まてよ……ということは……ずっと、なのか? 俺が彼への好きって気持ちを自覚する前からずっと……触りたいって思ってくれていたのか?
いやまぁ確かに、知り合ってすぐに……め、夫婦の契りを交わしましょうか? って告白していただけたり、なんならベッドに誘われたりしちゃったけれども……
「勿論、アオイ様の素晴らしい魅力を、更に引き出すお手伝いをさせて頂きたい……という気持ちは強くございます」
湯気が出ていそうなくらいに熱い頬を、大きな手がゆるゆる撫でてくれる。直前の言葉のせいで、こっちはいつも以上に意識しまくってるってのに。ごくごく自然な優しい手つきで。
いや、まぁ彼の方は、受け止めきれない喜びに俺が頭をぐわんぐわん回していることなんて、知る由もないから仕方がないけどさ。
「ですが……思う存分触れることが出来るではありませんか。御身体磨きのお世話……という大義名分を盾にすれば、ね……」
淡々と胸の内を吐露した彼が、どこか自嘲気味に笑う。動きを止め、離れていこうとしていた白い手を、気がつけば俺は掴んでいた。
「別に……盾にしなくても、いいですよ?」
「……はい?」
真っ直ぐに俺を捉えていた瞳が大きく見開かれ、長い睫毛がぱちぱち瞬く。引き止めた手のひらに頬を擦り寄せると少しだけ、震えているのが分かった。
……緊張、してくれてるんだろうか? どんな時も冷静で、大人の余裕に満ちあふれた彼が……俺に。
「バアルさんに触ってもらえるの……俺、スゴく嬉しいし……その……いつでも、大歓迎ですから……」
温かく満たされた胸から素直な気持ちがぽろりとこぼれていた。少し見上げた先で俺を映す緑色が、輝く星々を閉じ込めたように煌めいている。
「アオイ様……」
「バアルさん……」
細く長い指が、俺の顎を優しく持ち上げる。ゆっくり近づいてきてくれる柔らかい微笑みに、身も、心も……全てを委ねて目を閉じようとしていた時だった。
「おはよう! バアルっアオイ殿っ! 実に素晴らしいデート日和だな!!」
凄まじい勢いで扉を開け放ち、通りのいい声で至極愉快そうに笑いながら、地獄の現王様であるヨミ様が現れたのは。
相変わらずどこから吹いているのか。長く艷やかな黒髪はふわりと靡き、金糸に彩られた黒地のマントも大きくはためいている。
「ひょわっ!? お、おはようございます……」
「……おはようございます、ヨミ様」
まさかのご訪問に、情けのない悲鳴を上げてしまった俺に対して、やっぱりバアルさんは冷静だ。さっきまで向かい合って……なんなら抱き合いかけていたはずなのに。いつの間にか俺と肩を並べている。
そんでもって、平然とした顔でヨミ様に向かって丁寧なお辞儀を披露している。まるで瞬間移動したみたいだ。いや、したのかもしれない。時間すら操ることが出来るんだから、それくらい出来ても全然不思議じゃないもんな、うん。
「うむ、今日はとびきり仲良しだなっ! いいことだ!」
この世のものとは思えないほど整ったご尊顔に、満面の笑みが浮かぶ。真っ赤な瞳を細め、どこか上機嫌にヨミ様が、コウモリの形をした真っ黒な羽をはためかせながら、しなやかな腕を組んだ。
……もしかしなくても、ばっちり見られてしまったんだろうか。キスする5秒前だった俺達を。
「ちゃんとハンカチーフとポケットティッシュは持ったか? 何か困ったことが有れば、すぐに私か父上に連絡するんだぞ?」
「はい、今日の為の準備は抜かりなく。お気遣い頂きありがとうございます」
今すぐ、ふかふかの布団に包まりたくなっている俺をよそに、ヨミ様はマイペースだ。それからバアルさんも。お母さんみたいな心配の仕方をしてくれている御方に、普通に答えているしさ。
再び頭を下げたバアルさんの後ろに、何処からともなくいくつもの物が現れ浮かぶ。
上品な黒い革製の財布に、白い無地のハンカチ、ポケットティッシュに救急セット、ヨミ様から頂いた雑誌と地図。それから……あれは飴かチョコだろうか? 色とりどりの可愛らしい包み紙を纏った小さな粒が、リボンで閉じた透明な袋に詰まっている。
「そうか、流石バアルだなっ」
ぐるりと品々を見回した赤い瞳が、満足げに細められる。彼の幅広の肩をぽん、ぽんっと叩きながら微笑むご様子は、自分のことのように得意げだ。
「お褒めの言葉に与り、恐悦至極に存じます」
清潔感漂う髭が素敵な口元がふわりと綻ぶ。
すると、お披露目していたお出かけセットが、手品のようにぽぽんっと消えてしまった。また、いつでも取り出せる謎空間へと収納されたんだろう。相変わらず便利な術だ。
「では、ゆるりと楽しんできてくれ。邪魔したな」
俺が感心している内に、颯爽と黒いマントを翻した背中が遠のいていく。
「あ、ありがとうございますっ……お土産、買ってきますね!」
「うむ、楽しみにしているぞ」
顔だけ振り向いたヨミ様は、いつもの威厳たっぷりの笑みではなく、無邪気な笑みを浮かべていて。なんだか胸の辺りが温かくなったんだ。
「……えっと……じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい」
手を差し出せば、当たり前のように指を絡めて繋いでくれて、微笑みかけてくれる。それだけで、俺の胸は喜びに満ちあふれるのに。彼ときたら、いつも唐突に俺をときめかせてくるから困ってしまう。
「アオイ様」
「何ですか? バアルさ……んむっ」
引き締まった腕が俺の腰にするりと回り、抱き寄せてくる。
鮮やかな緑とかち合った頃には、すでに形のいい唇が重なって、上唇を甘く食まれてしまっていた。
角度を変えながら何度か交わしてくれてから俺を開放すると、わざとらしく音を鳴らして頬に口づけてくる。
「……失礼致しました。先程、絶好の機会を逃してしまいましたので」
悪びれる様子もなく微笑む彼は、とても満足気だ。その証拠に触覚は上機嫌に揺れているし、白い水晶のように透き通った羽もはためいている。
全く……また腰を抜かしてしまったら、どうしてくれるんだ。……スゴく、嬉しかったけどさ。
「では、参りましょう。……それとも、お運び致しましょうか? 貴方様さえ宜しければ……でございすが」
……察しのいい彼には、俺の考えてることなんてまるっとお見通しのようだ。温かい彼の腕の中、という魅力的な提案にちょこっとだけ、心が揺らぎそうになる。だけど。
「いえ、その……一緒に、歩きたいです……デート、ですから……」
「ふふ、左様でございましたね……畏まりました」
初めて見る景色を、ずっと彼が見てきていた町並みを、彼の隣で歩きたいなって。そう思ったんだ。
単純に分からなかったから繰り返してしまっていた。
だって、全ては彼のご厚意によるものだ。だから、全然ピンと来なかったんだ。誠心誠意、身体のケアをしてくれる彼の行為に不純な気持ちが混じってるなんて、思いもしなかったからさ。
でも、すぐさま俺は知ることとなったんだ。いつの間にかじわじわと、耳の先まで赤くしていた彼の思いがけない……いや、思い至れるハズがない熱烈な動機を。
「お恥ずかしい限りでございますが……この老骨、いかにして自然に、出来る限り長く、貴方様に触れることが出来るのであろうか……と常々考えてしまっております」
「……ふぇ……」
これ以上はないと思っていたのに……ますます顔が、全身が、ボッと熱くなってしまった。
いや、でも……確かに以前、言っていただいた気がする。
ここへ来てから最初に部屋の外へ出ることが出来た日。初めて彼と、お散歩デートした日に。俺の爪を磨いてくれていた彼から『……より長く触れていられますから、こちらの方が好きですね……』って。
え? まてよ……ということは……ずっと、なのか? 俺が彼への好きって気持ちを自覚する前からずっと……触りたいって思ってくれていたのか?
いやまぁ確かに、知り合ってすぐに……め、夫婦の契りを交わしましょうか? って告白していただけたり、なんならベッドに誘われたりしちゃったけれども……
「勿論、アオイ様の素晴らしい魅力を、更に引き出すお手伝いをさせて頂きたい……という気持ちは強くございます」
湯気が出ていそうなくらいに熱い頬を、大きな手がゆるゆる撫でてくれる。直前の言葉のせいで、こっちはいつも以上に意識しまくってるってのに。ごくごく自然な優しい手つきで。
いや、まぁ彼の方は、受け止めきれない喜びに俺が頭をぐわんぐわん回していることなんて、知る由もないから仕方がないけどさ。
「ですが……思う存分触れることが出来るではありませんか。御身体磨きのお世話……という大義名分を盾にすれば、ね……」
淡々と胸の内を吐露した彼が、どこか自嘲気味に笑う。動きを止め、離れていこうとしていた白い手を、気がつけば俺は掴んでいた。
「別に……盾にしなくても、いいですよ?」
「……はい?」
真っ直ぐに俺を捉えていた瞳が大きく見開かれ、長い睫毛がぱちぱち瞬く。引き止めた手のひらに頬を擦り寄せると少しだけ、震えているのが分かった。
……緊張、してくれてるんだろうか? どんな時も冷静で、大人の余裕に満ちあふれた彼が……俺に。
「バアルさんに触ってもらえるの……俺、スゴく嬉しいし……その……いつでも、大歓迎ですから……」
温かく満たされた胸から素直な気持ちがぽろりとこぼれていた。少し見上げた先で俺を映す緑色が、輝く星々を閉じ込めたように煌めいている。
「アオイ様……」
「バアルさん……」
細く長い指が、俺の顎を優しく持ち上げる。ゆっくり近づいてきてくれる柔らかい微笑みに、身も、心も……全てを委ねて目を閉じようとしていた時だった。
「おはよう! バアルっアオイ殿っ! 実に素晴らしいデート日和だな!!」
凄まじい勢いで扉を開け放ち、通りのいい声で至極愉快そうに笑いながら、地獄の現王様であるヨミ様が現れたのは。
相変わらずどこから吹いているのか。長く艷やかな黒髪はふわりと靡き、金糸に彩られた黒地のマントも大きくはためいている。
「ひょわっ!? お、おはようございます……」
「……おはようございます、ヨミ様」
まさかのご訪問に、情けのない悲鳴を上げてしまった俺に対して、やっぱりバアルさんは冷静だ。さっきまで向かい合って……なんなら抱き合いかけていたはずなのに。いつの間にか俺と肩を並べている。
そんでもって、平然とした顔でヨミ様に向かって丁寧なお辞儀を披露している。まるで瞬間移動したみたいだ。いや、したのかもしれない。時間すら操ることが出来るんだから、それくらい出来ても全然不思議じゃないもんな、うん。
「うむ、今日はとびきり仲良しだなっ! いいことだ!」
この世のものとは思えないほど整ったご尊顔に、満面の笑みが浮かぶ。真っ赤な瞳を細め、どこか上機嫌にヨミ様が、コウモリの形をした真っ黒な羽をはためかせながら、しなやかな腕を組んだ。
……もしかしなくても、ばっちり見られてしまったんだろうか。キスする5秒前だった俺達を。
「ちゃんとハンカチーフとポケットティッシュは持ったか? 何か困ったことが有れば、すぐに私か父上に連絡するんだぞ?」
「はい、今日の為の準備は抜かりなく。お気遣い頂きありがとうございます」
今すぐ、ふかふかの布団に包まりたくなっている俺をよそに、ヨミ様はマイペースだ。それからバアルさんも。お母さんみたいな心配の仕方をしてくれている御方に、普通に答えているしさ。
再び頭を下げたバアルさんの後ろに、何処からともなくいくつもの物が現れ浮かぶ。
上品な黒い革製の財布に、白い無地のハンカチ、ポケットティッシュに救急セット、ヨミ様から頂いた雑誌と地図。それから……あれは飴かチョコだろうか? 色とりどりの可愛らしい包み紙を纏った小さな粒が、リボンで閉じた透明な袋に詰まっている。
「そうか、流石バアルだなっ」
ぐるりと品々を見回した赤い瞳が、満足げに細められる。彼の幅広の肩をぽん、ぽんっと叩きながら微笑むご様子は、自分のことのように得意げだ。
「お褒めの言葉に与り、恐悦至極に存じます」
清潔感漂う髭が素敵な口元がふわりと綻ぶ。
すると、お披露目していたお出かけセットが、手品のようにぽぽんっと消えてしまった。また、いつでも取り出せる謎空間へと収納されたんだろう。相変わらず便利な術だ。
「では、ゆるりと楽しんできてくれ。邪魔したな」
俺が感心している内に、颯爽と黒いマントを翻した背中が遠のいていく。
「あ、ありがとうございますっ……お土産、買ってきますね!」
「うむ、楽しみにしているぞ」
顔だけ振り向いたヨミ様は、いつもの威厳たっぷりの笑みではなく、無邪気な笑みを浮かべていて。なんだか胸の辺りが温かくなったんだ。
「……えっと……じゃあ、そろそろ行きましょうか」
「はい」
手を差し出せば、当たり前のように指を絡めて繋いでくれて、微笑みかけてくれる。それだけで、俺の胸は喜びに満ちあふれるのに。彼ときたら、いつも唐突に俺をときめかせてくるから困ってしまう。
「アオイ様」
「何ですか? バアルさ……んむっ」
引き締まった腕が俺の腰にするりと回り、抱き寄せてくる。
鮮やかな緑とかち合った頃には、すでに形のいい唇が重なって、上唇を甘く食まれてしまっていた。
角度を変えながら何度か交わしてくれてから俺を開放すると、わざとらしく音を鳴らして頬に口づけてくる。
「……失礼致しました。先程、絶好の機会を逃してしまいましたので」
悪びれる様子もなく微笑む彼は、とても満足気だ。その証拠に触覚は上機嫌に揺れているし、白い水晶のように透き通った羽もはためいている。
全く……また腰を抜かしてしまったら、どうしてくれるんだ。……スゴく、嬉しかったけどさ。
「では、参りましょう。……それとも、お運び致しましょうか? 貴方様さえ宜しければ……でございすが」
……察しのいい彼には、俺の考えてることなんてまるっとお見通しのようだ。温かい彼の腕の中、という魅力的な提案にちょこっとだけ、心が揺らぎそうになる。だけど。
「いえ、その……一緒に、歩きたいです……デート、ですから……」
「ふふ、左様でございましたね……畏まりました」
初めて見る景色を、ずっと彼が見てきていた町並みを、彼の隣で歩きたいなって。そう思ったんだ。
80
お気に入りに追加
483
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる