157 / 824
★ ここに来てから眠れないってこと、今まで無かったのになぁ
しおりを挟む
中々眠れない日ってあるよな。しっかり明日に備えなきゃって気合入れてる時とか、早く明日にならないかなぁってわくわくしちゃってる時とかさ。うん、どっちも今現在の俺の状況です。
身体の方は、もう準備万端だ。美味しい食事によってお腹は満たされ、広くて適温だった湯船によって手足の先まで程よく温まっている。まさにベストコンディションってヤツだ。夢の世界へと旅立つには。
付け加えて、環境も完璧だ。いつもよりずっと早い時間に、青い水晶で作られたシャンデリアの明かりを落とした室内は暗く、穏やかな静けさに満ちている。
キングサイズよりも大きくて広いベッドは、四肢をだらんと伸ばしている俺を丁重に支え、羽のように軽い掛け布団が優しく包み込んでくれている。
おまけに好きな人からの腕枕つきだ。これ以上に快適な睡眠環境があるだろうか? いや、ない。ないんだけどさ。
……眠れない。
心の中で呟いた……結論であり、俺の現状を表す一言に、自分から思い浮かべておいてうっかりため息が漏れそうになる。
でも、漏らせない。俺と布団を共にしている彼、バアルさんを起こしてしまわない為だ。
寝ているんだろうなぁ……多分。彼の逞しい胸板に顔を寄せさせていただいてるから、ちゃんと確認した訳じゃないけれど。
少し前まで背中をゆったり撫でてくれていた、大きな手の動きは今や完全に止まってしまっているし、頭の上から規則正しい呼吸も聞こえているからさ。もう、一足先に眠りについちゃってるんだろう。
ここに来てから眠れないってこと、今まで無かったのになぁ……むしろ最近は、朝までぐっすりだったハズだ。
明日は、バアルさんとのデートなのに……初めて城下町に出かけるのに、何で今日に限って……
不思議に思い、ここ最近の記憶を掘り起こしにかかったのがいけなかった。
鮮明に思い出してしまったからだ。たっぷり優しく致してもらっていた……バアルさんとの甘い夜の数々を。
頭の中にふわりと彼が現れる。襟元が緩んだシンプルな白いシャツから、綺麗な鎖骨のラインを覗かせ、すらりと引き締まった長い脚に黒いズボンを纏ったバアルさんが。
いつもはキッチリと後ろに撫でつけている髪を、さらりと下ろした目元がどこか色っぽい。ただただ見惚れてしまっていると、白くて綺麗な手が俺に向かって伸びてきた。
一回り大きな手のひらが、ゆるゆると頬を撫でてくれる。柔らかい微笑みを深くした彼が、宝石のように煌めく緑の瞳をゆるりと細めた。
その光景を皮切りに、次々と駆け巡り始めてしまった。清潔感漂う白い髭が渋くてカッコいい口元に、浮かんだ艷やかな微笑みが。
お胸の筋肉は綺麗に盛り上がり、当たり前のように腹筋は割れ、腰はキュッと引き締まった……男として憧れしかない彫刻のような肉体美が。
蘇り始めてしまったんだ。
俺の名を呼んでくれて、可愛いですね……いい子ですね……と褒めてくれる穏やかな低音が。甘やかすように何度もそっと口づけてくれる、柔らかい唇の感触が。全身を余すことなく撫で擦り、心地よさだけを俺に与えてくれる大きな手の温もりが。
顔の中心へと一気に熱が集中していく気がした。同時に鼓動がドクドクと騒がしくなり、身体の奥の方が妙に疼いてきてしまう。
……どうしよう……今すぐバアルさんにキスして欲しい。というか、したい……滅茶苦茶。あの約束通り、今日もいっぱいしてもらったはずなのに。
喉の渇きにも似た感覚を心が訴える。訴えたせいで、また俺の脳みそが余計なことを……本日の昼下がりのワンシーンを再生し始めてしまった。
優しげに細められた瞳をただ見つめるだけで、笑みを深くした唇がそっと口に重なり、食んでくれる。もう、ずっと膝の上にお邪魔させてもらっているのに、バアルさんは嫌な顔ひとつしない。
それどころか、すらりと伸びた体躯をソファーに預けながら、引き締まった腕の中で俺をひたすら甘やかしてくれたんだ。ちゃんと俺が満足するまで、ずっと……
自分で自分の理性に止めを刺したせいで、頭の中はすっかり彼の微笑みでいっぱいになってしまっていた。
……前みたいに実は起きてたり、しないだろうか? もし、起きてたら……きちんとお願いすれば、一回くらいならしてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけて、トクトクと温かいリズムを刻んでいる胸から顔を離す。
……ダメだった。
瞼を閉じた彫りの深い顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。形のいい唇から規則正しい寝息が漏れる度に、額の触覚が僅かに揺れていた。
一緒だ、完全に。珍しく早起きした時に、拝見させてもらった彼の寝顔と。しかも状況まで一致してしまっている。しなくていいのに。
……ちょっと、いや……大分欲求不満過ぎやしないか? 毎回、彼が寝ているのをいいことに、こっそりキスしようなんてさ。今回はまだ未遂だけど。
……もう、諦めて寝てしまおう。明日にさえなってしまえば、確実におはようのキスをしてもらえるんだし。それに何よりデートなんだし。
……でも、せめてこれだけは良いよな?
自分を甘やかして、広い背中に腕を回す。立派なお胸に再び顔を押しつけると、彼から漂うハーブの香りが鼻先を優しく擽った。
さらにすり寄り、柔らかさと丁度いい弾力さを兼ね備えた、素晴らしい筋肉の感触を堪能していた時だった。
どこか残念そうな声色の呟きが、俺の鼓膜を静かに揺らしたのは。
身体の方は、もう準備万端だ。美味しい食事によってお腹は満たされ、広くて適温だった湯船によって手足の先まで程よく温まっている。まさにベストコンディションってヤツだ。夢の世界へと旅立つには。
付け加えて、環境も完璧だ。いつもよりずっと早い時間に、青い水晶で作られたシャンデリアの明かりを落とした室内は暗く、穏やかな静けさに満ちている。
キングサイズよりも大きくて広いベッドは、四肢をだらんと伸ばしている俺を丁重に支え、羽のように軽い掛け布団が優しく包み込んでくれている。
おまけに好きな人からの腕枕つきだ。これ以上に快適な睡眠環境があるだろうか? いや、ない。ないんだけどさ。
……眠れない。
心の中で呟いた……結論であり、俺の現状を表す一言に、自分から思い浮かべておいてうっかりため息が漏れそうになる。
でも、漏らせない。俺と布団を共にしている彼、バアルさんを起こしてしまわない為だ。
寝ているんだろうなぁ……多分。彼の逞しい胸板に顔を寄せさせていただいてるから、ちゃんと確認した訳じゃないけれど。
少し前まで背中をゆったり撫でてくれていた、大きな手の動きは今や完全に止まってしまっているし、頭の上から規則正しい呼吸も聞こえているからさ。もう、一足先に眠りについちゃってるんだろう。
ここに来てから眠れないってこと、今まで無かったのになぁ……むしろ最近は、朝までぐっすりだったハズだ。
明日は、バアルさんとのデートなのに……初めて城下町に出かけるのに、何で今日に限って……
不思議に思い、ここ最近の記憶を掘り起こしにかかったのがいけなかった。
鮮明に思い出してしまったからだ。たっぷり優しく致してもらっていた……バアルさんとの甘い夜の数々を。
頭の中にふわりと彼が現れる。襟元が緩んだシンプルな白いシャツから、綺麗な鎖骨のラインを覗かせ、すらりと引き締まった長い脚に黒いズボンを纏ったバアルさんが。
いつもはキッチリと後ろに撫でつけている髪を、さらりと下ろした目元がどこか色っぽい。ただただ見惚れてしまっていると、白くて綺麗な手が俺に向かって伸びてきた。
一回り大きな手のひらが、ゆるゆると頬を撫でてくれる。柔らかい微笑みを深くした彼が、宝石のように煌めく緑の瞳をゆるりと細めた。
その光景を皮切りに、次々と駆け巡り始めてしまった。清潔感漂う白い髭が渋くてカッコいい口元に、浮かんだ艷やかな微笑みが。
お胸の筋肉は綺麗に盛り上がり、当たり前のように腹筋は割れ、腰はキュッと引き締まった……男として憧れしかない彫刻のような肉体美が。
蘇り始めてしまったんだ。
俺の名を呼んでくれて、可愛いですね……いい子ですね……と褒めてくれる穏やかな低音が。甘やかすように何度もそっと口づけてくれる、柔らかい唇の感触が。全身を余すことなく撫で擦り、心地よさだけを俺に与えてくれる大きな手の温もりが。
顔の中心へと一気に熱が集中していく気がした。同時に鼓動がドクドクと騒がしくなり、身体の奥の方が妙に疼いてきてしまう。
……どうしよう……今すぐバアルさんにキスして欲しい。というか、したい……滅茶苦茶。あの約束通り、今日もいっぱいしてもらったはずなのに。
喉の渇きにも似た感覚を心が訴える。訴えたせいで、また俺の脳みそが余計なことを……本日の昼下がりのワンシーンを再生し始めてしまった。
優しげに細められた瞳をただ見つめるだけで、笑みを深くした唇がそっと口に重なり、食んでくれる。もう、ずっと膝の上にお邪魔させてもらっているのに、バアルさんは嫌な顔ひとつしない。
それどころか、すらりと伸びた体躯をソファーに預けながら、引き締まった腕の中で俺をひたすら甘やかしてくれたんだ。ちゃんと俺が満足するまで、ずっと……
自分で自分の理性に止めを刺したせいで、頭の中はすっかり彼の微笑みでいっぱいになってしまっていた。
……前みたいに実は起きてたり、しないだろうか? もし、起きてたら……きちんとお願いすれば、一回くらいならしてくれるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけて、トクトクと温かいリズムを刻んでいる胸から顔を離す。
……ダメだった。
瞼を閉じた彫りの深い顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。形のいい唇から規則正しい寝息が漏れる度に、額の触覚が僅かに揺れていた。
一緒だ、完全に。珍しく早起きした時に、拝見させてもらった彼の寝顔と。しかも状況まで一致してしまっている。しなくていいのに。
……ちょっと、いや……大分欲求不満過ぎやしないか? 毎回、彼が寝ているのをいいことに、こっそりキスしようなんてさ。今回はまだ未遂だけど。
……もう、諦めて寝てしまおう。明日にさえなってしまえば、確実におはようのキスをしてもらえるんだし。それに何よりデートなんだし。
……でも、せめてこれだけは良いよな?
自分を甘やかして、広い背中に腕を回す。立派なお胸に再び顔を押しつけると、彼から漂うハーブの香りが鼻先を優しく擽った。
さらにすり寄り、柔らかさと丁度いい弾力さを兼ね備えた、素晴らしい筋肉の感触を堪能していた時だった。
どこか残念そうな声色の呟きが、俺の鼓膜を静かに揺らしたのは。
58
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる