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とある兵士達と秘密の最終会議(後編)

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「ルートは判明しましたが……班分けはどうなさいますか?」

「三人ずつ二手に分けよう。先行組と追跡組でな。各自、必ず認識阻害の術を施しておけ。バアルには確実にバレるだろうが……アオイ殿と民の目は誤魔化せるからな」

 一人で勝手に納得している場合じゃなかった。気を引き締めねぇと。

 どうやら俺とヤツは、追跡組になったらしい。もう一人、同じアオイ様の親衛隊の一員であるベィティを加えて。

 三角の耳をピンっと立てたベィティが、黒く長い尻尾を軽く振りながら青い猫目をパチンと瞬かせる。取り敢えず俺も尻尾で挨拶を返すと口の端を持ち上げ微笑んだ。

「とにかく、何人たりとも近づけさせるな。二人には満ち足りた時間を過ごしてもらいたんだ」

 元々、俺達親衛隊はアオイ様のことを大切に思っていらっしゃるバアル様のご負担を、少しでも減らす為に結成されたものだ。

 俺自身も……団長殿からの口伝えに聞いた、俺達がお二人の邪魔をしない距離で見守ることで……不測の事態からアオイ様を守るべく、常に警戒を怠らないバアル様に余裕を持たせることが出来るのでは、というヨミ様のお気持ちの力添えが出来ればと立候補した。

 同僚らも同じ思いだろう。しなやかな腕を広げ、熱のこもった言葉を紡ぐヨミ様を、皆真っ直ぐに見つめている。

 不覚にも目の奥に熱を感じ始めた時だった、堂々たる王の風格を漂わせていた我らが主の態度が、ガラリと変わったのは。

「……特にナンパの類には容赦するな……二人に対して不穏な動きを取る者がいれば、見つけ次第直ちに潰せ! いいな?」

 ……俺だけ、なんだろうか。いくらなんでも流石にそれはないだろうと思ってしまったのは。

 ……俺だけ、なのかもしれない。団長殿も平然としているし……同僚らは皆、気合の入った掛け声で応えている。

 確かに今現在、バアル様とアオイ様は有名になってしまっている。城内は勿論のこと城下町でも。特にアオイ様は、俺達の中に深く根づいていた……人間という存在のイメージを一新してしまったから尚更だ。だが……

「……恐れながら申し上げます」

 気がつけば口を開いてしまっていた。視線が痛い。一体どうしたんだ? という同僚らとヤツからの視線が。

「構わん、何だ?」

 心配そうな顔をした団長殿が続けて口を開くまでもなく、柔らかい笑みを浮かべたヨミ様から優しい声で促される。

 胸を撫で下ろしたのは団長殿も同じなようで、分厚い胸板を張り、姿勢を正した。

「お二人は……変装の術を施して、出掛けられるのですよね?」

「ああ、そうだ。そなたらには、術を打ち消す魔宝石を各自配布する故、問題はないだろう」

「……であれば、お二人であると皆が認識出来ないのであれば……ナンパなどはされないのでは、ありませんか?」

 ……生涯で初めてだった。空気が固まる瞬間を、この身だけでなく鱗でも感じたのは。

 ……生涯で最後にしたいと思った。ぶわりと広がった羽とマントをはためかせ、並々ならぬ覇気を放つ真っ赤な瞳から、心の臓を抉らんばかりに見つめられるのは。

「……甘い、甘いぞサロメ……」

「は、はい……申し訳ありませ……」

 腹の奥底まで響き、脳を揺らす錯覚すらも覚える地を這うような声に、口が勝手に謝罪の言葉を紡ぐ。

 ぐるぐると慌てふためく思考回路が導き出した、色々な覚悟を決めた瞬間、それらは全て杞憂なのだと知らされることになる。

「たかが術ごときで、バアルとアオイ殿からあふれる魅力が抑えられる訳がないだろう!!」

「……え?」

「全く……そなたはもう少し二人の素晴らしさを知るべきだな! しょうがないっ! 私の秘蔵コレクションの一部を見せてやろうっ!」

 さっきまでの、思わず平伏したくなる暴力的な威厳はどこにいってしまったのか。いそいそと黒い投影石を懐から取り出したヨミ様が、宙へいくつもの画像を展開し始める。

 先日、城内で噂になっていたハロウィンってやつの写真だろうか? 黒いマントが印象的なお揃いの衣装を身に着けて、楽しそうに笑い合うお二方がとても微笑ましい。いい写真だ。

 だが、一際大きく映された画像には、どういう経緯があったんだ? ……何故か狼の耳と尻尾をつけていらっしゃるバアル様のお姿は。

 なにやら周りで涙に滲んだ悶え声が聞こえた気がしたが、聞こえないフリを決め込んだ。

「どうだ? 思わず笑顔になってしまう素敵さだろう?」

「……はい」

「我が民達は……強い信念を持つが故に、己の欲望に正直な者が多いからな。どれだけ二人が仲睦まじく過ごしていても、彼らの魅力に惹かれて声を掛けてしまうだろう。いや掛ける、絶対にな」

「そう、ですね」

 まぁ、納得はした。それからやる気も高まった。お二人の為にという思いにプラスで、ヨミ様の為にもという気持ちが加わったからな。

 まるで自分のことのように得意気に「だろう?」と笑みを深めた我らが主が、お二方からいい土産話をもらえるように頑張ろうと、心に決めたんだ。
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