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目が覚めたら何故か猫になっていましたが、俺は幸せです。おしまい
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どうやら、あのままずっと眠っていたらしい。俺とバアルさんを囲んでいた皆さんの姿は既に部屋にはなく。少し前まで明るかったハズの窓の外も、すっかり薄暗くなってしまっている。
珍しいことに、今回はバアルさんも眠ってしまっているようだ。
キングサイズよりも大きなベッドに、スタイルのいい長身の身体を仰向けに預けた彼は、規則正しい寝息を立てている。筋肉質な長い腕で、俺をしっかり胸元に抱き抱えたまま。
……疲れてるんだろうな。今日は、いっぱいお世話になっちゃってるし……たっぷり甘えちゃったもんな……
室内をほんのり照らすシャンデリアの明かりを受け、透き通った羽が淡く煌めき、少し乱れた艷やかな髪に光の輪が浮かぶ。伏せられた白い睫毛も銀の糸みたいで……キレイだな。それからカッコいい。当たり前だけど。
ついついしげしげと見惚れてしまっていたせいだ。鼓動はドキドキはしゃぎ始め、気持ちはそわそわ落ち着かない。いつもだったらキスしたいって思うのに、猫だからかな? 頬を擦り寄せたくて仕方が無い。
どうしよう……くっつきたい……ちょっとだけ……ちょっとだけなら、いいよな?
不意に込み上げてきた衝動のまま、俺は彼の滑らかな頬に自分の頬を押し付けていた。すりすりと擦り寄る度に、心が温かい何かで満ちていくのを感じる。
それで満足していればよかった。よかったのに俺は調子に乗ってしまったんだ。彼が起きないのをいいことに、その白い頬に舌を伸ばしていたんだ。
……バアルさん、バアルさん……好き、好きです……
込み上げる想いを伝えるように、夢中で舌を這わし続ける。いくら熟睡中だからといって堂々と大胆なことをしていれば、バレない訳がなく。
「ふふ……誠に貴方様は可愛らしい御方でございますね。まさか元の御姿でも、斯様に甘えて頂けるとは思いませんでした」
いつの間にか開いていた、擽ったそうに細められた鮮やかな緑の瞳が、俺をうっとり見つめていたんだ。
「ひぇ……って、あれ……俺、声、戻って……」
まず、鳴き声ではなく声が出ることに気づき、それから視線を落とす。手だ、間違いなく俺の手だ。ふわもふなオレンジ色の毛も、ピンクな肉球も、小さく鋭い爪もない。皮膚に覆われた俺の手だ。
続けて視線を胴に、足へと巡らせる。ちゃんと戻っている、全身も。しっかり服も着ている。トレーナーに緩めの長ズボン、昨晩のままだ。
人間に……戻っている。まだ、夕方なのに。もしかして、ヨミ様の魔宝石と、グリムさんとクロウさんのアクセサリーのお陰だろうか? いや、そうに違いない。でなけりゃ、この状況に説明がつかない。
……ん? 待てよ? てことは俺、猫じゃないのに、バアルさんに擦り寄ってたのか? 舐めていたのか? バアルさんのキレイな頬を?
「ひょわっ!?」
「おや、もう……止めてしまわれるのでしょうか?」
弾かれるように仰け反っていた俺の腰に、引き締まった腕がするりと回され、優しく抱き寄せられる。お陰様で再び覆い被さるように、筋肉に覆われた男らしいお身体に全体重を預ける形になってしまった。
暴れ狂っている心音が、全身に響いてしまっているのかもしれない。僅かに震えている俺の手に、大きな手が重なり、細く長い指がするりと絡む。
鼻先にある、カッコいい髭が素敵な口元からは穏やかな笑みの形が消え、しょんぼり歪んでしまっていた。いかにも残念だと言いたげに。だから余計に焦ったんだろう。ますますパニックになっていたんだと思う。
「い、いやだって、俺もう猫じゃないですからっ! 擦り寄るよりも抱きつきたいし、舐めるよりもキスしたい……じゃなくて!」
でなけりゃ口にする訳がない。自分の行動に対しての謝罪をせずに、胸の奥にこっそり秘めてる欲望をまるっと全部ぶちまけるなんてさ。
「成る程、心得ました」
「へ? んむ……」
頬に、温かい手が添えられたかと思えば、柔らかい唇に食まれていた。一日ぶり、でもないんだけれど……また彼と触れ合えた喜びに、すっかり夢中になってしまう。
「ん、んっ……ふ、ぁ……んん」
気がつけば、引き締まった彼の首に腕を絡め、求め合うようなキスに溺れてしまっていた。高鳴り続けている心音に紛れて、クスクスと静かに笑う声が聞こえる。
頭の中がぽーっと霞んで、視界がじわりと滲んでいく。触れるだけの優しいものなのに。
何度目か分からないくらいに交わした後、不意に離れていってしまった。艷やかに綻ぶ唇が、肩で息をしている俺の頬にそっと触れ、囁く。
「……まだ、お夕食までは時間がございます。もう少し、貴方様に触れても宜しいでしょうか?」
察しのいい彼だ。絶対に分かっているに決まっている。まだまだ全然足りていないってことくらい。そんなこと聞かなくても、俺が彼を求めて止まないってことくらい。ホントに時々ちょっぴり意地悪だ。いつもはとびきり優しいのにさ。
なんだか少し悔しくて、ちょっとでもドキドキしてもらいたくて。余裕綽々で微笑む唇を自分から食んでみた。
でも、やっぱり一枚もニ枚も上手なのは彼の方で。嬉しそうに笑みを深めた唇に、あっさり蕩けさせられてしまったんだ。
珍しいことに、今回はバアルさんも眠ってしまっているようだ。
キングサイズよりも大きなベッドに、スタイルのいい長身の身体を仰向けに預けた彼は、規則正しい寝息を立てている。筋肉質な長い腕で、俺をしっかり胸元に抱き抱えたまま。
……疲れてるんだろうな。今日は、いっぱいお世話になっちゃってるし……たっぷり甘えちゃったもんな……
室内をほんのり照らすシャンデリアの明かりを受け、透き通った羽が淡く煌めき、少し乱れた艷やかな髪に光の輪が浮かぶ。伏せられた白い睫毛も銀の糸みたいで……キレイだな。それからカッコいい。当たり前だけど。
ついついしげしげと見惚れてしまっていたせいだ。鼓動はドキドキはしゃぎ始め、気持ちはそわそわ落ち着かない。いつもだったらキスしたいって思うのに、猫だからかな? 頬を擦り寄せたくて仕方が無い。
どうしよう……くっつきたい……ちょっとだけ……ちょっとだけなら、いいよな?
不意に込み上げてきた衝動のまま、俺は彼の滑らかな頬に自分の頬を押し付けていた。すりすりと擦り寄る度に、心が温かい何かで満ちていくのを感じる。
それで満足していればよかった。よかったのに俺は調子に乗ってしまったんだ。彼が起きないのをいいことに、その白い頬に舌を伸ばしていたんだ。
……バアルさん、バアルさん……好き、好きです……
込み上げる想いを伝えるように、夢中で舌を這わし続ける。いくら熟睡中だからといって堂々と大胆なことをしていれば、バレない訳がなく。
「ふふ……誠に貴方様は可愛らしい御方でございますね。まさか元の御姿でも、斯様に甘えて頂けるとは思いませんでした」
いつの間にか開いていた、擽ったそうに細められた鮮やかな緑の瞳が、俺をうっとり見つめていたんだ。
「ひぇ……って、あれ……俺、声、戻って……」
まず、鳴き声ではなく声が出ることに気づき、それから視線を落とす。手だ、間違いなく俺の手だ。ふわもふなオレンジ色の毛も、ピンクな肉球も、小さく鋭い爪もない。皮膚に覆われた俺の手だ。
続けて視線を胴に、足へと巡らせる。ちゃんと戻っている、全身も。しっかり服も着ている。トレーナーに緩めの長ズボン、昨晩のままだ。
人間に……戻っている。まだ、夕方なのに。もしかして、ヨミ様の魔宝石と、グリムさんとクロウさんのアクセサリーのお陰だろうか? いや、そうに違いない。でなけりゃ、この状況に説明がつかない。
……ん? 待てよ? てことは俺、猫じゃないのに、バアルさんに擦り寄ってたのか? 舐めていたのか? バアルさんのキレイな頬を?
「ひょわっ!?」
「おや、もう……止めてしまわれるのでしょうか?」
弾かれるように仰け反っていた俺の腰に、引き締まった腕がするりと回され、優しく抱き寄せられる。お陰様で再び覆い被さるように、筋肉に覆われた男らしいお身体に全体重を預ける形になってしまった。
暴れ狂っている心音が、全身に響いてしまっているのかもしれない。僅かに震えている俺の手に、大きな手が重なり、細く長い指がするりと絡む。
鼻先にある、カッコいい髭が素敵な口元からは穏やかな笑みの形が消え、しょんぼり歪んでしまっていた。いかにも残念だと言いたげに。だから余計に焦ったんだろう。ますますパニックになっていたんだと思う。
「い、いやだって、俺もう猫じゃないですからっ! 擦り寄るよりも抱きつきたいし、舐めるよりもキスしたい……じゃなくて!」
でなけりゃ口にする訳がない。自分の行動に対しての謝罪をせずに、胸の奥にこっそり秘めてる欲望をまるっと全部ぶちまけるなんてさ。
「成る程、心得ました」
「へ? んむ……」
頬に、温かい手が添えられたかと思えば、柔らかい唇に食まれていた。一日ぶり、でもないんだけれど……また彼と触れ合えた喜びに、すっかり夢中になってしまう。
「ん、んっ……ふ、ぁ……んん」
気がつけば、引き締まった彼の首に腕を絡め、求め合うようなキスに溺れてしまっていた。高鳴り続けている心音に紛れて、クスクスと静かに笑う声が聞こえる。
頭の中がぽーっと霞んで、視界がじわりと滲んでいく。触れるだけの優しいものなのに。
何度目か分からないくらいに交わした後、不意に離れていってしまった。艷やかに綻ぶ唇が、肩で息をしている俺の頬にそっと触れ、囁く。
「……まだ、お夕食までは時間がございます。もう少し、貴方様に触れても宜しいでしょうか?」
察しのいい彼だ。絶対に分かっているに決まっている。まだまだ全然足りていないってことくらい。そんなこと聞かなくても、俺が彼を求めて止まないってことくらい。ホントに時々ちょっぴり意地悪だ。いつもはとびきり優しいのにさ。
なんだか少し悔しくて、ちょっとでもドキドキしてもらいたくて。余裕綽々で微笑む唇を自分から食んでみた。
でも、やっぱり一枚もニ枚も上手なのは彼の方で。嬉しそうに笑みを深めた唇に、あっさり蕩けさせられてしまったんだ。
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