間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

白井のわ

文字の大きさ
上 下
212 / 1,047

皆さんの前だというのに、いつものクセで

しおりを挟む
「はい、どうぞ」

 白い牙を覗かせながらニカッと笑うスヴェンさんに続けて、お手伝いにぱたぱた飛び回っている子豚達がぷきゃっ! と元気な声を上げた。

「ありがとうございます! いただきますっ」

 大きな手から差し出された銀色の器とスプーンを受け取り、慎重に雪を踏みしめ運んでいく。スヴェンさん達がシチューをよそう仮設テントの直ぐ側へ。不思議と冷たくない、雪を固めた広いテーブルへバアルさんと並んで着いた。

 正面にはヨミ様とサタン様が、俺の左隣にはグリムさんが「お邪魔しますっ」とクロウさんを連れて一緒に座った。

 器から伝わってくる温かさが、じんわりと指の先から伝わってくる。この温度も含めてご馳走だ。

 大ぶりの鶏肉にじゃがいも、にんじん、色鮮やかなブロッコリー。ごろごろ大きな具材が纏う、とろりとしたシチューから真っ白な湯気と一緒に立ち上る、いい匂いが堪らない。もう美味しそう。

 皆さんと揃っていただきますをしてから、そそられるがままに一匙口に含む。

 ひと嚙みするだけで、しっとりしたお肉がホロホロと蕩けていく。同時に広がるコクのある旨味と温かさが程よく疲れた身体に染みる。自然と頬が緩んでしまっていた。

 それからうっかり、いつものクセも出てしまっていた。

「あー……美味しい。はい、バアルさんもどうぞ! 美味しいですよ、スゴく」

 感動する柔らかさの鶏肉を乗せ、お裾分けをしようとしていたんだ。皆さんの前だというのに、バアルさんも同じシチューをいただいているというのに。

 緑の瞳を縁取る白い睫毛がぱちぱち瞬く。俺が差し出したスプーンを、きょとんと見つめていたのもつかの間だった。

「ふふ、ありがとうございます」

 穏やかに綻んだ口元をくすりと深め、匙を食んでくれたのだ。

「……大変美味しいですね」

「ですよね!」

 速やかに合わせてくれただけでなく、微笑みかけてくれた彼の優しさのお陰で俺は気づかない。

「いいなぁ……ねぇクロウ! 僕にもしてくださいよ、あーんって!」

 ようやく気づいたのは、グリムさんからフードマントの裾をぐいぐい引っ張られていたクロウさんが、ぽつりと尋ねた時だった。

「別に構わんが……味、同じだぞ?」

 思わず取り落としそうになった匙が、テーブルに叩きつけられる寸前に宙で静止する。意思でも持ったかのように、俺のシチューへと自ら帰還してくれる。言うまでもなく、バアルさんの術によるフォローだろう。

「あ……ぅ……」

「変わりますよ、絶対! だってバアル様、自分で食べている時より幸せそうでしたもん! アオイ様からあーんしてもらった時の方が!!」

「ひぇ……」

 思いがけない追い打ちを受けたせいで、気持ちがぐっちゃぐちゃだ。恥ずかしさと嬉しさとを、高速で反復横跳びしている気分。

 兎にも角にも落ち着こう、リラックス、リラックスだ……

 深呼吸をして、走り続けている鼓動を落ち着けようとしたが無理だった。

「皆、仲良しさんだな!」

「うむ、よいことだの」

 上機嫌な声に釣られ、顔を上げてしまったせいだ。思いっきり受けてしまったんだ。四つの真っ赤な瞳からの微笑ましい眼差しを。

「……アオイ様」

 柔らかい声が俺を呼び、大きな手がゆったりと背中を撫でてくれる。

「バアルさっ……ん……」

 弾かれたように横を向いた俺に差し出されたのは助け舟ではなく、シチューが盛られたスプーンだった。

 嬉しそうに細められた瞳は期待に揺れ、透き通った羽がそわそわとはためいている。

「どうぞ、お召し上がり下さい」

「……いただきます」

 ただでさえ、好きな人からのお願いに弱い俺だ。断れる訳がなかった。そもそも断る理由もないしな。

 シチューは勿論、美味しかった。それから、分かった気がした。

 ……背中の辺りが擽ったくて仕方がなかったけど、心が満たされたんだ。バアルさんから食べさせてもらった時の方が、ずっと。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

処理中です...