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皆さんの前だというのに、いつものクセで
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「はい、どうぞ」
白い牙を覗かせながらニカッと笑うスヴェンさんに続けて、お手伝いにぱたぱた飛び回っている子豚達がぷきゃっ! と元気な声を上げた。
「ありがとうございます! いただきますっ」
大きな手から差し出された銀色の器とスプーンを受け取り、慎重に雪を踏みしめ運んでいく。スヴェンさん達がシチューをよそう仮設テントの直ぐ側へ。不思議と冷たくない、雪を固めた広いテーブルへバアルさんと並んで着いた。
正面にはヨミ様とサタン様が、俺の左隣にはグリムさんが「お邪魔しますっ」とクロウさんを連れて一緒に座った。
器から伝わってくる温かさが、じんわりと指の先から伝わってくる。この温度も含めてご馳走だ。
大ぶりの鶏肉にじゃがいも、にんじん、色鮮やかなブロッコリー。ごろごろ大きな具材が纏う、とろりとしたシチューから真っ白な湯気と一緒に立ち上る、いい匂いが堪らない。もう美味しそう。
皆さんと揃っていただきますをしてから、そそられるがままに一匙口に含む。
ひと嚙みするだけで、しっとりしたお肉がホロホロと蕩けていく。同時に広がるコクのある旨味と温かさが程よく疲れた身体に染みる。自然と頬が緩んでしまっていた。
それからうっかり、いつものクセも出てしまっていた。
「あー……美味しい。はい、バアルさんもどうぞ! 美味しいですよ、スゴく」
感動する柔らかさの鶏肉を乗せ、お裾分けをしようとしていたんだ。皆さんの前だというのに、バアルさんも同じシチューをいただいているというのに。
緑の瞳を縁取る白い睫毛がぱちぱち瞬く。俺が差し出したスプーンを、きょとんと見つめていたのもつかの間だった。
「ふふ、ありがとうございます」
穏やかに綻んだ口元をくすりと深め、匙を食んでくれたのだ。
「……大変美味しいですね」
「ですよね!」
速やかに合わせてくれただけでなく、微笑みかけてくれた彼の優しさのお陰で俺は気づかない。
「いいなぁ……ねぇクロウ! 僕にもしてくださいよ、あーんって!」
ようやく気づいたのは、グリムさんからフードマントの裾をぐいぐい引っ張られていたクロウさんが、ぽつりと尋ねた時だった。
「別に構わんが……味、同じだぞ?」
思わず取り落としそうになった匙が、テーブルに叩きつけられる寸前に宙で静止する。意思でも持ったかのように、俺のシチューへと自ら帰還してくれる。言うまでもなく、バアルさんの術によるフォローだろう。
「あ……ぅ……」
「変わりますよ、絶対! だってバアル様、自分で食べている時より幸せそうでしたもん! アオイ様からあーんしてもらった時の方が!!」
「ひぇ……」
思いがけない追い打ちを受けたせいで、気持ちがぐっちゃぐちゃだ。恥ずかしさと嬉しさとを、高速で反復横跳びしている気分。
兎にも角にも落ち着こう、リラックス、リラックスだ……
深呼吸をして、走り続けている鼓動を落ち着けようとしたが無理だった。
「皆、仲良しさんだな!」
「うむ、よいことだの」
上機嫌な声に釣られ、顔を上げてしまったせいだ。思いっきり受けてしまったんだ。四つの真っ赤な瞳からの微笑ましい眼差しを。
「……アオイ様」
柔らかい声が俺を呼び、大きな手がゆったりと背中を撫でてくれる。
「バアルさっ……ん……」
弾かれたように横を向いた俺に差し出されたのは助け舟ではなく、シチューが盛られたスプーンだった。
嬉しそうに細められた瞳は期待に揺れ、透き通った羽がそわそわとはためいている。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「……いただきます」
ただでさえ、好きな人からのお願いに弱い俺だ。断れる訳がなかった。そもそも断る理由もないしな。
シチューは勿論、美味しかった。それから、分かった気がした。
……背中の辺りが擽ったくて仕方がなかったけど、心が満たされたんだ。バアルさんから食べさせてもらった時の方が、ずっと。
白い牙を覗かせながらニカッと笑うスヴェンさんに続けて、お手伝いにぱたぱた飛び回っている子豚達がぷきゃっ! と元気な声を上げた。
「ありがとうございます! いただきますっ」
大きな手から差し出された銀色の器とスプーンを受け取り、慎重に雪を踏みしめ運んでいく。スヴェンさん達がシチューをよそう仮設テントの直ぐ側へ。不思議と冷たくない、雪を固めた広いテーブルへバアルさんと並んで着いた。
正面にはヨミ様とサタン様が、俺の左隣にはグリムさんが「お邪魔しますっ」とクロウさんを連れて一緒に座った。
器から伝わってくる温かさが、じんわりと指の先から伝わってくる。この温度も含めてご馳走だ。
大ぶりの鶏肉にじゃがいも、にんじん、色鮮やかなブロッコリー。ごろごろ大きな具材が纏う、とろりとしたシチューから真っ白な湯気と一緒に立ち上る、いい匂いが堪らない。もう美味しそう。
皆さんと揃っていただきますをしてから、そそられるがままに一匙口に含む。
ひと嚙みするだけで、しっとりしたお肉がホロホロと蕩けていく。同時に広がるコクのある旨味と温かさが程よく疲れた身体に染みる。自然と頬が緩んでしまっていた。
それからうっかり、いつものクセも出てしまっていた。
「あー……美味しい。はい、バアルさんもどうぞ! 美味しいですよ、スゴく」
感動する柔らかさの鶏肉を乗せ、お裾分けをしようとしていたんだ。皆さんの前だというのに、バアルさんも同じシチューをいただいているというのに。
緑の瞳を縁取る白い睫毛がぱちぱち瞬く。俺が差し出したスプーンを、きょとんと見つめていたのもつかの間だった。
「ふふ、ありがとうございます」
穏やかに綻んだ口元をくすりと深め、匙を食んでくれたのだ。
「……大変美味しいですね」
「ですよね!」
速やかに合わせてくれただけでなく、微笑みかけてくれた彼の優しさのお陰で俺は気づかない。
「いいなぁ……ねぇクロウ! 僕にもしてくださいよ、あーんって!」
ようやく気づいたのは、グリムさんからフードマントの裾をぐいぐい引っ張られていたクロウさんが、ぽつりと尋ねた時だった。
「別に構わんが……味、同じだぞ?」
思わず取り落としそうになった匙が、テーブルに叩きつけられる寸前に宙で静止する。意思でも持ったかのように、俺のシチューへと自ら帰還してくれる。言うまでもなく、バアルさんの術によるフォローだろう。
「あ……ぅ……」
「変わりますよ、絶対! だってバアル様、自分で食べている時より幸せそうでしたもん! アオイ様からあーんしてもらった時の方が!!」
「ひぇ……」
思いがけない追い打ちを受けたせいで、気持ちがぐっちゃぐちゃだ。恥ずかしさと嬉しさとを、高速で反復横跳びしている気分。
兎にも角にも落ち着こう、リラックス、リラックスだ……
深呼吸をして、走り続けている鼓動を落ち着けようとしたが無理だった。
「皆、仲良しさんだな!」
「うむ、よいことだの」
上機嫌な声に釣られ、顔を上げてしまったせいだ。思いっきり受けてしまったんだ。四つの真っ赤な瞳からの微笑ましい眼差しを。
「……アオイ様」
柔らかい声が俺を呼び、大きな手がゆったりと背中を撫でてくれる。
「バアルさっ……ん……」
弾かれたように横を向いた俺に差し出されたのは助け舟ではなく、シチューが盛られたスプーンだった。
嬉しそうに細められた瞳は期待に揺れ、透き通った羽がそわそわとはためいている。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「……いただきます」
ただでさえ、好きな人からのお願いに弱い俺だ。断れる訳がなかった。そもそも断る理由もないしな。
シチューは勿論、美味しかった。それから、分かった気がした。
……背中の辺りが擽ったくて仕方がなかったけど、心が満たされたんだ。バアルさんから食べさせてもらった時の方が、ずっと。
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