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とある死神は、師匠とのお揃いが欲しい

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 いつもカッコよくて、憧れで。死神としての目標でもある僕の師匠、クロウは風のような人だ。飄々としているというか、掴めないというか……そんな感じ。

 でも……僕が困っていたり、悲しくて駄目になってしまいそうな時はすぐに駆けつけてくれて、優しく包み込んでくれるんだ。だけど。

「しーしょーう! ねぇ、クロウ! 聞いてますか!?」

 お城の中庭の隅っこにある、お気に入りのベンチ。そこは、庭いっぱいに咲き誇る水晶のお花達が見渡せる特等席だ。

 僕の隣で、長い足を大きく組んでいる師匠。クロウの視線も、薄紫やピンク色の煌めく花々へとぼんやり向けられている。

 大きな声で呼びかけているのに。こんなに何度もフードマントの裾を、ぐいぐい引っ張っているのに。

「ん? ああ、聞いてるぞ、ちゃんと。あー……ほら、バアル様が選んだヘアピン似合っていたな。ますますアオイ様の可愛らしさが引き立てられててよ」

「違いますよっ! 確かに、とってもお似合いで可愛らしかったですけど! というか、アオイ様が可愛いのは当たり前ですけどっ」

 やっぱり普段は、ふわっふわで適当だ。いつものことだから、もう慣れっこだけど。

「悪い悪い、で? なんの話だ?」

 フードから覗くさらりとした金髪と同じ、金の瞳が僕を見る。ゆるりと細められた柔らかい眼差しに、何故かちょっとだけ胸の辺りがきゅっと高鳴った。

「だから……その、僕もお揃いが……欲しいなって。アオイ様やバアル様みたいに……僕と……クロウのお揃いが……」

 今朝の温かい光景が、色鮮やかに浮かぶ。お二人の左手の薬指に輝く銀の輪と、幸せそうに微笑み合う御姿が。

 とても眩しくて、自分のことみたいにすっごく嬉しくて……それから、いいな……って思ったんだ。僕も大切な人とのお揃いが欲しいなって。

「なんだそんなことか、俺とグリムならとっくにお揃いだろ?」

 あっけらかんと、白い歯を見せて僕の頭をぽんっと叩く。

「えっ!? ホントですか!?」

 一番に浮かんだ、僕にとっての大切な人。クロウと僕がもうお揃いだったなんて! 飛び上がるくらいに嬉しくて、僕は思わず大きな声を上げてしまっていた。

「ああ。ほら、今もお揃いだろ?」

 ドキドキと弾んでいた気持ちがあっという間に落ちていく。どこか得意気に広げられた腕からじゃじゃんと、灰色のフードマントを示されて。

「全っ然違いますよ! ただの仕事着じゃないですか! だったら僕達皆、お揃いになっちゃいますよっ」

 やっぱり、やっぱり、クロウはふわっふわだ。僕はいつでも大真面目なのに。

 冗談だってのは分かっているんだけど、ちょっとだけムッとしてしまう。

 だからつい、膝の上に跨り、さわり心地のいい滑らかなほっぺたを、左右同時に摘んでしまっていた。

「悪かった、俺が悪かったって……」

 軽くむにむにしていると、逞しい腕を軽く上げながら「降参だ」と男らしい眉を下げ、困ったように笑う。

 仕方がないですね、と僕が手を離し、大きな手が宥めるように頭を優しく撫でてくれる。ここまでの流れが全部、ワンセットってのが僕達の常だ。

「じゃあ、マグカップでも買うか」

「……マグカップ」

 クロウなりにちゃんと考えてくれていたみたいで「ああ、今度の休みに城下町へ行こうか」と続けて提案してくれた。

 日頃使うものだし、お揃いってだけで十分嬉しいんだけど、何だか胸の辺りがもやもやしてしまう。

 でも、大事な時は絶対に外さないクロウは、ちゃんと汲み取ってくれたんだ。僕自身も分からなかったもやもやの正体を。

「もしかして、身に着けるやつが良かったのか?」

 投げかけられた一言が、瞬く間に僕の心を晴らしていく。嬉しい気持ちが、あふれ過ぎてしまったのかもしれない。

「は、はいっ! 着けたいですっ一緒に!」

 また僕は、前のめりになりながら、クロウの裾をぎゅうぎゅう握ってしまったんだ。くつくつと喉の奥で笑う声が、耳に届く。

「だったら、ネックレスも一緒に探してみるか。服の下にも着けられるから、気楽だろうしな」

 服の下……クロウは、隠したいんだろうか? 僕とのお揃いを。

 心の中に、ぽこりと浮かんでしまった不安は勝手にむくむく大きくなって、口からぽろりと落ちてしまう。

「僕は……自慢したいです。クロウとお揃いだ……って見せびらかしたいです」

「……そうか。まぁ、グリムが良けりゃそれで良いけどよ」

「良いです!」

 今、僕の気持ちのグラフは波乱万丈だ。上がっては下がり、また上がってと、がっくんがっくんしている。そしてまた。

「…………なんか、ますます弟子離れ、出来なくなっちまいそうだな……」

 じゃあ決定だな、と口の端を持ち上げたクロウと反対で、僕の気持ちは下がり始めてしまっていた。ぽつりと発せられた、弟子離れっていう単語のせいで。

「あの……クロウは、僕から…………離れたいんですか?」

「いや、やっぱ寂しいしな」

 自然と息が漏れていた。迷うことなく言ってもらえた、僕と同じ気持ちに安心したんだと思う。

「ただ、弟子っつーのは、いずれは師匠の元から飛び立って行っちまうもんだろ?」

 ぽつぽつと続けるクロウの頬が、どこか恥ずかしそうに染まっていく。

 不思議だな。さっきは真剣な顔で堂々と寂しいって伝えてくれたのに。

「なのに、俺の独りよがりで立派になったグリムの足、引っ張りたくないしな……」

 フード越しに頭の後ろをガシガシ掻きながら「これでも師匠だからな、カッコつけたいんだよ」と顔を背ける。

 胸がぽかぽかして、目の奥の方がじんわり熱くなっていく。気がつけば僕は、大きな手を握っていた。

「だったら僕は師匠と、クロウと一緒に飛びます! そうしたら、ずっと一緒に居れますよね? 僕達」

 金糸みたいにキレイな睫毛がぱちぱち瞬く。鋭い瞳を丸くしていたのも束の間で、くすりと白い歯を見せたクロウが僕の手を優しく握り返してくれた。

「ははっ……成る程、悪くないな。いや、寧ろ名案かもしれん」

「ですよねっ褒めてもいいんですよ!」

 おうおう偉い偉い、とカラカラ笑いながらクロウが僕の頭を撫で回す。

 少し雑だけど、撫でてもらえる度に気持ちがふわふわして、嬉しくて。思わず広い胸板に抱きついてしまったんだ。
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