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やっぱりファーストインプレッションは大事

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 微笑む店員さんが、肩を並べて座る俺達の前へ静かに長方形のケースを置く。

「お待たせいたしました」

 ケースの中には、先程試着をお願いした指輪達が、紺色のふわふわした生地に包まれていた。

 デザインの異なるニ種類、色違いも含めて四種の指輪がズラリと並ぶ様は……なんというか壮観だ。小さめの方は俺の分、大きめのはバアルさんの分だろう。

 まじまじと眺めてしまっていると、白い手袋に覆われた手がゆるりとした動作で箱を指し示す。

「どうぞ、お手に取られてみてください」

「……失礼致します。では、アオイ様」

「へ? あ、はいっ」

 穏やかな微笑みと共に差し出された手のひらに、俺は反射的に繋いでいた方とは逆の左手を乗せていた。

 さながら、しつけの行き届いたペットのように見られてしまったかもしれない。

 上機嫌に羽をはためかせている彼からすかさず「……いい子ですね」と褒めてもらえたもんだから尚更。

 うっすらとした恥ずかしさを覚えている内に、そっと離れていった白い手が、銀の指輪を摘んで帰ってくる。

「……アオイ」

 柔らかい声から呼ばれ、真っ直ぐな緑の瞳とかち合う。視線を絡めたまま、俺の薬指へと輝く輪が通される。

 こういったお職業柄……いや、培われた能力……なのだろうか。測ってもらっていないのにぴったりだった。

「お美しい……大変お似合いですよ」

 大きな手がそっと俺の手を包み込む。噛みしめるように囁かれた言葉にジンと目の奥が熱くなった。

 ……知らなかったな。嬉しすぎると、心が震えてしまうんだって。

「……ありがとう、ございます……」

 どうしよう、困ったな……泣きそうだ。

「……私の分を、お願いしても宜しいでしょうか?」

「……はいっ」

 くしゃくしゃになりそうだった顔を必死に引き締め、差し出された左手を取る。

 激しく高鳴る鼓動が頭の中まで響き、指輪を摘む指先が勝手に震えてしまう。それでもなんとかお返しに、薬指へと収めることが出来た。

「ありがとうございます……」

 心の底から幸せそうに綻ぶ笑顔に、また目の奥が熱くなってしまう。

 再び重なり合った手にお揃いの証が静かに輝く。熱い何かが胸の奥から込み上げて、あふれてしまいそうな時だった。

「お、おめでとう……ございますぅ……」

 ボロボロとこぼれる大粒の涙で頬を濡らした店員さんから、震える声で祝福の言葉をいただいたのは。

 他にも聞こえるすすり泣くような音に周囲を見渡せば、別の店員さんどころか何故かお客さん方まで俺達を見守っていた。

 微笑ましい笑顔や涙ぐむ眼差しを受け、一気に顔が熱くなる。ただただ口をぱくぱくさせていた俺に代わり、上手く場を収めてくれたのはやっぱりバアルさんだった。

 優しく俺を立ち上がらせ、肩を抱きながら「……ありがとうございます」と綺麗なお辞儀を皆さん方に返していく。流石だ。頼りになるな。

 その後「取り乱してしまい……申し訳ございません」と律儀に謝る店員さんにお礼を言い、二人で吟味を重ねたんだが。結局最初の指輪に落ち着いた。

 ファーストインプレッションが勝ったというか……ビビッときたんだ、互いに。初めて交わしたのが、この銀の指輪だったからさ。
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