間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

★ 嘘みたいだ……怖かったハズの気持ちよさを、ひたすらに求めてしまうなんて

　一応、違和感は感じていた。その正体にも何となくは感づいてはいたんだ。

　でも、認めたくなかったんだと思う。一応俺にも男としてのプライドがあったからさ。まぁ、あっさり砕けたっていうか、ぶん投げることになったんだけどな、自分から。

「……期待して、いらっしゃるのでしょうか？」

　どこか上機嫌に触覚を揺らすバアルさんが、白い髭が素敵な口元を綻ばせる。

　何だか、俺の身体じゃないみたいだ。たっぷり垂らされた潤滑油により、十分な滑りを伴った俺のお尻の穴も。股を大きく開いてるせいで、見せつけるように晒してしまっている俺のものも。

　どいつもこいつも俺の意志に関係なく反応するもんだから、困ってしまう。まだ穴の周りしか触ってもらえてないのに、白い指先に撫でられる度に震えちゃったり。さっき一緒に出したばっかりだってのに、もう元気に勃ち上がったりしてさ。

　……これじゃあ、本当に彼の言う通りじゃないか。

「もし、そのようでしたら……大変嬉しく存じます」

「……期待、してます……この前、スゴく気持ちよかったから……」

　黙秘を貫こうとしたが無理だった。

　単純な俺は、好きな人が喜んでくれるんだったらとほいほい口を割ってしまうんだ。どんだけ恥ずかしくてもな。

　というか、そもそも気持ちよくなれてるんだからいいことじゃないか。進歩してるじゃないか。さっきはちょっとだけ、尻に指突っ込まれて感じちゃうって……男としてどうなんだ？　って思っちゃったけどさ。

「誠でございますか？　……では、ご期待に添えるよう、本日もいっぱい気持ちよくして差し上げますね……」

　明るさを帯びた低音が、背筋がぞくぞくするような甘い声へと変わっていく。

　下ろした髪をさらりと耳へ流した彼が、引き締まった体躯を傾ける。覆い被さられ、じゃれ合うようなキスを楽しんでいる内に、気持ちが落ち着いていくのを感じた。胸の鼓動は絶賛ドキドキしっぱなしだけどさ。

　軽いリップ音を立てて頬に送ってくれたのを最後に、柔らかい微笑みが離れていく。彼がやりやすいように膝を抱え直すと「……いい子ですね」と頭を撫でてもらえた。

「何か有りましたら、すぐに仰って下さいね？」

「……はい」

　胸の奥がきゅっと高鳴った気がした。もう、初めてじゃないのに……心配そうに眉を下げる彼の温かい気持ちが嬉しくて。

　以前の彼からのアドバイス通り、ゆっくり深呼吸を繰り返す。何かを見計らっているように周りを撫でていた彼の指が、俺の中へと慎重に挿ってきた。

「ひぁっ……あっ、そこ……」

「やはり、アオイ様は大変飲み込みが早くていらっしゃる……」

　……そっちこそ、早すぎじゃありません？

　迷うことなくピンポイントで、俺の前立腺を擦った彼に返したくなったが、無理だった。

　気持ちよすぎて……そんな余裕なんてありゃしない。指の腹でくりくりと優しく捏ねられる度に、腰が勝手に揺れてしまう。もっと、もっと……と強請るみたいに。

　嘘みたいだ。この前は、思わず彼に向かって手を伸ばしてしまうほど怖かったはずの気持ちよさを、今はひたすらに求めてしまっているだなんて……

「貴方様のお可愛らしいお姿に、また年甲斐もなく昂ぶってしまいそうです……」

「……っ……ぁ……んんっ……」

　一瞬、全身に電流が走ったかと思った。

　指の先でとん、とん、とん……と一定のリズムで突かれながら、うっとりとした声に鼓膜を擽られて。あ、出ちゃったかも……って勘違いしそうなくらい気持ちよくなっちゃったんだ。

　そんな俺の状態なんて知る由もない彼は、更に追い打ちをかけてくる。

「……アオイは、私に可愛い……と言われるのがお好きでしょうか？」

「あっ……なんで、ふぁっ……そう、思うん……ですか？」

「先程、大変お可愛らしい力で私めの指を締めつけましたので……ああ、ほら今も……」

　言われるまで気がつかなかった。というか言われた後でもよく分からない。でも、感じちゃってるのは間違いなかった。今も、さっきも。

「……っ……好き、です……んっ、好きですよっ……というか……バアルさんから……褒めてもらえるなら、俺、何でも嬉しい……あぁっ」

　分かってることだけ素直に口にし終わる前に、突然指の動きが変化した。じっくりと蕩けさせるような優しい動きから、俺を確実に追い詰めるような激しい動きへと。

「ひぅ……あっ、あっ、ダメ……これぇ……」

「……何故でしょうか？」

「うぁ……なんか……きちゃう、から……気持ち、よすぎて、んぁっ……バアル……」

　訳が分からなくて……でも彼の指が動く度に、自分で腰を揺らす度に、頭の芯まで痺れるくらいに気持ちよくて……自分のことなのに、てんで滅茶苦茶だ。

　口ではダメだの何だの小さい子みたいにぐずってるくせに。身体は止まることなく……ひたすらに、彼が与えてくれる心地よさに溺れてしまっている。

「大丈夫ですよ……どうかそのまま、気持ちよくなられてください……」

　宥めるような優しい声が耳に届いて、温かい手が重なって。じんわりした胸が緩んでいく。

　指を絡めて強く握ってもらった瞬間、一際大きな刺激の波が俺を襲った。一気に手足の先まで熱くなり、鼓動がバクバクと激しくなる。

　全身にぶわりと広がっていく甘い感覚に堪えきれずに、俺は悲鳴に近い甲高い声を上げながら全身をガクガク震わせてしまっていた。

「ああッ、あっ、あっ……ぁ…………ふ……」

　挿れてもらった時と同じように、バアルさんはゆっくり俺の中から指を抜いた。喜びがあふれてしまいそうな唇で、俺の目尻や頬に触れてくれる。

「よく出来ましたね、アオイ……大変お可愛らしかったですよ」

　何度か重ねてくれた後に、優しく上唇を食んで離れていってしまった。彼の手には、いつの間にか白い布が収まっていた。

　濡れタオル……だろうか。ちょうどいい温かさのしっとり濡れた生地が、俺の胸元やへそ周りを拭って……って、え？

「……あ、うそ……俺、お尻、だけで……」

　あそこを触ってもらってないのにイっちゃうなんて……

　思わず両手で覆った顔が熱い。何とも言えない恥ずかしさに、目の奥まで熱くなってしまう。

　全く……どんだけ俺は鈍いんだ？　自分の身体なのに、今更気づくなんてさ。

「ええ、此方だけでもちゃんと感じて頂き、気持ちよく達せられたようで……大変嬉しく存じます」

　……やっぱり俺は単純で、そんでもってスゴく現金な男なのかもしれない。

　嬉しそうな声につられて、顔を隠していた手を退けていたのだから。

　かち合った、宝石みたいに煌めく緑の瞳が細められただけで、柔らかい笑みを浮かべたバアルさんに喜んでもらえただけで、気持ちが舞い上がってしまうんだから。

「……俺、頑張りました？」

「ええ、勿論」

　あっという間に俺の身体を清めてくれた大きな手が、頭をよしよしと褒めてくれる。

　……単純で現金なだけじゃなかったな、俺は……

「じゃあ、ご褒美……くれませんか？」

　欲張りな男だ、とても。

「はい、貴方様がご満足頂けるまで何度でも差し上げますよ……」

　逞しい膝の上に勝手に跨り、額を擦り寄せた俺を、優しい彼は引き締まった長い腕で抱き締めてくれた。俺の望み通りにいっぱい口づけてくれた。

　おまけに着替えた後は、ゆったり頭や背中を撫でてもらえて。いつの間にか俺は、全身を使って均整のとれた身体に抱きついたまま、爽やかな朝を迎えていたんだ。