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俺の為だけの撮影会

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 自分の欲望に正直な人間のタガが外れてしまったら……どうなると思う? 撮りまくっちゃうんだよ……延々と。表示される画像が全部、バアルさんの笑顔でいっぱいになるくらいにな。

「あー……カッコいい……すみません……もう一回、もう一回だけ、今のお願いします……」

「ふふ……ええ、構いませんよ。貴方様のお望みのままに……」

 浮かれた熱で頭がぽやぽやしている俺の口からは、ひっきりなしに情けない声が漏れ続けている。さっきからずっと。きっと顔の方も、好きな人の前では絶対にしちゃいけない、くしゃくしゃに歪んだ表情になってしまっているに違いない。

 それでも今は、そんなの些細なことだった。たった一言、とりあえず俺から先に1枚撮らせてもらってもいいですか? から始まった……期待以上のサービスをしてくれる、優しい彼による俺の為だけの撮影会を、心の底から楽しみまくっている俺にとっては。

 背もたれに銀色の装飾が施されたソファーの真ん中で、長く引き締まった足を緩く組んでいるバアルさん。いくつもの六角形のレンズで構成された、宝石のように煌めく緑の瞳をゆるりと細め、俺に向かって微笑んだ。

 点滅する石を両手で挟んで拝むように俺が頭を下げると、白い手袋に覆われた細く長い指先を、清潔感漂う白い髭が素敵な口元へ軽く添える。綺麗なウィンクと一緒に、投げキッスを送ってくれた。

「……っ……ありがとう、ございます……」

「いえ、斯様に喜んで頂けて……私も大変嬉しく存じます」

 俺は今、自分を滅茶苦茶褒めてやりたい。

 激しい胸のときめきに、思わず腰が抜けそうになったのをすんでで堪え、しっかり撮影出来たことを。慣れないファンサをしてくれた後の、気恥ずかしそうに微笑んでいる彼の姿も逃さず、ばっちり収めることが出来たことを。

 考えられないくらい年上な彼にこんなことを、心の中とはいえ言うのは失礼かもしれない。が、それでも率直に言って……かわいい。

 白い頬をほんのり染め、困ったように眉を下げて微笑んでいる彼の姿は。大きな窓からの日差しを受け、淡い光を帯びている羽を落ち着きなくはためかせているご様子は。

 いや勿論、普段のスマートで、立ち振る舞いからは気品が溢れる彼も。優しい目元と湯上がりの時にちらりと覗く……男らしい胸元から漂う大人の色気満載の彼も、とても素敵なんだけどさ。

「うむ、確かにバアルは、いついかなる時もカッコよく、美しいが……執事服姿以外のバリエーションも見たくはないか?」

「ああ、確かに……なんでも完璧に着こなしてくれそうですもんね……バアルさん、スタイルいいから…………ってヨミ様っ!?」

 当たり前のように話しかけてきた通りのいい低音に、思わず大きな声を上げてしまった。

 それだけでも、現地獄の王様であるお方に対して不敬極まりないのに。デカい蜘蛛にでも遭遇した時のように、勢いよく真横へと飛び退いてしまった。

「今日もアオイ殿は元気であるな! うんうん、よいことだっ」

 失礼過ぎる俺の反応に対し、真っ赤な瞳を細めて笑ってくれた寛大さに、いまだにバクバクと鳴り続けている胸を撫で下ろす。

 それにしても、いつの間に隣に居たんだろうか……

 いかにもファンタジーの貴族っぽい、黒地に金糸で細かい装飾が施された服に身を包んでいるヨミ様。黒い手袋に覆われた指で、長く艷やかな黒髪を耳にさらりとかけている彼は、見るからに上機嫌だ。

 端正なお顔からは、終始笑みが絶えないし。背中のコウモリみたいな形をしている真っ黒な羽は、ぱたぱたとはためいている。

 だからだろうか? 側頭部から生えている鋭い角も、いつもより光沢を増しているように見えたんだ。

「部屋を訪れるのは、一向に構いませんが……わざと気配を消し、物音を一切立てずにアオイ様の隣に佇み続けるのは、お止め下さい」

 ソファーから立ち、すらりと伸びた長身をピシリと伸ばして「……愛らしい彼の心臓に悪いでしょう?」とバアルさんが形のいい眉をしかめる。

 普段の俺だったら、穏やかな低音が紡いだ『……愛らしい』という部分にあからさまな反応を示してしまうところ。だが違った。

 単純に上回ったからである。彼からの嬉しいお言葉による衝撃よりも、その後にウキウキな明るい声色で発せられた、ヨミ様からの発言による衝撃が。

「いや、すぐに声をかけるつもりだったんだがな……アオイ殿の言葉の数々から、貴殿の愛されっぷりをひしひしと感じ……感極まって聞き入ってしまっていたんだ」

「え……さっき、声に出してました? 俺……」

「うむ、やれ可愛いだの……気品が溢れているだの、男らしいだの、な」

 愉快で仕方がないような声で「あれ程までに惚れ込まれているとはな……我が事のように嬉しかったぞ!」と微笑ましそうに瞳を細める。

 温かい眼差しから逃げるように視線を正面へと戻したものの、今度はそわそわと触覚を揺らしている緑の瞳とかち合ってしまう。

 キッチリ締められた黒いネクタイを指先で触りながらも、喜びを隠しきれていない口元に、全身の温度が一気にカッと熱くなったのを感じた。

「……ひぇ」

 きっと察しが良すぎる彼の、精一杯の気遣いなのだろう。今すぐにでも、何処かへと身を隠してしまいたい衝動に駆られている俺に向かって、どうぞこちらへと言わんばかりに筋肉質な長い腕を広げたのは。

 分かってはいたんだ、余計に温かい目で見られてしまうって……分かってはいたんだけどさ。結局、俺は吸い寄せられるように、彼の逞しい胸元へと顔を埋めにいってしまっていたんだ。
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