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皆で、はいポーズ!
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完全に気持ちが舞い上がっていた俺に「見せてくれてありがとうございます」と投影石を手渡してくれたグリムさんが、向かいのソファーにちょこんと座り直す。
続けて腰掛け直した俺の肩をいつものようにバアルさんが、そっと抱き寄せてくれたんだけど。彼の白い頬が、ほんのり染まって見えた気がするんだが……なんでだろう?
不思議に思いつつも、大事な投影石をしまおうと彼からもらった黒い小箱の蓋を開ける。ふわふわのクッションがついた中へと収めた時だった。
普通、想像はつくだろう事柄を、何の気無しに尋ねられたことによって、ようやく気がつけたのは。
「そういえば、お二人で写真を撮られたりはしないんですか?」
「え、撮れるんですか?」
「あ、はい……投影石は、元々撮った映像や画像を見るためのものですから……」
さっきまであったはずの、和気あいあいとした空気は一体何処へ行ってしまったのか……喉が勝手に詰まっていくような気まずい空気が、俺達の間に漂い始める。いや、まぁ俺の無知のせいなんだけどさ。完全に。
だが、一言だけ言い訳させて欲しい。自分の中では、レダさんから説明してもらった時にはちゃんと認識はしていたんだよ。ビデオカメラみたいなもんかって。ただうっかり、いやすっかり? 忘れてただけでさ。
「あー……ほら……見るのに、夢中だったんですよね? バアル様、凄く格好よかったですし……アオイ様は、バアル様のこと大好きですもんね」
もともと熱くなっていた顔が、余計に熱くなってしまった。
大きな手で、グリムさんとお揃いのフードを被った後頭部をガシガシかいている、クロウさんのフォローに図星をクリティカルヒットされて。
おまけに死体蹴りのごとくグリムさんから追撃を受けてしまったんだ。
「フォローになってませんよ師匠! 確かにアオイ様は、バアル様のこと大好きですけどっ!」
どちらも100%の善意によるものなんだけどさ。
……ホント、どんだけ俺は分かりやすく好意を全面に出しちゃってんだよ。
今すぐにでも、ふかふかの布団に潜り込みたい気持ちでいっぱいの俺に、バアルさんは何も言わない。ただただひたすらに優しい手つきで、俺の頭を撫で続けてくれている。彼の気遣いが、恥ずかしさでボロボロの心にじんわり染みていく。
「……あの、僕で良かったら……お教えしましょうか?」
「……是非、よろしくお願いします……」
おずおずと出された提案に、俺はすぐさま飛びついた。
勿論この、目の奥まで熱くなってしまう空気を変えたいというのもあったが……この時点で、すでに滅茶苦茶惹かれてしまっていたのだ。バアルさんと写真が撮れるという事実に。
気を取り直して、再びグリムさんに投影石を手渡す。小さな手のひらの上で、天井から室内を照らす青い水晶で出来たシャンデリアの明かりを受け、ほのかに光っていた石が突然ピカピカと光り始める。なんだか、今まで見たことのない光り方だ。
「こんな風に……チカチカ点滅するまで魔力を込め続けると撮影モードに切り替わるんです。後は1回つつくと録画が始まって、3回つついた後に1回撫でると10秒後に撮影が始まるんです。撫でる回数を増やすごとに10秒ずつ増えていって……最大1分まで増やせますよ」
「へぇ……自撮りする時って、やっぱり持ってないとダメですよね? 俺、まだ物を動かす術が使えなくて……」
今現在、地獄の前王様であるサタン様が太鼓判を押すほど、優秀な使い手であるバアルさん。彼から魔術を教わっている俺だが……悲しいことに、あまり才能はないようだ。
なんせ、基本中の基本その2である……魔力を込めた物を動かすというステップを、いまだまともに成功出来ていないんだからな。
かれこれ1週間ほど、毎日奮闘して得られた成果は、せいぜい角砂糖をテーブルの上から1ミリほど浮かすことが出来たくらいだ。しかも、ほんの数10秒の間だけな。
優しいバアルさんは「貴方様は、きっと大器晩成型なのでしょう。まだ始められたばかりですから、焦らず一緒に頑張りましょうね」と励ましてくれたんだ。
だから、彼に喜んでもらえるように、せめて普通の使い手を目標に鍛錬を重ねているんだけど。
「ああ、大丈夫ですよ。魔力をちょっとだけ込めながら手を離すと……」
「わ、スゴい……浮いてる」
「ふふ、スゴいですよね。僕も魔術苦手なんで……初めて使った時、便利だなぁってびっくりしたんですよ」
弾んだ声で「このまま高さも位置も好きなように変えられるんですよっ」と俺とグリムさんの視線の間で浮いたままの石を、指先で摘んでからクロウさんの方へと動かす。
バトンパスのように、細い指から受け取った骨ばった指が、宙に円を描くようにくるりと動かしたり、十字を描くように縦と横に動かしたりしてから、ぱっと離す。
あんなにちょこまか動かしたにもかかわらず、オレンジの石はピタリとその場で浮いたまま、ピカピカと瞬いていた。
「ここまでで、何か質問はありますか?」
「いえ、ありがとうございます。スゴく分かりやすかったです」
ほっと小さく息を吐いたグリムさんが、クロウさんから受け取った石を握り込むと点滅が消えていた。なんでも、いつもの鑑賞モードに戻す時にも、点滅が収まるまで魔力を込め続ける必要があるらしい。
「良かった……じゃあ試しに1回撮ってみましょうか」
「はい、あ……良かったら4人で撮りませんか?」
「……へ? え? ぼ、僕がアオイ様達と……お、お写真を? 師匠も一緒に?」
お誘いという形で尋ねたものの、俺の気持ちはもうすでに前のめりになってしまっていたんだ。お二人との思い出が形として、自分の手元に残ることの嬉しさに。
だから、胸の前で両手をわたわた動かしながら、顔を真っ赤にして慌てているグリムさんを見て、明らかにしょんぼりとした声色を出してしまっていた。
今思い出してみても、俺ってこんな声も出せたんだなってびっくりするくらいに。
「ごめんなさい……写真、苦手でした?」
「あ、いえ、全然そうじゃなくて……その……」
「大丈夫、問題ないですよ。嬉しすぎて、びっくりしてただけですから」
カラカラと笑い混じりにクロウさんが助け船を出す。ますます手の動きも顔の赤さも増していた、グリムさんの細い肩を抱き寄せて。
大きな手に頭をわしゃわしゃ撫でられながら、グリムさんが小さな拳を胸の前でぎゅっと握る。
「撮りましょうっ! いえ、撮らせてください!」
続けざまにご本人からも前向きな言葉をいただけて、単純な俺はあっさり気分が上を向いていた。
「やった! じゃあ、早速お隣、失礼させてもらいますねっ!」
思わず弾んだ大きな声を上げてしまっていた。それどころかバアルさんの手を引き、グリムさんの隣に勢いよく腰かけてしまったんだ。
バアルさんは勿論、皆さん優しくて。いきなり手を掴んでしまったのに、指を絡めて繋ぎ直してくれたし。お二人も俺達が座りやすいように、反対側へとズレてくれたんだ。
念の為、グリムさんに見てもらいながら投影石の設定をして、俺達の前に石を固定した。
そうして撮れた初めての写真も、皆で肩を組んだり同じポーズを決めながら撮った写真も。全部、俺にとって、かけがえのない思い出の1つになったんだ。
勿論、グリムさん達の投影石にもコピーしたさ。あ、それからピースサインは地獄でも共通のポーズみたい。ちょっと意外だったな。
続けて腰掛け直した俺の肩をいつものようにバアルさんが、そっと抱き寄せてくれたんだけど。彼の白い頬が、ほんのり染まって見えた気がするんだが……なんでだろう?
不思議に思いつつも、大事な投影石をしまおうと彼からもらった黒い小箱の蓋を開ける。ふわふわのクッションがついた中へと収めた時だった。
普通、想像はつくだろう事柄を、何の気無しに尋ねられたことによって、ようやく気がつけたのは。
「そういえば、お二人で写真を撮られたりはしないんですか?」
「え、撮れるんですか?」
「あ、はい……投影石は、元々撮った映像や画像を見るためのものですから……」
さっきまであったはずの、和気あいあいとした空気は一体何処へ行ってしまったのか……喉が勝手に詰まっていくような気まずい空気が、俺達の間に漂い始める。いや、まぁ俺の無知のせいなんだけどさ。完全に。
だが、一言だけ言い訳させて欲しい。自分の中では、レダさんから説明してもらった時にはちゃんと認識はしていたんだよ。ビデオカメラみたいなもんかって。ただうっかり、いやすっかり? 忘れてただけでさ。
「あー……ほら……見るのに、夢中だったんですよね? バアル様、凄く格好よかったですし……アオイ様は、バアル様のこと大好きですもんね」
もともと熱くなっていた顔が、余計に熱くなってしまった。
大きな手で、グリムさんとお揃いのフードを被った後頭部をガシガシかいている、クロウさんのフォローに図星をクリティカルヒットされて。
おまけに死体蹴りのごとくグリムさんから追撃を受けてしまったんだ。
「フォローになってませんよ師匠! 確かにアオイ様は、バアル様のこと大好きですけどっ!」
どちらも100%の善意によるものなんだけどさ。
……ホント、どんだけ俺は分かりやすく好意を全面に出しちゃってんだよ。
今すぐにでも、ふかふかの布団に潜り込みたい気持ちでいっぱいの俺に、バアルさんは何も言わない。ただただひたすらに優しい手つきで、俺の頭を撫で続けてくれている。彼の気遣いが、恥ずかしさでボロボロの心にじんわり染みていく。
「……あの、僕で良かったら……お教えしましょうか?」
「……是非、よろしくお願いします……」
おずおずと出された提案に、俺はすぐさま飛びついた。
勿論この、目の奥まで熱くなってしまう空気を変えたいというのもあったが……この時点で、すでに滅茶苦茶惹かれてしまっていたのだ。バアルさんと写真が撮れるという事実に。
気を取り直して、再びグリムさんに投影石を手渡す。小さな手のひらの上で、天井から室内を照らす青い水晶で出来たシャンデリアの明かりを受け、ほのかに光っていた石が突然ピカピカと光り始める。なんだか、今まで見たことのない光り方だ。
「こんな風に……チカチカ点滅するまで魔力を込め続けると撮影モードに切り替わるんです。後は1回つつくと録画が始まって、3回つついた後に1回撫でると10秒後に撮影が始まるんです。撫でる回数を増やすごとに10秒ずつ増えていって……最大1分まで増やせますよ」
「へぇ……自撮りする時って、やっぱり持ってないとダメですよね? 俺、まだ物を動かす術が使えなくて……」
今現在、地獄の前王様であるサタン様が太鼓判を押すほど、優秀な使い手であるバアルさん。彼から魔術を教わっている俺だが……悲しいことに、あまり才能はないようだ。
なんせ、基本中の基本その2である……魔力を込めた物を動かすというステップを、いまだまともに成功出来ていないんだからな。
かれこれ1週間ほど、毎日奮闘して得られた成果は、せいぜい角砂糖をテーブルの上から1ミリほど浮かすことが出来たくらいだ。しかも、ほんの数10秒の間だけな。
優しいバアルさんは「貴方様は、きっと大器晩成型なのでしょう。まだ始められたばかりですから、焦らず一緒に頑張りましょうね」と励ましてくれたんだ。
だから、彼に喜んでもらえるように、せめて普通の使い手を目標に鍛錬を重ねているんだけど。
「ああ、大丈夫ですよ。魔力をちょっとだけ込めながら手を離すと……」
「わ、スゴい……浮いてる」
「ふふ、スゴいですよね。僕も魔術苦手なんで……初めて使った時、便利だなぁってびっくりしたんですよ」
弾んだ声で「このまま高さも位置も好きなように変えられるんですよっ」と俺とグリムさんの視線の間で浮いたままの石を、指先で摘んでからクロウさんの方へと動かす。
バトンパスのように、細い指から受け取った骨ばった指が、宙に円を描くようにくるりと動かしたり、十字を描くように縦と横に動かしたりしてから、ぱっと離す。
あんなにちょこまか動かしたにもかかわらず、オレンジの石はピタリとその場で浮いたまま、ピカピカと瞬いていた。
「ここまでで、何か質問はありますか?」
「いえ、ありがとうございます。スゴく分かりやすかったです」
ほっと小さく息を吐いたグリムさんが、クロウさんから受け取った石を握り込むと点滅が消えていた。なんでも、いつもの鑑賞モードに戻す時にも、点滅が収まるまで魔力を込め続ける必要があるらしい。
「良かった……じゃあ試しに1回撮ってみましょうか」
「はい、あ……良かったら4人で撮りませんか?」
「……へ? え? ぼ、僕がアオイ様達と……お、お写真を? 師匠も一緒に?」
お誘いという形で尋ねたものの、俺の気持ちはもうすでに前のめりになってしまっていたんだ。お二人との思い出が形として、自分の手元に残ることの嬉しさに。
だから、胸の前で両手をわたわた動かしながら、顔を真っ赤にして慌てているグリムさんを見て、明らかにしょんぼりとした声色を出してしまっていた。
今思い出してみても、俺ってこんな声も出せたんだなってびっくりするくらいに。
「ごめんなさい……写真、苦手でした?」
「あ、いえ、全然そうじゃなくて……その……」
「大丈夫、問題ないですよ。嬉しすぎて、びっくりしてただけですから」
カラカラと笑い混じりにクロウさんが助け船を出す。ますます手の動きも顔の赤さも増していた、グリムさんの細い肩を抱き寄せて。
大きな手に頭をわしゃわしゃ撫でられながら、グリムさんが小さな拳を胸の前でぎゅっと握る。
「撮りましょうっ! いえ、撮らせてください!」
続けざまにご本人からも前向きな言葉をいただけて、単純な俺はあっさり気分が上を向いていた。
「やった! じゃあ、早速お隣、失礼させてもらいますねっ!」
思わず弾んだ大きな声を上げてしまっていた。それどころかバアルさんの手を引き、グリムさんの隣に勢いよく腰かけてしまったんだ。
バアルさんは勿論、皆さん優しくて。いきなり手を掴んでしまったのに、指を絡めて繋ぎ直してくれたし。お二人も俺達が座りやすいように、反対側へとズレてくれたんだ。
念の為、グリムさんに見てもらいながら投影石の設定をして、俺達の前に石を固定した。
そうして撮れた初めての写真も、皆で肩を組んだり同じポーズを決めながら撮った写真も。全部、俺にとって、かけがえのない思い出の1つになったんだ。
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