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初めての推しの布教活動
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今の俺なら分かる。やれアイドルやら、二次元の推しやらの写真や画像を夢中になって集め、布教だと。まるで自分のことのように、どこか自慢気に微笑みながら、端末のカメラロールを見せつけていた友人達の気持ちが。
広く整然とした室内に満ちている爽やかな朝の空気に、花のような甘い匂いが混じっていく。
俺達の手元や銀の装飾が施されたテーブルの上にある、白い陶器のティーカップをたっぷり満たしているハーブティーからは、絶えず白い湯気が立ち上っていた。
つい先程、俺の好きな人であるバアルさんから淹れてもらったばかりなのに。今や大分カップを傾けないと、琥珀色の液体に触れられなくなってしまっている。もう、あと一口で飲みきってしまいそうだ。
さっきから、妙な緊張で口が乾いているせいだろう。なんせ、気になって気になって仕方がないからだ、彼等の反応が。
テーブルを挟んだ向かいのソファーに肩を並べて座っているお二人。俺の友達である死神のグリムさんと彼の大切な師匠であるクロウさん。
彼らの手元でピカピカ瞬いているオレンジの石。撮影した画像や映像を見られる投影石から放たれている光の中には、グリムさんの小さな手から込められた魔力によって、先日の手合いの様子が映し出されている。
宙で再生されている映像には、黒の執事服を身に纏う、整えられた白い髭が渋くて素敵な男性。もとい俺の隣で背筋を伸ばし、どこか居心地が悪そうに困ったように微笑んでいるバアルさんが、舞うように戦っていた。鈍く光る鎧を身につけた、屈強な6人の兵士さん方を相手に、多勢に無勢の中。
いや、ホント……改めて見てもカッコよすぎる。俺にとっては目で追える限界の速さで飛んでくる拳やら蹴りやらを、必要最低限の動きで引き締まった長身を翻して避ける彼の姿は。
おまけに避けた後は、カウンターとばかりにしなやかな足から放たれる鋭い蹴りを、的確に相手の急所へと叩き込んでいるしさ。
カッチリと後ろに撫でつけられたオールバックの生え際に生えている触覚と、背にある半透明の羽も相まって。まさに蝶のように舞い、蜂のように刺すって表現が、抜群に合っていると思うんだ。
カッコよすぎるバアルさんの姿に内心はしゃぎつつも、熱心に彼の大立ち回りを見つめているお二人を固唾を呑んで見守っている内に、動画は進んでいく。
そして、ついに何度繰り返し見ても胸が高鳴ってしまう最後のシーン。
本気になった彼が回し蹴りで、青い石造りの演習場一帯を覆うほどの巨大な竜巻を起こし、兵士さん方を一気にぶっ飛ばすシーンが終わった瞬間。サラサラの短髪と同じ薄紫色の丸い瞳を輝かせながら、グリムさんがすっくと立ち上がった。
「アオイ様っ! この映像のバアル様……すっごくカッコいいですね!!」
「ですよねっ! 滅茶苦茶カッコいいですよねっ!!」
しまった……いくら嬉しかったからって、やり過ぎた。
勢いよく立ち上がり、食い気味に大きな声を出してしまったどころか。フードマントの広がる袖から覗くグリムさんの白い手を取り、両手でがっしり握ってしまっていたんだ。
すっぽり被った濃い灰色のフードによって、薄い影がかかった長めの睫毛がぱちぱち瞬く。
「あっ、ごめんなさい……つい……」
「えへへ……いえ、大丈夫ですよ。その、嬉しいですし……それにお気持ち、とっても分かります! 僕も、こう、なんか……ぶわぁーってなりましたからっ!」
離そうとしていた手が、ふにゃりと頬を綻ばせてくれた彼の優しさによって、改めて握手の形で繋がれる。
もう一方の、石を握ったままの手をわたわた動かしながら懸命に「すっごく感動しましたっ」と全く持って共感しかない感想を伝えてくれた。
なんだかとても楽しげに、くつくつ笑っていたクロウさんも「思わず痺れる格好よさでしたね」とこれまた共感でしかない感想を持ってくれたんだ。お陰で、つい何度も俺は、ですよねっと頷いてしまっていたんだ。
広く整然とした室内に満ちている爽やかな朝の空気に、花のような甘い匂いが混じっていく。
俺達の手元や銀の装飾が施されたテーブルの上にある、白い陶器のティーカップをたっぷり満たしているハーブティーからは、絶えず白い湯気が立ち上っていた。
つい先程、俺の好きな人であるバアルさんから淹れてもらったばかりなのに。今や大分カップを傾けないと、琥珀色の液体に触れられなくなってしまっている。もう、あと一口で飲みきってしまいそうだ。
さっきから、妙な緊張で口が乾いているせいだろう。なんせ、気になって気になって仕方がないからだ、彼等の反応が。
テーブルを挟んだ向かいのソファーに肩を並べて座っているお二人。俺の友達である死神のグリムさんと彼の大切な師匠であるクロウさん。
彼らの手元でピカピカ瞬いているオレンジの石。撮影した画像や映像を見られる投影石から放たれている光の中には、グリムさんの小さな手から込められた魔力によって、先日の手合いの様子が映し出されている。
宙で再生されている映像には、黒の執事服を身に纏う、整えられた白い髭が渋くて素敵な男性。もとい俺の隣で背筋を伸ばし、どこか居心地が悪そうに困ったように微笑んでいるバアルさんが、舞うように戦っていた。鈍く光る鎧を身につけた、屈強な6人の兵士さん方を相手に、多勢に無勢の中。
いや、ホント……改めて見てもカッコよすぎる。俺にとっては目で追える限界の速さで飛んでくる拳やら蹴りやらを、必要最低限の動きで引き締まった長身を翻して避ける彼の姿は。
おまけに避けた後は、カウンターとばかりにしなやかな足から放たれる鋭い蹴りを、的確に相手の急所へと叩き込んでいるしさ。
カッチリと後ろに撫でつけられたオールバックの生え際に生えている触覚と、背にある半透明の羽も相まって。まさに蝶のように舞い、蜂のように刺すって表現が、抜群に合っていると思うんだ。
カッコよすぎるバアルさんの姿に内心はしゃぎつつも、熱心に彼の大立ち回りを見つめているお二人を固唾を呑んで見守っている内に、動画は進んでいく。
そして、ついに何度繰り返し見ても胸が高鳴ってしまう最後のシーン。
本気になった彼が回し蹴りで、青い石造りの演習場一帯を覆うほどの巨大な竜巻を起こし、兵士さん方を一気にぶっ飛ばすシーンが終わった瞬間。サラサラの短髪と同じ薄紫色の丸い瞳を輝かせながら、グリムさんがすっくと立ち上がった。
「アオイ様っ! この映像のバアル様……すっごくカッコいいですね!!」
「ですよねっ! 滅茶苦茶カッコいいですよねっ!!」
しまった……いくら嬉しかったからって、やり過ぎた。
勢いよく立ち上がり、食い気味に大きな声を出してしまったどころか。フードマントの広がる袖から覗くグリムさんの白い手を取り、両手でがっしり握ってしまっていたんだ。
すっぽり被った濃い灰色のフードによって、薄い影がかかった長めの睫毛がぱちぱち瞬く。
「あっ、ごめんなさい……つい……」
「えへへ……いえ、大丈夫ですよ。その、嬉しいですし……それにお気持ち、とっても分かります! 僕も、こう、なんか……ぶわぁーってなりましたからっ!」
離そうとしていた手が、ふにゃりと頬を綻ばせてくれた彼の優しさによって、改めて握手の形で繋がれる。
もう一方の、石を握ったままの手をわたわた動かしながら懸命に「すっごく感動しましたっ」と全く持って共感しかない感想を伝えてくれた。
なんだかとても楽しげに、くつくつ笑っていたクロウさんも「思わず痺れる格好よさでしたね」とこれまた共感でしかない感想を持ってくれたんだ。お陰で、つい何度も俺は、ですよねっと頷いてしまっていたんだ。
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