間違って地獄に落とされましたが、俺は幸せです。

★ 挿れてもらわないのに、一緒に出来るんですか？

　……長さも、太さも……俺のとは全然違って立派だけれど……感触はあんまり変わらないな……

　ぽやぽやした頭でぼんやり考えながら、斜めに勃ち上がっている、血管が浮き出た表面をゆるゆる撫でる。耳に届いた荒い吐息につられて見上げると、熱のこもった緑の瞳とかち合った。

「……気持ちいい、ですか？」

　またしても、俺の口は勝手に開いてしまっていた。一番気になっていた質問をぶつけていた俺に、バアルさんは何かを堪えるように歪んでいた口元をふわりと綻ばせ、大きな手で俺の頭を優しく撫でてくれる。

「はい……とてもお上手ですよ……」

「っ…………」

　先に言っておこう。俺はとてつもなく弱い。好きな人からのお褒めの言葉に。それから、どうしようもなく調子に乗ってしまう男なんだ。

　その証拠に俺はすっかり舞い上がってしまっていた。もっと気持ちよくなってもらおうと、もっと褒めてもらおうと、いきなり手の動きを速めてしまっていた。

　赤く潤んだ先端から滴ってきたものを潤滑油代わりに、根元からカリ首に向かって上下に擦る。吐息に混じってこぼれる艶のある声に、俺自身も次第に息が荒くなっていた。

「ッ……ん、は……ぁっ……」

「……俺、頑張りますから……もっと、俺の手で……気持ちよくなってくださいね……」

　今思えば、この一言が決め手だったのかもしれない。火を付けてしまったんだろう。

「…………アオイ……」

「はい…………んっ！？」

　いつもだったら、俺が自分から開くまで待っていてくれるのに。細く長い指から顎を掴まれ、持ち上げられて。噛みつくように口づけられた途端、ぬるりと彼の体温が入ってきたんだ。

「はっ…………ん、んん……ぁ、む……んっ、んっ……」

　まるで、食べてもらっているみたいだった。

　もう、触れてもらえていない場所なんて、ないんじゃないか？　ってくらいに隅々まで丹念に、熱く大きな舌で口内を撫で回される。

　時々、俺の舌にも絡めてもらえて、甘やかすように擦り合わせてもらえて。それだけで、もう十分だった。

　単純な俺が、自分のしていたことをあっさり忘れて、彼との触れ合いにすっかり夢中になってしまうには。

　なのに彼ときたら、片手で器用にズボンごと俺の下着をずり下ろし、いつの間にか熱を持っていた俺のものを、ゆるゆると扱いてくれるもんだから困ってしまう。

　ただでさえ、頭の中が真っ白になるくらい気持ちがいいのに。上からも下からもひっきりなしに、恥ずかしい濡れた音がして、どうにかなってしまいそうだ。

「んぁっ、あっ……バアルさ、ごめんなさい……俺、俺っ……」

「気持ちよくなって頂けたのですね……大変嬉しく存じます。宜しければ……ご一緒にいかがですか？」

「……一緒に、出来るんですか？　挿れてもらわないのに？」

「……ええ……ですから、少し御御足を開いて頂けませんか？」

　熱い眼差しに優しく促され、俺は一切戸惑うことなく両足を大きく左右に開いた。

　いわゆるM字開脚に近い体勢だったので、対面している彼には、完全に勃ち上がった俺のものがバッチリ見えてしまっていただろう。しかし、その時の俺は、全く気にも留めていなかったんだ。

　好きな人から激しく求められ、嬉しさやら気持ちよさやらで、思考回路が蕩けきってしまっていたからだろう。後から思い出せば、しばらく布団に潜り込んだまま出てこれなくなってしまいそうだが。

「そう、いい子ですね……」

　艶のある笑みを深めた彼が、俺の頭をゆるりとひと撫でしてから、触れるだけのキスをくれる。引き締まった筋肉質な腕が腰に回されて、抱き寄せられて。熱くて硬い彼のものに、俺のものが触れてしまった。

「あっ、バアルさん……」

「このように、互いの陰茎を擦り合わせる行為を、兜合わせといいます。問題がないようでしたら……このまま貴方様と、ご一緒させて頂きたいのですが……」

「は、はいっ、大丈夫です……俺も、バアルさんと一緒に……気持ちよくなりたい……あぁっ」

　いきなり腰を掴まれ、揺さぶられ、下半身から強い刺激が上ってくる。脳天を突き抜けていくような感覚に、半開きの口からは情けない声しか出せなくなってしまう。こんな気持ちよさ、知らない。

「あっ、やぁ……あ、あ、バアルさ……」

　俺のものとは、大人と子どもくらいに差がある大きな熱に、擦り上げられる。感じてしまう部分を、何度も、何度も。その度に、ぐちゅ……ぐちゅ……といやらしい音が鳴って。

「ひ、ぁ……気持ちぃ……あぅ……あっ、気持ち、いいです…………もっと……もっと、してくださ……」

　自分のことなのに、分からなくなっていた。一体、何を口走ってしまっているのか。

　ただ、ひたすらに彼と触れ合っている部分が気持ちよくて、もっといっぱいくっつきたくて。無意識のうちに俺は、全身で抱きついてしまっていたんだ。ほのかに赤く色づいた彼の首に腕を伸ばし、引き締まったくびれに足を絡めてぎゅうぎゅうと。

「畏まりました……感じて頂けているようで、何よりでございます。私も気持ちいいですよ……」

「は、ふぁ……ほんと、ですか？　ほんとに……バアル、さんも？」

「ええ……貴方様と触れ合える喜びと心地よさに、年甲斐もなく溺れております……もう、達してしまいそうです……」

「っ……嬉しい……俺も……う、ぁ……もう、きちゃ……あぁっ……キス……キスして、くださ……んん……」

　優しい彼は、俺の望みをすぐさま叶えてくれた。びくびく震えている俺のものに激しく擦り合わせてくれながら、大きな手で纏めて先端を撫で回してくれたんだ。

　それから勿論、ちゃんとキスもしてくれた。目尻や頬に優しく触れてくれる方も、どちらのものか分からなくなるまで深く絡め合う特別な方も。

「んぅ……んっ、んっ……ぁ……っ……ふ……んんっ、はぁ……っ……ん……」

　ずっと熱くて、気持ちよくて、嬉しくて……ずっと、バアルさんと、このままでいたいだなんて。浅はかな思いが、かんだ時だった。

　滲んだ視界にぱちぱちと星が瞬き、すでにいっぱいいっぱいな胸から何かが込み上げてくる。

　今までとは違う感覚が、全身を一気に駆け巡って。逞しい体躯に絡めた手足を震わせながら俺は……いや、俺達は……お互いの腹をべっとり濡らしていたんだ。