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★ もっと俺でドキドキしてもらう為には

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 なんとかボタンを全部外し終え、前が全開になったシャツの隙間からは、同じ男として憧れでしかない肉体美が露わになってしまっている。

 いつ見ても……ホントに芸術品みたいだ。綺麗に盛り上がっている立派なお胸の筋肉に、彫刻のように割れた腹筋、きゅっと引き締まった腰回り、それから足の付け根のラインがちょっぴり見えてて……

「……ズルい……こんなにカッコいいのに、色気も満載とか……ズルすぎる……」

「お褒めに預かり光栄に存じます」

「…………い、今……俺、声に出しちゃってました?」

 自分では返ってくるハズがないと思っていた答えに、喉の奥が一気にきゅっと締まってしまう。恐る恐る振り絞った問いかけに、俺を映している宝石みたいに煌めく緑の瞳がゆるりと細められた。

「はい。ですが……私と致しましては、貴方様の方が芸術品かと……可愛らしい笑顔は勿論ですが、透き通った琥珀色の瞳、愛らしい小さな唇、ほのかに染まった白い肌は、きめ細やかでお美しい……触り心地もよいので……常日頃、触れたい衝動に駆られております……華奢で小柄な体躯は大変抱き心地がよく、柔らかで、温かく……」

「ひぇ…………分かりました! 分かりましたからっ」

 途切れることなく一息に、つらつらと耳に入ってくる、俺の身には余りすぎるお褒めの言葉の数々。嬉しいやら、照れくさいやらで、顔からボッと火が出てしまいそうだ。

 背中でじわじわと増している擽ったさに堪えきれず、涼しい顔でいまだ流暢に言葉を紡ごうとしている彼に手を伸ばす。

「ありがとうございましたっ!」

 感謝を伝えてから、清潔感の漂う白い髭が素敵な口元を覆えば「左様でございますか……」とまだ言い足りないと訴えるような目で俺を見つめながらも、言葉を切ってくれた。

 荒くなってしまっていた息を整え、気を取り直して彼の逞しい胸板に触らせてもらう。

 分かってはいたものの、見た目の張りの良さからは考えられない柔らかさに夢中になってしまう。つい指を思いっきり伸ばし、手のひら全体で何度もむにむにと揉んでしまっていた。

 クスクスと押し殺して笑う声に、思わずはたと手を離す。少し見上げた先で微笑みかけてくれている唇が、俺の額に優しく触れてから離れていった。

「申し訳ございません……丸く、お可愛らしい瞳を輝かせながら、私に触れて頂けるアオイ様が大変愛らしくかったものですから、つい……どうか私めのことはお気になさらず、続けて頂きたく存じます……」

 ……バアルさんから、可愛いって言ってもらえるのは滅茶苦茶嬉しい。大きな手で頭をよしよし撫でてもらえるのも。でも、やっぱりこれじゃあダメだ。もっと俺でドキドキしてもらわないと。

 ……さっきも、この流れで返り討ちにされてしまったじゃないか……と頭の中の俺が呆れているが、無視だ、無視。七転び八起きっていう言葉もあるんだしさ。まだ、たった一回失敗しただけなんだから、大丈夫だろう。

 そうやって自分で自分を奮起させた俺は、いつものヘタれた俺では考えられない行動に出ていた。ズボンの上からとはいえ、彼のものにそっと触れて撫で擦るという、思い切った行動に。

「……っ、アオイ様……」

 柔らかな低音が艶やかさを帯びると同時に、触らせてもらっている彼の大事な部分がぴくりと震える。

 この時の俺は、後で冷静になって考えれば考えるほど、ぶっ飛んでるな……としか言いようのない結論に至っていた。俺が気持ちよくされてしまう前に、彼を気持ちよくしてしまえばいいんじゃないか? という結論に。

 とんでもなく年上で経験豊富なバアルさんと違って俺は、こういう行為に対するレベルがゼロ。彼の真似をしたところで、あの背筋がぞくぞくして身体が勝手に震えてしまう、心地のいい感覚を引き出すことは出来やしないだろう。

 だったら、もう触るしかないじゃないか。健全な男だったら誰だって、大なり小なりはあれど感じてしまう敏感な場所を。

 そんなこんなで変なスイッチが入ってしまった俺は、躊躇なく指先でゆるゆると撫でることが出来ていた。だけでなく、いつの間にか楽しんでしまっていたんだ。俺の手によって……徐々に硬さと大きさを増していく彼のものに、頭の上から降ってくる息遣いが段々と荒くなっていくことに。

 内側から布地を押して、張り詰めてきている熱いものを、一心不乱に撫で擦っていた俺の手に、大きな手がそっと重なる。瞬間、一際大きく鳴った心音は、いつもより低い声が紡ぐ言葉によって、ますます激しく高鳴っていくことになる。

「……お願い致します……どうか、このまま貴方様の手で……直接、触って頂けませんか?」

 熱い……縋るように握られた手が、いつもよりも、ずっと。柔らかい目元までもが、ほんのり赤く染まり、瞳にはうっすらと涙の膜が張られている。切なそうに歪んだ……初めて見る彼の余裕のない表情に、口の中が一気に乾いていくのを感じた。

「は、はい……」

 何とか声を振り絞り、キッチリと巻かれたベルトへと手を伸ばす。手元で微かに鳴っているであろう金属音は、煩い自分の鼓動によってかき消され、バクバクと鳴り続けている音しか聞こえない。

 それが逆に良かったのかもしれない。俺にしては手間取ることなくすぐに外せて、ズボンの前を寛げることが出来たんだから。

「あ……」

 黒いボクサータイプのパンツ越しでも分かる大きな膨らみに、勝手に声が漏れてしまっていた。

 いつものヘタれた俺なら、このまま固まってしまいそうだが、この時の俺は違った。緊張よりも、興味の方が勝っていたんだと思う。だから自然と指をかけていたんだ、白い素肌にぴったりフィットしていたウェストゴムに。

 両手で軽く引っ張りながら下にずらせば、難なくするりと下ろせてしまった。

 ……やっぱりこっちも白いんだな……

 頭の中で浮かべつつも、口ではもう一方に対しての率直な感想がぽろりとこぼれる。

「…………大きい……」

 彼に触れてもらっている時とは違う。不思議な熱に浮かされたままの俺は、吸い寄せられるようにふらふらと彼のものに指を絡め、緩く握っていた。
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