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俺に、親衛隊が出来たらしい
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天井から室内を照らす、青い水晶で作られたシャンデリアの灯り。ほのかな明かりが、艷やかな黒髪と、側頭部から生えている鋭い角に淡い光沢を落とす。
向かいのソファーで長く引き締まった足を組み、どこか気品のある雰囲気を漂わせながら、白い陶器のティーカップを傾けている王様。ヨミ様からの一言に、含んでいた紅茶が、うっかり変なところに入りそうになってしまった。
「……しっ、親衛隊、ですか? 俺に?」
「うむ、貴殿はバアルの大事な奥方だからな。なに、気にすることはない。前々から別棟の警備を強化すべきだという案は出ておったしな。それに、これから二人で、城の外へと出かける機会も増えるであろう?」
先程の「ついに、アオイ殿の親衛隊のメンバーが正式に決まったぞ!」という事後報告について、オウム返しで尋ねた俺に、つらつらと理由を返答する。
続けざまに「やはり、お供が必要だと思ってな!」と真っ赤な瞳を細めて微笑んだ。花弁のように美しい唇の端を、得意気に持ち上げている。
飲みかけのカップを、音も立てずにソーサーへ。俺達の間にある、銀の装飾が施されたテーブルへと預ける。さらりと頬にかかった真っ黒の髪を、黒い手袋に覆われた指で耳にかけてから、ゆるりと長い足を組み直す。
端正な顔立ちとモデル顔負けの均整の取れた長身。そして、その身に纏う、黒をベースに、袖やら襟元やらに金糸で細かい装飾が施された、ファンタジーの貴族っぽい服装。
全部が全部キレイで、相変わらず滅茶苦茶絵になる。溢れる威厳と神々しさに、思わず拝んでしまいそうだ。
ペカペカと放たれ続けている御威光に、すっかり口が半開きになってしまっていたが……親衛隊って、所謂お国のご要人につく護衛の方々では?
……現代で一般庶民をやっていた俺には、随分と身に余るというか、必要ないのでは?
そもそも俺の隣には、ずっと守ってくれるって約束してくれたお方が居るんだしさ。
頭の中で、ぽやんと以前の胸がときめくやり取りが浮かんでしまえば、勝手に身体が動いてしまうもので。気がつけば俺の目は、すぐ側で寄り添ってくれている件の温もりを。大きな手で、むせかかっていた俺の背を撫でてくれていた優しい彼を、そっと見つめてしまっていた。
ふと、いくつもの六角形のレンズで構成されている、柔らかい光を帯びた緑の瞳とかち合う。
瞬間、俺を映している瞳がゆるりと細められ、額から生えている触覚が、どこか上機嫌にゆらゆら揺れた。
背にある半透明の羽を、静かにはためかせている彼の、細く長い指が俺の指にするりと絡む。
感触を確認しているように、やわやわと数回。軽く握っては、離してを繰り返してから、最後にきゅっとしっかり繋いでくれた。
手のひらから伝わってくる温かさと、鼻筋の通った彼の柔らかい微笑みに、バクバクと心臓がはしゃぎ出す。全身の体温が、一気に上がっていってしまう。
「うむっ! 勿論、貴殿にはバアルという魔術にも、武術にも秀でた完璧な用心棒が、片時も側を離れぬことは、承知の上だぞ。しかし、常に目を光らせていては、ゆったりと二人の世界に浸れぬだろう? 今のようにな」
涼しい顔で当然のように、右腕であるバアルさんをべた褒めしたヨミ様。対して俺の顔は、ますます熱を持ち、頭の中心までぽやぽやと浮かされてしまっていた。そのせいだろう。
「……ひ、浸ってましたか?」
思い浮かんだことをそのまま、恥ずかしさに歪んだ口からぽろりと尋ねてしまっていたのだから。
「こっそり目配せしてから、斯様に手を取り合ったまま、うっとりと見つめ合っておるのだから……なぁ?」
「ええ、はい。私は大変素晴らしいと思いますよ。仲睦まじいことは、良いことですから」
当たり前の結果だが、自分から余計な恥をかきにいくハメになった。
微笑ましそうに目を細め、くつくつと愉快そうに喉を鳴らすヨミ様からは、無意識の行動を指摘され。ヨミ様の側で背筋を伸ばし、分厚い胸板を張ってどっしりと控えていたレダさんからは、わざわざフォローまでしてもらう始末。
どこか照れくさそうに、無骨な手で薄茶色の短髪をガシガシ掻き混ぜながら、俺に向かって「素敵ですよ」と微笑みかけてくれる彼のご配慮に、顔どころか全身を覆い隠したくなってしまう。
一方、俺と同じ立場であるハズの、バアルさんはというと。しゃんと背筋を伸ばして堂々とした姿勢のまま、いつも通りの穏やかな微笑みを浮かべている。
おまけに、力が抜けてずり落ちそうになっている俺の身体を、筋肉質な腕でしっかりと支えてくれて。宥めるように、よしよしと頭を撫で回してくれるもんだから困ってしまう。
さっきからひっきりなしに高鳴っている鼓動が、ますます煩くなってしまったじゃないか。
「うむうむ、そうだなっ! 実に良いことだ。とまぁ、そういう訳であるから、早速、演習場へと共に参ろうぞ!」
「お言葉ですが、ヨミ様……そういう訳とは、どういう訳でございますか?」
勢いよく両腕を広げたヨミ様の、右肩だけに掛かっていた、生地の良さそうな黒いマントがぶわりと靡く。
眩しいご尊顔をさらに輝かせ、トントン拍子に話を進めていこうとしているお方に、初めて口を開いたバアルさんが待ったをかけた。
一瞬、真っ赤な瞳を瞬かせたものの、彼に止められることも想定の範囲内だったよう。立ち上がりかけていたスレンダーな身体を、再び座り心地抜群のソファーへと預ける。
引き締まった足をゆったりと組み、しなやかな腕を指揮者の様に広げながら、まるで歌うように悠々と言葉を紡ぎ始めた。
向かいのソファーで長く引き締まった足を組み、どこか気品のある雰囲気を漂わせながら、白い陶器のティーカップを傾けている王様。ヨミ様からの一言に、含んでいた紅茶が、うっかり変なところに入りそうになってしまった。
「……しっ、親衛隊、ですか? 俺に?」
「うむ、貴殿はバアルの大事な奥方だからな。なに、気にすることはない。前々から別棟の警備を強化すべきだという案は出ておったしな。それに、これから二人で、城の外へと出かける機会も増えるであろう?」
先程の「ついに、アオイ殿の親衛隊のメンバーが正式に決まったぞ!」という事後報告について、オウム返しで尋ねた俺に、つらつらと理由を返答する。
続けざまに「やはり、お供が必要だと思ってな!」と真っ赤な瞳を細めて微笑んだ。花弁のように美しい唇の端を、得意気に持ち上げている。
飲みかけのカップを、音も立てずにソーサーへ。俺達の間にある、銀の装飾が施されたテーブルへと預ける。さらりと頬にかかった真っ黒の髪を、黒い手袋に覆われた指で耳にかけてから、ゆるりと長い足を組み直す。
端正な顔立ちとモデル顔負けの均整の取れた長身。そして、その身に纏う、黒をベースに、袖やら襟元やらに金糸で細かい装飾が施された、ファンタジーの貴族っぽい服装。
全部が全部キレイで、相変わらず滅茶苦茶絵になる。溢れる威厳と神々しさに、思わず拝んでしまいそうだ。
ペカペカと放たれ続けている御威光に、すっかり口が半開きになってしまっていたが……親衛隊って、所謂お国のご要人につく護衛の方々では?
……現代で一般庶民をやっていた俺には、随分と身に余るというか、必要ないのでは?
そもそも俺の隣には、ずっと守ってくれるって約束してくれたお方が居るんだしさ。
頭の中で、ぽやんと以前の胸がときめくやり取りが浮かんでしまえば、勝手に身体が動いてしまうもので。気がつけば俺の目は、すぐ側で寄り添ってくれている件の温もりを。大きな手で、むせかかっていた俺の背を撫でてくれていた優しい彼を、そっと見つめてしまっていた。
ふと、いくつもの六角形のレンズで構成されている、柔らかい光を帯びた緑の瞳とかち合う。
瞬間、俺を映している瞳がゆるりと細められ、額から生えている触覚が、どこか上機嫌にゆらゆら揺れた。
背にある半透明の羽を、静かにはためかせている彼の、細く長い指が俺の指にするりと絡む。
感触を確認しているように、やわやわと数回。軽く握っては、離してを繰り返してから、最後にきゅっとしっかり繋いでくれた。
手のひらから伝わってくる温かさと、鼻筋の通った彼の柔らかい微笑みに、バクバクと心臓がはしゃぎ出す。全身の体温が、一気に上がっていってしまう。
「うむっ! 勿論、貴殿にはバアルという魔術にも、武術にも秀でた完璧な用心棒が、片時も側を離れぬことは、承知の上だぞ。しかし、常に目を光らせていては、ゆったりと二人の世界に浸れぬだろう? 今のようにな」
涼しい顔で当然のように、右腕であるバアルさんをべた褒めしたヨミ様。対して俺の顔は、ますます熱を持ち、頭の中心までぽやぽやと浮かされてしまっていた。そのせいだろう。
「……ひ、浸ってましたか?」
思い浮かんだことをそのまま、恥ずかしさに歪んだ口からぽろりと尋ねてしまっていたのだから。
「こっそり目配せしてから、斯様に手を取り合ったまま、うっとりと見つめ合っておるのだから……なぁ?」
「ええ、はい。私は大変素晴らしいと思いますよ。仲睦まじいことは、良いことですから」
当たり前の結果だが、自分から余計な恥をかきにいくハメになった。
微笑ましそうに目を細め、くつくつと愉快そうに喉を鳴らすヨミ様からは、無意識の行動を指摘され。ヨミ様の側で背筋を伸ばし、分厚い胸板を張ってどっしりと控えていたレダさんからは、わざわざフォローまでしてもらう始末。
どこか照れくさそうに、無骨な手で薄茶色の短髪をガシガシ掻き混ぜながら、俺に向かって「素敵ですよ」と微笑みかけてくれる彼のご配慮に、顔どころか全身を覆い隠したくなってしまう。
一方、俺と同じ立場であるハズの、バアルさんはというと。しゃんと背筋を伸ばして堂々とした姿勢のまま、いつも通りの穏やかな微笑みを浮かべている。
おまけに、力が抜けてずり落ちそうになっている俺の身体を、筋肉質な腕でしっかりと支えてくれて。宥めるように、よしよしと頭を撫で回してくれるもんだから困ってしまう。
さっきからひっきりなしに高鳴っている鼓動が、ますます煩くなってしまったじゃないか。
「うむうむ、そうだなっ! 実に良いことだ。とまぁ、そういう訳であるから、早速、演習場へと共に参ろうぞ!」
「お言葉ですが、ヨミ様……そういう訳とは、どういう訳でございますか?」
勢いよく両腕を広げたヨミ様の、右肩だけに掛かっていた、生地の良さそうな黒いマントがぶわりと靡く。
眩しいご尊顔をさらに輝かせ、トントン拍子に話を進めていこうとしているお方に、初めて口を開いたバアルさんが待ったをかけた。
一瞬、真っ赤な瞳を瞬かせたものの、彼に止められることも想定の範囲内だったよう。立ち上がりかけていたスレンダーな身体を、再び座り心地抜群のソファーへと預ける。
引き締まった足をゆったりと組み、しなやかな腕を指揮者の様に広げながら、まるで歌うように悠々と言葉を紡ぎ始めた。
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